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2023年02月04日

志賀直哉の「城の崎にて」で相関関係を考える1

1 先行研究

 但馬・城の崎の風景を描写した「城の崎にて」の自作のデータベースを使用し、既存の研究と照合すると、執筆時の志賀直哉(1883−1971)には、「佐々木の場合」から始まる作家としての第二期における精神的な成長、動から静への移行が確認できる。  
 この小論では、当該のデータベースを使用して相関関係を考察する。言語の認知のカラムは、思考の流れ、即ち、動から静への思考が1ある、2ない、情報の認知のカラムは、人工知能が1認識、2心的操作である。

花村嘉英(2020)「志賀直哉の『城の崎にて』で相関関係を考える」より

2022年08月30日

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について8

4 まとめ

 壺井栄の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「二十四の瞳」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−自然や文化の観察者としての作家について ブログ「シナジーのメタファー」 2020 
壺井栄 二十四の瞳(解説 鷺只雄)岩波文庫 2018
三・一五事件、四・一六事件、満州事変、上海事変 Wikipedia 

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について7

表3 情報の認知

同上
A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E:情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。    

結果  壺井栄は、この場面で喜びや悲しみの中で過ごした激動の昭和の歴史を確認し、瀬戸内に生きる庶民の知恵も描いているため、購読脳の「感情の共有と戦争の悲惨さ」から「ユーモアと母性愛」という執筆脳の組を引き出すことができる。 

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について6

【連想分析2】
情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。

情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について5

分析例

1 大石先生が赴任して4年が過ぎる場面。 
2 本小論では、「二十四の瞳」の執筆脳を「ユーモアと母性愛」と考えているため、意味3の思考の流れ、母性愛に注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3母性愛@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし  
4 人工知能 @ユーモア、A母性愛 
 
テキスト共生の公式    
 
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「感情の共有と戦争の悲惨さ」を作る。
ステップ2:現実を寓話と見る眼と現実を非現実と感じる心が購読脳の出どころと考えているため、「ユーモアと母性愛」という組を作り、解析の組と合わせる。  

A:@視覚+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@ユーモア+A母性愛という組と合わせる。
B:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@ユーモア+A母性愛という組と合わせる。  
C:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@ユーモア+A母性愛という組と合わせる。 
D:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@ユーモア+A母性愛という組と合わせる。
E:@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@ユーモア+A母性愛という組と合わせる。   

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について4

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ

大石先生が赴任して4年が過ぎる

A 海の色も、山の姿も、そっくりそのまま昨日につづく今日であった。細長い岬の道を歩いて本校にかよう子どもの群れも、同じ時刻に同じ場所を動いているのだが、よく見ると顔ぶれの幾人かがかわり、そのせいでか、みんなの表情もあたりの木々の新芽のように新鮮なのに気がつく。竹一がいる。ソンキの磯吉もキッチンの徳田吉次もいる。マスノや早苗もあとからきている。
意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B この新らしい顔ぶれによって、物語のはじめから、四年の年月が流れさったことを知らねばならない。四年。その四年間に「一億同胞「一億同胞」は底本では「一臆同胞」]」のなかの彼らの生活は、彼らの村の山の姿や、海の色と同じように、昨日につづく今日であったろうか。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

C 彼らは、そんなことを考えてはいない。ただ彼ら自身の喜びや、彼ら自身の悲しみのなかから彼らはのびていった。じぶんたちが大きな歴史の流れの中に置かれているとも考えず、ただのびるままにのびていた。それは、はげしい四年間であったが、彼らのなかのだれがそれについて考えていたろうか。あまりに幼い彼らである。 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

D しかもこの幼い者の考えおよばぬところに、歴史はつくられていたのだ。四年まえ、岬の村の分教場へ入学したその少しまえの三月十五日、その翌年彼らが二年生に進学したばかりの四月十六日、人間の解放を叫び、日本の改革を考える新らしい思想に政府の圧迫が加えられ、同じ日本のたくさんの人びとが牢獄に封じこめられた。そんなことを、岬の子どもらはだれも知らない。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

E ただ彼らの頭にこびりついているのは、不況ということだけであった。それが世界につながるものとはしらず、ただだれのせいでもなく世の中が不景気になり、けんやくしなければならぬ、ということだけがはっきりわかっていた。その不景気の中で東北や北海道の飢饉を知り、ひとり一銭ずつの寄付金を学校へもっていった。そうした中で満州事変、上海事変はつづいておこり、幾人かの兵隊が岬からもおくり出された。
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 2

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について3

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】
表1 「二十四の瞳」のデータベースのカラム
文法1 名詞の格  壺井栄の助詞の使い方を考える。
文法2 態 能動、受動、使役。
文法3 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ  母性愛ありなし
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「感情の共有と戦争の悲惨さ」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 ユーモアと母性愛 ユーモアとは、上品な洒落の感覚。母性愛とは、母親が持つ子に対する先天的で本能的な愛情。

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について2

2 「二十四の瞳」のLのストーリー

 壺井栄(1899−1967)の「二十四の瞳」は、1928年4月4日、瀬戸内海の寒村の小学校に大石という若い女性の先生が赴任する話から始まる。それ先駆けて、同年2月に普通選挙法の下で第一回の選挙が行われ、同年3月15日に三・一五事件が発生した。  
 鷺(2018)によると、当時人間解放を叫び、改革を目指す新たな思想に日本政府が圧力を加え、多数の日本人が検挙された。また、世の中が不景気になり、誰もが倹約を必要とした。続けて1931年9月に満州事変、1932年1月に上海事変が起こり、瀬戸内からも軍隊に招兵された。物語の始まりから激しい4年の月日が経った。しかし、海の色や山の姿は変わらず、子供たちは、大きな歴史の中に置かれているとは考えていない。
 「二十四の瞳」には、赤い先生の稲川が治安維持法にかかり教育界から追放される事件がある。それに託けて小林多喜二は、小説家として警察で死んだ人として登場する。1928年に行われた普通選挙で労農党の候補を応援した時、共産党への弾圧や国家維持法違反による労農組合員の逮捕を受けて、小林多喜二は強い憤りを覚えた。大石久子先生は、生徒たちにプロレタリアを知っているか質問した。誰も知らない。壷井栄は、同胞の一人として多喜二の遺体を清めている。
 船乗りの妻として過ごした大石先生は、大吉、並木、八津という男二人、女一人合わせて三人の子の母親となっていた。さらに4年が経ち、時代は日華事変、日独伊防共協定の締結、国民精神総動員という世の中になり、寝言でも国の政治を口に出してはならない状態であった。  
 1945年8月15日、ラジオ放送を聞くために学校へ召集された大吉は、原爆の残虐さがそのことばとして意味だけ伝えられたため、敗戦の責任を背負ってしょげていた。そこに妹の八津の死が重なる。青い柿の実を食べて付着していた卵が人体に摂取され、小腸に回虫が発生し急性腸カタルになった。八津は、戦争に殺された。
 鷺(2018)は、「二十四の瞳」の特徴として登場人物の無名性と場所の限定がないことを挙げている。この作品を読めば、喜びや悲しみの中で過ごした激動の昭和の歴史を確認することができる。戦争が一家の働き手の父や夫を奪い、40歳過ぎても臨時教師として大石先生は働いている。そこで、「二十四の瞳」の購読脳は、「感情の共有と戦争の悲惨さ」にする。辛い戦争体験が描かれる一方で、瀬戸内に生きる庶民の知恵もあるため、執筆脳は「ユーモアと母性愛」である。「二十四の瞳」のシナジーのメタファーは、「壺井栄と大母性」になる。 

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より

壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2020)「壺井栄の「二十四の瞳」の執筆脳について」より
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プロフィール
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール
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