2023年07月13日
懐かしのサンデーコミックス
ほんの少し前まで、サンデーコミックスという漫画コミックスのレーベルが現役で活躍していました。
と言っても、これは「少年サンデー」(小学館)に掲載されたマンガを収録したコミックスではありません。発行元は秋田書店であり、しかし、秋田書店の雑誌以外で発表された有名マンガなども、このレーベルからは、大量に発行されていたのです。
日本のマンガ文化は、はじめっから、完全な形で確立していた訳ではなく、マンガ黎明期の頃に雑誌で発表されたマンガに関しては、単行本化されないものも少なくありませんでした。そうした古い名作マンガを救い出して、新しい漫画ファンでも読めるようにコミックス化してくれた草分けがサンデーコミックスだったのです。
だから、サンデーコミックスからは、今でも沢山の人たちに読まれている有名マンガがいっぱい発売されていました。特に私ぐらいの世代(50代)の人間は、それらのマンガの雑誌掲載時は立ち会っていませんので、サンデーコミックスこそが、そのマンガとの初めての出会いだった事も多かったのです。
よって、私の世代は、サンデーコミックス版こそが、そのマンガの原初イメージだったりするのですが、実は、このサンデーコミックスって、けっこう内容の改編も多くて、曲者なのでした。
当時は、一冊のコミックスのページ数が約200ページというのが定着し始めた頃でしたので、この縛りの方が厳守されて、無理やり200ページに収まるように、元のマンガ原稿の方が手を加えられてしまったようなのです。オリジナルが大事にされる今の時代では考えられない話ですけどね。
そんな訳で、本来の連載版とは内容を大きく変えられてしまったサンデーコミックスのマンガと言うのを、いくつか、例として、ご紹介いたします。
まずは、「鉄人28号」(雑誌発表1956年)。
言わずと知れた横山光輝先生の有名すぎるロボット漫画です。これほどの名作ですら、当時は、誰でも手軽に読める状態ではありませんでした。いえ、さすがに、これほどの有名作品でしたら、過去にも何度か単行本化はされていたのですが、それらの単行本は、いずれも早々に絶版となっていたのです。
で、持続的に発売され続ける「鉄人」コミックスとして、このサンデーコミックス(1965年)が生き残った訳です。ところが、このサンデーコミックス版というのが、いろいろと問題のある内容なのでした。
まず、雑誌連載の最初の方のエピソードがごっそりと欠けています。いきなり、不乱拳博士が登場するエピソードから始まるのです。ゆえに、鉄人28号の誕生秘話も、雑誌とは大きく異なるエピソードが語られます。それどころか、この不乱拳博士のエピソードからして、雑誌版とは展開がかなり変更されているのです。そんな感じで、サンデーコミックスの「鉄人28号」は、雑誌版とはあちこちが違っているのでした。
でも、雑誌版を知らない私ぐらいの世代は、このサンデーコミックス版こそが「鉄人28号」の正しいストーリーなのだと思い込んでいたのでした。
ちなみに、このサンデーコミックスの「鉄人」が、ここまで雑誌版と違っていた理由は、先行して発売されていたカッパ・コミクス版の「鉄人28号」(1964年)をベースに使っていたせいでもありました。カッパ・コミクス版の「鉄人」は、1冊100ページとさらにページ制限が厳しくて、元の原稿をそうとう書き換えまくっていたのです。
ややこやしい事に、テレビで放送された「鉄人28号」は、実写版(1960年)にせよ、モノクロアニメ版(1963年)にせよ、雑誌掲載版のストーリーが採用されています。その為、私ぐらいの世代は、あとから実写版やモノクロアニメを観たのですが、サンデーコミックスの「鉄人」とまるで内容が違ったものだから、大いに戸惑ったものなのでした。
皮肉なことに、モノクロアニメ版は、雑誌掲載の「鉄人28号」を頭の方から順に忠実にアニメ化していましたので、これらのアニメの原作ストーリーをサンデーコミックスでは全く読む事ができなかったのでありました。
近年、「鉄人28号」は、原作完全版のコミックス(2005年)が発売され、その本来の内容が復活する事となりました。しかし、私ぐらいの世代は、むしろ、サンデーコミックス版の「鉄人」のストーリーの方が馴染み深かったりもするのでした。
「海のトリトン」(新聞発表1969年)。
こちらも、手塚治虫先生の名作マンガの一つです。1972年にアニメ化され、その勢いで、同年末に、サンデーコミックスで初単行本化されました。
このマンガは、初公開時は、実は、新聞掲載の1話1ページ漫画でした。だから、1ページの中にけっこうなコマ数が詰め込まれていた訳です。しかし、サンデーコミックスでの単行本化にあたり、それでは子供は読みづらかろうと考えたのか、書き直し大好きの手塚先生は、ごっそりと加筆してしまったのでした。
結果的に、サンデーコミックスに収録された「トリトン」は、大きなコマどころか、見開きページまで有る、ごくごく普通の少年マンガにと生まれ変わりました。その際、いくつもの小さなエピソードを削ったり、話の流れが作り直されたりもしたのでした。
最大の修正点としては、宿敵ポセイドンの退治方法があります。不死身のポセイドンは、新聞版では、宇宙に追放する形でケリがつきましたが、サンデーコミックス版は、そのへんを丸ごとカットしてしまいましたので、要塞を爆発させただけで、不死身ポセイドンも十分に滅ぼせたような感じになっています。
また、トリトンの師匠・丹下全膳の死も、話が湿っぽくなると思ったのか、サンデーコミックスでは、そっくり省かれていました。
序盤の和也のエピソードも、サンデーコミックスでは少し短くなっているのですが、これについては、短くした方が、綺麗に話がまとまったような印象も受けます。
この「海のトリトン」も、講談社の手塚治虫漫画全集に収録される(1979年)にあたって、オリジナル重視で、新聞掲載のバージョンが採用される事となりました。つまり、サンデーコミックス版とは要所が異なる「トリトン」が収録された訳です。当時、この全集版とサンデーコミックス版の「トリトン」を読み比べた読者は、絶妙な内容の違いにビックリしたかもしれません。
なお、以後、新たに発行された「トリトン」コミックスは、ほぼ全集版の方で統一されています。
このように、サンデーコミックスは、現在、普遍的に読まれている、そのマンガのコミックスとは、微妙に内容が異なっているのであります。そして、私ぐらいの世代のマンガ好きの場合は、サンデーコミックスの構成の方が、頭に焼き付いていたりもするのです。
もし、そのマンガの大ファンだと言うのでしたら、一応、サンデーコミックス版も揃えておいた方が、より、そのマンガの世界観を楽しめるかも知れません。
と言っても、これは「少年サンデー」(小学館)に掲載されたマンガを収録したコミックスではありません。発行元は秋田書店であり、しかし、秋田書店の雑誌以外で発表された有名マンガなども、このレーベルからは、大量に発行されていたのです。
日本のマンガ文化は、はじめっから、完全な形で確立していた訳ではなく、マンガ黎明期の頃に雑誌で発表されたマンガに関しては、単行本化されないものも少なくありませんでした。そうした古い名作マンガを救い出して、新しい漫画ファンでも読めるようにコミックス化してくれた草分けがサンデーコミックスだったのです。
だから、サンデーコミックスからは、今でも沢山の人たちに読まれている有名マンガがいっぱい発売されていました。特に私ぐらいの世代(50代)の人間は、それらのマンガの雑誌掲載時は立ち会っていませんので、サンデーコミックスこそが、そのマンガとの初めての出会いだった事も多かったのです。
よって、私の世代は、サンデーコミックス版こそが、そのマンガの原初イメージだったりするのですが、実は、このサンデーコミックスって、けっこう内容の改編も多くて、曲者なのでした。
当時は、一冊のコミックスのページ数が約200ページというのが定着し始めた頃でしたので、この縛りの方が厳守されて、無理やり200ページに収まるように、元のマンガ原稿の方が手を加えられてしまったようなのです。オリジナルが大事にされる今の時代では考えられない話ですけどね。
そんな訳で、本来の連載版とは内容を大きく変えられてしまったサンデーコミックスのマンガと言うのを、いくつか、例として、ご紹介いたします。
まずは、「鉄人28号」(雑誌発表1956年)。
言わずと知れた横山光輝先生の有名すぎるロボット漫画です。これほどの名作ですら、当時は、誰でも手軽に読める状態ではありませんでした。いえ、さすがに、これほどの有名作品でしたら、過去にも何度か単行本化はされていたのですが、それらの単行本は、いずれも早々に絶版となっていたのです。
で、持続的に発売され続ける「鉄人」コミックスとして、このサンデーコミックス(1965年)が生き残った訳です。ところが、このサンデーコミックス版というのが、いろいろと問題のある内容なのでした。
まず、雑誌連載の最初の方のエピソードがごっそりと欠けています。いきなり、不乱拳博士が登場するエピソードから始まるのです。ゆえに、鉄人28号の誕生秘話も、雑誌とは大きく異なるエピソードが語られます。それどころか、この不乱拳博士のエピソードからして、雑誌版とは展開がかなり変更されているのです。そんな感じで、サンデーコミックスの「鉄人28号」は、雑誌版とはあちこちが違っているのでした。
でも、雑誌版を知らない私ぐらいの世代は、このサンデーコミックス版こそが「鉄人28号」の正しいストーリーなのだと思い込んでいたのでした。
ちなみに、このサンデーコミックスの「鉄人」が、ここまで雑誌版と違っていた理由は、先行して発売されていたカッパ・コミクス版の「鉄人28号」(1964年)をベースに使っていたせいでもありました。カッパ・コミクス版の「鉄人」は、1冊100ページとさらにページ制限が厳しくて、元の原稿をそうとう書き換えまくっていたのです。
ややこやしい事に、テレビで放送された「鉄人28号」は、実写版(1960年)にせよ、モノクロアニメ版(1963年)にせよ、雑誌掲載版のストーリーが採用されています。その為、私ぐらいの世代は、あとから実写版やモノクロアニメを観たのですが、サンデーコミックスの「鉄人」とまるで内容が違ったものだから、大いに戸惑ったものなのでした。
皮肉なことに、モノクロアニメ版は、雑誌掲載の「鉄人28号」を頭の方から順に忠実にアニメ化していましたので、これらのアニメの原作ストーリーをサンデーコミックスでは全く読む事ができなかったのでありました。
近年、「鉄人28号」は、原作完全版のコミックス(2005年)が発売され、その本来の内容が復活する事となりました。しかし、私ぐらいの世代は、むしろ、サンデーコミックス版の「鉄人」のストーリーの方が馴染み深かったりもするのでした。
「海のトリトン」(新聞発表1969年)。
こちらも、手塚治虫先生の名作マンガの一つです。1972年にアニメ化され、その勢いで、同年末に、サンデーコミックスで初単行本化されました。
このマンガは、初公開時は、実は、新聞掲載の1話1ページ漫画でした。だから、1ページの中にけっこうなコマ数が詰め込まれていた訳です。しかし、サンデーコミックスでの単行本化にあたり、それでは子供は読みづらかろうと考えたのか、書き直し大好きの手塚先生は、ごっそりと加筆してしまったのでした。
結果的に、サンデーコミックスに収録された「トリトン」は、大きなコマどころか、見開きページまで有る、ごくごく普通の少年マンガにと生まれ変わりました。その際、いくつもの小さなエピソードを削ったり、話の流れが作り直されたりもしたのでした。
最大の修正点としては、宿敵ポセイドンの退治方法があります。不死身のポセイドンは、新聞版では、宇宙に追放する形でケリがつきましたが、サンデーコミックス版は、そのへんを丸ごとカットしてしまいましたので、要塞を爆発させただけで、不死身ポセイドンも十分に滅ぼせたような感じになっています。
また、トリトンの師匠・丹下全膳の死も、話が湿っぽくなると思ったのか、サンデーコミックスでは、そっくり省かれていました。
序盤の和也のエピソードも、サンデーコミックスでは少し短くなっているのですが、これについては、短くした方が、綺麗に話がまとまったような印象も受けます。
この「海のトリトン」も、講談社の手塚治虫漫画全集に収録される(1979年)にあたって、オリジナル重視で、新聞掲載のバージョンが採用される事となりました。つまり、サンデーコミックス版とは要所が異なる「トリトン」が収録された訳です。当時、この全集版とサンデーコミックス版の「トリトン」を読み比べた読者は、絶妙な内容の違いにビックリしたかもしれません。
なお、以後、新たに発行された「トリトン」コミックスは、ほぼ全集版の方で統一されています。
このように、サンデーコミックスは、現在、普遍的に読まれている、そのマンガのコミックスとは、微妙に内容が異なっているのであります。そして、私ぐらいの世代のマンガ好きの場合は、サンデーコミックスの構成の方が、頭に焼き付いていたりもするのです。
もし、そのマンガの大ファンだと言うのでしたら、一応、サンデーコミックス版も揃えておいた方が、より、そのマンガの世界観を楽しめるかも知れません。
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