早速ソブランは家の近くの痩せた土地を開墾し、葡萄樹を植えた。 そして資金を得るため、ナポレオン軍の遠征に参加することにした彼は、真冬のモスクワで本隊と離れ、九死に一生を得る。
数年の月日が流れ、ようやくセレストが待つ家に帰った彼の前に、手塩にかけた葡萄畑は荒れ果てていた。 ザスは、最高のワインを造るためには、歓びも悲しみも苦しみも、つまりは人生のすべてが必要になるのだと諭す。 ソブランは再び葡萄づくりに精を出した。そしてザスの助言とセレストの愛に支えられ、ソブランの最初のワインが出来上がった。 1815年のヴィンテージをもつ彼のワインは、ザスも認める味わいとなった。 ヴリー伯爵もソブランのそのワインの味を認めるところとなり、彼の姪でパリから戻ってきた男爵夫人のオーロラも、彼のことを一目置くようになる。
しかし、ソブランの生活は安定しなかった。ワイン造りへの野心が、彼の生活を苦しめていた。 次女を亡くしたことをきっかけに、セレストの心も次第に蝕まれていった。 やがてヴリー伯爵が亡くなり、ワイナリーを引き継いだオーロラより、ソブランはチーフ醸造家として迎え入れられた。 オーロラもまた、ソブランからワインの奥義を学び取ろうと懸命な努力を重ねていった。 二人の協力によって生み出されたワインは、パリでも大きな評判となり、ソブランは成功を収めた。
だが、夫とオーロラとの関係を怪しむセレストの心は、嫉妬心に苛まれていった。 ソブランもまた、ザスのある秘密を知ってしまったことから心が揺れ、それにしたがって彼のワインもまた苦くなってしまった。
苦しみの歳月が流れ、オーロラは癌を患い、セレストの心も、取り返しがつかないところまで壊れてしまう。 もっとも大切な葡萄樹もまた、フランスを襲った病害に冒されてしまう。 葡萄畑が燃え、失意のなか、たった1本、ザスから贈られた葡萄樹が生き残っていた。 すべてを失いながらも、わずかに残された希望から葡萄づくりを再開させ、ようやくソブランが夢見たワインが完成した。
歓び、悲しみ、怖れ、野望、成功、喪失……それらすべて、人生のすべてが詰まった、これまで誰も味わったことのない奇跡のワイン、至高のワインが････