2014年06月26日
牛肉「脱霜降り」…“畜産王国”九州でも赤身肉の消費者ニーズに舵
牛肉「脱霜降り」…“畜産王国”九州でも赤身肉の消費者ニーズに舵
牛肉市場に変化の兆しが現れている。
健康志向の高まりもあって、
高級牛肉の象徴だった「霜降り」から、
「赤身肉」へと人気がシフトしている。
肉牛の飼養頭数で全国シェア35%を占める
畜産王国・九州では、
この変化をいち早くとらえ、
「脱霜降り」に舵を切る畜産農家も出てきた。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を
はじめ国際情勢や伝染病に翻弄される畜産業だが、
市場の変化に敏感になることで、
暗雲を打破しようとしている。
鹿児島市の中心から北に50キロの鹿児島県伊佐市。
一面に緑が広がる山地で、
放牧された牛が草をついばむ。
1万3千頭もの肉用牛の繁殖から肥育、
販売まで一貫して自社で手がけるカミチク
(鹿児島市上福元町)の肥育牧場だ。
餌には牧草のほか、
近くの農家から仕入れた稲わらなどを与える。
生まれてから2年もたつと、
あっさりとした味わいの赤身肉として、
自社運営のレストランや
提携スーパーなどの店頭に並ぶという。
「野菜と一緒に肉の脂を楽しむすき焼きやしゃぶしゃぶに比べ、
ステーキや焼き肉は、
赤身の方がおいしい。
赤身肉の人気は10年以上前から少しずつ高まっていましたが、
特に、
ここ数年は目立つようになった。
ただ、
生産者側はなかなか気付いていないのです」
カミチクの上村昌志社長がこう語るように、
赤身肉の注目が高まっている。
高齢化とヘルシー志向によって、
サシ(脂肪交雑)が目立つとろけるような霜降り肉ではなく、
赤身肉を好む消費者が増えている。
実際、
赤身肉から売れ、
霜降りが売れ残る小売店もあるという。
上村社長は、
そんな風潮を敏感にキャッチした。
赤身肉で有名なブラックアンガス種の雌牛に黒毛和種の雄牛を
交配した肉用牛の飼育を始めたのだ。
平成13年に鹿児島の地場大手スーパー、
タイヨーと提携し、
赤身肉ブランド
「薩摩健気黒牛(けんきくろうし)」として販売を開始した。
薩摩健気黒牛の売れ行きは好調で、
昨年7月にはタイヨー側が
毎年1600頭を買い取る固定契約も結んだ。
出荷先も広がり、
今では半分を赤身肉が占めるようになった。
上村氏は
「先代の父から『畜産業界の欠点は自分で作ったモノを
自分で売らないことだ』と教えを受けました。
販売まで手掛けることで、
消費者の嗜好(しこう)の変化に気付き、
赤身肉シフトを進めたのです」と語った。
だが、
こうした畜産農家は一部にとどまる。
多くの畜産農家は、
美しくサシの入った霜降り肉の追求に余念がない。
背景にはサシが入れば入るほど高級だという
“霜降り信仰”がある。
霜降り信仰の象徴が、
肉の格付けである「肉質等級」だ。
牛肉の質を5ランクに分ける等級の評価基準は平成5年から、
脂肪の入り具合に重点を置くように変わった。
霜降り肉は4〜5等級、
赤身肉は3等級とされる。
この結果、
日本の畜産農家はこれまで以上に、
霜降り肉生産に精魂を傾けるようになった。
平成24年度の等級別牛肉生産量をみると、
5等級は8年度比27・5%増、
4等級にいたっては1・5倍に伸びた。
3等級の赤身肉はほぼ横ばいだった。
供給量が膨らめば、
価格は下落する。
5等級の枝肉1キロの卸売単価は、
現行の格付け制度が始まった5年度の
2600円から
24年度は1900円に、
4等級は2千円から
1700円に落ち込んだ。
これに比べ、3
等級は1500円前後を維持する。
半面、
霜降り牛肉の生産コストは上昇を続ける。
平成22年に宮崎県で家畜伝染病の口蹄疫が発生し、
肉牛生産が盛んな九州南部で子牛価格が急騰した。
また、
牛肉にサシを入れるには穀物飼料を多く与えなければならない。
穀物飼料は米国やオーストラリアからの輸入に頼っており、
世界的な天候不順や国際情勢の悪化によって、
値上がりに歯止めがかからない。
農林水産省によると、
200頭以上を飼育する畜産農家では、
肉用牛1頭を育てるのに79・1万円かかる。
これに対し、
販売額は81・8万円。利益率は低く、
政府の補助金が頼みの綱となっている。
消費者のニーズから乖離する上、
コスト高の霜降り一辺倒では畜産王国はやがて行き詰まる−。
日本政策投資銀行南九州支店は5月、
この危機感を背景に
「『畜産王国』南九州の成長戦略」と
題した調査報告を発表した。
報告では、
消費者が求める赤身肉に目を向けることで
高コスト構造を見直すことや、
海外展開を視野に生産から販売までの一貫体制を
作ることを畜産農家に呼びかけた。
霜降り肉の肥育期間が30カ月前後なのに対し、
赤身肉は20カ月前後。
飼料も、
価格変動の影響を受けにくい国産の飼料米や稲わらを活用できる。
赤身肉シフトによって、
生産コストを大幅に引き下げられる可能性が高いという。
調査報告をまとめた政投銀南九州支店業務課の
沖元佑介調査役は「これまで、
畜産業界には霜降り以外に価値判断の軸がなかった。
国内の肉用牛産出額の25%を占める南九州が率先して
価値観を転換することで、
日本の畜産業界が変わるきっかけになりうる」と語った。
和牛はオージー・ビーフに負けない!
日豪EPAで畜産王国・九州
日本と豪州両政府が7日、
経済連携協定(EPA)で大筋合意し、
豪州産牛肉の輸入関税は38・5%から
段階的に20%前後に引き下げられることが決まった。
肉用牛産出額で全国の4割を占める畜産王国・九州。
畜産農家は高品質な
「和牛」の競争力に自信を持っており
「決してオージー・ビーフには負けない」との声が上がった。
今回の日豪EPAは、
米国を牽制(けんせい)する意味合いを持つ。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の中で米国は
「関税の原則全廃」を求めている。
豪州との間で、
関税撤廃ではなく引き下げで合意したことは、
難航する対米交渉の有力なカードとして、
「原則全廃」の防波堤になり得る。
TPP絶対反対の全国農業協同組合中央会(JA全中)の
万歳章会長は日豪EPAについて
「交渉の最終局面において林(芳正)農水相はじめ政府関係者は
ギリギリの交渉を粘り強く行ったと受け止めている」と
評価するコメントを発表した。
九州の畜産現場も、
比較的冷静に受け止めた。
「不安はあるが、
あか牛のブランド化も進んでおり、
負けるわけにはいかない。
今後も、
あか毛和牛の魅力を前面に打ち出し、
ブランド力で対抗していきたい」
「全日本あか毛和牛協会」(熊本市)の金子美博氏はこう語った。
豪州では現在、
赤身の肉が主流で、
一部で「和牛」の精子を使った霜降り肉も生産している。
豪州産牛肉と最も競合するのが、
熊本県特産の「あか牛」(褐毛和種)だ。
だが、
熊本県畜産課主幹の網田昌信氏は
「関税が下がって国内に入ってくるのは安価な牛肉が中心で、
影響はないのではないか」と冷静に分析する。
日豪EPAをもっと前向きにとらえる畜産農家もいる。
「EPAによって自動車の輸出関税が5%からゼロになれば、
関連産業が活気づいて、
高級な和牛を食べようという人が増えるじゃないですか。
農畜産物の関税引き下げはもう時代の流れ。
海外輸出を拡大するにも、
輸入関税引き下げという努力を日本側がする必要があるでしょう」
黒毛和牛の子牛を育てる農事組合法人
「楠木酪農生産組合」(福岡県直方市)の
松野竜大組合長はこう語った。
松野氏が育てた子牛は全国各地に出荷され、
そこでブランド牛に育てられている。
現場が自信を抱くように、
実際、
九州の畜産は逆風をバネに発展を続けてきた。
平成3年、
関税と貿易に関する一般協定(GATT)ウルグアイラウンドで、
牛肉とオレンジの輸入数量制限が撤廃となり、
牛肉・オレンジ輸入が全面自由化された。
「日本の畜産とミカン農家は壊滅する」と懸念が広がる中、
九州の畜産農家は飼養頭数を増やして大規模化した。さらに米国や豪州産と差別化ができる「霜降り肉」を中心とした
高級牛肉のブランド化を進めた。
国産肉の味のよさや、
輸入肉の残留農薬問題などで国産の
消費量は目立った落ち込みはなかった。
この結果、
九州の平成24年肉用牛産出額は2055億円と、
自由化前の昭和55年と比べ30%も増加した。
産出額は全国(5197億円)の4割を占める。
和牛ブランドは国内の消費者にも浸透しており、
小売業者もEPAの影響は限定的とみる。
「にしてつストア」などを展開する西鉄ストア
(福岡県筑紫野市)の担当者は「国産、
中でも和牛を求めるお客さまは増えており、
食肉売り上げに占める和牛の比率は高まっています。
豪州産牛肉が、
どの程度の価格で、
どれくらいの量が入ってくるか不透明ですから、
急に『豪州産を増やそう』とはならないでしょう」と語った。
さらに、
「関税引き下げ」の実績は、
国内畜産農家が狙う海外進出でも効果を発揮し得る。
中国や台湾に和牛の輸入解禁を求める際に、
「日本も関税を引き下げている」と訴えられるからだ。
日本から海外への牛肉輸出額は平成24年に
過去最高の51億円に達した。
九州の畜産農家はさらなる輸出拡大をもくろんでいる。
資源大国・豪州は、2007年に誕生した労働党政権時代、
「親・中国」の姿勢を明確にしていた。
これに対し、
昨年9月に首相に就任した自由党のアボット氏は、
日本との関係について
「世界史の中で最も互いに恩恵を受けてきた二国間関係の1つ」と
親日の姿勢を示してきた。
EPAにより、
日豪関係が強固となることは、
年間130万台を生産する九州の自動車産業や、
石炭・鉄鉱石の安定的な輸入にも好影響を
及ぼすのは間違いない。
•
佐賀牛カルビ弁当が優勝
九州駅弁グランプリ
JR九州が7日開いた「第10回九州駅弁グランプリ」の決勝大会で、武雄温泉駅(佐賀県武雄市)の「佐賀牛 極上カルビ焼肉弁当」(1575円)が優勝した。販売するカイロ堂(武雄市)の池田淳子マネジャーは「夢のようにうれしい。旅の楽しみに貢献したい」と喜びを語った。
この弁当は、1頭の牛から約70食分しか取れない希少部位を使用。カルビは肉厚で、冷めても軟らかい食感を楽しめるのが売りだ。
2位は大分駅(大分市)のすし詰め合わせ「豊後水道味めぐり」(600円)。3位は鹿児島中央駅(鹿児島市)の「桜島灰干し弁当」(680円)、博多駅(福岡市)の「上等いか三昧」(1200円)が並んだ。
九州の駅弁50種類の中から地区予選で各県1〜3種類を選び、決勝は13種類で争った。一般客約550人と審査員約30人が投票した。
九州はなぜ農業王国となり得たか? 環境に適応、肉牛・野菜へ転換
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉やコメの減反見直しなど、日本の農業は歴史的な転換期を迎えている。農業産出額が全国の2割に達する九州は、収益性の高い野菜や肉牛の産出額が過去30年で大幅に増加し、農業の衰退を食い止めてきた。なぜ「農業王国」となり得たのか。TPP加盟後の農業の勝機は九州にある−。(津田大資)
1兆6126億円。九州7県の平成22年産農業産出額は、全国産出額(8兆2551億円)の2割を占めた。産出額は農業の“売上高”にあたり、22年産の数字は域内最大の企業、九州電力の売上高に匹敵する。
人口1310万人の九州の農業産出額は、関東農政局管内の1兆9221億円に次いで全国2位だ。関東農政局が1都8県計4479万人を抱えることを考えれば、九州農業の存在感の強さがわかる。
九州農業の強烈な存在感は、産業としての競争力の高さが裏付けとなっている。
昭和55年から平成22年までの30年間で、農業産出額は、全国で20%も減少した。これに対し、九州の低下幅はわずか5%。足腰の強靱(きょうじん)さが伺える。
一方、耕地面積が30アール以上または年間の農産物販売額が50万円以上の「販売農家数」は、全国・九州とも30年でほぼ半減した。
この結果、九州の販売農家戸数当たりの産出額は、677万円と、全国平均506万円を大きく上回った。離農した人々が多い半面、農業の生産性が向上し、1戸当たりの収入は増加したといえる。
環境の変化に適応し、生産性を高める。これがキーワードだった。九州の農家は市場ニーズに即し、商品ラインアップを変化させてきた。
30年前、九州の農業産出額のトップは米(3640億円)だった。
だが現在、1位は野菜(4222億円)だ。鶏(2060億円)、肉用牛(1991億円)が続き、米は1740億円に過ぎない。30年前と比較し、野菜は1.7倍、肉用牛40%増と伸びが目立つ。
米余りを背景に昭和45年、生産調整(減反)が始まった。九州の農家は「漫然と米を作る時代は終わった」と、いち早く対応した。消費量が多く収益性も高い野菜や果実へ転換を進めた。
この結果、イチゴ「博多あまおう」やイチジク「博多蓬莱」のほか「はちべえトマト」(熊本)など、高品質で全国に通用するブランド化に成功した野菜・果実が次々と登場した。
福岡県豊前市の農業、松本克己さん(63)は「減反の補助金もいずれはなくなり、米価が上がる見込みはないと思っていたから、収益性の高いレタスやトウモロコシ、茶の生産に転換してきた。今後も、この流れは続くだろう」と語った。
一方、もともと米作がそれほど盛んではなかった南部九州は、和牛に注力した。
鹿児島や宮崎の和牛は高級食材として、国内市場を席巻するまでに育った。さらに、販路を拡大し、アジアの富裕層をターゲットにした輸出もじわりと拡大している。
両県は芋焼酎の販売増と連動し、原料のサツマイモ栽培も増加した。
ブランド化と6次産業化を進めた結果、宮崎、鹿児島両県の農業産出額は、農業冬の時代にあって8〜9%増加した。「勝つ農業」を先駆けて実践したといえる。
民間シンクタンク、九州経済調査協会の南伸太郎研究主査は「九州の農産物は国内他地域への移出が大きく、自動車や半導体など九州の得意分野と同様に『稼ぐ産業』の1つ。今後、就農者を増やし、作物の生産管理を徹底した上で大規模化を図れば、さらなる利益向上が期待できる」と九州農業の潜在能力を評価する。
離農や高齢化など課題が山積するとはいえ、九州のように適応力と競争力をもつ農業は、さらに「勝ち組」となる可能性を秘めている。
牛肉市場に変化の兆しが現れている。
健康志向の高まりもあって、
高級牛肉の象徴だった「霜降り」から、
「赤身肉」へと人気がシフトしている。
肉牛の飼養頭数で全国シェア35%を占める
畜産王国・九州では、
この変化をいち早くとらえ、
「脱霜降り」に舵を切る畜産農家も出てきた。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を
はじめ国際情勢や伝染病に翻弄される畜産業だが、
市場の変化に敏感になることで、
暗雲を打破しようとしている。
鹿児島市の中心から北に50キロの鹿児島県伊佐市。
一面に緑が広がる山地で、
放牧された牛が草をついばむ。
1万3千頭もの肉用牛の繁殖から肥育、
販売まで一貫して自社で手がけるカミチク
(鹿児島市上福元町)の肥育牧場だ。
餌には牧草のほか、
近くの農家から仕入れた稲わらなどを与える。
生まれてから2年もたつと、
あっさりとした味わいの赤身肉として、
自社運営のレストランや
提携スーパーなどの店頭に並ぶという。
「野菜と一緒に肉の脂を楽しむすき焼きやしゃぶしゃぶに比べ、
ステーキや焼き肉は、
赤身の方がおいしい。
赤身肉の人気は10年以上前から少しずつ高まっていましたが、
特に、
ここ数年は目立つようになった。
ただ、
生産者側はなかなか気付いていないのです」
カミチクの上村昌志社長がこう語るように、
赤身肉の注目が高まっている。
高齢化とヘルシー志向によって、
サシ(脂肪交雑)が目立つとろけるような霜降り肉ではなく、
赤身肉を好む消費者が増えている。
実際、
赤身肉から売れ、
霜降りが売れ残る小売店もあるという。
上村社長は、
そんな風潮を敏感にキャッチした。
赤身肉で有名なブラックアンガス種の雌牛に黒毛和種の雄牛を
交配した肉用牛の飼育を始めたのだ。
平成13年に鹿児島の地場大手スーパー、
タイヨーと提携し、
赤身肉ブランド
「薩摩健気黒牛(けんきくろうし)」として販売を開始した。
薩摩健気黒牛の売れ行きは好調で、
昨年7月にはタイヨー側が
毎年1600頭を買い取る固定契約も結んだ。
出荷先も広がり、
今では半分を赤身肉が占めるようになった。
上村氏は
「先代の父から『畜産業界の欠点は自分で作ったモノを
自分で売らないことだ』と教えを受けました。
販売まで手掛けることで、
消費者の嗜好(しこう)の変化に気付き、
赤身肉シフトを進めたのです」と語った。
だが、
こうした畜産農家は一部にとどまる。
多くの畜産農家は、
美しくサシの入った霜降り肉の追求に余念がない。
背景にはサシが入れば入るほど高級だという
“霜降り信仰”がある。
霜降り信仰の象徴が、
肉の格付けである「肉質等級」だ。
牛肉の質を5ランクに分ける等級の評価基準は平成5年から、
脂肪の入り具合に重点を置くように変わった。
霜降り肉は4〜5等級、
赤身肉は3等級とされる。
この結果、
日本の畜産農家はこれまで以上に、
霜降り肉生産に精魂を傾けるようになった。
平成24年度の等級別牛肉生産量をみると、
5等級は8年度比27・5%増、
4等級にいたっては1・5倍に伸びた。
3等級の赤身肉はほぼ横ばいだった。
供給量が膨らめば、
価格は下落する。
5等級の枝肉1キロの卸売単価は、
現行の格付け制度が始まった5年度の
2600円から
24年度は1900円に、
4等級は2千円から
1700円に落ち込んだ。
これに比べ、3
等級は1500円前後を維持する。
半面、
霜降り牛肉の生産コストは上昇を続ける。
平成22年に宮崎県で家畜伝染病の口蹄疫が発生し、
肉牛生産が盛んな九州南部で子牛価格が急騰した。
また、
牛肉にサシを入れるには穀物飼料を多く与えなければならない。
穀物飼料は米国やオーストラリアからの輸入に頼っており、
世界的な天候不順や国際情勢の悪化によって、
値上がりに歯止めがかからない。
農林水産省によると、
200頭以上を飼育する畜産農家では、
肉用牛1頭を育てるのに79・1万円かかる。
これに対し、
販売額は81・8万円。利益率は低く、
政府の補助金が頼みの綱となっている。
消費者のニーズから乖離する上、
コスト高の霜降り一辺倒では畜産王国はやがて行き詰まる−。
日本政策投資銀行南九州支店は5月、
この危機感を背景に
「『畜産王国』南九州の成長戦略」と
題した調査報告を発表した。
報告では、
消費者が求める赤身肉に目を向けることで
高コスト構造を見直すことや、
海外展開を視野に生産から販売までの一貫体制を
作ることを畜産農家に呼びかけた。
霜降り肉の肥育期間が30カ月前後なのに対し、
赤身肉は20カ月前後。
飼料も、
価格変動の影響を受けにくい国産の飼料米や稲わらを活用できる。
赤身肉シフトによって、
生産コストを大幅に引き下げられる可能性が高いという。
調査報告をまとめた政投銀南九州支店業務課の
沖元佑介調査役は「これまで、
畜産業界には霜降り以外に価値判断の軸がなかった。
国内の肉用牛産出額の25%を占める南九州が率先して
価値観を転換することで、
日本の畜産業界が変わるきっかけになりうる」と語った。
和牛はオージー・ビーフに負けない!
日豪EPAで畜産王国・九州
日本と豪州両政府が7日、
経済連携協定(EPA)で大筋合意し、
豪州産牛肉の輸入関税は38・5%から
段階的に20%前後に引き下げられることが決まった。
肉用牛産出額で全国の4割を占める畜産王国・九州。
畜産農家は高品質な
「和牛」の競争力に自信を持っており
「決してオージー・ビーフには負けない」との声が上がった。
今回の日豪EPAは、
米国を牽制(けんせい)する意味合いを持つ。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の中で米国は
「関税の原則全廃」を求めている。
豪州との間で、
関税撤廃ではなく引き下げで合意したことは、
難航する対米交渉の有力なカードとして、
「原則全廃」の防波堤になり得る。
TPP絶対反対の全国農業協同組合中央会(JA全中)の
万歳章会長は日豪EPAについて
「交渉の最終局面において林(芳正)農水相はじめ政府関係者は
ギリギリの交渉を粘り強く行ったと受け止めている」と
評価するコメントを発表した。
九州の畜産現場も、
比較的冷静に受け止めた。
「不安はあるが、
あか牛のブランド化も進んでおり、
負けるわけにはいかない。
今後も、
あか毛和牛の魅力を前面に打ち出し、
ブランド力で対抗していきたい」
「全日本あか毛和牛協会」(熊本市)の金子美博氏はこう語った。
豪州では現在、
赤身の肉が主流で、
一部で「和牛」の精子を使った霜降り肉も生産している。
豪州産牛肉と最も競合するのが、
熊本県特産の「あか牛」(褐毛和種)だ。
だが、
熊本県畜産課主幹の網田昌信氏は
「関税が下がって国内に入ってくるのは安価な牛肉が中心で、
影響はないのではないか」と冷静に分析する。
日豪EPAをもっと前向きにとらえる畜産農家もいる。
「EPAによって自動車の輸出関税が5%からゼロになれば、
関連産業が活気づいて、
高級な和牛を食べようという人が増えるじゃないですか。
農畜産物の関税引き下げはもう時代の流れ。
海外輸出を拡大するにも、
輸入関税引き下げという努力を日本側がする必要があるでしょう」
黒毛和牛の子牛を育てる農事組合法人
「楠木酪農生産組合」(福岡県直方市)の
松野竜大組合長はこう語った。
松野氏が育てた子牛は全国各地に出荷され、
そこでブランド牛に育てられている。
現場が自信を抱くように、
実際、
九州の畜産は逆風をバネに発展を続けてきた。
平成3年、
関税と貿易に関する一般協定(GATT)ウルグアイラウンドで、
牛肉とオレンジの輸入数量制限が撤廃となり、
牛肉・オレンジ輸入が全面自由化された。
「日本の畜産とミカン農家は壊滅する」と懸念が広がる中、
九州の畜産農家は飼養頭数を増やして大規模化した。さらに米国や豪州産と差別化ができる「霜降り肉」を中心とした
高級牛肉のブランド化を進めた。
国産肉の味のよさや、
輸入肉の残留農薬問題などで国産の
消費量は目立った落ち込みはなかった。
この結果、
九州の平成24年肉用牛産出額は2055億円と、
自由化前の昭和55年と比べ30%も増加した。
産出額は全国(5197億円)の4割を占める。
和牛ブランドは国内の消費者にも浸透しており、
小売業者もEPAの影響は限定的とみる。
「にしてつストア」などを展開する西鉄ストア
(福岡県筑紫野市)の担当者は「国産、
中でも和牛を求めるお客さまは増えており、
食肉売り上げに占める和牛の比率は高まっています。
豪州産牛肉が、
どの程度の価格で、
どれくらいの量が入ってくるか不透明ですから、
急に『豪州産を増やそう』とはならないでしょう」と語った。
さらに、
「関税引き下げ」の実績は、
国内畜産農家が狙う海外進出でも効果を発揮し得る。
中国や台湾に和牛の輸入解禁を求める際に、
「日本も関税を引き下げている」と訴えられるからだ。
日本から海外への牛肉輸出額は平成24年に
過去最高の51億円に達した。
九州の畜産農家はさらなる輸出拡大をもくろんでいる。
資源大国・豪州は、2007年に誕生した労働党政権時代、
「親・中国」の姿勢を明確にしていた。
これに対し、
昨年9月に首相に就任した自由党のアボット氏は、
日本との関係について
「世界史の中で最も互いに恩恵を受けてきた二国間関係の1つ」と
親日の姿勢を示してきた。
EPAにより、
日豪関係が強固となることは、
年間130万台を生産する九州の自動車産業や、
石炭・鉄鉱石の安定的な輸入にも好影響を
及ぼすのは間違いない。
•
佐賀牛カルビ弁当が優勝
九州駅弁グランプリ
JR九州が7日開いた「第10回九州駅弁グランプリ」の決勝大会で、武雄温泉駅(佐賀県武雄市)の「佐賀牛 極上カルビ焼肉弁当」(1575円)が優勝した。販売するカイロ堂(武雄市)の池田淳子マネジャーは「夢のようにうれしい。旅の楽しみに貢献したい」と喜びを語った。
この弁当は、1頭の牛から約70食分しか取れない希少部位を使用。カルビは肉厚で、冷めても軟らかい食感を楽しめるのが売りだ。
2位は大分駅(大分市)のすし詰め合わせ「豊後水道味めぐり」(600円)。3位は鹿児島中央駅(鹿児島市)の「桜島灰干し弁当」(680円)、博多駅(福岡市)の「上等いか三昧」(1200円)が並んだ。
九州の駅弁50種類の中から地区予選で各県1〜3種類を選び、決勝は13種類で争った。一般客約550人と審査員約30人が投票した。
九州はなぜ農業王国となり得たか? 環境に適応、肉牛・野菜へ転換
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉やコメの減反見直しなど、日本の農業は歴史的な転換期を迎えている。農業産出額が全国の2割に達する九州は、収益性の高い野菜や肉牛の産出額が過去30年で大幅に増加し、農業の衰退を食い止めてきた。なぜ「農業王国」となり得たのか。TPP加盟後の農業の勝機は九州にある−。(津田大資)
1兆6126億円。九州7県の平成22年産農業産出額は、全国産出額(8兆2551億円)の2割を占めた。産出額は農業の“売上高”にあたり、22年産の数字は域内最大の企業、九州電力の売上高に匹敵する。
人口1310万人の九州の農業産出額は、関東農政局管内の1兆9221億円に次いで全国2位だ。関東農政局が1都8県計4479万人を抱えることを考えれば、九州農業の存在感の強さがわかる。
九州農業の強烈な存在感は、産業としての競争力の高さが裏付けとなっている。
昭和55年から平成22年までの30年間で、農業産出額は、全国で20%も減少した。これに対し、九州の低下幅はわずか5%。足腰の強靱(きょうじん)さが伺える。
一方、耕地面積が30アール以上または年間の農産物販売額が50万円以上の「販売農家数」は、全国・九州とも30年でほぼ半減した。
この結果、九州の販売農家戸数当たりの産出額は、677万円と、全国平均506万円を大きく上回った。離農した人々が多い半面、農業の生産性が向上し、1戸当たりの収入は増加したといえる。
環境の変化に適応し、生産性を高める。これがキーワードだった。九州の農家は市場ニーズに即し、商品ラインアップを変化させてきた。
30年前、九州の農業産出額のトップは米(3640億円)だった。
だが現在、1位は野菜(4222億円)だ。鶏(2060億円)、肉用牛(1991億円)が続き、米は1740億円に過ぎない。30年前と比較し、野菜は1.7倍、肉用牛40%増と伸びが目立つ。
米余りを背景に昭和45年、生産調整(減反)が始まった。九州の農家は「漫然と米を作る時代は終わった」と、いち早く対応した。消費量が多く収益性も高い野菜や果実へ転換を進めた。
この結果、イチゴ「博多あまおう」やイチジク「博多蓬莱」のほか「はちべえトマト」(熊本)など、高品質で全国に通用するブランド化に成功した野菜・果実が次々と登場した。
福岡県豊前市の農業、松本克己さん(63)は「減反の補助金もいずれはなくなり、米価が上がる見込みはないと思っていたから、収益性の高いレタスやトウモロコシ、茶の生産に転換してきた。今後も、この流れは続くだろう」と語った。
一方、もともと米作がそれほど盛んではなかった南部九州は、和牛に注力した。
鹿児島や宮崎の和牛は高級食材として、国内市場を席巻するまでに育った。さらに、販路を拡大し、アジアの富裕層をターゲットにした輸出もじわりと拡大している。
両県は芋焼酎の販売増と連動し、原料のサツマイモ栽培も増加した。
ブランド化と6次産業化を進めた結果、宮崎、鹿児島両県の農業産出額は、農業冬の時代にあって8〜9%増加した。「勝つ農業」を先駆けて実践したといえる。
民間シンクタンク、九州経済調査協会の南伸太郎研究主査は「九州の農産物は国内他地域への移出が大きく、自動車や半導体など九州の得意分野と同様に『稼ぐ産業』の1つ。今後、就農者を増やし、作物の生産管理を徹底した上で大規模化を図れば、さらなる利益向上が期待できる」と九州農業の潜在能力を評価する。
離農や高齢化など課題が山積するとはいえ、九州のように適応力と競争力をもつ農業は、さらに「勝ち組」となる可能性を秘めている。
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