2011年09月27日
青春をこじらせて何が悪い!!!『新釈・走れメロス』
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誰もが知っているであろう、名作・走れメロス。
その走れメロスを、森見登美彦氏が斬新な切り口で書いたのが「新釈・走れメロス」だ。
名作のストーリーはそのままに、舞台は京都に移り変わり、登場人物は青春をこじらせた大学生たち。
小説にとりつかれた末に、つばで人を倒せるようになった斎藤俊太郎、
真の友情を貫くために、親友との約束を破ろうとする芽野、
そんな芽野に桃色ブリーフを履かせようと躍起になる、大学の最高権力者「長官」、
ユーモアが溢れすぎて止まらない彼らと、5篇の名作が織りなす青春(?)小説なのだ!
もう別のモノガタリ?!
1つ1つ物語の全体を見れば、原作の土台はしっかり押さえてあるのだと分かる。
どの短編も、最後にはよく知っている終わり方だからだ。
ただ、そこに至るまでの過程が全くもって違う!
全然違う!!
例えば走れメロスは、真の友情を証明するべくあらゆる障害を乗りこえ、親友セリヌンティウスの元へ戻ったメロス。メロスは王様との約束を見事守り、最後には王様も含め三人は友達になる大団円である。
だが「新釈・走れメロス」は、そのメロスが王様と交わした約束を堂々と破り、挙句の果てに全力で逃げる暴挙を起こす!
と一見すれば、名作とはなんでもない別物になっている。
しかしこの話の最後は、王様と和解し友達になることで締められる。
原作と最後は同じ。
さらに言えば、三人の真の友情の証明も果たし終わっている。
別物のようでそうじゃない。
つまり、森見氏は「名作」の重要な部分は抽出し、世界観を再構成・再構築したものが本書「新釈・走れメロス」であることがわかると思う。
名作を知っていればより楽しめるのは間違いないし、知らなくてもその名作を読んでみようという気持ちにさせてくれるきっかけになるだろう。
短編どうしが繋がっている
一つ短編を読み終え、そして次の話へと読み進める。
すると以前に出てきた登場人物が、次の短編にも出てくるのだ。
「山月記」で登場した斎藤俊太郎なる人物が、「藪の中」の目撃者だと?!
「走れメロス」で出てきた芽野が、「百物語」の参加者だと?!
そういった具合に読めば読むほど、短編同士がくっついていき登場人物の違った一面が見られる。
全く関連性がなかった一つ一つの短編が、一個のかたまりのようなストーリーになっているから不思議なもんだ。
なにより好きなキャラに、もう一度逢えるのはニヤニヤが止まらない。
森見ワールド全開!
さっきは短編同士が、つながっていると話した。
だが森見氏は小説どうしの世界観さえも、つなげてくる人なのだ。
私が知っているのだと「四畳半神話大系(アニメ)」「夜は短し歩けよ乙女」の2つの物語さえも「大学の設定」が共通している。
例えば、
京都のある大学は「詭弁論理部」なる屁理屈をこねまわす益体のない部があったり、
「移動する炬燵」という大学生による恒例行事や、
「図書館警察」なる圧倒的な権力をほこる組織など、語りだせば多々ある大学への世界観。
そういうあれこれを、この「新釈・走れメロス」にも当てはめてきたのだ。
私は「またきたか!!!」と驚き半分、楽しさ半分だった。
兎にも角にも、この大学は面白い!
変人狂人の集まりである彼らが、湾曲した青春を堂々と恥ずかしげもなく送ってる姿は笑えてくる。
時には滑稽であったり、時にはそのまっすぐなところに心を奪われもする。
この「世界観の共通化」は森見氏のファンとっては親しみやすいし、読みやすい。
ただ森見氏の世界観や、言い回し、表現などは、初見の人には若干厳しいという意見もある。
だが!
そんな些細なこと吹っ飛ぶくらい面白いので、ぜひ読んでみて欲しい。
★★★★(4.0)
<参考>
新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)
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