2017年03月26日
4-4. 英国経済指標DB
2017年3月26日、全文更新
英国指標ではGBPJPYで取引を行っています。通貨ペアとしては、国内FXでUSDJPY・AUDJPYに次ぐ取引量があります(実需の取引規模はまだ調べていません)。
【4-4-1. GBPの特徴】
ここ1年ぐらい、GBPの動きはアマチュアの定量分析が通用しない状況です。どちらかと言えば、先行き経済への見通しが誰にもわからないのです。こういう定性分析は、プロのエコノミストさえ外してしまうことが多いぐらいですから、アマチュアが太刀打ちできなくても当然です。
さて、ブリグジット騒ぎ以前は、EUにおいて独国に次ぐ経済好調な印象がありました。スコットランド独立騒動があったものの、一時はGBPJPYが200円近くまで上昇し、当時の解説記事では200円突破を確実視するような内容が多かったという記憶があります(2015年夏頃)。約1年後、2016年6月には国民投票でEU離脱が決まり、10月には安値122円までGBPは売られました。
ところが、2016年6月以降現在までをそれ以前と比べて、GDPはもとより実態指標・物価指標・国際収支・雇用指標のいずれも悪化したとは言えません。一時的に景気指標が悪化し、それが元に戻っても、GBPが売られ続けている訳です。データなんか関係なしに不安感がGBPを売る動きに結び付いているようです。但し、株価(FTSE)だけは、凸凹こそあれ、この期間にも右上がりとなっています。
今後も暫くは、EU離脱通告・同交渉開始(条件開示と双方牽制発言)・スコットランド独立騒動再燃・資源価格低迷(原油価格が70ドルに達しない)と、GBPに悪い印象を与える事態が続きます。でもそろそろ、EU離脱しても英国ならそこそこやっていけそうだ、という見方も出始めて良い時期だと思います。もう少し時間がかかるでしょうけど。
現在、GBPは、取引量こそ4位です(国際決済銀行統計)が、金融商品の取引ではロンドン市場の規模が最も大きいのです。EU離脱によって、この地位が脅かされるという話があります。また、EU離脱後はEU域内との金融取引に、これまで免除されていた許認可を得る必要があるでしょう。金融への不安は、為替に最も影響を与えます。
おそらくこれが、もっともすっきりするGBPの動きへの説明だと思います。
2017年3月に発表された物価指標はBOE目標に達しました。直後に今後は利上げを始め、金融引き締め・利上げに関する解説記事が増えるだろう、と記しましたが、その通りになり始めているようです。ただ、伝統的にBOEは簡単に政策変更しない中銀として有名です。今後はしばらく、資産買入額の縮小がいつから始まるかについて、MPC開催毎にGBPが買われ終了毎に失望売りという状況が続くのではないでしょうか。
でも、EU離脱交渉はこれからです。離脱後の姿が見えないうちに予防措置を講じるというのは、BOEらしくはありませんよね。
【4-4-2. 現状チャート】
下図に、GBPJPYの週足チャートと、GBPJPY・GBPUSD・USDJPYの各週値幅を示します。
チャートの青線は、先週引いた138.5円付近のサポートです。また、新たに1月30日週高値から先週安値にかけて、太い赤線に示す下降トレンドラインが引けました。3月6日週にトレンドラインを上抜けし、新たに引いた細い赤線が示す140.5円付近には、1月23日週頃からのレジスタンスもあります。直近5週が陽線・陰線の繰り返しとなっており、次週は陽線の順番となります。
よって次週は、137円下〜140.5円がチャートの示す変動幅です。直近の変動幅を見る限り、少し大きすぎる見通しで申し訳ありません。
次に、GBPJPY・GBPUSD・GBPJPYの週足pips(値幅)を見比べてみましょう。
先週は、USDが売られ、GBPとJPYが買われています。同じく買われたGBPとJPYとでは、よりJPYが買われたため、GBPJPYは下がりました。
英国経済の何が悪くて日本経済の何が良いのか、を考えても、事実(経済指標)に基づく限り答えに窮してしまいます。
【4-4-3. 現状テクニカル】
SMAは下降トレンドを示しているようです。が、SMA(1日)・SMA(5日)・SMA(21日)は、1月30日週頃から、近接して互いに当たったり離れたりを繰り返しています。こうしたときには、SMAだけでなくテクニカル指標全般にアテにならない、がセオリーです。
SMAがアテにならないときにはRSIもアテになりません。
【4-4-4. 現状ファンダメンタル】
直近の両国10年債金利と株価の動きを示します。それぞれの動きはご自身でご確認ください。
以下、日英の金利差の前週との差を「Δ金利差」と表記します。また、日英の主要株価指標の比の前週との差を「Δ株価比差」と表記します。
通常時の金利と株価の動きは、方向が反対になりがちなことが知られています。通常時には、為替が金利>株価の影響を受けることも知られています。何が原因で何が結果かはよくわかりませんが、これらの関係が成り立たないときは通常時でないことならわかります。自然な動きのときは参考にしても、不自然なときには参考にしない、が基本です。不自然なときには逆に考える、ではありません。理屈が通らない以上、参考にしない、が基本です。
下図は、上から「方向とボラティリティ」「Δ金利差」「Δ株価比差」を表しています。
直近の順序から言えば、次週は陽線の週です。また、ボラティリティは拡大・縮小を繰り返すのが自然ですが、少しずつ毎週の値幅が広がってきているようにも見えます。
金利と株価を見てみましょう。
Δ金利差は、今年に入って11週のうち9週がGBPJPYと同方向、Δ株価比差は11週のうち7週がGBPJPYと逆方向です。全体の傾向は、為替・金利・株価の動きは自然です。
先週は、Δ金利差が僅かにマイナス、Δ株価比差がプラスで、自然な動きに戻りました。先々週までは、珍しく4週間にも亘って(2月20日週〜3月13日週)、Δ株価比差とGBPJPYの方向が一致する不自然な状態でした。
チャート分析の次週値幅予想が台風予想進路のように発散し、テクニカル分析がSMAの縺れでアテにならない状態だったものが、そろそろ自然な状態に戻る時期なのかも知れません。
【4-4-5. 今週以降の注目点】
もう1・2週の観察が必要なものの、為替・金利・株価の動きは久しぶりに正常に戻りました。先週までのFTSE中心のGBPJPYの動きよりは、ずっとわかりやすくなります。
先々週は、MPC(BOE政策金利発表)で、8名の委員のうち1名が利上げを主張し、今後は利上げ主張が増えるのではないか、という解説記事に注目しました。がしかし、その記事をよく読んでみると、その1名はもうすぐ退任予定とのことです。それなのに、なぜか今後は利上げする委員が増えるかも知れないと、その記事では結んでいました(ん?)。
ここで利上げ主張した委員は、「物価が、GBP安だけでなく国内要因によっても顕著に上昇、特にEU離脱決定を受けて不安な景気減速は現実化していない」というものです。つまり、先々週から4-4-1項に記載している通り、データ上の英国経済に現在のGBP水準は、事実を示す事象だけから考えると、ちょっと不自然なのです。
気になる点は、IMFの2017年の主要国成長率見込みです。先進国平均で2%程度が見込まれているなか、英国は2017年が1.5%しか見込まれていません(米欧に劣る)。つまり、今後注目すべき解説論点は、EU離脱による成長率低下への不安をどれだけ払拭できるか、です。間接的にはこれに関係するものの、直近の記事は移民抑制とEU恩恵維持という英国側主張が虫が良すぎる、という記事一色になるでしょう。雰囲気が相場に与える影響を読み解くのは、アマチュアには困難です。
今後は、経済実態を示すデータが失速しない限り、データと雰囲気の綱引きが本格化します。データ通りにゆっくり動き、ニュースでそのトレンドが吹っ飛ぶ、の繰り返しでしょう。GBPのトレンドフォローは、避けた方が無難でしょうね。
【4-4-6. 指標分析一覧】
A. 政策決定指標
A1. 金融政策
2017年1月17日にBOE総裁は「今後数年間の英成長は鈍化する見込み」で「個人消費の進展が政策にとっての鍵になる」と発言しています。また、2017年2月2日に四半期インフレ報告で「インフレ見通しが2017年は2.7%、2018年は2.6%」と示されました。IMFでは、この期間の経済成長を1.5%・1.4%と予想しています。3月16日のMPCでは、昨年7月以来の利上げ主張する委員が現れました。
(1) BOE政策金利(2017年3月16日21:00発表予定、事前分析済)
(2) MPC議事録(上記と同時発表)
(3) 四半期インフレ報告(上記と同時発表)
A3. 景気指標
A31. 産業
PMIは高い水準となっています。がしかし、実態指標が小売好調で鉱工業悪化の兆しが見え始めています。古いジンクスですが、製造業の景況感が悪化し始めると、サービス業もそれを追いかける、という言い伝えがあります。
(1) 製造業PMI(2017年3月1日発表結果検証済)
(2) サービス業PMI(2017年3月3日発表結果検証済)
A4. 物価指標
主要国でCPI・RPI・PPIが一度に発表されるのは英国だけです。CPIやRPIの発表結果が揃って改善/悪化すると、驚くほど大きく反応するので注意が必要です。なお、3月発表(2月集計分)では、BOEのインフレ目標2%に達しています。今後ますますCPIと金利との関係解説記事が増えることでしょう。
(1) 消費者物価指数・小売物価指数・生産者物価指数(2017年3月21日発表結果検証済)
A5. 雇用指標
英国経済指標は、指標発表結果に対して素直な反応をしがちです。がしかし、雇用統計だけは別です。指標発表結果の良し悪しに予想がついても、どちらに反応するかがわからない指標です。発表を跨いでポジションを取っても良い指標ではありません。十分大きな反応が予想され、どちらに転ぶかわからない以上、追いかけてポジションを持つべき指標です。
(1) 失業保険申請件数・失業率(2017年3月15日発表結果検証済)
B. 経済情勢指標
IMF予想によれば、英国の2017年経済成長は1.5%となっています。これはPIGS諸国を抱えるEUの1.6%を下回っており、2018年は英国が1.4%、EUが1.6%と、その差が広がる予想となっています。現状はその差の広がり方が緩やかに見えるので、この差が広がるスピードが速まるような話(懸念であっても)が出れば、GBPは一気に売られるリスクを抱えています。
B1. 経済成長
(1) 四半期GDP速報値
(2) 四半期GDP改定値(2017年2月22日発表結果検証済)
(3) 四半期GDP確定値(2017年3月31日発表結果検証済)
B3. 実態指標
(1) 小売売上高指数(2017年3月23日発表結果検証済)
(2) 鉱工業生産(2017年3月10日発表結果検証済済)
以上
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