2018年06月10日
英国実態指標「鉱工業生産指数・製造業生産指数」発表前後のGBPJPY反応分析(3訂版)
英国実態指標「鉱工業生産指数・製造業生産指数」の指標発表前後の反応分析には、@ 鉱工業生産指数の前月比と前年比、A 製造業生産指数の前月比・前年比、を用います。
この分析の調査範囲は、2015年1月集計分〜2018年3月集計分(同年5月発表分)の39回分です。この39回から、本指標発表前後のGBPJPY取引に役立つ特徴を見出すことが本稿テーマです。
結論から述べます。本指標の特徴は以下の通りです。
これら特徴を踏まえた取引を行うか、その日の値動きが異常なら取引を止めるかがベターな選択と考えています。少なくとも過去の傾向に反した取引方法は、長い目で見ると勝率をさげてしまいがちです。
英国実態指標「鉱工業生産指数」「製造業生産指数」は、鉱工業と製造業の企業生産高を基準年を100として指数化した経済指標です。英国国家統計局が毎月中旬に前月比・前年比を発表しています。
本指標の意義は、鉱工業生産がGDPの構成要素となっているため、その先行指標と言われています。がしかし、GDPに占める鉱工業部門の割合は20%程度しかありません。ですから、本指標がGDPの先行指標として役立つかは少し疑問があります。
ただ、本指標は他の主要国の生産関連指標よりも反応が大きい、という特徴があります。
同じ実態指標でも消費関連指標なら、米国小売売上高も大きく反応するし、豪州小売売上高もそこそこ反応します。けれども、生産関連指標でこれほど反応が大きいのは英国だけです。
その理由は次のように解釈できます。
2015年1月集計分以降の前月比推移を以下に示します。市場予想は発表直前の値をプロットし、発表結果は後に修正値が発表されても定時発表値のままをプロットしています。
後記詳述するように、本指標への反応方向への影響力は、鉱工業生産指数前月比>鉱工業生産指数前年比>製造業生産指数前月比>製造業生産指数前年比、の順となります。だから、前月比の推移に着目する訳です。
鉱工業生産指数前月比(以下、鉱工業前月比と略記)・製造業生産指数前月比(以下、製造業前月比と略記)ともに、市場予想が△1%〜+1%の範囲を超えたことは過去にたった1回しかありません。2018年1月集計分の鉱工業前月比のみです。
けれども、この範囲から発表結果が外れたことは、
鉱工業前月比が、
2015年12月集計分
2016年4月集計分
2016年10月集計分
2016年11月集計分
2016年12月集計分
2017年12月集計分
2018年1月集計分
の7回、
製造業前月比が、
2016年4月集計分
2016年11月集計分
2016年12月集計分
の3回です。
製造業前月比がこの範囲を超えたときは全て、鉱工業前月比もこの範囲を超えています。よって、鉱工業前月比に着目すればよい訳です。
そして、いつもは市場予想が△1%〜+1%の範囲で小さくしか上下動しないと安心していると、ときおり(頻度18%)大きく発表結果がその範囲を超えて大きくブレる訳です。その結果、他の先進主要国の生産関連指標よりも大きく反応するのでしょう。
がしかし、発表結果が市場予想から大きくブレても、そのことは事前把握できません。むしろ、鉱工業前月比が+1%以上もしくは△1%以下だったことは過去7回は全て、翌月に大きな反動が起きています。
ここで「反動」とは、前月発表結果が+1%以上なら当月発表結果がその値から1%以上悪化し、△1%以下なら1%以上改善することを指します。
鉱工業前月比が+1%以上もしくは△1%以下だった翌月は1%以上逆方向に振れるので、市場予想がそうなっていなければ取引のチャンスです。
参考までに、鉱工業生産指数前年比(以下、鉱工業前年比)と製造業生産指数前年比(以下、製造業前年比)の過去推移も下図に示しておきます。
過去の4本足チャートの各ローソク足平均値と、最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅の分布を下表に纏めておきます。
最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅は過去平均で21pipsです。平均を超えて跳ねたことは44%、21%は31pipsを超えて反応しています。反応が大きいため、指標発表時刻を跨いでポジションを持つことは慎重でなければいけません。
但し、2015年以降の反応平均値の推移をご覧ください。
2015年以降、年を追うごとに反応が小さくなってきています。2018年は、まだ5回しか発表が行なわれていませんが、過去3年に比べてかなり反応が小さくなっていることがわかります。
大きく反応すると思っているのに、そうならなければ利確の機会を逸しかねません。その点に注意しましょう。
分析には、事前差異(=市場予想ー前回結果)と事後差異(=発表結果ー市場予想)と実態差異(発表結果ー前回結果)を多用します。差異がプラスのとき陽線・マイナスのとき陰線と対応していれば、反応が素直だと言うことにします。
まず、過去の各差異が反応方向にどの程度影響していたのかを調べます。
事前差異は、2✕鉱工業前月比事前差異+2✕鉱工業前年比事前差異+1✕製造業前月比事前差異+1✕製造業前年比事前差異、という判別式を用いると、この判別式の解の符号と直前10-1分足の方向一致率が23%(不一致率77%)です。
市場予想が良ければ直前10-1分足は陰線、悪ければ陽線で反応しがちです。逆ではありません。
事後差異は、3✕鉱工業前月比事後差異+2✕鉱工業前年比事後差異+1✕製造業前月比事後差異、という判別式を用いると、この判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率が79%となります。
指標結果の良し悪しには素直に反応しがちです。
実態差異は、1✕鉱工業前月比実態差異+1✕鉱工業前年比実態差異+1✕製造業前月比実態差異+1✕製造業前年比実態差異、という判別式を用いると、この判別式の解の符号と直後11分足の方向一致率が70%となります。
これら判別式の係数から、、本指標への反応方向への影響力は、鉱工業前月比>鉱工業前年比>製造業前月比>製造業前年比、の順となります。だから前述の通り、鉱工業前月比の推移に注目しなければいけません。
前述の事後差異判別式の解に対する直後1分足値幅の分布を下図に示します。横軸が判別式の解、縦軸が直後1分足値幅です。
ドット分布は全体に右上がりで、前述の素直な反応をする指標という分析結果を裏付けています。けれども、分布は回帰式(青線)の上下に大きくばらついています。発表結果が市場予想よりも大きくブレたからと言って、大きく反応するとは言えないようです。
次に、直後1分足と直後11分足の値幅の分布を見ておきましょう。
直後1分足値幅(横軸)に対する直後11分足値幅(縦軸)は、回帰式(赤線)の傾きが1.15で、平均的には反応が伸びていく指標、と言えます。
けれども、対角線(黒斜線)上下のドット分布をご覧ください。グラフの右半分で黒斜線の下側、左半分で黒斜線の上側のドットが目立ちます。
追撃しやすい指標だとは言えません。
本指標発表に先立ち、同月集計分の製造業PMIが発表されています。そこで、本指標と製造業PMIの相関を調べておきました。
相関の有無は、それぞれの指標の実態差異を用いて調べます。各差異のうち、市場予想が含まれないのは実態差異だけだからです。もし両指標の間に相関があるなら、それは実態差異に現れるはずです。
結果、両指標の実態差異の方向一致率は、一方を前後3か月ずらしても最大で64%しかありません。
よって、製造業PMIの単月毎の実態差異増減を論拠に、本指標結果の良し悪しの予想を論じても、あまり的中率が高くありません。
指標一致性分析は、各差異と反応方向の一致率を調べています。
各差異の分布に目立った偏りはありません(ばらつきの範囲内です)。事前差異はややプラス率が高く、事後差異はややマイナス率が高いようです。
事前差異と直前10-1分足の方向一致率は23%(不一致率77%)となっています。市場予想が前回結果より良ければ直前10-1分足は陰線、悪ければ陽線になりがちです。逆ではありません。
事後差異と直後1分足の方向一致率は79%となっています。市場予想に対する発表結果の良し悪しには素直に反応しています。
これらのことは、既に別の方法で説明済です。
反応一致性分析は、先に形成されたローソク足と後で形成されるローソク足の方向一致率を調べています。
各ローソク足は陽線や陰線への偏りはありません(ばらつきの範囲内です)。
直後1分足と直後11分足の方向一致率が73%と高い点を除けば、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の方向を示唆している兆しはありません。
反応性分析では、過去発表後に反応を伸ばしたか否かを調べています。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は74%です。驚くべきことに、その74%の方向一致時だけに注目したとき、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは100%です。この数字は、直後1分足と直後11分足が方向不一致だった場合を含めても、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことが74%あるということです。指標発表から暫くは一方向への反応が進む指標です。
指標発表時点から見たその後の方向一致率が高く、且つ、反応を伸ばしているのだから、指標発表後に反応方向を確認したら、追撃は早期開始です。
ところが、指標発表から1分を経過すると、直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びていたことは49%です。最終的に反応を伸ばすことは2回に1回しかないのなら、指標発表から1分を過ぎたら、先に早期追撃で得たポジションは早く利確の機会を窺った方が良い、というのが結論です。
以下に過去の直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の始値基準ローソク足を示し、それぞれの期間の取引方針を纏めておきます。
下図は直前10-1分足の始値基準ローソク足です。
直前10-1分足は、過去平均跳幅が12pips、同値幅が8pipsです。
始値基準ローソク足では、値幅方向に対する順ヒゲ・逆ヒゲがともに目立ちます。そこで、利確/損切の目安を15pips・10pips・5pipsとした各場合について、ちょっと計算してみましょう。
計算は、利確pips/損切pipsに達したら直ちに決済し、利確pipsと損切pipsにともに達していたときは損切とします。すると過去39回で、
です。
計算ルールは損切優先だったのに、結果はこの通りです。この期間の適切な損切は10pips前後にあります。それが過去平均値に近いことを覚えておきましょう。最近の反応が小さい傾向があるのなら、10pipsを基準に調整すれば良いのです。
但し、この計算法には順ヒゲ・逆ヒゲともに目安に達しなかった場合を含めていません。それに目安が大きいほど、勝率が高くなりがちなことに気を付ける必要があります。
その順張り方向とは、事前差異と直前10-1分足の方向一致率は23%(不一致率77%)なので、事前差異と逆方向をここでは指すこととします。
ともあれ、この期間は市場予想が前回結果より良ければショート、悪ければロングで、利確/損切の目安は10pips前後にしておけば良いでしょう。
次に、直前1分足の過去平均跳幅は8pips、同値幅は5pipsです。
過去の陰線率は62%、直前10-1分足との方向一致率は38%(不一致率62%)、事前差異との方向一致率は64%です。いずれもポジションをもつ根拠としての基準を見たいしていません。
この期間の取引は避けた方が良いでしょう。
そして、直後1分足の過去平均跳幅と値幅の差は7pips(1ー値幅/跳幅=戻り比率33%)です。直後11分足のそれは10pips(戻り比率33%)です。直後1分足や直後11分足は跳幅の2/3の値幅を持つことを目安にしておけば良いでしょう。
指標一致性分析では、事前差異との一致率が51%しかありません。反応一致性分析では、直前1分足との方向一致率が36%(不一致率64%)です。いずれも、指標発表前に発表直後の跳ねを狙うには、少し心もとない数字です。
直前10-1分足跳幅が平均を超えていたこと(13pips以上)だったことは過去14回(頻度36%)あります。
この14回のうち9回(頻度64%)が、直前10-1分足と直後1分足の値幅方向が一致しています。これは、過去39回全ての直前10-1分足と直後1分足の値幅方向の一致率46%より、20%近く期待的中率が高いということです。
ただ、やり方は人それぞれですから、勝率64%でも良いと思われる人には、直前10-1分足跳幅が13pips以上のときのみ、指標発表直前の順張りポジションにした方が良いでしょう。直前10-1分足跳幅が13pipsに足りないときは、勝率が50%を割るのです。
この期間は、指標発表後の反応方向を見てから早期に追撃開始した方が良いでしょう。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は74%です。その74%の方向一致時だけに注目したとき、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは100%です。指標発表から暫くは一方向への反応が進む指標です。
指標発表時点から見たその後の方向一致率が高く、且つ、反応を伸ばしているのだから、指標発表後に反応方向を確認したら、追撃は早期開始した方が良いのです。
ところが、指標発表から1分を経過すると、直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びていたことは49%です。最終的に反応を伸ばすことは2回に1回しかないのなら、指標発表から1分を過ぎたら、先に早期追撃で得たポジションは早く利確の機会を窺った方が良い、というのが結論です。
利確/損切の目安はやはり10pips前後です。
直後11分足跳幅は過去平均で29pips、直後1分足終値は過去平均で14pipsです。
直後11分足値幅が30pips以上だったことは過去18回(頻度46%)あります。この18回のうち15回で、直後11分足跳幅が直後1分足跳幅を超えて反応を伸ばしています(頻度83%)。
もし直後1分足跳幅が30pipsを超えていたなら再追撃です。利確/損切の目安は、日足チャートや週足チャートのサポートやレジスタンスを見て読み取りましょう。この期間は反応程度のばらつきが大きすぎて、目安を示すことが適切ではありません。
本指標の特徴は以下の通りです。
以下の特徴を踏まえた取引を行うか、その日の値動きが異常なら取引を止めるかがベターな選択肢と考えています。少なくとも過去の傾向に反した取引方法は、長い目で見ると勝率をさげてしまいがちです。
という特徴があります。
下表に、2017年の本指標シナリオでの取引成績を纏めておきます。
2017年は10回の発表時取引を行い9勝1敗でした。シナリオ単位では28勝10敗(勝率74%)で、毎回の平均取引時間は8分42秒とやや長くなっていました。年間178pipsを稼ぎ、1回の平均利確は18pipsです。これは、本指標直後11分足の平均的な値幅21pipsに対し悪くありません。
ポジションを持つ最終的なご判断は読者ご自身の責任となります。その点を予めご了承の上、本記事がFXを楽しむ一助となれば幸いです。詳細は「1. FXは上達するのか」もしくは孤独な英国人は減ったのかを参照願います。
この分析の調査範囲は、2015年1月集計分〜2018年3月集計分(同年5月発表分)の39回分です。この39回から、本指標発表前後のGBPJPY取引に役立つ特徴を見出すことが本稿テーマです。
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結論から述べます。本指標の特徴は以下の通りです。
- 先に発表されている製造業PMIとの相関はない、と考えるべきです。それよりも、本指標自体に再現性の高い反応方向を示唆する兆候がいくつかあります。
- 反応程度は、主要先進国の生産関係指標のなかでも最も大きい(直後1分足跳幅の過去平均値が21pips)ものの、最近はせいぜい10pipsしか跳ねないことも多くなっています。
- 反応方向は、鉱工業生産指数前月比の発表結果と市場予想の差の影響を強く受け、その鉱工業生産指数前月比が良すぎたり悪すぎたりすると翌月に反動が起きがちです。
これら特徴を踏まえた取引を行うか、その日の値動きが異常なら取引を止めるかがベターな選択と考えています。少なくとも過去の傾向に反した取引方法は、長い目で見ると勝率をさげてしまいがちです。
T.定性的傾向
【1. 指標概要】
英国実態指標「鉱工業生産指数」「製造業生産指数」は、鉱工業と製造業の企業生産高を基準年を100として指数化した経済指標です。英国国家統計局が毎月中旬に前月比・前年比を発表しています。
本指標の意義は、鉱工業生産がGDPの構成要素となっているため、その先行指標と言われています。がしかし、GDPに占める鉱工業部門の割合は20%程度しかありません。ですから、本指標がGDPの先行指標として役立つかは少し疑問があります。
ただ、本指標は他の主要国の生産関連指標よりも反応が大きい、という特徴があります。
同じ実態指標でも消費関連指標なら、米国小売売上高も大きく反応するし、豪州小売売上高もそこそこ反応します。けれども、生産関連指標でこれほど反応が大きいのは英国だけです。
その理由は次のように解釈できます。
2015年1月集計分以降の前月比推移を以下に示します。市場予想は発表直前の値をプロットし、発表結果は後に修正値が発表されても定時発表値のままをプロットしています。
後記詳述するように、本指標への反応方向への影響力は、鉱工業生産指数前月比>鉱工業生産指数前年比>製造業生産指数前月比>製造業生産指数前年比、の順となります。だから、前月比の推移に着目する訳です。
鉱工業生産指数前月比(以下、鉱工業前月比と略記)・製造業生産指数前月比(以下、製造業前月比と略記)ともに、市場予想が△1%〜+1%の範囲を超えたことは過去にたった1回しかありません。2018年1月集計分の鉱工業前月比のみです。
けれども、この範囲から発表結果が外れたことは、
鉱工業前月比が、
2015年12月集計分
2016年4月集計分
2016年10月集計分
2016年11月集計分
2016年12月集計分
2017年12月集計分
2018年1月集計分
の7回、
製造業前月比が、
2016年4月集計分
2016年11月集計分
2016年12月集計分
の3回です。
製造業前月比がこの範囲を超えたときは全て、鉱工業前月比もこの範囲を超えています。よって、鉱工業前月比に着目すればよい訳です。
そして、いつもは市場予想が△1%〜+1%の範囲で小さくしか上下動しないと安心していると、ときおり(頻度18%)大きく発表結果がその範囲を超えて大きくブレる訳です。その結果、他の先進主要国の生産関連指標よりも大きく反応するのでしょう。
ーーー$€¥ーーー
がしかし、発表結果が市場予想から大きくブレても、そのことは事前把握できません。むしろ、鉱工業前月比が+1%以上もしくは△1%以下だったことは過去7回は全て、翌月に大きな反動が起きています。
ここで「反動」とは、前月発表結果が+1%以上なら当月発表結果がその値から1%以上悪化し、△1%以下なら1%以上改善することを指します。
鉱工業前月比が+1%以上もしくは△1%以下だった翌月は1%以上逆方向に振れるので、市場予想がそうなっていなければ取引のチャンスです。
参考までに、鉱工業生産指数前年比(以下、鉱工業前年比)と製造業生産指数前年比(以下、製造業前年比)の過去推移も下図に示しておきます。
【2. 反応概要】
過去の4本足チャートの各ローソク足平均値と、最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅の分布を下表に纏めておきます。
最も指標結果に素直に反応する直後1分足跳幅は過去平均で21pipsです。平均を超えて跳ねたことは44%、21%は31pipsを超えて反応しています。反応が大きいため、指標発表時刻を跨いでポジションを持つことは慎重でなければいけません。
但し、2015年以降の反応平均値の推移をご覧ください。
2015年以降、年を追うごとに反応が小さくなってきています。2018年は、まだ5回しか発表が行なわれていませんが、過去3年に比べてかなり反応が小さくなっていることがわかります。
大きく反応すると思っているのに、そうならなければ利確の機会を逸しかねません。その点に注意しましょう。
U.定量的傾向
分析には、事前差異(=市場予想ー前回結果)と事後差異(=発表結果ー市場予想)と実態差異(発表結果ー前回結果)を多用します。差異がプラスのとき陽線・マイナスのとき陰線と対応していれば、反応が素直だと言うことにします。
【3. 定型分析】
まず、過去の各差異が反応方向にどの程度影響していたのかを調べます。
事前差異は、2✕鉱工業前月比事前差異+2✕鉱工業前年比事前差異+1✕製造業前月比事前差異+1✕製造業前年比事前差異、という判別式を用いると、この判別式の解の符号と直前10-1分足の方向一致率が23%(不一致率77%)です。
市場予想が良ければ直前10-1分足は陰線、悪ければ陽線で反応しがちです。逆ではありません。
事後差異は、3✕鉱工業前月比事後差異+2✕鉱工業前年比事後差異+1✕製造業前月比事後差異、という判別式を用いると、この判別式の解の符号と直後1分足の方向一致率が79%となります。
指標結果の良し悪しには素直に反応しがちです。
実態差異は、1✕鉱工業前月比実態差異+1✕鉱工業前年比実態差異+1✕製造業前月比実態差異+1✕製造業前年比実態差異、という判別式を用いると、この判別式の解の符号と直後11分足の方向一致率が70%となります。
これら判別式の係数から、、本指標への反応方向への影響力は、鉱工業前月比>鉱工業前年比>製造業前月比>製造業前年比、の順となります。だから前述の通り、鉱工業前月比の推移に注目しなければいけません。
ーーー$€¥ーーー
前述の事後差異判別式の解に対する直後1分足値幅の分布を下図に示します。横軸が判別式の解、縦軸が直後1分足値幅です。
ドット分布は全体に右上がりで、前述の素直な反応をする指標という分析結果を裏付けています。けれども、分布は回帰式(青線)の上下に大きくばらついています。発表結果が市場予想よりも大きくブレたからと言って、大きく反応するとは言えないようです。
次に、直後1分足と直後11分足の値幅の分布を見ておきましょう。
直後1分足値幅(横軸)に対する直後11分足値幅(縦軸)は、回帰式(赤線)の傾きが1.15で、平均的には反応が伸びていく指標、と言えます。
けれども、対角線(黒斜線)上下のドット分布をご覧ください。グラフの右半分で黒斜線の下側、左半分で黒斜線の上側のドットが目立ちます。
追撃しやすい指標だとは言えません。
(3.1 指標間一致性分析)
本指標発表に先立ち、同月集計分の製造業PMIが発表されています。そこで、本指標と製造業PMIの相関を調べておきました。
相関の有無は、それぞれの指標の実態差異を用いて調べます。各差異のうち、市場予想が含まれないのは実態差異だけだからです。もし両指標の間に相関があるなら、それは実態差異に現れるはずです。
結果、両指標の実態差異の方向一致率は、一方を前後3か月ずらしても最大で64%しかありません。
よって、製造業PMIの単月毎の実態差異増減を論拠に、本指標結果の良し悪しの予想を論じても、あまり的中率が高くありません。
(3.2 指標一致性分析)
指標一致性分析は、各差異と反応方向の一致率を調べています。
各差異の分布に目立った偏りはありません(ばらつきの範囲内です)。事前差異はややプラス率が高く、事後差異はややマイナス率が高いようです。
事前差異と直前10-1分足の方向一致率は23%(不一致率77%)となっています。市場予想が前回結果より良ければ直前10-1分足は陰線、悪ければ陽線になりがちです。逆ではありません。
事後差異と直後1分足の方向一致率は79%となっています。市場予想に対する発表結果の良し悪しには素直に反応しています。
これらのことは、既に別の方法で説明済です。
(3.3 反応一致性分析)
反応一致性分析は、先に形成されたローソク足と後で形成されるローソク足の方向一致率を調べています。
各ローソク足は陽線や陰線への偏りはありません(ばらつきの範囲内です)。
直後1分足と直後11分足の方向一致率が73%と高い点を除けば、先に形成されたローソク足が後で形成されるローソク足の方向を示唆している兆しはありません。
(3.4 反応性分析)
反応性分析では、過去発表後に反応を伸ばしたか否かを調べています。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は74%です。驚くべきことに、その74%の方向一致時だけに注目したとき、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは100%です。この数字は、直後1分足と直後11分足が方向不一致だった場合を含めても、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことが74%あるということです。指標発表から暫くは一方向への反応が進む指標です。
指標発表時点から見たその後の方向一致率が高く、且つ、反応を伸ばしているのだから、指標発表後に反応方向を確認したら、追撃は早期開始です。
ところが、指標発表から1分を経過すると、直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びていたことは49%です。最終的に反応を伸ばすことは2回に1回しかないのなら、指標発表から1分を過ぎたら、先に早期追撃で得たポジションは早く利確の機会を窺った方が良い、というのが結論です。
【特徴分析】
以下に過去の直前10-1分足・直前1分足・直後1分足・直後11分足の始値基準ローソク足を示し、それぞれの期間の取引方針を纏めておきます。
ーーー$€¥£ーーー
下図は直前10-1分足の始値基準ローソク足です。
直前10-1分足は、過去平均跳幅が12pips、同値幅が8pipsです。
始値基準ローソク足では、値幅方向に対する順ヒゲ・逆ヒゲがともに目立ちます。そこで、利確/損切の目安を15pips・10pips・5pipsとした各場合について、ちょっと計算してみましょう。
計算は、利確pips/損切pipsに達したら直ちに決済し、利確pipsと損切pipsにともに達していたときは損切とします。すると過去39回で、
- 目安を5pipsにしていたなら28勝8敗で利確幅100pips
- 目安を10pipsにしていたなら21勝0敗で利確幅210pips
- 目安を15pipsにしていたなら10勝0敗で利確幅150pips
です。
計算ルールは損切優先だったのに、結果はこの通りです。この期間の適切な損切は10pips前後にあります。それが過去平均値に近いことを覚えておきましょう。最近の反応が小さい傾向があるのなら、10pipsを基準に調整すれば良いのです。
但し、この計算法には順ヒゲ・逆ヒゲともに目安に達しなかった場合を含めていません。それに目安が大きいほど、勝率が高くなりがちなことに気を付ける必要があります。
その順張り方向とは、事前差異と直前10-1分足の方向一致率は23%(不一致率77%)なので、事前差異と逆方向をここでは指すこととします。
ともあれ、この期間は市場予想が前回結果より良ければショート、悪ければロングで、利確/損切の目安は10pips前後にしておけば良いでしょう。
ーーー$€¥£ーーー
次に、直前1分足の過去平均跳幅は8pips、同値幅は5pipsです。
過去の陰線率は62%、直前10-1分足との方向一致率は38%(不一致率62%)、事前差異との方向一致率は64%です。いずれもポジションをもつ根拠としての基準を見たいしていません。
この期間の取引は避けた方が良いでしょう。
ーーー$€¥£ーーー
そして、直後1分足の過去平均跳幅と値幅の差は7pips(1ー値幅/跳幅=戻り比率33%)です。直後11分足のそれは10pips(戻り比率33%)です。直後1分足や直後11分足は跳幅の2/3の値幅を持つことを目安にしておけば良いでしょう。
指標一致性分析では、事前差異との一致率が51%しかありません。反応一致性分析では、直前1分足との方向一致率が36%(不一致率64%)です。いずれも、指標発表前に発表直後の跳ねを狙うには、少し心もとない数字です。
直前10-1分足跳幅が平均を超えていたこと(13pips以上)だったことは過去14回(頻度36%)あります。
この14回のうち9回(頻度64%)が、直前10-1分足と直後1分足の値幅方向が一致しています。これは、過去39回全ての直前10-1分足と直後1分足の値幅方向の一致率46%より、20%近く期待的中率が高いということです。
ただ、やり方は人それぞれですから、勝率64%でも良いと思われる人には、直前10-1分足跳幅が13pips以上のときのみ、指標発表直前の順張りポジションにした方が良いでしょう。直前10-1分足跳幅が13pipsに足りないときは、勝率が50%を割るのです。
この期間は、指標発表後の反応方向を見てから早期に追撃開始した方が良いでしょう。
直後1分足と直後11分足との方向一致率は74%です。その74%の方向一致時だけに注目したとき、直後1分足跳幅を直後11分足跳幅が超えて反応を伸ばしたことは100%です。指標発表から暫くは一方向への反応が進む指標です。
指標発表時点から見たその後の方向一致率が高く、且つ、反応を伸ばしているのだから、指標発表後に反応方向を確認したら、追撃は早期開始した方が良いのです。
ところが、指標発表から1分を経過すると、直後1分足終値を超えて直後11分足終値が伸びていたことは49%です。最終的に反応を伸ばすことは2回に1回しかないのなら、指標発表から1分を過ぎたら、先に早期追撃で得たポジションは早く利確の機会を窺った方が良い、というのが結論です。
利確/損切の目安はやはり10pips前後です。
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直後11分足跳幅は過去平均で29pips、直後1分足終値は過去平均で14pipsです。
直後11分足値幅が30pips以上だったことは過去18回(頻度46%)あります。この18回のうち15回で、直後11分足跳幅が直後1分足跳幅を超えて反応を伸ばしています(頻度83%)。
もし直後1分足跳幅が30pipsを超えていたなら再追撃です。利確/損切の目安は、日足チャートや週足チャートのサポートやレジスタンスを見て読み取りましょう。この期間は反応程度のばらつきが大きすぎて、目安を示すことが適切ではありません。
V.分析結論
本指標の特徴は以下の通りです。
以下の特徴を踏まえた取引を行うか、その日の値動きが異常なら取引を止めるかがベターな選択肢と考えています。少なくとも過去の傾向に反した取引方法は、長い目で見ると勝率をさげてしまいがちです。
- 本指標は関連指標である製造業PMIとの相関があまりなく、本指標自体に再現性の高い反応方向を示唆する兆候がいくつかある
- 反応程度は、主要先進国の生産関係指標のなかでも最も大きい(直後1分足跳幅の過去平均値が21pips)ものの、最近はせいぜい10pipsしか跳ねないことも多い
- 反応方向は、鉱工業生産指数前月比の発表結果と市場予想の差の影響を強く受け、その鉱工業生産指数前月比が良すぎたり悪すぎたりすると翌月に反動が起きる
という特徴があります。
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下表に、2017年の本指標シナリオでの取引成績を纏めておきます。
2017年は10回の発表時取引を行い9勝1敗でした。シナリオ単位では28勝10敗(勝率74%)で、毎回の平均取引時間は8分42秒とやや長くなっていました。年間178pipsを稼ぎ、1回の平均利確は18pipsです。これは、本指標直後11分足の平均的な値幅21pipsに対し悪くありません。
以上
ーーー注記ーーー
ポジションを持つ最終的なご判断は読者ご自身の責任となります。その点を予めご了承の上、本記事がFXを楽しむ一助となれば幸いです。詳細は「1. FXは上達するのか」もしくは孤独な英国人は減ったのかを参照願います。
以上
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