2020年11月02日
柴田翔の「鳥の影」で執筆脳を考える2
2 「鳥の影」のLのストーリー
柴田翔(1935−)は、小説の中で答えが見えない袋小路となる状況を好んで描く。「鳥の影」では、安全できちんと作られた日常の世界があやふやで紛い物にすぎないというテーマを設定している。そのため登場人物として働き盛りの人間を好み、大企業の課長代理の則雄が主人公になる。
「鳥の影」は、日常生活が病気や異常と重なることを主人公の自殺で説明する。加賀(1978)は、正気から狂気へ移行するプロセスを病的行動の原因となるコンプレックスが脅かし、その先には袋小路が待ち受けると説く。則雄が祖父の葬式に参加し、同窓の英語教師山本と酒を飲む。帰路につくはずが梯子酒になり、亡くなった潮田じいさんの義妹の信江が営む店に行く。明日も会社で会議がある則雄は、しばらくして店を出るが、財布を忘れて信江が届けに来る。そして次の瞬間、信江の方へ一歩踏み出してしまう。
救いのない闇が立ち込めているため、確かに救済も必要である。翌朝、タクシーで社の横に乗りつけた。しかし、もう完全に無縁のものになっていた。解決策となる難易度の調節ができていない。その夜も昨晩の女を探す。探しても同じ場所には辿り着けず、代わりに質屋の飾り窓を覗く少女に出会う。うまくいかなければ、それを受け入れて落ち着くことも大切であろう。
その夜、三十後半の男が小さな包みを抱えた少女を連込み宿泊しに来たと警察に連絡がある。警察に連行された男は、調べに対し住所氏名勤務先を述べ自白した。自殺の相談もなく取調室の窓をあけると晩秋の空間に身を躍らせた。
「鳥の影」の購読脳は、「見掛けの平和と不吉の兆し」にする。現代について深く考え自分の問題を見出しながら、それを過去や未来の中に定着させようと試みる開高健の「裸の王様」でも現実と異常が重なっている。しかし、開高健は、太郎のアスペルガーを回復させる一方、柴田翔は、幼少の子供裕太と妻の宏子に則雄の自殺という負の遺産を残す。正気から狂気へ移る過程には袋小路が待ち構えているため、執筆脳は、「兆候と行き詰まり」にする。「鳥の影」のシナジーのメタファーは、「柴田翔と袋小路」である。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
柴田翔(1935−)は、小説の中で答えが見えない袋小路となる状況を好んで描く。「鳥の影」では、安全できちんと作られた日常の世界があやふやで紛い物にすぎないというテーマを設定している。そのため登場人物として働き盛りの人間を好み、大企業の課長代理の則雄が主人公になる。
「鳥の影」は、日常生活が病気や異常と重なることを主人公の自殺で説明する。加賀(1978)は、正気から狂気へ移行するプロセスを病的行動の原因となるコンプレックスが脅かし、その先には袋小路が待ち受けると説く。則雄が祖父の葬式に参加し、同窓の英語教師山本と酒を飲む。帰路につくはずが梯子酒になり、亡くなった潮田じいさんの義妹の信江が営む店に行く。明日も会社で会議がある則雄は、しばらくして店を出るが、財布を忘れて信江が届けに来る。そして次の瞬間、信江の方へ一歩踏み出してしまう。
救いのない闇が立ち込めているため、確かに救済も必要である。翌朝、タクシーで社の横に乗りつけた。しかし、もう完全に無縁のものになっていた。解決策となる難易度の調節ができていない。その夜も昨晩の女を探す。探しても同じ場所には辿り着けず、代わりに質屋の飾り窓を覗く少女に出会う。うまくいかなければ、それを受け入れて落ち着くことも大切であろう。
その夜、三十後半の男が小さな包みを抱えた少女を連込み宿泊しに来たと警察に連絡がある。警察に連行された男は、調べに対し住所氏名勤務先を述べ自白した。自殺の相談もなく取調室の窓をあけると晩秋の空間に身を躍らせた。
「鳥の影」の購読脳は、「見掛けの平和と不吉の兆し」にする。現代について深く考え自分の問題を見出しながら、それを過去や未来の中に定着させようと試みる開高健の「裸の王様」でも現実と異常が重なっている。しかし、開高健は、太郎のアスペルガーを回復させる一方、柴田翔は、幼少の子供裕太と妻の宏子に則雄の自殺という負の遺産を残す。正気から狂気へ移る過程には袋小路が待ち構えているため、執筆脳は、「兆候と行き詰まり」にする。「鳥の影」のシナジーのメタファーは、「柴田翔と袋小路」である。
花村嘉英(2020)「柴田翔の『鳥の影』の執筆脳について」より
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