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高坂圭
フリーランスの放送作家・脚本家、コピーライター として活動し、33年目を迎えました。 最近は、物語プランナーとして、ストーリーの力で ビジネスをアップするクリエイターとしても活動しています。
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2023年05月18日

70,80は、鼻たれ小僧。 「よその島」 井上荒野



60を過ぎて、驚いたことが

ある。

まさかここまで、自分が未熟で

幼いままだとは思わなかったのだ。



この小説の主な人物は70代だが、

彼らも成熟とはいえず、愛や恋、

過去のもろもろに翻弄され悩み、

おののく。

著者はその人間模様をミステリー仕立てに

して、魅せてくれる。

冒頭から惹きつけられる。



 蕗子(ふきこ)の手はまだじゅうぶんにみずみずしかった。

 手の甲はふわりと白く、指はすんなり伸びていて、爪にオパ

ールのようなマニュキュアが施されている。美しい手。

 だかこれは殺人者の手だ、と碇谷芳郎(いかりやよしろう)

は思った。



……見事ですよね。僕は著者のファンですが、どんどん

素敵な作家さんになっていくので、嬉しい限りです。

70代の男女の愛をここまで精神性高く、そして

切なく描いた小説は、今までないんじゃないかな。



まさに、今の時代の物語です。



心に残った一節を最後に。



でも私は身動きできない、と蕗子は思う。もう若く

ないからではなくー芳郎を愛しているから、誰かを愛

するということは不自由になることだ。その不自由さ

を幸福に思うときがあり、不幸に思うこともあるだろ

う。それでも、誰も愛さないよりましだし、誰かをも

う愛してないと思うよりましだ。



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