初音ミクと学ぶネット著作権入門編
いまさらながらに驚いた。ネットアイドル「初音ミク」のことである。
「初音ミクって音楽作製ソフトなのに、固有の声とキャラクターを持っている」くらいの認識はあったのだが、その盛り上がりっぷりの認識は薄かった。
どこで盛り上がっているかって? 「ニコニコ動画」などの動画投稿サイトである。
「初音ミク」とは、楽器メーカーのヤマハ株式会社の持つ特殊な音声合成技術を使って、北海道札幌市の「クリプトン・フューチャー・メディア」が製作した音楽作製ソフトである。音楽と歌詞を入力すると初音ミクが歌ってくれるという趣向だ。
ベースになるミクの声は人気声優の藤田咲さんが担当。さらによりリアリティを持たせるため、女性キャラクターを設定し「バーチャルアイドル初音ミク」が誕生したというわけ。
2007年8月の発売当初から、同ソフトを使って作られた楽曲が動画投稿サイトに続々と投稿され、またたく間に知名度が上がった。もともと音楽の専門家向けのつもりだったが、一般ユーザーの購入が増え、1000本売れればヒットという同分野では異例の約4万本を売り上げている。
ニコニコ動画などには、とりあえず使ってみた初心者レベルからプロ並の作品まで、本当にいろんな「初音ミク」がアップロードされている。曲も自作のオリジナルから、最新のヒット曲や定番のアニメソングまであって、一日中聞き続けても尽きないくらい。
でもちょっと待てよ。オリジナル曲ならわかるが、既存曲には歌詞には著作権があるはず。誰もが見ることができる動画投稿サイトに勝手にアップしたらダメなような気がするんだけど。その辺の事情をネット・エンターテインメント関係の法律に詳しい弁護士の鎌田真理雄さんに話を聞いてみた。
「動画投稿サイトのニコニコ動画であればエンドユーザーが著作権のことを考える必要は原則としてありません。自分で作ったオリジナル曲ならそもそも著作権は本人にあるから問題ないし、既存の曲でも日本の楽曲に限っていえば、初音ミクに歌わせてアップすることができるんですよ。ただし例外もありますけど」
ニコニコ動画であれば、というのはどういうことですか?
「ニコニコ動画の場合、運営するニワンゴが著作権管理事業者である社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)やイーライセンスと包括契約を結んでいます。包括契約というのは、予め包括的に楽曲の使用許諾をして、アップされた楽曲の数や再生数に関わらず、ニコニコ動画を通じて発生した売上全体の一部を管理事業者に支払うというもの。つまり、ニコ動側がユーザーのかわりに著作権を払っているという形ですね。ただ、ジャパン・ライツ・クリアランスとはまだ契約を締結できていないようなので、そこは注意です。今後は他の動画投稿サイトも包括契約の方向に進むと思います」
あ、それ、テレビ局とかラジオ局もやってるやつだ。
「そうそう、テレビやラジオは著作物である楽曲を日々の放送の中で大量に使うから、一つひとつについて許諾を取り付けるのは事実上不可能でした。そこで出てきたのが包括契約なんですね。新規参入を阻害しやすいので公取から問題があると指摘されているようですが。あ、もちろん、そのテレビやラジオを録画・録音したものをニコ動にアップするのはダメですよ。番組の著作権・隣接権というのはまた別の話ですからね。初音ミクはいわば楽器ソフトですから、それを使って演奏したものであればOKということです」
そうか、どおりで大量の初音ミク作品が投稿されているわけだ。あれを観ていると自分でも挑戦してみたくなるんですよね。どうせなら目立ちたいから洋楽なんかを素材に使うのはどうだろう?
「なんでもかんでもOKというわけではありませんよ。洋楽を何かの映像と合わせる場合はJASRACとの包括契約だけでは処理できないんですよ。海外ではシンクロ権というものがありまして、音楽と映像のマッチングについて著作権者のコントロールが認められるのですが、それについてJASRACは管理していないんです」
えー、そうなんだ。ちょっとがっかり…。
これまでインターネットの世界ではかなり好き勝手に、個人がいろんなコンテンツをアップしまくってきたのだけど、このままじゃマズイよねという認識が高まっている。こっそりと少人数で楽しんでいたうちはいいけれど、今はおもしろいモノはネットであっという間に広まる時代。おもしろいモノをみんなで堂々と楽しめるようになったのは、何はともあれうれしいことだ。
初音ミクを使って洋楽をニコニコ動画などにアップする場合。シンクロ権の処理は日本のJASRACではできない。「でも真っ黒の画面に曲だけアップするなら大丈夫ですよ」(鎌田氏)。でもねぇ、やっぱりミクちゃんの姿あってこそのソフトだから…ちょっと残念なのである。
以上、R25からの抜粋記事でした。
後編や詳細は→こちら からリンクしましたのでどーぞ (^_-)-☆
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