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2017年10月03日

『訳す』 中日翻訳の高速化−比較言語学からの考察6

5 分野の背景知識の調節法  
 
 一般的に、翻訳の作業単位は、言語の知識と分野の背景知識との組み合わせである。例えば、私の場合は、ドイツ語と文学とかドイツ語ないし英語と技術文という組み合わせになる。そのために、実務に関してそれなりに工夫が必要であった。文理の相乗効果のことをいうシナジー・共生の調節が大変に難しいからだ。
 翻訳者として10年余り仕事をしながら、この問題について試行錯誤を繰り返してきた。それは、文理の土台を作りたかったからである。縦型の伝統の技は、文系も理系も比較の研究になる。一方、横の調節は、シナジーの研究である。その際、文系が専門であれば文系が主で理系が副、理系が主であればその逆になる。また、文系の基礎は文献学であり、理系の基礎は計算と技術といえる。人文科学が専門の場合、文理の組み合せは文学とコンピューターとか心理とメディカルなどである。計算文学を研究するためには、もちろん理系の文献も文学分析に使えることが前提になる。(「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」を参照すること。)毎日のように技術文の翻訳作業に従事しながら、「理系のための基礎作り」を心掛けていた。    
 技術文の翻訳には、翻訳ソフトが付き物である。限られた時間で大量のデータをできるだけ正確にまとめなければならないからだ。周知のように、コンピューターのマニュアルでは、文体や用語もさることながら、類似の表現や決まり文句または同一文が繰り返して使用される。そこで、翻訳ソフトを使用して翻訳メモリーを作りながら、作業を行うことが慣例になっている。また、技術文を翻訳しながら、理系の入門書を読む必要もある。私の場合、このようにして、文系の語学文学と理系の情報科学の背景知識を調節してきた。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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