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2021年09月20日

三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える4

3 病跡学へのアプローチ

 高橋(2000)は、ドイツの社会科学の礎を築いたマックス・ウェーバー(1864−1920)の精神病から病跡を捉え、うつ病者本人の対処行動を考察している。病跡学には、病理表現まで含む広義の意味と天才の精神分析を試みる狭義の意味がある。ここでは後者の立場で話を進める。
 M.ウェーバーは、政治的な雰囲気のなかに育ち、早くから政治への関心を示していた。ベルリンやハイデルベルクで法律を学び、その後、ベルリンやフライブルクで教鞭をとる。1897年ハイデルベルクへ移る際に、両親の対立に介入し父を裁き旅へと追いやった。父は、旅先で亡くなり、父を追放したという罪の意識から不眠症を患い、仕事が手につかなくなった。 
 第一次世界大戦の勃発後、M.ウェーバーは、政治活動を再開し、一連の政治評論を発表する。牧野(2006)によると、世界大戦というドイツ国民にとっての危機が政治活動に飛び込む大義を与えたからである。そして、政治活動の再開は、彼に精神の病の回復をもたらした。M.ウェーバーは、ドイツ統一に向けたワイマール憲法の起草作業に関わり、プロイセンと他の領邦からなるドイツ帝国が連邦の国家として作られた。
 高橋(2000)は、M.ウェーバーに関し、Aうつ病者本人の発病による影響、B周囲の対応、C病の回復の三分類で対処行動を分析している。この論文でも「道ありき」から抽出した場面の病跡状況を考え、それぞれの内容がどの対処行動に該当するのかを考える。うつ病者本人の対処行動は、以下の通りである。

病気に対する周囲の人々の誤解や無理解のため患者自身が苦しむ。
周囲にも葛藤が生じる。
回復や社会復帰を焦ると状態が悪化する。
病気は精神力で克服すべしとする考え方が心理的負担を増大させる。
人生の意味を考え周囲との親密な関係を築くなど生活重視に価値観が転換するといった特徴がある。

花村嘉英(2021)「三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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