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2020年09月17日

開高健の「裸の王様」で執筆脳を考える2

2 「裸の王様」のLのストーリー

 開高健(1930−1989)は、現代について深く考え自分の問題を見出しながら、それを過去や未来の中に定着させようと試みる典型的な現代作家である。佐々木(2012)によると、社会における人間疎外の面が際立ち、専ら組織と人間の脈絡で人物を評価していく。
 「裸の王様」は、子供特有の体臭がない大田太郎という無口で神経質な少年の話である。描く画は、人形やチューリップばかりで人間が登場しない。となりの娘さんとしか遊ばないためであろう。父母の画が出てこないのは、太郎が孤独であり彼の不毛を説明している。
 読みだして、心の歪みやストレスが原因で起こる心の病気アスペルガー症候群が気になった。表情や身振りが乏しく、情緒的な交流ができず、活動や興味の範囲が狭いメンタルな症状である。
 小学二年の太郎は、部屋中に飾ってある児童画に興味を示さず、背を正して数時間は座っている気配が見られる。同じ画をいつも描き、アスペルガー症候群の軽度の症状が見て取れる。知的発達は正常で、自閉症のうち言語の発達も普通である。小さな子供にピアノや家庭教師さらに画の勉強となれば、父は子供にかまわず、母はかまい過ぎとなる。かまっても孤独からは抜けられない。後妻のためであろう。  
 一方、作者および作中の私は、一貫して心理的亡命者の立場にある。そこで、「裸の王様」の購読脳は、「組織の中の人間と心理的亡命者」にし、社会をベースに異なる役柄の人物を配置しているため、執筆脳は「ベースと複数の異なるプロファイル」にする。「裸の王様」のシナジーのメタファーは、「開高健と社会の中の人間」である。 
 なお、アスペルガー症候群の男女比は、4対1の割合で男性が上回り、対人相互作用などに強く関係する上側頭溝・紡錘状回・扁桃体・内側前頭前野・下前頭回などの脳全体に占める割合が、通常人と比べ相対的に低い。

花村嘉英(2020)「開高健の『裸の王様』の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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