2024年01月20日
堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える2
2 「風立ちぬ」のLのストーリー
堀辰雄(1904−1953)は、一高の学生時代に室生犀星を通して知り合った芥川龍之介の影響で文学の道に進むことになる。東大に提出した卒論では芥川について取り上げた。模倣することなく、芥川が仕事を終えたところが辰雄の出発であった。
「風立ちぬ」は、1936年から1938年にかけて文芸雑誌に発表された。その中でモデルにした節子という女性は、堀辰雄が1933年軽井沢で知り合い、翌年9月に婚約した矢野綾子といわれている。しかし、不幸が訪れる。綾子は肺結核を患い、辰雄も同じ症状になったため、1935年7月、一緒に長野県八ヶ岳山麓にある冨士見高原療養所に入院する。辰雄は回復しても綾子はその12月に亡くなった。辰雄が内容を大切にしているため、小説は事実に即して書かれている。しかし、年数などで多少のずれはある。
特に最終章の「死のかげの谷」では、病気という運命に従い従順に生きた節子への思いが溢れている。婚約の期間はごくわずかでも、互いを幸福にすることがテーマになっている。つまり、ただ目の前のことに集中できれば、幸福になれるというマインドフルネスの境地に達している。中身を見てみよう。
初夏の夕方、一瞬生まれる一帯の景色が幸福感に満たされて眺めることができるのは、見慣れているのに今この時でしかなかった。それだけ目の前にある節子との生活に集中していたのである。いつかずっと後になって、美しい夕暮れが蘇ることがあれば、幸福そのものの絵が見えてくるとした。はたして、そんなことが起こった。
節子に病室で今のような生活に満足しているか尋ねると、満足しているという。ずっとあとになって思い出したらどんなに美しいことか言われたことがあった。初夏の夕方に似た、秋の午前の全く異なる光を帯びた一面の風景を見て、あの時の幸福に似た、締めつけられるような感動で胸がいっぱいになった。ここではただ目の前の秋の午前の光に集中できている。
冬になり、薄暗いベッドの中に、静かに寝ている節子は、辰雄の傍にいられるだけでいいという目をして見つめている。辰雄は、幸福を主題に物語を書きながら自分たちの幸福を信じている。ここでも目の前のことに集中している。そのため「死のかげの谷」は、「幸福の谷」と呼べるほどになる。
「風立ちぬ」の購読脳は、「従順さと幸福の探求」にし、目の前の集中と課題の遂行時に活発になる神経ネットワーク「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)」の活動が辰雄にはあるため、執筆脳は「集中とCEN」にする。シナジーのメタファーは、「堀辰雄とマインドフルネス」である。
花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より
堀辰雄(1904−1953)は、一高の学生時代に室生犀星を通して知り合った芥川龍之介の影響で文学の道に進むことになる。東大に提出した卒論では芥川について取り上げた。模倣することなく、芥川が仕事を終えたところが辰雄の出発であった。
「風立ちぬ」は、1936年から1938年にかけて文芸雑誌に発表された。その中でモデルにした節子という女性は、堀辰雄が1933年軽井沢で知り合い、翌年9月に婚約した矢野綾子といわれている。しかし、不幸が訪れる。綾子は肺結核を患い、辰雄も同じ症状になったため、1935年7月、一緒に長野県八ヶ岳山麓にある冨士見高原療養所に入院する。辰雄は回復しても綾子はその12月に亡くなった。辰雄が内容を大切にしているため、小説は事実に即して書かれている。しかし、年数などで多少のずれはある。
特に最終章の「死のかげの谷」では、病気という運命に従い従順に生きた節子への思いが溢れている。婚約の期間はごくわずかでも、互いを幸福にすることがテーマになっている。つまり、ただ目の前のことに集中できれば、幸福になれるというマインドフルネスの境地に達している。中身を見てみよう。
初夏の夕方、一瞬生まれる一帯の景色が幸福感に満たされて眺めることができるのは、見慣れているのに今この時でしかなかった。それだけ目の前にある節子との生活に集中していたのである。いつかずっと後になって、美しい夕暮れが蘇ることがあれば、幸福そのものの絵が見えてくるとした。はたして、そんなことが起こった。
節子に病室で今のような生活に満足しているか尋ねると、満足しているという。ずっとあとになって思い出したらどんなに美しいことか言われたことがあった。初夏の夕方に似た、秋の午前の全く異なる光を帯びた一面の風景を見て、あの時の幸福に似た、締めつけられるような感動で胸がいっぱいになった。ここではただ目の前の秋の午前の光に集中できている。
冬になり、薄暗いベッドの中に、静かに寝ている節子は、辰雄の傍にいられるだけでいいという目をして見つめている。辰雄は、幸福を主題に物語を書きながら自分たちの幸福を信じている。ここでも目の前のことに集中している。そのため「死のかげの谷」は、「幸福の谷」と呼べるほどになる。
「風立ちぬ」の購読脳は、「従順さと幸福の探求」にし、目の前の集中と課題の遂行時に活発になる神経ネットワーク「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)」の活動が辰雄にはあるため、執筆脳は「集中とCEN」にする。シナジーのメタファーは、「堀辰雄とマインドフルネス」である。
花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より
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