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2019年07月06日
家族の木 THE THIRD STORY 純一と絵梨 <1 よく似た男>
家族の木
家族の木が豊かに茂る時、連綿と繰り返されていくのが夫婦の出来事。誰にも知られないところで静かに夫婦は愛の出来事をくりかえしています。あるときは予想もしない出来事が、ある時はまるでデジャブのように。何代も何代も繰り返されてきた出会いと別れ。家族の物語は時がたてば忘れられていくもの。あなたの後ろにも、あなたの知らない愛の物語が繰り広げられてきました。
THE THIRD STORY 純一と絵梨
いつも不機嫌で女癖の悪い弟の純一。美貌の持ち主なのに幸福をつかめなかった姉の絵梨。二人が真実の愛をつかみ取るまでの家族の物語
THE THIRD STORY 純一と絵梨 <1 よく似た男>
僕は一人になると仏頂面をした不愛想な男だった。その日も、ふくれっ面をしてウトウトしていた。出来るだけ誰にも話しかけられないように不機嫌を前面に押し出している。
隣の席に誰か座ったようだ。離陸まで数分あるだろうか?と、隣の男が、僕の肩をトントンとたたいた。「すんません。すんません。」と声をかけてくる。関西なまりだ。めんどくさいと思いながら隣を見て一瞬で目が覚めた。
目の前には、驚くほど僕によく似た男がほほ笑んでいた。「ひょっとして純一君?」と聞かれて、僕もすぐに「隆君?」と聞き返した。
田原隆は大阪の父方の従妹だった。なんとなく疎遠な関係なのでめったに会うこともなかった。こんなに親し気に話しかけられるのが意外な気がした。不思議なことに、僕たちは同じブランドの色違いのスーツを着ていた。
どう見ても、双子がママにおそろいの服を着せられているようにしか見えない。僕は慌ててジャケットを脱いだ。ふと隣を見れば隆君もごそごそとジャケットを脱いでいた。僕たちは眼を見合わせて笑いをこらえた。こらえてもこらえても笑いが込み上げた。久しぶりに腹の底から笑った。
隆君は上品でいかにも育ちがよさそうに見えた。僕は昔の遊びがたたっていた。いつまでも擦れた感じが抜けなかった。
「久しぶり。何年振りやろな?じいちゃんの法事の時には君アメリカやったしな。」といわれたので、「ほんとは行かなきゃいけなかったんだけど、どうしても帰国できなかった。大事な試験があったんだ。」と言い訳した。
本当は父が行かなくてもいいといったのだ。父は大阪の従妹と僕が接触するのをなんとなく快く思っていないような気がしていた。
「気にすんなって。それより、また、ばあちゃんとこで泊まるんか?」と聞かれたので、そのつもりだと答えた。「面接大変やな。大阪で就職するんやて?」となにやかや、近況報告をした。隆君は、確か司法試験に合格したと聞いている。
顔が似ているということは素晴らしいことだと思った。なにしろ、ずっと昔から親しいような気分になれるのだ。
僕は慢性的に悩みを抱えていて、いつも何か面白くなかった。でも、隆君と話しているうちに気分が少し晴れた気がした。その夜は二人で祖母の家に泊まって一杯やった。祖母の家のお手伝いさんの宮本さんは料理上手だった。下手な飲み屋よりもウマイ肴が出た。僕たちはウマがあった。
その日から、僕は大阪へ行くときには隆君を呼び出した。いつのまにか、タカシ、ジュンと呼び合うようになっていた。タカシのお母さんである美奈子叔母さんも、よく祖母の家へ来るようになった。僕は大阪暮らしも悪くないと思いはじめていた。
続く
家族の木が豊かに茂る時、連綿と繰り返されていくのが夫婦の出来事。誰にも知られないところで静かに夫婦は愛の出来事をくりかえしています。あるときは予想もしない出来事が、ある時はまるでデジャブのように。何代も何代も繰り返されてきた出会いと別れ。家族の物語は時がたてば忘れられていくもの。あなたの後ろにも、あなたの知らない愛の物語が繰り広げられてきました。
THE THIRD STORY 純一と絵梨
いつも不機嫌で女癖の悪い弟の純一。美貌の持ち主なのに幸福をつかめなかった姉の絵梨。二人が真実の愛をつかみ取るまでの家族の物語
THE THIRD STORY 純一と絵梨 <1 よく似た男>
僕は一人になると仏頂面をした不愛想な男だった。その日も、ふくれっ面をしてウトウトしていた。出来るだけ誰にも話しかけられないように不機嫌を前面に押し出している。
隣の席に誰か座ったようだ。離陸まで数分あるだろうか?と、隣の男が、僕の肩をトントンとたたいた。「すんません。すんません。」と声をかけてくる。関西なまりだ。めんどくさいと思いながら隣を見て一瞬で目が覚めた。
目の前には、驚くほど僕によく似た男がほほ笑んでいた。「ひょっとして純一君?」と聞かれて、僕もすぐに「隆君?」と聞き返した。
田原隆は大阪の父方の従妹だった。なんとなく疎遠な関係なのでめったに会うこともなかった。こんなに親し気に話しかけられるのが意外な気がした。不思議なことに、僕たちは同じブランドの色違いのスーツを着ていた。
どう見ても、双子がママにおそろいの服を着せられているようにしか見えない。僕は慌ててジャケットを脱いだ。ふと隣を見れば隆君もごそごそとジャケットを脱いでいた。僕たちは眼を見合わせて笑いをこらえた。こらえてもこらえても笑いが込み上げた。久しぶりに腹の底から笑った。
隆君は上品でいかにも育ちがよさそうに見えた。僕は昔の遊びがたたっていた。いつまでも擦れた感じが抜けなかった。
「久しぶり。何年振りやろな?じいちゃんの法事の時には君アメリカやったしな。」といわれたので、「ほんとは行かなきゃいけなかったんだけど、どうしても帰国できなかった。大事な試験があったんだ。」と言い訳した。
本当は父が行かなくてもいいといったのだ。父は大阪の従妹と僕が接触するのをなんとなく快く思っていないような気がしていた。
「気にすんなって。それより、また、ばあちゃんとこで泊まるんか?」と聞かれたので、そのつもりだと答えた。「面接大変やな。大阪で就職するんやて?」となにやかや、近況報告をした。隆君は、確か司法試験に合格したと聞いている。
顔が似ているということは素晴らしいことだと思った。なにしろ、ずっと昔から親しいような気分になれるのだ。
僕は慢性的に悩みを抱えていて、いつも何か面白くなかった。でも、隆君と話しているうちに気分が少し晴れた気がした。その夜は二人で祖母の家に泊まって一杯やった。祖母の家のお手伝いさんの宮本さんは料理上手だった。下手な飲み屋よりもウマイ肴が出た。僕たちはウマがあった。
その日から、僕は大阪へ行くときには隆君を呼び出した。いつのまにか、タカシ、ジュンと呼び合うようになっていた。タカシのお母さんである美奈子叔母さんも、よく祖母の家へ来るようになった。僕は大阪暮らしも悪くないと思いはじめていた。
続く