2019年07月01日
融合篇〈人魚姫〉二章
一節
次々と起きる不審な事件、
事故により、
都内には悲鳴が渦巻いていた。
その中を、OLは目的もなく歩き続ける。
乱れた服、乱れた髪、泣きはらした瞳。
明らかに普通ではないその様子に、
しかし誰も声を掛ける者はいない。
なぜなら、
皆自分を守るのに必死だからだ。
電車の脱線事故により
血まみれになった男。
逃げまどう内に車に轢かれた女。
親とはぐれて踏みつけられた子供。
騒ぎに紛れて殴り殺された老人。
悲劇は、彼女以外を選んでいた。
駅だけじゃない。
都内には混乱が広がっていた。
まるで戦争のような、テロのような悲劇。
そのどれもが、彼女を避けていく。
Normal
- 【 人魚姫 】私が……私だけが……
- 【 人魚姫 】可哀想だったはずなのに……!
Hard
二節
子供の泣き声が聞こえる。
それはとても可哀想で、哀れで。
――私よりも、憐れで。
三節
道端に倒れている人がいる。
救急隊員が必死に声をかけている。
――私には、見向きもせず。
四節
物陰で震えている女がいる。
それを襲う男がいる。
−−私を、無視して。
五節
ラブホテルで死んだ上司は、
どうなったのかしら?」
誰にも気づかれずに、あのまま?
――それは、なんて酷い。
六節
錯乱する人々。
吹きあがる炎。
鳴り続けるサイレン。
――私だけが、冷たい水の中にいるみたい。
七節
「大丈夫ですか?」
気紛れに、倒れている人に声をかけてみた。
「……あ、う……」
ああ、この人はもうすぐ死んでしまう。
八節
可哀想。可哀想。
みんなみんな可哀想。
私よりも、何倍も何倍も何倍も何倍も!
九節
そんな事は
許せない。
十節:前半
本来なら、これは彼女が自殺を
する事で幕を引く物語だった。
惹かれあう男女。許されぬ恋。
全てを儚んだ二人は心中を試みる。
しかし女は死にきれず、
その身を電車の前に投げ打ち、
泡のように細かな肉片となって
この世から消えた――
それがホテルで不倫相手の上司を
手にかけた彼女のシナリオだった。
これなら、誰もが彼女を
可哀想だと
憐れむはずだったのに。
自殺する事で憐れまれるはずだった女。
それで不倫をチャラにする気だった女。
でも、悲劇で喜劇を覆い隠す事はできない。
その反対は出来たとしても。
Normal
- 【 人魚姫 】このままじゃ、私、埋もれちゃう……
- 【 人魚姫 】馬鹿な不倫で、馬鹿なプレイをして。
- 【 人魚姫 】上司を殺したただの馬鹿として……
- 【 人魚姫 】こんなの悲劇じゃなく喜劇よ!
Hard
十節:後半
混乱が収まればいずれ訪れるであろう
自分の未来に、OLは首を振った。
「なんで?電車に飛び込んだのに。
生きているなんてあり得ない…….」
あそこで終わっていれば、
悲劇だったのに。
「なんで?私よりみんなの方が可哀想。
怪我をして、死にそうで、痛々しくて」
辺りに悲劇が満ちている今、
ここで死んでも
誰も彼女に見向きもしない。
「いや……そんなの……」
ピエロになる恐怖に、
ガチガチと歯が鳴る。
「いや……いやいやいや!
そんなの絶対に嫌あァ!!」
悲痛な叫びと共に、辺りに光が満ちた。
世間から嗤われる自分が怖くて。
彼女は世間を消したくなった。
だから――力を使ったのだ。
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