2017年04月11日
2017年4月7日10:12からのリスク回避時反応
リスク内容は次の通りでした。
シリア政府軍の化学兵器使用によって多数の死者が出たことを受けて、2017年4月7日10:12に「米軍がシリア攻撃を実施した」との報道がありました。方法は巡航ミサイル、規模は50発以上、目標はシリア政府軍拠点、とのことです。
実施時刻は未確認なものの、11:16頃にはロイターが「既に作戦が完了したとみられる」との米高官発言を報道していました。
最初の速報が流れた10:12頃のUSDJPYは110.90付近でした。
10:12からの2時間の動きを下図に示します。下図横軸の幅は均等ではありません。初期の3本の1分足を除けば、上下の動きに一段落つく度の時間幅となっています。
初期の3分は加速的にJPYが買われています。大きく下げたので、次の5分は少し戻しました。その後も2度、どすんと下げては少し戻す動きを繰り返し、現在(13:00前)は値を戻しつつあります。
USDJPYの動きがほぼ掴めたので、他の通貨ペアも見てみましょう。
下図はUSDJPYでJPYが買われた1時間の動きを、EURJPY・GBPJPY・AUDJPY・EURUSD・GBPUSD・AUDUSDの順に並べたものです。
円クロスで見る限り、USDJPYが下げていた直後1時間足で、通貨毎のpipsの差はほとんどありません。騰落率では、円クロスレートがもともと安い通貨ペア(GBPよりEUR、EURよりAUD、ということ)で大きくなるでしょう。
結果的には、この図のようなJPY買いは1時間しか続きませんでした。その夜、米国雇用統計を迎える頃には、この1時間の下げが元のレートの60〜80%のところまで戻っていました(50pips下落なら、元のレートよりも10〜20pips安のところ、という意味)。
こうしたリスク回避の動きは次のように説明することができます。
FXではレートの動きがなければ利益を得られません。だからわかりやすく考えるため、ひとまずレートが動かない状態を考えてみましょう。
すると、資金は金利が高い方(金利差)や株価上昇率が高い方(株価比差)へと移動し始めます。つまり、高金利・高価値な海外債券・証券を買うため、JPYを売って外国通貨を買い始めます。だから、為替が動きにくい状況になると、自然に円安と高金利通貨高(例えばAUD)がだらだらと進み始めます。
それにもちろん、円が比較的高いときは相手国通貨が相対的に安いので、大手機関・団体・会社が海外に投資をして資産を蓄えています。あまり知られていませんが、製造業の海外工場だってそのひとつです(日系の大手銀の現地支店が資金対応することが多い)。
さてここで、今回のようなリスクが発生したとします。
すると、急いで資金は自国に戻ろうとします。どの国でも同じです。何が起きるかわからないときには、資金を手元に置いておきたいので、外国通貨・投資先債券・証券を売るのです(売れるものを売る)。それらは最終的に全て、JPY(自国通貨)を買い戻すことになります。だから、JPYは高くなります。
当然、リスクが段階的に大きくなっていくと、売りにくいものまで売られ始めます。さらに、それが長期化して不安感が一線を超えると、本来なら売れないものまで売ろうとします。実際には売れないものは売れないので、反対売買でのヘッジが始まります。相手国のモノ・カネを買ってる状態が嫌なのだから、リスクが収まるまで相手国通貨を売って自国通貨を買っておくのです。
こうなるともう、JPYは加速的に高くなり始めます。多少の損なら構わない、というヘッジで動く資金は「多少」と言っても桁が違います。
製造業の現地工場の資金繰りをしている銀行は、1案件だけで数億円ということさえよくあるでしょう。よくニュースで見かけるビルの1棟買いなんかより、その方が案件数は圧倒的に多いのではないでしょうか(注:案件数は知りませんが、大手製造業の海外基幹工場で動かす金額は、毎月もっと多いことさえ普通です)。
リスクがあっても、逃げ出す訳にはいきません。現地通貨で資金をやりくりし続けなくてはならないのです。当然、実務を担う現地銀行の支店はさておき、本国から見れば海外投資ですから、リスクヘッジに動くでしょう。
つまり、リスク発生時に動く資金は、FXのような短期の投資資金だけではないのです。為替市場の70%超を占めると言われる投機的資金全体へと、リスクの程度と期間に応じて影響が波及していく訳です。海外工場投資は実需ですが、その工場の資金繰りを担う金融機関のヘッジは投機になります(と思います)。
日本は海外投資額が非常に大きいから、こんなことが起きてしまいます。
と同時に、この話はなぜレバレッジが必要かも推測できます。
もし実需へのリスクヘッジを全て現金で行わなければいけなければ、実需の海外投資へのハードルが今よりもずっと高くなってしまいます。がしかし、国内であろうが海外であろうが、実業さえしっかりしていればリスクヘッジなんて投機でも構いません。それで実需の海外投資のハードルを下げられます。もともと、このために必要なレバレッジなのでしょう。
個別企業の努力に頼るだけでなく、国際金融システム全体の安定・改善でリスクを回避しやすくする各国中銀の仕事は、だからこそ重要なのでしょう。
このように理解しておくと、リスク回避通貨の「リスク回避」の意味は、起きている事件そのもののリスクのことではないことがわかります。「投資なんかしてる場合か」という投資家のリスク感だと理解しておけばよいと思います。たまたま、4月1日に「3-0. 各国経済・通貨の特徴」で記したところでしたが、日本で大震災があっても北朝鮮が日本海にミサイルを撃っても、JPYがリスクにめっぽう強く、AUDがからっきし弱い現象には、このような背景があるのです。
上図において、有事のドル買や、投資される国であるAUDの動きについても、同様な説明がつけられると思います。
個別リスクによって多少の順位の変動があっても、リスク発生時に強い順位は、@ 高信頼国通貨>A 投資国側通貨>B 中立的通貨>C 被投資国側通貨>D 低信頼国通貨、が基本ではないでしょうか。
有事のドル買は、基本的に太閤株売り・徳川株買いの動きで、これは何となくわかります。USDは、投資国側という面よりは高信頼国通貨の気もしますが、上の順位に示した最も強い通貨には当たりません。USDが本当に強くなるのは本格的有事の場合でしょうけど、それでもスイスフランには敵いません。
そして、スイスフラン買は永世中立国としての信頼感によるもの、と言われています。ヒトラーの圧力にも屈せず、金庫を開けなかったスイスの銀行への信頼感もあるでしょう。この情報の出典元は確か「ゴルゴ13」と記憶していることを明記しておきます。だからもし間違っていても、スイスのせいでもゴルゴのせいでも私のせいでもありません。スイスフランは、自分で売買した経験がないので、勉強も疎かにしています。だから、私も「信頼」ということの意味が、まだ今ひとつよくわかっていないのです。
本当の勉強はご自身でどうぞ。ここまで読ませておいてひどい話で申し訳ありません。
シリア政府軍の化学兵器使用によって多数の死者が出たことを受けて、2017年4月7日10:12に「米軍がシリア攻撃を実施した」との報道がありました。方法は巡航ミサイル、規模は50発以上、目標はシリア政府軍拠点、とのことです。
実施時刻は未確認なものの、11:16頃にはロイターが「既に作戦が完了したとみられる」との米高官発言を報道していました。
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最初の速報が流れた10:12頃のUSDJPYは110.90付近でした。
10:12からの2時間の動きを下図に示します。下図横軸の幅は均等ではありません。初期の3本の1分足を除けば、上下の動きに一段落つく度の時間幅となっています。
初期の3分は加速的にJPYが買われています。大きく下げたので、次の5分は少し戻しました。その後も2度、どすんと下げては少し戻す動きを繰り返し、現在(13:00前)は値を戻しつつあります。
USDJPYの動きがほぼ掴めたので、他の通貨ペアも見てみましょう。
下図はUSDJPYでJPYが買われた1時間の動きを、EURJPY・GBPJPY・AUDJPY・EURUSD・GBPUSD・AUDUSDの順に並べたものです。
円クロスで見る限り、USDJPYが下げていた直後1時間足で、通貨毎のpipsの差はほとんどありません。騰落率では、円クロスレートがもともと安い通貨ペア(GBPよりEUR、EURよりAUD、ということ)で大きくなるでしょう。
結果的には、この図のようなJPY買いは1時間しか続きませんでした。その夜、米国雇用統計を迎える頃には、この1時間の下げが元のレートの60〜80%のところまで戻っていました(50pips下落なら、元のレートよりも10〜20pips安のところ、という意味)。
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こうしたリスク回避の動きは次のように説明することができます。
FXではレートの動きがなければ利益を得られません。だからわかりやすく考えるため、ひとまずレートが動かない状態を考えてみましょう。
すると、資金は金利が高い方(金利差)や株価上昇率が高い方(株価比差)へと移動し始めます。つまり、高金利・高価値な海外債券・証券を買うため、JPYを売って外国通貨を買い始めます。だから、為替が動きにくい状況になると、自然に円安と高金利通貨高(例えばAUD)がだらだらと進み始めます。
それにもちろん、円が比較的高いときは相手国通貨が相対的に安いので、大手機関・団体・会社が海外に投資をして資産を蓄えています。あまり知られていませんが、製造業の海外工場だってそのひとつです(日系の大手銀の現地支店が資金対応することが多い)。
さてここで、今回のようなリスクが発生したとします。
すると、急いで資金は自国に戻ろうとします。どの国でも同じです。何が起きるかわからないときには、資金を手元に置いておきたいので、外国通貨・投資先債券・証券を売るのです(売れるものを売る)。それらは最終的に全て、JPY(自国通貨)を買い戻すことになります。だから、JPYは高くなります。
当然、リスクが段階的に大きくなっていくと、売りにくいものまで売られ始めます。さらに、それが長期化して不安感が一線を超えると、本来なら売れないものまで売ろうとします。実際には売れないものは売れないので、反対売買でのヘッジが始まります。相手国のモノ・カネを買ってる状態が嫌なのだから、リスクが収まるまで相手国通貨を売って自国通貨を買っておくのです。
こうなるともう、JPYは加速的に高くなり始めます。多少の損なら構わない、というヘッジで動く資金は「多少」と言っても桁が違います。
製造業の現地工場の資金繰りをしている銀行は、1案件だけで数億円ということさえよくあるでしょう。よくニュースで見かけるビルの1棟買いなんかより、その方が案件数は圧倒的に多いのではないでしょうか(注:案件数は知りませんが、大手製造業の海外基幹工場で動かす金額は、毎月もっと多いことさえ普通です)。
リスクがあっても、逃げ出す訳にはいきません。現地通貨で資金をやりくりし続けなくてはならないのです。当然、実務を担う現地銀行の支店はさておき、本国から見れば海外投資ですから、リスクヘッジに動くでしょう。
つまり、リスク発生時に動く資金は、FXのような短期の投資資金だけではないのです。為替市場の70%超を占めると言われる投機的資金全体へと、リスクの程度と期間に応じて影響が波及していく訳です。海外工場投資は実需ですが、その工場の資金繰りを担う金融機関のヘッジは投機になります(と思います)。
日本は海外投資額が非常に大きいから、こんなことが起きてしまいます。
と同時に、この話はなぜレバレッジが必要かも推測できます。
もし実需へのリスクヘッジを全て現金で行わなければいけなければ、実需の海外投資へのハードルが今よりもずっと高くなってしまいます。がしかし、国内であろうが海外であろうが、実業さえしっかりしていればリスクヘッジなんて投機でも構いません。それで実需の海外投資のハードルを下げられます。もともと、このために必要なレバレッジなのでしょう。
個別企業の努力に頼るだけでなく、国際金融システム全体の安定・改善でリスクを回避しやすくする各国中銀の仕事は、だからこそ重要なのでしょう。
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このように理解しておくと、リスク回避通貨の「リスク回避」の意味は、起きている事件そのもののリスクのことではないことがわかります。「投資なんかしてる場合か」という投資家のリスク感だと理解しておけばよいと思います。たまたま、4月1日に「3-0. 各国経済・通貨の特徴」で記したところでしたが、日本で大震災があっても北朝鮮が日本海にミサイルを撃っても、JPYがリスクにめっぽう強く、AUDがからっきし弱い現象には、このような背景があるのです。
上図において、有事のドル買や、投資される国であるAUDの動きについても、同様な説明がつけられると思います。
個別リスクによって多少の順位の変動があっても、リスク発生時に強い順位は、@ 高信頼国通貨>A 投資国側通貨>B 中立的通貨>C 被投資国側通貨>D 低信頼国通貨、が基本ではないでしょうか。
有事のドル買は、基本的に太閤株売り・徳川株買いの動きで、これは何となくわかります。USDは、投資国側という面よりは高信頼国通貨の気もしますが、上の順位に示した最も強い通貨には当たりません。USDが本当に強くなるのは本格的有事の場合でしょうけど、それでもスイスフランには敵いません。
そして、スイスフラン買は永世中立国としての信頼感によるもの、と言われています。ヒトラーの圧力にも屈せず、金庫を開けなかったスイスの銀行への信頼感もあるでしょう。この情報の出典元は確か「ゴルゴ13」と記憶していることを明記しておきます。だからもし間違っていても、スイスのせいでもゴルゴのせいでも私のせいでもありません。スイスフランは、自分で売買した経験がないので、勉強も疎かにしています。だから、私も「信頼」ということの意味が、まだ今ひとつよくわかっていないのです。
本当の勉強はご自身でどうぞ。ここまで読ませておいてひどい話で申し訳ありません。
以上
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