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2021年01月14日

人文科学から始める技術文の翻訳3

 日本語からそのまま英語の表現が思いつく場合もあるが、双方の発想の違いがつかめないと思い浮かばないこともある。日本語の「〜して〜する」という表現は、結果の表現と見なすこともできるし、何かの後にという意味にも取ることができる。

(3)ノブを右に回して設定温度を下げてください。
(4)カバーを外して電池を交換してください。

(3)は、ノブを回した結果、設定温度が下がるとして、(5)のような結果を表すto不定詞の構文にする。また(4)は、カバーを外してから電池を外すという意味に取れる。そのため、(6)のようにandでつなげばよい。

(5)Rotate the knob clockwise to lower the set temperature. (技術英語構文辞典)
(6)Remove the cover and replace the battery.

関係代名詞を用いて結果を表す場合もある。これは前文を先行詞として取り、これが原因でその結果が関係代名詞により表現されるとする。

(7)カメラのシャッターボタンを押すと、スプリングがリングを動かして、ブレードを開く。

(7)の最後の部分が問題になる。それより前の部分は先行詞として主語となり、最後の部分が結果として表される。

(8)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring, which in turn opens the blade.(技術英語構文辞典)

(8)の後半部は、上述のto不定詞や分詞構文でも書くことができる。

(9)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring to open the blade.

(10)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring opening the blade.

 (8)、(9)、(10)は、いずれも二つの因果関係を一つの文で記している。これらの二つの因果関係は、二つの文で表記することもできる。前文をThisで受けて、新規で文を作ればよい。

(11)When the shutter release of the camera is pressed, a spring moves the ring. This opens the blade.

 技術文は、因果関係の連鎖である。そのため、様々な書き方のテクニックを覚えるとよい。

(12)検出領域内の赤外線が増大すると、回路点130の電圧が増大し、逆に、赤外線が低下すると、回路点130の電圧が低下する。

「検出領域内の赤外線が増大すると」を「検出領域における赤外線の増加」として、「A increase of the infrared radiation in the sensing area」と考える。また、「赤外線が低下すると」は「赤外線の低下」として、「A decrease of the infrared radiation」とする。

(13)An increase of the infrared radiation in the sensing area increases the voltage at node 130. A decrease of the infrared radiation will decrease the voltage at node 130.(USP4,618,770)

 結果の書き方についてそもそも日本語と英語で発想が異なる場合がある。こうした英語の表現について接続詞を見ながら考えてみよう。
接続詞のtherefore、accordingly、consequentlyはいずれも「従って」という意味である。形式的な表現であるが、特にthereforeは技術文でもよく見かける。接続の近さから言うと、therefore、accordingly、consequentlyの順で強から弱になる。但し、これらの表現は日本語と一対一にはならない。一対一にすると英語は書きすぎの感がある。

花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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