2018年06月19日
仮想通貨で褒め合う? 営業女性の発明で前向き職場に
独自開発の「仮想通貨」を使って社内で褒め合う、ユニークなシステムの実証実験「仮想通貨“Pay It Forward”」。
利用者の9割が「モチベーションが上がった」といいます。
実験を主導したのは、大手IT(情報技術)ベンダーである新日鉄住金ソリューションズの営業女性6人(チーム名はチタン女子)。
「女性社員の仕事がつらいという気持ちを分かってほしい」という思いから、このアイデアは生まれたそうです。
チームは「新世代エイジョカレッジ2017」でフォーラム部門大賞を受賞しました(エイジョとは営業職で働く女性たちのこと)。
6人のメンバーに話を聞きました。
■仮想通貨で「褒める」ハードルを越える!
白河桃子さん(以下敬称略) 今回、「チタン女子」というチーム名で2つの実証実験を実施しました。
1つは「実験!会議室」、もう1つが「仮想通貨”Pay It Forward”」。
このうち最終選考で大賞に選ばれたのが仮想通貨の方でした。仮想通貨とはどんな仕組みなのか教えてもらえますか。
熊野聖奈さん(以下敬称略) 用意した仮想コインは「ありがとう」「よくできました」「期待してるよ」「元気玉」という4種類。
システムは社内のエンジニアに協力してもらい、ブロックチェーン技術を使って開発しています。
パソコンの画面上でこれら4種類のコインに対して、それぞれ5コイン、10コイン、15コインと3種類のレベルが選べるようになっています。
送りたい相手のメールアドレスを設定し、コメントを付けて送信することもできます。
例えば、取引先を訪問し、結果を上司に報告すると「期待しているよ」が5コイン送られてくる。
そこに、「こういう風にしたら10コインあげるよ」とコメントが付いていたら、次にどんな行動を起こしたらいいのかがわかる。
ログも残りますから、後で見返すこともできます。どういうポイントで上司が褒めてくれるのかが分かり、個人的にも上司とのコミュニケーションが円滑になりました。
白河 それまでは、上司とのそこまで緊密なやりとりは難しかった?
熊野 そうですね、上司も忙しいですから、わざわざそのための時間をとってもらうのは難しかったと思います。
白河 「次世代型営業」という実験テーマに対して、なぜ仮想通貨に着目したのか教えてもらえますか。
田中麻優さん(以下敬称略) 自分たちの感情を職場の人たちにどうやって分かってもらうか、が発想の原点でした。
仕事をしていて「つらい」と感じても、それを伝えるために忙しい上司にわざわざ時間をとってもらうのは気が引ける。
だったら、アラートを出せるような仕掛けがあったらいいなということを、まずは考えました。
ただし、実際にできた仕組みにはアラート機能は実装していません。
つらいときにアラートを出すだけだと、ただ単に「気を使われる存在」になってしまう。
性別関係なく使える仕組みはなんだろうと考えたときに、「褒めること」が浮かんできました。
田中 インフラ系の会社ならばどこも同じかと思いますが、システム開発の仕事は、あるべきものをあるべき状態に維持しなくてはならない。加点主義ではなく、減点主義に陥りがち。そんな職場でマイナスをゼロにするのではなく、もっと、その人の「いいところ」を伸ばすにはどうしたらいいのか。そのための手段がポジティブなフィードバックをすることと考えました。
今回のシステムを導入した結果、職場の雰囲気が良くなったと思う人は全体の87%。システムを利用した人の90%が「モチベーションが上がる」「成果につながる」と感じました。具体的な成果としては、新規顧客との接点を増やすタスクの達成率が前年同月比で65%向上。顧客訪問数は2倍になりました。
白河 褒め合う文化を醸成することにより、モチベーションも上がる。その結果、お客さんへの訪問回数を増やすことができたんですね。
白河 実証実験には、どれくらいの方が参加されたんですか。私は毎年このイベントの審査員をしていますが、評価のポイントに「巻き込み力」もありましたね。
熊野 全体で234人。そのうち200人くらいは営業職で、エンジニアや人事部にも協力してもらい、一緒にコインを送り合うような形で進めていきました。一部のお客さんとはメールでやりとりをさせてもらい、「今、こんな実験をやっています」と説明した上で、「コインをください」とお願いし、対面でもらうこともありました。
■恥ずかしがりの中高年男性に効果絶大
佐々木公佳さん(以下敬称略) 実は、私、実証実験期間中に体調を崩してしまい、客先の打ち合わせに出られなかったことがあるんです。そのとき、上司を通じてお客様から「元気玉」をもらって励みになりました。
白河 社内にとどまらず、お客様も「コインを送ってみよう」となったわけですね。ほかにはどんな変化が?
田中 実は、私の上司はあまり褒めてくれない人だったので、個人的には上司に褒めてもらいたくてつくったシステムなんです。これを導入してから、上司にとっても褒めるハードルが下がったみたいです。
白河 日本の会社には褒める研修もあるほど、ハードルが高いことですよね。照れくさい、言わなくてもわかっているだろう、という感覚があったかもしれないですね。
秋田有美さん(以下敬称略) 上司が部下を褒めるだけではないんです。ある事業部長が「上に行けば行くほど褒められなくなるんだよ。だから、俺も褒めてほしいよ」と言ったのを聞いて、なるほどと思いましたね。褒められてうれしいのは男性も同じ。どの階層にも「褒められたい人」はいるんだな、というのはおもしろい発見でした。
■少しずつ褒められることの効果
佐々木 「恥ずかしがり屋の中高年は言葉に出して褒めるのが苦手」とコメントをいただいたこともありましたね。女性の部下を褒めるのは恥ずかしいし、褒めすぎるのも良くないと思っていたと。
熊野 私の上司も、褒めることをそんなにいいことだとは思っていなかったみたいです。「部下に対して厳しくしないといけない」と思っていたようで、「全然褒めてくれないですよね」と言ったら、「だって、俺が褒めたら気持ち悪くない?」と言われたことがありました。
田中 このシステムを使うと、「ちょこちょこ褒めることができるからいい」という感想ももらいました。小さな成功体験を積み重ねることでしか、人って自信を持てない。褒められることで、それまで「減点方式」だったものが、自分の中で「加点方式」に変わっていくので、その効果が一番大きかったかなと思います。
白河 メンバーの中に、お子さんがいる方もいらっしゃるんですよね。お子さんのいる営業の女性からよく上がってくる声に、時間に制約がある分、助けてもらう機会は多いのに、その人たちの営業成績にプラスにならないのが心苦しいというのがあります。その点でも効果はありますか?
秋田 その効果は大きいです。私の場合、子どもが2人いて、17年4月に2度目の職場復帰をしました。17年中は1時間の時短勤務をして、18年は残業なしのフルタイム(午前9時から午後5時まで)に戻しています。夕方からの打ち合わせを上司に頼むことも多かったので、申し訳ないという気持ちがいつもありました。上司もたくさんの業務を抱えている上に、私の仕事まで抱えてしまうことになりますから。このシステムがあるおかげで、まとめて伝えるのではなく、少しずつ、感謝の気持ちを伝えられるようになりました。サポートした分が人事評価に反映されるようになれば、もっと円滑に業務が進むのではないかと思っています。
白河 確かに具体的な評価や賃金に反映されるなど、変化をつけていくといいですね。一方、仮想通貨システムを使ってくれない人っていますか?
田中 もともとできる人ですね。自分が仕事をできると思っていて、誰かに助けてもらわなくても、独立独歩でできてしまう人。そういう人はコインの効果を感じにくい。ただ、そういう人もやがて部下を持つようになり、チームで成果を上げないといけない立場になれば変わると思います。
■ホメの好循環で標準装備目指す!
白河 ひょっとすると、これは上司にとっても福音なのかもしれないですね。
田中 3年以内の離職率を下げる効果にもつながると思います。褒めることによって人間関係が良くなれば、なかなか辞めなくなると思いますから。
佐々木 私の上司は、実証実験前から、けっこうポジティブなフィードバックをくれる人だったんです。逆に、自分がフォローしてもらったことに対して、きちんと上司に「ありがとう」を伝えられていなかった。メールだと定型文になりがちなところを、今回のシステムを通じて定量化して伝えられるようになったのは良かったと思います。
白河 コインは無限なんですか?
田中 今は無限です。埋蔵量は設定できるので、そこの運用をどうするかは考案中。インフレが起こらないように、相場制を導入する必要はあるかもしれません。
熊野 2ヵ月間という短い期間で突貫工事でシステム開発したため、いくつかバグが残っています。今後はそれをなくして、システムを改善し、社内の標準装備を目指していきます。
引用元:
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180617-00000005-nikkeisty-bus_all
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