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高坂圭
フリーランスの放送作家・脚本家、コピーライター として活動し、33年目を迎えました。 最近は、物語プランナーとして、ストーリーの力で ビジネスをアップするクリエイターとしても活動しています。
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2023年05月18日

再読 「私という運命について」 白石一文

著者には珍しく主人公が

女性ということもあり、いつもの

人生哲学のような表記が減り

(大体は鼻もちならないエリート男性が

主人公で、社会や世間に対して持論を展開していく

こと多々あり。でもそれが僕は好きなのですが。

まぁ、言ってみればドストエフスキーに代表される

ロシア小説の匂いあり)、

読みやすく、馴染みやすい物語になっている。



主人公、冬木亜紀は大手メーカーの総合職勤務、

29歳の女性。

物語は、元恋人からの結婚式の招待状を受け取った

ところから始まる。

以降40歳になるまでの揺れる10年間を

描いたもの。



亜紀は自分が違和感を覚えたら、黙ってはいられない

性格で、恋人とも結婚は違うと感じたら、自ら別れを

切り出すような女性。

このキャラがまずいい。

そんな彼女が元恋人と10年ぶりに再会する。

これは物語の後半部分なのだが、ここからが

さらにいい。



彼が肺がんになっていることを知り、亜紀は

改めて彼に寄り添おうとする。

あなたを守りたいと伝える。

彼女のそんな言葉に彼はこう答える。



「たとえきみのような強い人でもそれだけは無理だと

僕は思う。

人間は、愛する人の人生に寄り添うことができても、

その人のいのちに介入することはできないのです。

それはアイデンティティーやエゴといった見え透いた

観念の問題ではなく、本質的にそうなのだと僕は

思う。

僕が病気になって唯一知ったのはそのことでした。

いのちの終わりを予感して、僕はたしかに恐れ、

哀しみました。でも決してそれだけではなかった。

僕は自分の死が自分にとっていかに重大な事件で

あるかを思い知ると同時に自分の生が自分にとって

いかに重大なものであるかを痛感しました」



自分がガンと宣告されたときに、僕が思ったのも

全く同じことでした。

人は病気になり死を意識すると、自分の身体のこと

だけで頭がいっぱいになるんだ、自分の存在が消える

ことにここまでエゴになるんだと、痛感しました。

だからこそ、自分で戦うしかない、人を巻き込んでは

いけない、と強く思いました。



他にも、子供を産んだ亜紀の友人のセリフもぐっときました。

「子供を産んでみて、人生観がここまで変わるとは

思わなかった。

私みたいなエゴの固まりがさ、自分のことはどうでも

いいから、とにかく娘が元気に育ってくれればいいと

心底思ってるんだから。

所詮、人間なんて、自分の夢や希望を実現するのが

一番の望みなんかじゃなくて、その夢や希望を誰かに

託すほうがずっと満足できるのかもしれないって近頃は

思うわ。

(中略)

そういう意味じゃ、男の人がずっと哀れなのかもしれな

いわね。

男は結局、今っていう時間しか見てないのよ。

それに比べたら、私たち女は、長い時間の流れの中で

自然に

生かされているような気がする。

現実に生むかどうかは別にして、子供を生むことが

できるっていう感覚だけで、自分という人間が最初から

一人きりじゃないことを知ってるし、

この自分のいのちが遠い未来まで繋がっていくことを

実感として理解してるでしょ。

これって男には

絶対に得られない感覚なんだと私は思うよ」



これを男性作家が書いたことに、唸りました。

やはり優れた小説家というのは、他人の靴を履く

想像力が備わっているんですね。

少しでも近づきたいものです。



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感想(15件)





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