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2024年03月04日

井伏鱒二の「山椒魚」の執筆脳について2

2 「山椒魚」のLのストーリー

 井伏鱒二(1898−1993)は、1929年頃の創作期に翻訳調の文体で「山椒魚」などを創作していた。当時西洋を追いかけていたため、井伏には新しい文体を創造するという野望があり、何処か動的な調節については、ある程度責務を果たせているという自負もあった。少し先行する新感覚派の横光利一も新感覚派文学運動のリーダーとして翻訳調の文体を創始した。
 秋山(1997)によると、「山椒魚」の特徴には異化も当てはまる。横光利一やドイツ文学のフランツ・カフカも異化で有名な作家である。異化とは、日常見慣れた表現形式によそよそしさを与えて異様なものに見せることで内容を一層よく感じ会得するというものである。横光は、「蝿」の中で日常見慣れた馬車による住民の行き来を蝿の目を通して観察し、カフカの「変身」では、出張に間に合わないからとザムザを探し回る家族の様子を虫になったザムザが観察している。「山椒魚」の場合は、自分に山椒魚を近づけて心情を語るのではなく、その反対で自分を山椒魚に異化させて内容を考えている。これが井伏による新しい文体の創出に当たる。
 そこで、「山椒魚」の購読脳は、「翻訳調と異化」にし、イモリに近縁で姿形が似ている動物に自分を寄せながら静けさのうちにある動きを描いているため、執筆脳は「異化と創造」にする。「山椒魚」のシナジーのメタファーは、「井伏鱒二と異化」である。 

花村嘉英(2020)「井伏鱒二の『山椒魚』の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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