「いらっしゃい。」
還暦に行くかいかないかの
人の良さそうないかにも大衆居酒屋の親父さん風の男性がニコニコとリリコを迎えました。
そんな下町の気さくな
オヤジさんに似つかわしくないようななんとなく可愛らしい店構えそしてさらに似つかわしくないような酔っ払いの漁師さんらしきオッちゃん達がまだ午前中だというのに、リリコに、よぉ、べっぴんさん可愛い一杯飲みなと。ガヤガヤと常連のお客さんが既に何人かいるようで。「はじめまして。アッシは桑田千範囲、チハルと言います。海の家クワタにようこそ。」というと、ヴィーナスに似たメガネをかけた青い小さな宇宙人がフワッと飛びながらビールを持ってきて。「これは、アチラのオッちゃん達からのお差し入れよ。オーガストさんは、ウーロン茶ね。アタシはミリオンです。はじめまして。」
どうやらオーガストさんとはさすがに顔見知りのようで。
お客の朝っぱらから呑んだくれている
地元の常連さん達は、知らない人が海の家クワタに来ると喜んで飲めやーと歓迎のウェルカムドリンクを一杯奢るのが好きらしい。特に若い女の子は大歓迎で。「こんにちは、はじめまして。都王新聞の叶リリコと申します。朝からずいぶんとにぎやかなんですね。。」港町らしき活気に包まれていました。
「まぁねどこにでも朝から病気でもないのに病院へ行って喋りまくる年寄りも世の中いるんだろうけどさ。近所の年寄りは病院じゃなくてここに来るし。
ここは、朝から喫茶店というか、定食やってるし。もうリーマン達がサッサと朝定食を食べて仕事に行ったよ。漁師連中も早朝の仕事が終わるともう午前中から飲みに来るし。」「そうだよー。もう喫茶店でモーニングするとか、習慣で当たり前になってる人いるだろ。それがなきゃ1日が始まらないとか落ち着かないってヤツさ。カンパイ」カワウソの漁師らしき集団のオッちゃんが言う
海の家らしく大きな鉄板や網焼きがあり。。
ガヤガヤしたざわめきに。。。
ミリちゃんおしぼりだの、熱燗追加だの、取り皿ちょうだいだのと四方八方からお客の声が聞こえてくるとミリオンは、8本ある手か足かを同時に何本かシュルッと伸ばしてミネラルウォーターを汲んだりおしぼりを渡したりオーダーの伝票を書いたり空いたお皿を下げたり新しい取り皿を渡したり。。。ジョッキのビールすら上手くそそいでオーダー主のテーブルに置いたようです。
四方八方からオーダーや用事を言いつけられたかと思った瞬間ミリオンはサッと同時に用事を済ませてしまいました。
「えー、ええっち、ちょっと何人かのお客さんの言うことを同時にって。。。」あまりのミリオンの手際良さにリリコがびっくりすると「まぁ、ワタシ手がこの通りに8本だから。同時に済ませる用時は限られたもんだけど、それでも聖徳太子以上には何人かの言う事を同時に聞き分ける事ができるのよ。20人ぐらいなら多分大丈夫」ミリオンがさも当たり前のようにして笑う
「ミリはね、レジがなくても来たお客さんのお勘定も全部寸分狂いなくピシッと頭に入ってるからね。まいったねー、もうさ。」桑田の大将も笑いました。
という事で、海辺の見えるオープンテラスにリリコは、アシスタントのオーガストさんだと言って桑田の大将とミリオンと向かい合わせに座りました。
「どうぞ、常連さん達からですから。今日は取材で東京からお客様がいらしたって言うと常連さんがご馳走してくれるって張り切ってますからね。飲み物無くなったら言ってくださいね。お料理、食べれないものや好きじゃないものやアレルギーありますか私は桑田の大将の妻の有希子です。」小柄な五十代ぐらいのおっとりした感じの女性が枝豆と長芋ステーキと生シラスやらじゃこの卵焼きを持ってきました。
「ねーちゃん達、それ食べてよ取れたてなんだからさ。」すっかりできあがっている年配のカワウソが手を挙げて言う。
「あ、ジャコ漁ね。けっこうこの近くたくさんジャコが獲れるらしいのよ。」ミリオンが言う。リリコは、「えっ、でもコチラが取材を頼んどいてお仕掛けていろいろご馳走になっては申し訳ないし。。。アレルギーや好き嫌いはないんですが。。」しかしながら、桑田の大将が、「ああ、それなら気にしなくても。ココいらの常連さんは、遊んでて金が入ってくる人達ばかりだし。あの八王子の御隠居ももう息子さんに譲ってブラブラしてるからね。都王新聞さんだろ、取材記事はいい広告になるしありがたいよ。」「あ、あのありがとうございます、皆さま本当にごちそう様です。八王子って、網元八王子グループですか。」リリコは、立ち上がって
カワウソのお爺さん達はじめ常連さん達に向かってペコリと頭を下げました。プルメリア島の八王子というカワウソの漁師網元があるとは聞いたことがある。いいってことよ~たんと
飲めよー食えよー常連さん達がガヤガヤ騒ぎはじめました。
「そうよ。あのカワウソの爺さんが、会長さんよ。なんだかんだでウチにお金持ちの友達連れてくるんだって。」ミリオンが言うと、大将が、「こらっ、ミリ」ミリオンは、「まぁっ、いいじゃない。あっ、オープナー忘れちゃった」と言うとその場に座ったままでシュルッと手を一本伸ばして厨房のオープナーを持ってきました、かと思えば、後ろを向いたままで他の一本の手をシュルッと伸ばして、酔っ払ってお手洗いから戻ってきてコケそうになったお客さんの身体をとっさに支えます。「えーう、う、後ろを向いて。。というか後ろに目がついてるみたい。。」リリコが驚愕すると涼しげな顔でミリオンはさも当たり前のごとく「ああ、誰かがつまずきそうな感じなのはこうやって後ろを向いててもだいたいどの場所でこの音人がつまずきそうって。。タイミングもそんなの簡単にわかるわよ。アタシは聖徳太子以上に地獄耳だしね。」そういうとオープナーでビール瓶の栓抜きをし。リリコと大将のコップにビールを注ぎながら「ごめんなさいね、あの常連さん達。。爺さんだからさ、ごちそうに瓶ビールをお勧めしてくるのよね。若い人だし、暑いところだから、ジョッキが良かったかしら。。。」「あ、いえ、全然っ。。私ビールは選べるなら瓶ビールの方がいいぐらいだし。。。そ、それにしても。。凄い。。素敵な。能力ですよね。。。」同時にいくつもの事をこなすミリオンの手際良さにはさきほどからずっとリリコがあっけに取られました。「そうかしら。。。」「ミリオンさんは。。プルメリアジーニアス義塾の先生でしょう。。」オーガストさんが言います。
ミリオンはプルメリアジーニアス義塾というスーパーエリート進学塾の数学の先生もしています。「ええ。今日は夜に3時間。」「ミリオンはあっしに全然似ないで数字にめっぽう強いから。このへんの商店街の会計帳簿も税理士代わりにアルバイトで引き受けたりするし。」桑田の大将がカンパイとカンパイの音頭を取りながら言いました。「す、すごい。。。アタシは理数系全然ダメだから尊敬します。」リリコが恐れ多いと言った感じでビールをグッと飲むとミリオンは、すぐに「いい飲みっぷり」とリリコの飲み干したグラスにすぐにビールをそそいで言いました。「そんな。。働いて。。。お仕事好きなんですか。。。あの、飲食店と塾講師では全然違ってる職種ですが。。」
リリコは不思議そうにミリオンを見つめるプルメリアジーニアス義塾。。。有名大学進学率の高いスーパーエリート進学塾で。。。「まぁ。。なんていうか、私は数式を見るとパッと頭に電卓を押したみたいに答えが出てきてあたりまえというか。。。それが普通だし。。。なんて事ないんだもん。ここに来たお客さんのオーダーメニューも品名も品数も覚えてるし品名だけで数字に変換してお会計はすぐ出るし飲食した品名だけ読み上げてくれたらお勘定すぐ出せるし。だから、赤ちゃんの頃からこの店のお手伝いよ。」ミリオンが笑う。「えー、赤ちゃんの頃から。。」「そうなんすよねー。最初はミリオンを子守のつもりで店に連れてきて。子守とお披露目ね。お客さん達子ども好きだし。赤ちゃんだから面倒見なきゃってアッシも妻のユッコもだいたい店にいるし。そしたらアンタ、アッシらが忙しいのがわかって、シュルッと四方八方に手を伸ばして掃除したりおしぼりを用意したり、すぐに働きはじめて。。。もう、アッシらもお客さんらも呆然唖然ポカーンとするばかりで。」桑田の大将がビールを飲み干すとミリオンがさっさとそそぐ。「働き過ぎじゃないんですか。」オーガストさんがいうけれどミリオンはまたまた涼しい顔で「あの、これがこの店と塾が仕事って言うなら人生最高の遊びは仕事でしょ?ヴィーナスやベルモにも聞いてごらんなさいよ。あの人達も口を揃えて人生最高の遊びは仕事って言うでしょうね。遊んでてお金が入ってくるのよ?美味しいわよ。」「えー」リリコもオーガストさんも驚きしかしながら、桑田の大将が、「まぁ、ミリは赤ちゃんの頃からウチの長男の孫の世話してたからね。このすぐ近くの旅館の海の灯りを長男に譲ってるんだけど。同居じゃないけどウチのすぐ近くに長男夫婦と小学生の孫が二人いるんだけど。上の男の子や下の女の子、自分よりも歳上だっていうのにミリオンが躾たり、世話したり。。びっくりしたね。」
ミリオンが、あぜんとしているリリコやオーガストさんに「あっ、そうそう。ヴィーナスやベルモがワタシの悪口でも言ってなかった私は血が緑か青の冷血動物だとか、ロボットみたいで機械的だとか」ニヤッと笑います
そうそう、ミリオンは、天才美術家ヴィーナスのみつごのきょうだいという事がわかりベルモともどもマスコミである程度は名が知られてはいるものの。。超進学塾のプルメリアジーニアス義塾の数学講師という事も、科学的な性格で冷静だともイメージが持たれていて。。。ついでに、同じきょうだいのベルモが僧侶というのをあまりよく思ってはいない宗教は大嫌いと言われていて。。。
ちょっと冷たいタイプなのかなぁと正直思っていましたが、聡明でかなり要領はいいけど実際にはよく喋るし礼儀正しくよく働くしかなり協調性もあるんだなぁと。。それにしてもそうは言っても。。タイプ的に下町の酒場で働くようなタイプに全然見えないんだけど。。。
リリコもオーガストさんもミリオンになんと言っていいのか戸惑っていると、
「いいのよ。それぐらいわかってるわ。世間ではアタシもあまり可愛げがない理屈っぽい冷酷なイメージ持たれてるんだから。」と言いながらミリオンはそれがなかなかおもしろいらしい。リリコは、恐る恐るも、「あの。。。。えっと、昨日青の洞窟のほとりでヴィーナスさん、飲み物を間違えて酔っ払ってたからだけど。。。明日はミリオンさんのご実家で取材をしますからってご挨拶したら。。。その、ミリオンさんは、美術家だの僧侶だののヴィーナスさんやベルモさんをヤクザだと思ってるんじゃないか、ってあの酔っ払ってたからで。。。」
モゴモゴなんとなく言いにくそうにリリコが言うとプププっアハハハハハハミリオンが椅子から転げ落ちてお腹を抱えて大笑いしました。「ミリ、もう。ミリすけ。」大将がミリオンを起こして椅子に座らせましたがミリオンが、「アハハそうね、まぁ、アタシはあんまりあってないようなものとか、十人十色人それぞれだから正解はないみたいなもんうまいこと言うけどあんまり信用してないって言うかなぁ。だから、数学とかビシッと答えはこれだからってはっきりと証明できるものが好きでね。なんだか、美術とかよくわかんないし。まぁ、綺麗なものは好きなんだけどさー。でもさ、宗教とか死んでもないくせに前世がとかヤッバイし。アホかと思うしね。なんとでも言えるでしょ、そんな事さ。」ミリオンが言うと「これっミリっ」大将が怒るミリオンはペロッと舌を出して「まぁでも、この頃はそういうグレーって言うとよくないけどそういう仕事も世の中には必要って事がだんだんとわかってきたんだけどね。数字が好きだからアタシも株式投資とか、塾講師で全然やってけるけど、このお店で仕事してるのにはわけがあるのよね。」「投資もやってるんですか。。。」リリコが言うと、「ええ。お金には働いてもらわないと。元々私の実の父親の家系が投資家の家系みたいだし。母親の葉月も結構投資で稼いでるでしょ。私は拾われた子で親を知らなかったけど血筋というのかしらね。だけど、トレーダーとしては数字が相手だったり、それからね、ジーニアス義塾なんだけどさ。エリートの家系の勉強ばっかりして当たり前の子ども達ばっかりなのよね。それが悪いとは言わないけれどさ。それはそれでこの社会にはエリートがいなきゃいけないけど、子どもだてらに受験戦争の戦う戦士みたいな数字やらできて当たり前みたいな人ばっかり毎日毎日相手にしている人間関係ならなんか感覚がズレたり狂ってくるのよね、多分。私は美術家の金星人ヴィーナスが地球にきてマスコミに出るようになって、そっくりだからもしかして。。。ミリオンやベルモもおんなじ金星人なんじゃないかって事で、自分がヴィーナスやベルモとみつごで金星人って言うのがわかったんだけど、それまではなんだか宇宙人らしい、ってよくわからないどっかの星の得体の知れない謎の宇宙人として拾われて桑田家で育ったんだけど。。。」
ミリオンが言うには、やはり金星人らしく性質で遊びや楽しい事に目がないし。人付き合いや人慣れして人なつこい性質なので、酔っ払いのオッちゃんや観光客相手のこの海の家の仕事もなかなか気がまぎれるようで。ミリオンの近所の親友や幼なじみもハナタレ小僧連中で勉強嫌い。
ミリオンは優秀だけど、そもそもガリ勉で努力して優秀なのではなく勉強しなくてももともとできるタイプだし、仕事で勉強を教えるけど教えるのは好きだけどわざわざやらなくてもできるので勉強はしないし。
ミリオンの近所の幼なじみの友達は
とてもじゃないけど、ミリオンが勤務しているプルメリアジーニアス義塾に入塾するような子ども達ではないのだ。ガリ勉でもなく遊ぶのが好きだからミリオンと仲がいい。
それに、もともと自分は割り切り冷たいところがあると自覚しているからこそ、初心忘れるべからずで、できる人勉強一筋の子ども達ばかりを相手にするではなく酔っ払ったり下町の気さくな人達ともお付き合いすると。これもご縁だしちょうど偶然にも日本にやってきて、多分私ら金星人は、協調性が高いしg/a2.png">綺麗なものが好きでサービス精神旺盛でおもてなしや世話好きなので、日本に住むにはぴったりなんじゃないかな。と笑っている。
ミリオンの実に
かゆいところに手が届くような的確な働きと気遣い突き抜けるように快活な聡明さ。
それに。。世間ではの、美術家ヴィーナスのみつごのきょうだいとしてのクールでちょっと冷血というイメージが。。今日ここでミリオンに会って全然違うなぁ。たしかにきっちりしてるけど、お喋りでよく笑うし明るいし社交的だし。。と、リリコは感激しました。
実家の
新聞記者のアルバイトでいろいろな有名人に会う事はあったんだけど、これほどイメージと本人のギャップが凄い人もおもしろい。
ミリオンは、「あっ、そろそろ牡蠣が焼け上がる時間だわ。」というと、またシュルッと長々と2本手を伸ばして
「さ、どうぞ。熱いうちにね。」と、サッと牡蠣を運びました。
2021年12月31日
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