2010年05月16日
増える鬱病に現場は混乱 身近になった一方で自己判断での思いこみ
増える鬱病に現場は混乱 身近になった一方で自己判断での思いこみも
仕事などのストレスから、精神疾患を患う人が増えている。増え続ける鬱病(うつびょう)を防ごうと、長妻昭厚生労働相は先月、企業が行う健康診断で精神疾患に関する検査を義務づける方針を示すなど、国も対応に追われている。一方、街には「サラリーマンのための心療内科」「即日診察、予約不要」といった看板が増え、精神科の門はたたきやすくなった。しかし、中には急患に備える夜間の精神科救急に押しかけ、「自分は鬱と診断されたので薬がほしい」などと訴える患者もいるようだ。精神科の現場で、何が起きているのか。(今泉有美子)
[表で見る]年々上昇する鬱病をはじめとする精神疾患など労災認定件数
■夜間の精神科救急を「コンビニ」と勘違い?
「あの、飲んでいた薬がなくなってしまったんですが…。鬱病と診断されているんですけど、不安で不安で眠れないんです。今から病院に行きますので、診ていただけますか…」
午前3時過ぎ、東京都足立区の「成仁病院」(精神科)に、若い女性から連絡が入った。当直勤務に当たっていた小野智輝看護師が事情を尋ねると、女性は精神科に通院歴があることが分かったが、口調は比較的しっかりしていたという。
小野看護師は、女性の意識がはっきりしていることや、体調に著しい問題がないことなどから、一刻を争う緊急事態ではないと判断。朝になってから、かかりつけの心療内科に行くよう説得し、電話を切った。「切迫した声で『すぐに見てほしい』などと電話を受けると、判断に迷います。暴れたり、意識を失ったりという症状がないだけに、どこまで一刻を争う事態なのかが分かりづらいのです」と小野看護師は言う。
精神科には、薬物やアルコールなどの禁断症状による意識の混濁、重度のパニック障害による発作などに対応するため、救急体制が敷かれている。精神科救急に運ばれてくる患者の症状はさまざまだが、極度の興奮状態で激しく暴れる患者もおり、男性スタッフ数人での対応が必要な場合も少なくない。スタッフの数が限られる夜間や休日に急患が重なると、スタッフは休憩も取れないことがある。
同病院の福田真道医師は、多いときには夜間診療の時間帯に10人近い精神科の急患を診た経験がある。意識の混濁など、急を要する患者がほとんどだが、中には救急車を要請して来院したにもかかわらず、意識がはっきりしていて『○○という薬がほしい』と、常用している薬の種類を指定するなど、明らかに緊急性のない患者もいたという。
福田医師は、「薬を指定するほどの人は、緊急事態ではない場合がほとんど。夜間なら待ち時間がないから、という理由で来院した人もいました。こちらも薬を処方してしまえば簡単ですが、そういう症状の人は厳しく対応することも重要です。丁寧にお断りすることもあります」と話す。
増え続ける精神疾患の患者の中には、休日・夜間診療を“コンビニ”と勘違いするなど、モラルの低下した患者が増えているようだ。背景には、気軽に鬱治療ができるようになった社会的な風潮もある。
■「自称鬱」でもすぐに処方
「本当は不気味で怖ろしい自分探し」(草思社)などの著書がある精神科医、春日武彦医師は、「鬱病に対する理解が広がったのはよいが、その一方で少しでもつらいことがあるとクリニックの門をたたき、鬱病と診断され、自分でも強く『私は病気だ』と思いこんでしまう人が増えた。医師も、安易に薬を処方しすぎている」と指摘する。
春日医師によれば、仕事や失恋などで落ち込んだ際に気軽に心療内科の診察を受け、医師も簡単に抗うつ剤を処方してしまう風潮があるという。
「昔は鬱病は“怠け病”などといわれ、病気に苦しむ人への理解はほとんどなかった。理解が広まったのはよいことだが、『鬱病』と『鬱状態』は別で、それをごっちゃにしている人が残念ながら少なくない」
春日医師は、「鬱状態の人は、話を聞いてあげることで症状がよくなる場合もあり、そうした対応も検討するべき。しかし、クリニックの医師が1人1時間かけて話を聞けば、1日に8人しか診られない。これでは多くの患者に対応できず、結果的に薬を出す診療を優先するクリニックが増えているのではないか」と分析する。
こうして、鬱病の“お墨付き”を得た患者がかかりつけのクリニックにきちんと通わず、夜間やゴールデンウイークなどの長期休暇中に不安感に襲われ、精神科救急に飛び込む−という構図ができているようだ。
■問われるのは“本当の鬱病”を見分ける腕
春日医師は、こうした患者の自分勝手な振るまいが浸透してしまうことで、元来の鬱病に対する偏見が助長されることを心配する。
「鬱状態の人が鬱病の診断書をもらって、『私は病気だから』といって仕事や学校を休みがちになれば、“鬱病は怠け病”という印象が、今まで以上に社会に広がってしまう可能性もある。本当に鬱病に苦しむ人への偏見にもなりかねない」
そこで、精神科医に求められているのは、「本当に病気で苦しんでいる人を見つける腕」だという。
春日医師は「誰だって失恋するし、仕事で失敗もある、生きていれば大切な人は亡くなる、そうすれば鬱状態になるんです。そこから、本当に鬱病になっている人を見つけて適切な治療を行うことが、とても重要になる。それが、病気に苦しむ人への理解を、社会に浸透させることにもつながるでしょう」と話している。
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仕事などのストレスから、精神疾患を患う人が増えている。増え続ける鬱病(うつびょう)を防ごうと、長妻昭厚生労働相は先月、企業が行う健康診断で精神疾患に関する検査を義務づける方針を示すなど、国も対応に追われている。一方、街には「サラリーマンのための心療内科」「即日診察、予約不要」といった看板が増え、精神科の門はたたきやすくなった。しかし、中には急患に備える夜間の精神科救急に押しかけ、「自分は鬱と診断されたので薬がほしい」などと訴える患者もいるようだ。精神科の現場で、何が起きているのか。(今泉有美子)
[表で見る]年々上昇する鬱病をはじめとする精神疾患など労災認定件数
■夜間の精神科救急を「コンビニ」と勘違い?
「あの、飲んでいた薬がなくなってしまったんですが…。鬱病と診断されているんですけど、不安で不安で眠れないんです。今から病院に行きますので、診ていただけますか…」
午前3時過ぎ、東京都足立区の「成仁病院」(精神科)に、若い女性から連絡が入った。当直勤務に当たっていた小野智輝看護師が事情を尋ねると、女性は精神科に通院歴があることが分かったが、口調は比較的しっかりしていたという。
小野看護師は、女性の意識がはっきりしていることや、体調に著しい問題がないことなどから、一刻を争う緊急事態ではないと判断。朝になってから、かかりつけの心療内科に行くよう説得し、電話を切った。「切迫した声で『すぐに見てほしい』などと電話を受けると、判断に迷います。暴れたり、意識を失ったりという症状がないだけに、どこまで一刻を争う事態なのかが分かりづらいのです」と小野看護師は言う。
精神科には、薬物やアルコールなどの禁断症状による意識の混濁、重度のパニック障害による発作などに対応するため、救急体制が敷かれている。精神科救急に運ばれてくる患者の症状はさまざまだが、極度の興奮状態で激しく暴れる患者もおり、男性スタッフ数人での対応が必要な場合も少なくない。スタッフの数が限られる夜間や休日に急患が重なると、スタッフは休憩も取れないことがある。
同病院の福田真道医師は、多いときには夜間診療の時間帯に10人近い精神科の急患を診た経験がある。意識の混濁など、急を要する患者がほとんどだが、中には救急車を要請して来院したにもかかわらず、意識がはっきりしていて『○○という薬がほしい』と、常用している薬の種類を指定するなど、明らかに緊急性のない患者もいたという。
福田医師は、「薬を指定するほどの人は、緊急事態ではない場合がほとんど。夜間なら待ち時間がないから、という理由で来院した人もいました。こちらも薬を処方してしまえば簡単ですが、そういう症状の人は厳しく対応することも重要です。丁寧にお断りすることもあります」と話す。
増え続ける精神疾患の患者の中には、休日・夜間診療を“コンビニ”と勘違いするなど、モラルの低下した患者が増えているようだ。背景には、気軽に鬱治療ができるようになった社会的な風潮もある。
■「自称鬱」でもすぐに処方
「本当は不気味で怖ろしい自分探し」(草思社)などの著書がある精神科医、春日武彦医師は、「鬱病に対する理解が広がったのはよいが、その一方で少しでもつらいことがあるとクリニックの門をたたき、鬱病と診断され、自分でも強く『私は病気だ』と思いこんでしまう人が増えた。医師も、安易に薬を処方しすぎている」と指摘する。
春日医師によれば、仕事や失恋などで落ち込んだ際に気軽に心療内科の診察を受け、医師も簡単に抗うつ剤を処方してしまう風潮があるという。
「昔は鬱病は“怠け病”などといわれ、病気に苦しむ人への理解はほとんどなかった。理解が広まったのはよいことだが、『鬱病』と『鬱状態』は別で、それをごっちゃにしている人が残念ながら少なくない」
春日医師は、「鬱状態の人は、話を聞いてあげることで症状がよくなる場合もあり、そうした対応も検討するべき。しかし、クリニックの医師が1人1時間かけて話を聞けば、1日に8人しか診られない。これでは多くの患者に対応できず、結果的に薬を出す診療を優先するクリニックが増えているのではないか」と分析する。
こうして、鬱病の“お墨付き”を得た患者がかかりつけのクリニックにきちんと通わず、夜間やゴールデンウイークなどの長期休暇中に不安感に襲われ、精神科救急に飛び込む−という構図ができているようだ。
■問われるのは“本当の鬱病”を見分ける腕
春日医師は、こうした患者の自分勝手な振るまいが浸透してしまうことで、元来の鬱病に対する偏見が助長されることを心配する。
「鬱状態の人が鬱病の診断書をもらって、『私は病気だから』といって仕事や学校を休みがちになれば、“鬱病は怠け病”という印象が、今まで以上に社会に広がってしまう可能性もある。本当に鬱病に苦しむ人への偏見にもなりかねない」
そこで、精神科医に求められているのは、「本当に病気で苦しんでいる人を見つける腕」だという。
春日医師は「誰だって失恋するし、仕事で失敗もある、生きていれば大切な人は亡くなる、そうすれば鬱状態になるんです。そこから、本当に鬱病になっている人を見つけて適切な治療を行うことが、とても重要になる。それが、病気に苦しむ人への理解を、社会に浸透させることにもつながるでしょう」と話している。
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