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高坂圭
フリーランスの放送作家・脚本家、コピーライター として活動し、33年目を迎えました。 最近は、物語プランナーとして、ストーリーの力で ビジネスをアップするクリエイターとしても活動しています。
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2023年05月17日

アートの力を教えてくれる本 「空をゆく巨人」 川内有緒

蔡國強(さいこっきょう)という

現代アーティストがいる。

火薬を用いた絵画やパフォーマンス

で有名になり、北京オリンピックの

開・閉会式も演出をした、今や

世界の巨匠のひとりだ。



そんな彼がまだ無名のときに

蔡を支えたのが、福島県いわき市に

住む実業家、”すごいおっちゃん”

志賀忠重さんだ。

この本はそんな二人の出会い、友情を

縦軸に、アートがいかに人を勇気づける

ものなのかを教えてくれるノンフィクションだ。

昔、「すごい男がいたもんだ。森でばったり

出会ったら、熊が裸足で逃げいてく

ビールを回せ、底まで飲もう」という

歌があったが、いやー、志賀さんはじめ

本に出てくる男たちがみんなこんな感じで、

とにかく読んでいて気持ちがいい。



少し長くなるのでここからは興味のある

方だけ読んでください。



まず蔡さんと志賀さんの出会いがいい。

ギャラリーをやっている友人の紹介で

志賀さんは蔡さんの絵を知る。

火薬を爆発させて描いた作品だ。

志賀さんは友人に勧められ

見もせず「別になんでもええど」と

7枚200万でぽんと買う。

当時生活費にも事欠いていた蔡さんが

「どうして僕の絵を買ってくれたのか」と

目を輝かせて聞くと、

「いやあ、だって藤田君に頼まれたから

だあ!」

「ハハハ!そうですか」と大陸的で大らかな

蔡さんは笑い、二人は友達になった。



それからというもの、蔡さんの作品には

志賀さん率いる「いわきチーム」が

欠かせないものになった。

美術になんのゆかりもないおっちゃんたちが

蔡さんの作品を作っていくのだ。

それは手助けの範疇を超えていた。

ニューヨークでもヨーロッパでも

アジアでも「いわきチーム」は手腕をふるった。

やがて蔡さんはどんどん有名になっていく。

しかし彼らとの関係は変わらずフランクのままだ。



やがて東日本大震災が起き、志賀さんは

怒りに震える。

何も出来ない自分に。原子力の怖さを知らなかった

無知な社会に。東京電力、政府の対応に。

そして志賀さんは

美術館を作り、その周囲の山に99000本の

桜を植えることを決意する。



著者の山内はそのときの志賀さんの気持を、

こう記している。



志賀は故郷を愛していた。しかし、その故郷を

汚してしまったのも、また原発を受け入れて

しまったのも自分たちなのだ。

志賀はプロジェクトの企画書に

「こうして多くを失ったいまだからこそ

世界に誇れるような場所を故郷につくりたい。

99という数は無限の意味を持っています。

100は完結し、99は無限に続いていきます」



このプロジェクトは「いわき万本桜」と

名付けられた。

もちろん志賀さんが生きてる間には終わらない。

ゴールは250年後だ。

年間1000万は下らない経費もいる。

蔡さんも作品や資金を提供している。



「せっかく始めたプロジェクト、完成を見たく

ないんですか」と尋ねる著者に、志賀さんは、

「そんなん関係よね。早く終わりたいとも

思ってないし、ラクしたいとも思ってねぇ。

いまはどうやって自分が生きてる間に

250年も続く活動を基礎をつくれるというのが

ポイントだ」



最後に、アートについて喋ってる二人の言葉が

とても素敵なのでひきます。



志賀

「絵の才能っつうのは、俺にはわかんねかった。

でも、面白いんだよ、蔡さんが。

いろんな壁にぶつかるよね。でも全然めげない。

それも条件のひとつとして、さらに発想を広げて

いくんだ。

諦めたり縮小するってことはなくって、アイデアが

無尽蔵って感じだよね。

俺は、どうやって金をかけないで実現すんのかを

ずっと考えてんだ。

それを考えんのが楽しいんだ!」





「失敗してもいいんです。プロセスが大事なんです。

アートは自由でないといけない。”正しい”ことを

やろうとしてはいけない。

正しいことをやろうとすると、アートは死んで

しまいます。

ときにパワー、規則、権威、常識、そういった

ものから自由にならないといけません」



僕ももっと、もっと自由になるぞ!

第16回開高健ノンフィクション受賞作。



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