約
20年ぐらい前。。。東京。。。
夜明け未明
「ちょっと、ちょっと、そこのにいさん。。。」
複数いる愛人のうちの1人の家から
朝帰りの吾朗太。。。「ハァ」吾朗太が振り返ると、雑居ビルの片隅に。。何やら怪しげな黒いフードを被った声からして恐らくは老婆が小さなテーブルに置かれた水晶玉を前にしてちょこんと座っている。。。あっ。。。いかにもドラマや映画に出てくる疲れたビジネスマン相手に説教しては
小銭を稼ぐ占いBBAかよ。。。
馬鹿か
吾朗太は、占いやスピリチュアルや宗教など全く生理的に受け付けず蛇蝎の如く嫌悪した。ばっかじゃなかろうか。と、思う反面女の所へ行き懐がホクホクしている。いわゆる上機嫌で。ちょっと試しにこのBBAをからかってやろうかとも。。。女殺しの俺だしなぁ。。
と、思うと、「アンタ。。また。。随分とえらい。。。どんだけ女を泣かせて。。あー」BBAが言う。。
でも、吾朗太は、自分の色男ぶりに自信がありわざわざ占うまでもなく
今までの俺の過去なんか、そんなの見りゃわかる事だ。
馬鹿馬鹿しいな。本当に。
吾朗太は昔っから異性に強い事なんか自信があった。。「バーさん、悪いけどさ、俺占いなんか信じないからな。そーやって勝手に声をかけて絡むのかよ。あんたやり方がチンピラだぜ。」吾朗太が毒付くと、「いんや。。。にいさん、ワシは商売で言ってるんじゃない。素直にきけ、あんた、どれだけの女に因果を背負ってるか。。。というか。。あんたんちだよ。代々の。。あんたの家系。あんたをはじめ相当に女に怨まれてるね、どうだい、あんた、男きょうだいしかいないだろ。あんた、どう考えても長男じゃないね。。」
BBAに凄まれて吾朗太は。。。
「は。。。」
そうだ。。。死んだオヤジが言っていた。うちは、女が育たない。ヤクザで女を騙したり売ったり喰い物にしてきたからだ。。。本妻の要も二度ぐらい女の子を流産したらしいし、吾朗太の母親の愛人のなつめは、三太夫と吾朗太の男の子しか産まなかった。
その他、身内も男しか産まれず剣崎家から、婚家へ婿養子に行った男性は、女の子が産まれてもせいぜいハタチかそれぐらいで、夭折しているらしい。
ただ、兄の三太夫みたいに、本人が結婚前からよその家に養子に行った人にはそんな災いは降りかかって来ないらしい。。。ふと、そんな事を思い出して。。吾朗太は黙り込んだが、でも、自分はせいぜいひとりっ子に見える事はあるかもしれないが、兄弟がいるなら誰が
どう見たって長男には見えないだろう。
剣崎家の呪いみたいに死んだオヤジから女が育たないと聞いたけど。。。俺は迷信だと思う。
しかし、その黒マントは、「アンタね。。。女で遊ぶのは仕方ない。。女の方もアンタを求めて美味しい思いをしてるからね。。。だけど、ほどほどにしときな。女は怖いよ。そのうちに返り討ちにあうよ。ま、女と遊ぶなんざ、あんたにとったらていのいい小遣い稼ぎだろうけどね。。。」
ハァ。。あらかたこのBBAは、若い頃水商売か風俗にでも男に堕とされて、今や女を売れなくなってここでくすぶって女好きしそうな男を捕まえてはくだをまいてるのか。。吾朗太は、ボケているのかこのBBAは。。
それで、ホストやジゴロや素人でも女ウケする男を捕まえては逆恨み事をするのだろう。それで、悪い事が起きるぞーみたいに言って高額な祈祷をすれば助かるとか、変な壺やら印鑑やら売りつけるのか。。?落ちぶれたもんだ。。
しかしながら、ふと、剣崎家の呪いが頭によぎった。。確かに俺は迷信だと思うが、オヤジもうちはヤクザだし跡取りの男さえいればいいと強がりはするものの。。。
よくわからんが、仏壇に流産したという水子かなんかのなんとか、みたいなのをきちんと祀ってある。。そう、ガキの頃にオヤジにキモいみたいに言ったら、いつもは俺に甘々デレデレなオヤジにぶん殴られそうに激怒された。。。
馬鹿タレお前の産まれて来れなかった姉ちゃん達だ
実際には
殴られなかったけど本気で怖かったオヤジは、本妻の息子の上の2人の長男次男はよくぶん殴っていた。アイツらも本妻のBBAも嫌いなんでザマァと思ったけど、
で、もう1人の本妻の息子の四朗は、大人しい奴でコイツは本妻要の息子の癖にかなりいい奴だ。俺や三太夫の兄貴とも仲はいい。オヤジに殴られる様な事は一切しないし。。。
吾朗太が黙っていると、その黒マントの老婆が続ける。。。
「アンタね。。。まぁ、アンタに関わる女は色ボケしてるから自業自得だ。。。だけど、あんた子どもは作るな。。。あんたの子は、可哀想に、女の子は業を背負うよ。アンタの家系の流れでね、あんた、悪さして女の籍に入ってるだろう。」
ゾクッ確かに俺は。。。借金を踏み倒し逃げ、惚れてきた便利な女の籍に入って剣崎から神野になった。。。だが、俺みたいなヤンチャして行き場に詰まる奴が悪さして名字を変えるなんてじゅうぶんにありふれた事だろ。。。珍しくねーよ。
家系のことをズバズバ言われて少しゾクッとしたが、「うるせ〜な。俺はガキなんて嫌いだしガキなんか持たねーよ。」
キモ。。。実家の事で思い当たるフシが。。。だけどそんなもんは偶然だっ馬鹿野郎糞婆
そうだコイツは。。。色男にボケて散々痛い目にあった元色ボケだどうせ。。。チッ
吾朗太は、天に向かって唾を吐きました。。。
時を同じくして、20年ぐらい前の神野緋夏、東京。神田。
早く逃げなきゃ。。。俊の事がバレたら。。。
吾朗太は今日も帰っては来ない。。。どうせ、何人かいる女の家を転々としては小遣いを貰っているんだから。
職場の
新宿からアパートの神田駅付近までほぼ毎日フラフラになって歩く帰りは終電が無くなるし、送りはお金を取られるし。。タクシーなんてもってのほか。稼いだお金はフラッと帰ってくる吾朗太に巻き上げられるのに
最低限の化粧や衣装代、キャバ嬢の仕事に必要な経費を除いては、全て吾朗太に巻き上げられる。吾朗太が
いつ帰ってくるかわからないので、緋夏はビクビクしながらも、伝書鳩の様に仕事が終わったら
トボトボ。。。新宿から神田まで歩いて帰る。
つい先日は、記憶を無くした男性を助けて、うちの店のボーイに紹介したのだ。同じくハリネズミで、吾朗太とはまた違うタイプのイケメンで。。。
彼は俊という名前で、緋夏と同い年である事以外はなんの覚えもないようで。。。
新宿の寮に入ったのだけど、あれこれと彼の為に隙間時間に世話を焼いたり
彼も世話をした私に恩があるのか、親しくなり俊とは吾朗太やお店に内緒で付き合っている。。。
俊は、私が既婚者である事を知っているし吾朗太がとんでもないチンピラで反社会である事も。。。
東京邪神軍とかいう反社会のグループに入っているらしい。。。
緋夏は、母親の喜美の結婚で2歳の時に渋谷の神野家に入ったのだけれど。。。
実は、連れ子ではなく父親神野ジローの実の娘という事で婚外子から、母親の喜美が正式にジローと結婚して神野家の次女になった。
後から聞いたのだけれど神野家の先妻の峰が、離婚して次女の舞だけを名古屋の実家に連れ帰ったらしい。
舞は、
緋夏の異母妹になる。。。
環姉さんという7歳歳上の先妻との長女は姑志乃のお気に入りで神野家に残されたらしい。
この環姉さんは、優しくてとにかく賢いし、後妻の喜美にも異母妹の緋夏にも優しいけれど。。。なんだか、姉さんを見てるととてもじゃないけどコンプレックスが募るばかりで。。。
姑の志乃は、キツい性格で大人しい後妻の喜美をイビリ女腹だと罵倒して。。。
だけど、喜美は、念願の元恋人のジローと結婚できただけでもありがたいので耐える事にした。もともと、ジローと喜美は、小さい頃から知った仲で、ある程度の歳になり付き合ったのだけれど、天涯孤独で施設育ちの喜美なんか
うちの神野家に釣り合わないと、姑の志乃の大反対で別れさせられて
名古屋の大手企業花咲グループの親族の令嬢の峰とジローは結婚する事になったのだけれど。。。
神野家より格上の花咲家のこれまた男系家系の珍しく生まれた女の子で、紅一点のお姫様育ちの峰に、志乃はコテンパンにやられた様だ
ジローが愛人の喜美と婚外子の緋夏発覚で、ジローと峰は離婚する。。。
ところが。。。てっきり怒鳴られ殴られて慰謝料を取られるかと思っていた先妻の峰から後妻の喜美に連絡があり、
「志乃は、精神的に叩いておいたから。あなた、身分がどうだのバカバカしい事を言われてジローと結婚を反対されたんですってまぁ、もうそんな事言わないはずよ。あの女は私でそういうの懲りたでしょうからね。貴方の恋人を奪って悪かったわ。でも、貴方は優しそうだし、私でジローの再婚は、何より人柄を重視しなきゃって事に気づくわよ。あんな馬鹿女でもね。」
後妻の喜美は、ぽかーんとした。。写真で見る明らかに綺麗だけど相当気の強い峰が。。。そして、はっ
じんわりと胸が熱くなります。
峰は、神野家に置いていった長女の環はいい子だから、貴方たちの味方になってくれるだろうし。あと、私も言われたけど貴方の娘さんのこと、
志乃から女腹だの男は産めないのかだのギャンギャン責めてくるだろうけど、
ジローが女種だからネェ。男か女かは男性で決まるみたいなんだけどねぇ。って言ってやったけどね。ホントの事だし。。。それすらわかんないのよ。今時馬鹿だとしか言いようがないわ。
緋夏は、先妻の峰の話を母親の喜美から聞きました。
姑の
志乃は、ジローに似た長女の環には優しいけど後妻の娘の緋夏にはきつくあたり、環は緋夏をかばうものの、超優秀な環と自分を比較してしまってますます惨めになるし。
緋夏は、登校拒否になったり思春期になると家出したりしました。悪いグループと付き合って、年齢をごまかしてキャバ嬢として働いて。。。
母親の喜美や異母姉の環が止めるのも聞かずに。。。高校へは行かずに吾朗太と知り合って同棲します。。。
吾朗太はひとつ歳下のチンピラのゴロツキで、女がたくさんいました。気に入らないと殴る蹴る、暴力を振るったり、稼ぎは女性から貢いで貰っているようで。。。年齢をごまかしてホストクラブで働いたり
女性に
借金を支払わせたり、18歳になり結婚出来る様になると借金を踏み倒す為なのか、緋夏の名字の神野として緋夏と入籍しました。
ある日、緋夏が子どもが欲しいというと、吾朗太に思いっきりぶん殴られました。
「どうして。。。私たちは夫婦よ子どもの面倒なら私が見るし、私がもっと働くのに。。。。」緋夏が泣きわめくと、吾朗太は、「てめー、俺はガキなんか大っ嫌いだっつーの」
「貴方には迷惑かけないし、私が一人で育てるから。。。」「ばかやろうテメー、ガキが女で俺みたいな奴に引っかかったらどうするってんだよ。お前は自分の事しか考えてねーのかよ」
えっ。。。おかしいかもしれないけど、その言葉に、緋夏は、なんとなく思いやりを感じました。
あれっ。。。
自分の事しか考えてないのか、とか。自分みたいな男性に娘が惚れたらどうするんだ
「そんな。。。娘が産まれて貴方みたいな男性に惚れてもそれはそれで娘の人生だわ。。。」
吾朗太は相当な女性慣れで、他の複数の女性達も避妊しているらしい。。。
だけど、
吾朗太は、お酒に弱い。かなり弱い。。唯一カクテルが飲めるけど、酩酊して記憶を無くすぐらい弱い。。。ある程度して、眠れば酒を飲んだ事すら忘れるし。。。
どうしても子どもが欲しかった緋夏は、
甘いものに目がない吾朗太に、
ジュースと嘘をつきカクテルを飲ませて。。。。。
普通はカクテルに薬を入れたり騙して飲ませるのは悪どい男のやる事だけど。。。
だけどー。。。私たちは夫婦よ。。なんの罪も無いわ。。。
子どもができるかと。。。
何度も何度も、
そんなこんなのうちに。。。俊と知り合い俊とも付き合って。。。
吾朗太はしょっちゅうフラフラ家に帰らない事も多いので
素知らぬ顔をして。。。
ある日。。。
そう、あれは。。。吾朗太が逮捕され収監される日に近く、そして私と俊が吾朗太が収監されている間にプルメリア島へ逃亡する日にも近い日だった。。。
吾朗太は、久しぶりに家に帰ってきてすっかりジュースだと信じ込んでいるカクテルをあおる。。。
カクテルの風当たりが良かったのか、
吾朗太は奇妙な話をしはじめた。
剣崎家、吾朗太の実家はできにくいしできても女の子が育たないし流産か死産か幼児で死ぬ。。。
俺みたいに女の籍に入ったり婿養子の奴のガキの女も若いうち、ハタチぐらいで死ぬ。俺の兄貴みたいに本人が結婚する前に里親先に養子になれば関係ない。。。
ヤクザな家で女を泣かせたバチらしいとよ。。。
バカバカしい。。。
俺はそんなバケモノみたいなアホな話は信じてないが。。。
だけどなんか気持ち悪い。。。
だから、ガキはいらん。
お酒にめっぽう弱くて酔って無ければ吾朗太はこんな発言は一切しないだろう。。。
怪談だの占いだのスピリチュアルだの、そういう話が吾朗太は生理的に嫌いだった。
不思議で貴重な話し。
えっ。。。緋夏はゾクッとしました。。。
あれから。。。20年ぐらい経った。。。
そう。。。私はどうしても。。。
あの話が、バカバカしいながらにも引っかかって。。。
子どもがどうぞ、男の子であります様に、とか。俊の子どもでありますように、とか。
祈るばかりだけれど。。。
産まれてきた子は女の子であって。。。
私は怖くなり吾朗太の子どもだったらどうしようと。
しかしながら、久しぶりに再開した純には刺されそうになって。。というのも仕方ないわ。
私が息子のコウを轢き逃げした鷹さんを、一卵性双生児の峰さんと勘違いして刺そうとして
峰さんを
かばった環姉さんを刺してしまったのだから。。。
あの時に完全に純とは親子の縁が切れたあたりまえよ。。。
人を刺しそうになるなんて、絶対吾朗太の子どもだわとは、言い切れない。
だって、大事に育てられた母親を目の前で刺されたのだから。無意識に誰でもその場で刺し返したりそれでなくとも、刺した犯人を殴りつけるぐらいはおかしくはない。
あの日再開した
純は、うちの母親の喜美や私には似ているけど、、、
吾朗太にも俊にも似てないし。。。
だけど。。。もしも純が吾朗太の娘なら。。。
緋夏のなかにずっと。。。ドス黒い澱のようなものがあの日以来広がっては深くなっていき。。。消える事なくまるで悪性の癌のようにどこか、心のしこりの様に重くのしかかる。。。
2021年07月06日
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