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2019年02月11日

連載小説「平行線の先に」   1章



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『平行線の先に』






   登場人物

赤城真央(39)ブティック店員

黒田紗羅(43)真央の同僚

黒田宇宙(10)紗羅の娘

マダム・マリア(53)社長







真っ白い世界。私はパラレルで斜面を下降する。突然ゴゴゴと音がして雪崩が起きる。私は雪の波にのまれる。息が苦しい。また同じ夢をみた。昼間だというのに。

十一月下旬。高級ブティック『マダム・マリア』はクリスマスの飾り付けで忙しかった。真央は今日からここでアルバイトをすることになった。社長のマリアとは昔からの知り合いというか真央はこの店の常連客だった。三年ほどご無沙汰だったが。

 マリアから先輩の紗羅を紹介された。紗羅はここにきて半年ほど。以前もアパレルの仕事をしていたらしい。年齢的には真央の一個か二個上という風に見えた。とにかく感じの悪い人。という印象。

 小さな店なので店員は一人で十分である。紗羅が入れない日に真央がヘルプで入るような話だった。ここでの仕事に慣れるまでの一カ月間、何日か真央と紗羅の二人で店番をする。その後はそれぞれ一人でやるという約束をした。

 真央はお金が欲しいわけでも特別洋服に興味があるわけでもなかった。欲しいのは社会とのつながり。真央は主婦なので一日夫以外の誰とも話さない日がよくあった。これでは精神衛生上よろしくない。誰かと話がしたい。ちょっと世の中を見てみたい。それだけだった。奥様の暇つぶしと言われてしまえばそれまでだが。

 マリアとはひょんなことから再会した。お互い西麻布に住んでいるのでそれまで会わなかったのが不思議なくらい。真央が花屋で買い物をしていた時にマリアから声をかけられた。

「どうしていたの?シンパイしたわ」
「ちょっと体調を崩してしまって」

 近くの喫茶店で二時間も話し込んでしまった。真央の愚痴というか悩みというか世間話を聞いたマリアがそれならうちで働かない?と誘ったのだ。初めはちょっと戸惑った真央だったが数十分後には承諾していた。働くのなんて十何年ぶり。大丈夫かしら。

「マオ、サラはやさしいでしょう?イロイロおしえてもらってね」

 紗羅はこの店の灰色のスーツを着ていた。恐らく八万円くらいのものだろう。似たようなタイプを真央も何着か持っている。今日は飾り付けで脚立に上ったりするからキュロットタイプにしたらしい。黒いタイツの脚がやけに細い。優しいですって?どこが。下品な話し方。それに貧相。



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 真央は紗羅に言われたことだけやっていた。小さなサンタの人形をテーブルの上に置いたり、玩具のキャンドルの電池を交換したり。細かい仕事をやっていた。今日は定休日の水曜だからお店はやっていない。真央は四年前に買ったというか夫に買ってもらった青色のワンピースを着ていた。

ちょっと型が古いけどとても気に入っているものだった。胸にはダイヤモンドのブローチをしている。左手の薬指にはダイヤの指輪をしていた。

 雑巾を絞ったり、毛糸のセーターを畳んだりする時、ダイヤがひっかかるので仕事の時は指輪を外そうかなと考えながら作業していた。

「オチャにしましょう」

 午後二時。この店の休憩時間。午前十時に開店し、午後二時から三時はクローズド。三時から夜七時まで営業している。ブティックのすぐ近くにある喫茶店『ぱられる』に三人で入った。マリアがサンドイッチと紅茶のセットを三人分注文した。

「マオのダンナサン、ゆうめいなサッカ」
 マリアが余計なことを言った。
「えっ、そうなの?」

 紗羅は興味ないけど驚いたフリをしたように見えた。
「いえいえ、ぜんぜん。やめてよマリア。あ、ごめんなさい、社長。でしたね、今は」
 本当にやめて欲しい夫の話は。

「カタイコトいわない、マリアでいいわよ」

 紗羅は無表情である。
「サラさんのことは、『紗羅さん』とお名前でお呼びしてよろしいかしら?」
「どうぞ。じゃあたしは『真央さん』で」
「よろしくお願いします」

 仕事を命令される以外で今日初めてしゃべった。自分のことを「あたし」という人種と今まで付き合ったことがない。これは面白いことになりそうだぞ、と真央は直感でわかった。紗羅はマリアに対しても私に対しても敬語を使わなかった。お客様に対してはどうなんだろう?考えているとサンドイッチが運ばれてきた。とても美味しそうだ。紗羅はそれをガツガツ食べた。

「朝ごはん食べてないの」
「いつも食べないんですか?」
「うん。お金ないから節約」

 予感的中。こういう女性のことを貧困女子とか言うのよね、確か。初めて会ったわ。でもどうしてマリアはこの方を雇ったのかしら?まるでお店に合わないけれど。マリアは私の気持ちを察したのか、
「サラは、ともだちのショウカイでハントシマエからテツダッテもらってる」
「社長、また時給あげてくんない?」
「アラ、せんげつアゲタバッカリじゃない」
「あと百円あげてほしい」
「…カンガエテおくわ」

 確か私の時給は千円って言ってた。紗羅さんはもっといいんだ。当たり前なのかな。それにしても話題が想像していたのと全然違った。もっとお天気の話とか、お洒落の話とかするのかと思っていた。おもしろい。

真央は何でも面白がるクセがあった。これは夫の大輔の影響だ。大輔はものすごく好奇心旺盛な性格だ。年齢は真央よりずっと上だがまるで五歳児のような柔軟な頭を持っていた。真央たち夫婦にはこどもがいないので大輔が真央の息子みたいな感じだった。

 夕方、店の飾り付けが終わった。紗羅は今日働いた分ももちろん給料に入っていることを確認してからサッサと帰った。マリアが溜息をつく。

「あのコ、ヤめさせたいけど、どうしたらいい」
「えっ、そうなの」
「シングルマザーでセイカツくるしい」
「旦那さんいないの」
「ここだけのハナシ。フリンしてた」
「えっ。…じゃあ、めかけってこと?」
「そうソレ」
「えー。すごい。っていうか恐い」
「マオみたいなオクサマにはわからないセカイね」
「そんなことないけど」

 驚いた。いるんだ本当にそういう人。奥さんもこどももいる男性のこどもを産んでしまう女性。ますます初めて会った。世の中には色んな人がいるのねえ。やっぱりバイトして正解だった。早く帰って大ちゃんに報告せねば。




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 マンションの最上階。八○七号室が真央と大輔の家だ。いわゆる億ションというもの。大輔は結構有名な小説家だった。売れる前までは少し生活も大変だったが今では印税で普通に、いや普通以上に暮らしていけた。真央のこんな暮らしを知ったら紗羅に何と思われるか。想像しただけで恐ろしいので絶対ばれないようにしようと誓った。

 リビングに入ると猫のちび太がすり寄ってきた。

「ただいま」
 お気に入りのピアノの音楽をかける。
「大ちゃん。バイト先に面白い人がいたの」
 紺色のポーチに向かって話しかける真央。
「貧困女子っていうの?しかもシングルマザーだって」
 真央はポーチに両手をあてる。
「大ちゃん。『ぱられる』のサンド相変わらず美味しかったよ」
 真央はポーチを開ける。中から白い壺が出てくる。ちび太がエサをくれとばかりににゃあにゃあ鳴く。
「はいはい。ごはんいまあげるから」

 真央は壺をそっと置いてキッチンへ向かった。

 夜、バスルームの中。髪が伸びたなあ。日中はロングの黒い髪を一つに結んでいる。いつも大輔にカットしてもらっていたのだが。三年間のばしっぱなし。作家として売れなかったころに節約のために美容院へ行かなかった習慣が残っているのだ。切って欲しい人がもうここにいない。真央は湯船の中で涙を流した。バスルームの外にちび太がいる。曇りガラスの向こうに茶色い丸い物体が見える。

 大輔は風呂が好きだった。好きと言うより、風呂に入っている時にいいアイデアが閃くそうで、一日に五回も風呂に入ることもしばしばだった。真央はふっと思い出し笑いをした。深呼吸をし、髪を洗った。

 暗い寝室。大きなダブルベッド。隣に大輔はいない。代わりにちび太が寝ている。真央はリラックス効果のあるアロマオイルを焚いてベッドに横になった。夫のパジャマを着て。頭がおかしくなったのではない。心が壊れてしまったのだ。私は一体何歳まで生きるのだろう。自分の寿命が知りたい。今度占いに行ってみよう。外はとても寒かったが部屋の中は温かかった。窓に水滴がたくさんついていた。




つづく

(この物語はフィクションです)








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