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2019年02月28日
映画「情婦マノン」究極の愛の行方
「情婦マノン」(Manon) 1949年 フランス
監督・脚本アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
原作アベ・プレヴォー
撮影アルマン・ティラール
音楽ポール・ミスラキ
〈キャスト〉
セシル・オーブリー ミシェル・オークレール
セルジュ・レジアニ
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞
地中海を航行する貨物船(ユダヤ人を運ぶ密航船でもあります)の中で、若い男女の密航者が発見されます。
男の名前はロベール・クレスタール(ミシェル・オークレール)、女の名前はマノン・レスコー(セシル・オーブリー)。
いつ、どうして密航しようとしたのだ、と船長は二人を問い詰めます。
最初は反抗的な態度だったロベールでしたが、やがて彼の口からそれまでのいきさつが語られてゆきます。
パリ解放の間近いフランス、ノルマンディーの村。
レジスタンスに身を投じていたロベールは、ある日、ドイツ兵と親交があったという理由で、フランスを売った売国奴として村の人たちからリンチを受けそうになっている若い女性を助けます。
女性を助けはしましたが、最初はまったく関心のなかったロベールは、いつしか彼女の魅力に惹かれ、二人はノルマンディーを離れ、パリで一緒に暮らし始めます。
戦争も終わり、静かな田舎暮らしを望んでいるロベールでしたが、彼女(マノン)は華やかなパリを去る気にはなれず、ロベールの収入だけではパリでの豊かな生活が送れないからと、マノンは働き始め、ロベールもそんな彼女の気を惹くために、闇商売にも足を踏み入れることになります。
マノンは少女のような外見とは裏腹に、贅沢が身に沁み込んだ奔放な女でした。ロベールには、男は一人も知らないと言いながら、実際には数多くの男たちの中で生きてきた娼婦のしたたかさを持った女でした。
マノンの行動を尾行し、娼館でのマノンを発見したロベールでしたが、そんな堕落した女と知りながらも、ロベールは彼女から去る気にはなれず、マノンに対する愛は深まってゆきます。
マノンもロベールの愛に応えようとしますが、闇商売のトラブルからマノンの兄レオンを殺害したロベールは、マノンと二人でパリからの逃避行を続け、貨物船に密航します。
ロベールの話を聞いた船長は二人に同情し、ユダヤ人と共にパレスチナへの上陸の許可を与えます。
ユダヤ人たちとアレクサンドリアへ上陸したロベールとマノンでしたが、そこには予想もしていなかった悲劇が二人を待っていました。
約束の地パレスチナ
マノン・レスコーはしたたかな女です。
ノルマンディーの村でロベールに助けられ、最初はロベールから冷たくあしらわれていたマノンでしたが、自分の魅力を知っている彼女はロベールに迫り、彼の愛をつかむと戦火の激しくなったノルマンディーを離れ、二人でパリへと向かいます。
贅沢な暮らしを望むマノンは、ロベールの愛を裏切り、娼婦にまで身を持ち崩してゆきます。ロベールはマノンの本性を知りながらも愛を捨て去ろうとはしません。
ここまで見てくると、どうしてこんな女がいいのだろうと、ロベールという男の気持ちが理解できません。
しかし、愛とは本来理解できないものなのかもしれません。
男の目からみるとロベールの気持ちは分かりませんが、逆に、自堕落な男に女性が惹かれるという例もあることで、どうしてあんな男がいいのだろうと思われることが世間にはよくあります。
しかし、ロベールがマノンの兄レオンを殺し、一人でマルセイユに向かおうとすることから、マノンの心に変化が生まれます。本当に自分を想ってくれる男はロベールしかいないことに気づくのです。
「情婦マノン」は中盤からラストにかけてが名匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの手腕が思う存分に発揮されていると思います。
ロベールを追いかけて、人の波の中から動き出した列車に飛び乗り、大混雑の人混みをかき分けてロベールを探し出すマノン。抱き合う二人のセリフは汽笛にかき消されて聞こえません。ここまでのシーンは、イタリアン・リアリズムと同じく、当時、数多くの名作を生みだしたフランス映画の活力を感じます。
また、この物語はマノンとロベールだけではなく、登場人物すべてに個性が与えられています。
娼館の前でロベールを振り返る通りすがりの男から、娼館のマダム、その小間使い、密航船の船長、金品をもらってマノンの要求を聞いてやる船員、パリのワイン王、マノンの兄レオン。
そして、この映画で重層的な背景をなしているのが、密航船のユダヤ人たちです。
自分たちの国を持たない彼らは、神からの「約束の地」パレスチナを目指しますが、そこに待ち構えていたのはアラブの一団で(この背景はよく分かりませんが、アラビア半島ではアラブの民族紛争が活発化していたので、他民族を排撃する武装集団かもしれません)、マノンはユダヤ人と共に殺戮の犠牲となってしまいます。
ひとり生き残ったロベールは、銃弾に倒れて死体となったマノンを抱き抱え、砂の上を引きずり、服は裂けて乳房が露わになったマノンの死体を担いで歩き、やがて力尽きます。
マノンの死体を顔だけ出して砂に埋め、ロベールはつぶやきます。
「そのうち君は腐るんだ。…それでも僕は君を愛している」
聖書の創世記すら想起させる、恐ろしくも崇高なラストです。
監督・脚本アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
原作アベ・プレヴォー
撮影アルマン・ティラール
音楽ポール・ミスラキ
〈キャスト〉
セシル・オーブリー ミシェル・オークレール
セルジュ・レジアニ
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞
地中海を航行する貨物船(ユダヤ人を運ぶ密航船でもあります)の中で、若い男女の密航者が発見されます。
男の名前はロベール・クレスタール(ミシェル・オークレール)、女の名前はマノン・レスコー(セシル・オーブリー)。
いつ、どうして密航しようとしたのだ、と船長は二人を問い詰めます。
最初は反抗的な態度だったロベールでしたが、やがて彼の口からそれまでのいきさつが語られてゆきます。
パリ解放の間近いフランス、ノルマンディーの村。
レジスタンスに身を投じていたロベールは、ある日、ドイツ兵と親交があったという理由で、フランスを売った売国奴として村の人たちからリンチを受けそうになっている若い女性を助けます。
女性を助けはしましたが、最初はまったく関心のなかったロベールは、いつしか彼女の魅力に惹かれ、二人はノルマンディーを離れ、パリで一緒に暮らし始めます。
戦争も終わり、静かな田舎暮らしを望んでいるロベールでしたが、彼女(マノン)は華やかなパリを去る気にはなれず、ロベールの収入だけではパリでの豊かな生活が送れないからと、マノンは働き始め、ロベールもそんな彼女の気を惹くために、闇商売にも足を踏み入れることになります。
マノンは少女のような外見とは裏腹に、贅沢が身に沁み込んだ奔放な女でした。ロベールには、男は一人も知らないと言いながら、実際には数多くの男たちの中で生きてきた娼婦のしたたかさを持った女でした。
マノンの行動を尾行し、娼館でのマノンを発見したロベールでしたが、そんな堕落した女と知りながらも、ロベールは彼女から去る気にはなれず、マノンに対する愛は深まってゆきます。
マノンもロベールの愛に応えようとしますが、闇商売のトラブルからマノンの兄レオンを殺害したロベールは、マノンと二人でパリからの逃避行を続け、貨物船に密航します。
ロベールの話を聞いた船長は二人に同情し、ユダヤ人と共にパレスチナへの上陸の許可を与えます。
ユダヤ人たちとアレクサンドリアへ上陸したロベールとマノンでしたが、そこには予想もしていなかった悲劇が二人を待っていました。
約束の地パレスチナ
マノン・レスコーはしたたかな女です。
ノルマンディーの村でロベールに助けられ、最初はロベールから冷たくあしらわれていたマノンでしたが、自分の魅力を知っている彼女はロベールに迫り、彼の愛をつかむと戦火の激しくなったノルマンディーを離れ、二人でパリへと向かいます。
贅沢な暮らしを望むマノンは、ロベールの愛を裏切り、娼婦にまで身を持ち崩してゆきます。ロベールはマノンの本性を知りながらも愛を捨て去ろうとはしません。
ここまで見てくると、どうしてこんな女がいいのだろうと、ロベールという男の気持ちが理解できません。
しかし、愛とは本来理解できないものなのかもしれません。
男の目からみるとロベールの気持ちは分かりませんが、逆に、自堕落な男に女性が惹かれるという例もあることで、どうしてあんな男がいいのだろうと思われることが世間にはよくあります。
しかし、ロベールがマノンの兄レオンを殺し、一人でマルセイユに向かおうとすることから、マノンの心に変化が生まれます。本当に自分を想ってくれる男はロベールしかいないことに気づくのです。
「情婦マノン」は中盤からラストにかけてが名匠アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの手腕が思う存分に発揮されていると思います。
ロベールを追いかけて、人の波の中から動き出した列車に飛び乗り、大混雑の人混みをかき分けてロベールを探し出すマノン。抱き合う二人のセリフは汽笛にかき消されて聞こえません。ここまでのシーンは、イタリアン・リアリズムと同じく、当時、数多くの名作を生みだしたフランス映画の活力を感じます。
また、この物語はマノンとロベールだけではなく、登場人物すべてに個性が与えられています。
娼館の前でロベールを振り返る通りすがりの男から、娼館のマダム、その小間使い、密航船の船長、金品をもらってマノンの要求を聞いてやる船員、パリのワイン王、マノンの兄レオン。
そして、この映画で重層的な背景をなしているのが、密航船のユダヤ人たちです。
自分たちの国を持たない彼らは、神からの「約束の地」パレスチナを目指しますが、そこに待ち構えていたのはアラブの一団で(この背景はよく分かりませんが、アラビア半島ではアラブの民族紛争が活発化していたので、他民族を排撃する武装集団かもしれません)、マノンはユダヤ人と共に殺戮の犠牲となってしまいます。
ひとり生き残ったロベールは、銃弾に倒れて死体となったマノンを抱き抱え、砂の上を引きずり、服は裂けて乳房が露わになったマノンの死体を担いで歩き、やがて力尽きます。
マノンの死体を顔だけ出して砂に埋め、ロベールはつぶやきます。
「そのうち君は腐るんだ。…それでも僕は君を愛している」
聖書の創世記すら想起させる、恐ろしくも崇高なラストです。