2023年05月17日
アートの力を教えてくれる本 「空をゆく巨人」 川内有緒
蔡國強(さいこっきょう)という
現代アーティストがいる。
火薬を用いた絵画やパフォーマンス
で有名になり、北京オリンピックの
開・閉会式も演出をした、今や
世界の巨匠のひとりだ。
そんな彼がまだ無名のときに
蔡を支えたのが、福島県いわき市に
住む実業家、”すごいおっちゃん”
志賀忠重さんだ。
この本はそんな二人の出会い、友情を
縦軸に、アートがいかに人を勇気づける
ものなのかを教えてくれるノンフィクションだ。
昔、「すごい男がいたもんだ。森でばったり
出会ったら、熊が裸足で逃げいてく
ビールを回せ、底まで飲もう」という
歌があったが、いやー、志賀さんはじめ
本に出てくる男たちがみんなこんな感じで、
とにかく読んでいて気持ちがいい。
’
少し長くなるのでここからは興味のある
方だけ読んでください。
’
まず蔡さんと志賀さんの出会いがいい。
ギャラリーをやっている友人の紹介で
志賀さんは蔡さんの絵を知る。
火薬を爆発させて描いた作品だ。
志賀さんは友人に勧められ
見もせず「別になんでもええど」と
7枚200万でぽんと買う。
当時生活費にも事欠いていた蔡さんが
「どうして僕の絵を買ってくれたのか」と
目を輝かせて聞くと、
「いやあ、だって藤田君に頼まれたから
だあ!」
「ハハハ!そうですか」と大陸的で大らかな
蔡さんは笑い、二人は友達になった。
’
それからというもの、蔡さんの作品には
志賀さん率いる「いわきチーム」が
欠かせないものになった。
美術になんのゆかりもないおっちゃんたちが
蔡さんの作品を作っていくのだ。
それは手助けの範疇を超えていた。
ニューヨークでもヨーロッパでも
アジアでも「いわきチーム」は手腕をふるった。
やがて蔡さんはどんどん有名になっていく。
しかし彼らとの関係は変わらずフランクのままだ。
’
やがて東日本大震災が起き、志賀さんは
怒りに震える。
何も出来ない自分に。原子力の怖さを知らなかった
無知な社会に。東京電力、政府の対応に。
そして志賀さんは
美術館を作り、その周囲の山に99000本の
桜を植えることを決意する。
’
著者の山内はそのときの志賀さんの気持を、
こう記している。
’
志賀は故郷を愛していた。しかし、その故郷を
汚してしまったのも、また原発を受け入れて
しまったのも自分たちなのだ。
志賀はプロジェクトの企画書に
「こうして多くを失ったいまだからこそ
世界に誇れるような場所を故郷につくりたい。
99という数は無限の意味を持っています。
100は完結し、99は無限に続いていきます」
’
このプロジェクトは「いわき万本桜」と
名付けられた。
もちろん志賀さんが生きてる間には終わらない。
ゴールは250年後だ。
年間1000万は下らない経費もいる。
蔡さんも作品や資金を提供している。
’
「せっかく始めたプロジェクト、完成を見たく
ないんですか」と尋ねる著者に、志賀さんは、
「そんなん関係よね。早く終わりたいとも
思ってないし、ラクしたいとも思ってねぇ。
いまはどうやって自分が生きてる間に
250年も続く活動を基礎をつくれるというのが
ポイントだ」
’
最後に、アートについて喋ってる二人の言葉が
とても素敵なのでひきます。
’
志賀
「絵の才能っつうのは、俺にはわかんねかった。
でも、面白いんだよ、蔡さんが。
いろんな壁にぶつかるよね。でも全然めげない。
それも条件のひとつとして、さらに発想を広げて
いくんだ。
諦めたり縮小するってことはなくって、アイデアが
無尽蔵って感じだよね。
俺は、どうやって金をかけないで実現すんのかを
ずっと考えてんだ。
それを考えんのが楽しいんだ!」
’
蔡
「失敗してもいいんです。プロセスが大事なんです。
アートは自由でないといけない。”正しい”ことを
やろうとしてはいけない。
正しいことをやろうとすると、アートは死んで
しまいます。
ときにパワー、規則、権威、常識、そういった
ものから自由にならないといけません」
’
僕ももっと、もっと自由になるぞ!
第16回開高健ノンフィクション受賞作。
現代アーティストがいる。
火薬を用いた絵画やパフォーマンス
で有名になり、北京オリンピックの
開・閉会式も演出をした、今や
世界の巨匠のひとりだ。
そんな彼がまだ無名のときに
蔡を支えたのが、福島県いわき市に
住む実業家、”すごいおっちゃん”
志賀忠重さんだ。
この本はそんな二人の出会い、友情を
縦軸に、アートがいかに人を勇気づける
ものなのかを教えてくれるノンフィクションだ。
昔、「すごい男がいたもんだ。森でばったり
出会ったら、熊が裸足で逃げいてく
ビールを回せ、底まで飲もう」という
歌があったが、いやー、志賀さんはじめ
本に出てくる男たちがみんなこんな感じで、
とにかく読んでいて気持ちがいい。
’
少し長くなるのでここからは興味のある
方だけ読んでください。
’
まず蔡さんと志賀さんの出会いがいい。
ギャラリーをやっている友人の紹介で
志賀さんは蔡さんの絵を知る。
火薬を爆発させて描いた作品だ。
志賀さんは友人に勧められ
見もせず「別になんでもええど」と
7枚200万でぽんと買う。
当時生活費にも事欠いていた蔡さんが
「どうして僕の絵を買ってくれたのか」と
目を輝かせて聞くと、
「いやあ、だって藤田君に頼まれたから
だあ!」
「ハハハ!そうですか」と大陸的で大らかな
蔡さんは笑い、二人は友達になった。
’
それからというもの、蔡さんの作品には
志賀さん率いる「いわきチーム」が
欠かせないものになった。
美術になんのゆかりもないおっちゃんたちが
蔡さんの作品を作っていくのだ。
それは手助けの範疇を超えていた。
ニューヨークでもヨーロッパでも
アジアでも「いわきチーム」は手腕をふるった。
やがて蔡さんはどんどん有名になっていく。
しかし彼らとの関係は変わらずフランクのままだ。
’
やがて東日本大震災が起き、志賀さんは
怒りに震える。
何も出来ない自分に。原子力の怖さを知らなかった
無知な社会に。東京電力、政府の対応に。
そして志賀さんは
美術館を作り、その周囲の山に99000本の
桜を植えることを決意する。
’
著者の山内はそのときの志賀さんの気持を、
こう記している。
’
志賀は故郷を愛していた。しかし、その故郷を
汚してしまったのも、また原発を受け入れて
しまったのも自分たちなのだ。
志賀はプロジェクトの企画書に
「こうして多くを失ったいまだからこそ
世界に誇れるような場所を故郷につくりたい。
99という数は無限の意味を持っています。
100は完結し、99は無限に続いていきます」
’
このプロジェクトは「いわき万本桜」と
名付けられた。
もちろん志賀さんが生きてる間には終わらない。
ゴールは250年後だ。
年間1000万は下らない経費もいる。
蔡さんも作品や資金を提供している。
’
「せっかく始めたプロジェクト、完成を見たく
ないんですか」と尋ねる著者に、志賀さんは、
「そんなん関係よね。早く終わりたいとも
思ってないし、ラクしたいとも思ってねぇ。
いまはどうやって自分が生きてる間に
250年も続く活動を基礎をつくれるというのが
ポイントだ」
’
最後に、アートについて喋ってる二人の言葉が
とても素敵なのでひきます。
’
志賀
「絵の才能っつうのは、俺にはわかんねかった。
でも、面白いんだよ、蔡さんが。
いろんな壁にぶつかるよね。でも全然めげない。
それも条件のひとつとして、さらに発想を広げて
いくんだ。
諦めたり縮小するってことはなくって、アイデアが
無尽蔵って感じだよね。
俺は、どうやって金をかけないで実現すんのかを
ずっと考えてんだ。
それを考えんのが楽しいんだ!」
’
蔡
「失敗してもいいんです。プロセスが大事なんです。
アートは自由でないといけない。”正しい”ことを
やろうとしてはいけない。
正しいことをやろうとすると、アートは死んで
しまいます。
ときにパワー、規則、権威、常識、そういった
ものから自由にならないといけません」
’
僕ももっと、もっと自由になるぞ!
第16回開高健ノンフィクション受賞作。
価格:1,870円 |
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