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2025年01月31日

最後の灯@短編小説

ムームーサーバー




夜が深くなるにつれて、街の灯りがひとつ、またひとつと消えていった。今日は特に冷え込みが強く、空気は澄みきっていた。家々の窓から漏れる光が、薄く霧がかった街路を照らしている。

ミナはいつも通り、道端の小さなカフェで最後の一杯を飲みながら、窓の外を見つめていた。カフェの奥には、小さなランプがひとつだけ灯っている。長年通い詰めたこの場所も、今ではほとんど誰も訪れなくなっていた。店主は年老いて、手が震えることが多くなっていたが、それでも変わらず一杯のコーヒーを提供してくれる。

「寒いね、ミナ。」

店主が話しかけてきた。彼の声はかすかで、かすれ気味だった。

「うん、でもここの温かさがあるから大丈夫。」

ミナはそう言って笑ったが、その目はどこか遠くを見つめているようだった。コーヒーの湯気が薄い闇に溶けていくのを眺めながら、彼女は何かを思い出しているようだった。

「もうすぐ終わるんだね。」店主がつぶやいた。

ミナは頷いた。街の再開発が進み、このカフェも取り壊されることが決まっていた。彼女にとっては、この場所はただのカフェではなく、過去と今が交差する場所だった。若かった頃、まだ希望に満ちていた頃の自分がよくここで笑っていた。

「でも、過去を抱えたまま進んでいかなきゃいけないのよね。」ミナはぽつりとそう言った。

店主は静かにカップを拭きながら、彼女の言葉に答えなかった。ただ、静かに時が流れていった。外の街灯がひとつ、またひとつと消えていき、最後の一灯が残る。

その灯りが消えたとき、街は完全に闇に包まれた。


posted by こーら at 21:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説
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