2023年05月18日
第163回直木賞受賞作 「少年と犬」 馳星周
子どもの頃からよく犬に吠えられた。
噛まれたことなどないのだが、
怖いのだ。
それが犬にも通じるのだろう。
不安な空気が伝わり、相手も怖くなり吠える
のだと思う。
だから犬が出てくる映画や小説も
あまり得意ではない。
物語的に見ても動物を出すのはズルいし、
通俗が過ぎる。
なのに、この小説にはやられた。
主人公は、東日本大震災で野犬になってしまった
多聞(たもん)。
彼は、
「リードを持つ人間を信頼し、しかし、
頼りきりになるのではなく、堂々と歩く」
「賢いだけではない。胆も据わっている。
野犬であったのなら、群れをまとめる
リーダーになっていただろう」
という素晴らしい犬だ。
物語はそんな多聞と偶然の出会いをする
男、泥棒、夫婦、少女、娼婦、老人、少年
たちとの絆を描いた、連作短編になっている。
臆面もないタイトルも含めて、ひとつ間違えれば
恥ずかしいほどのファンタジーになってしまう
話なのに、それが胸に迫るのは、出てくる人間たち
がみんなギリギリの崖っぷちで生きているからだ。
多聞はまるで天使のように、そんな彼らを救っていく。
「こんな犬いるわけない」と言ってしまえば
終わりだが、著者は多聞を単なる犬として
描いていない。
人生には必ず多聞のような存在が現れる、
苦しみ必死に生きている人には必ず。
ノワール小説を書いてきた著者らしい
激しさと、通奏低音のように響く優しさが
クロスするいい小説です。
犬、好きになれるかも。
価格:858円 |
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