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2019年02月22日
映画「モロッコ」伝説の大スターが共演した不朽の名作
「モロッコ」(Morocco) 1930年 アメリカ
監督ジョセフ・フォン・スタンバーグ
原作ベノ・ヴィグニー
脚本ジュールス・ファースマン
撮影リー・ガームス
音楽カール・ハヨス
〈キャスト〉
マレーネ・ディートリッヒ ゲイリー・クーパー
アドルフ・マンジュー
北アフリカの北西部に位置するモロッコは立憲君主制国家ですが、20世紀初頭よりイギリス・フランス・ドイツ・スペインなどのヨーロッパ列強の支配にさらされた歴史を持ちます。
後にその大部分はフランスの保護領になりますから、映画「モロッコ」はフランス外人部隊と反乱軍との戦いが背景にあると思われます。
映画は特に時代背景や政治状況については何らの説明も与えてはいません。それは政治や国際情勢に重きを置いた映画ではなく、ベノ・ヴィグニーの原作が「アミー・ジョリー」であり、映画のヒロイン、アミー・ジョリー(マレーネ・ディートリッヒ)を描いたものであるからでしょう。
モロッコの町へ外人部隊がやって来ます。彼らには短い休暇が与えられ、軍隊としての規律を守ることを要求されながらも、ある程度の自由が許されます。
そんな外人部隊の中でも、ひときわ背の高いトム・ブラウン(ゲイリー・クーパー)は酒と女に目がなく、さっそく町の女たちとの休暇を楽しみ始めます。
一方、町の酒場兼劇場に歌手として海を渡ってきたアミー・ジョリーは、初ステージで観客からブーイングを浴びながらも、冷めた目で観客を見下ろし、その妖艶さがやがて観客を魅了します。
客席にいたトム・ブラウンはそんな彼女に惹きつけられ、トムの目を意識したアミーは部屋のカギをそっとトムの手に握らせます。
トムとアミーは恋に落ちますが、アミーに惹かれたのはトムだけではなく、フランス人の富豪ベシエール(アドルフ・マンジュー)もそのひとりでした。
ベシエールは人間的な懐の深さと財力を併せ持った男で、アミーはベシエールの求婚を受けることを決心します。
失意のトムはアミーに別れを告げ、苛酷な状況の待つ戦場へと出発することになります。
アミーはトムを見捨てることができず、砂漠へと旅立つ部隊の後を追います。
後の第二次世界大戦では連合軍の兵士の間で厭戦気分を高める歌「リリー・マルレーン」が大ヒットし、伝説的な歌手となったマレーネ・ディートリッヒ。
「モロッコ」と同じ時期に、同じスタンバーグ監督による「嘆きの天使」では生真面目な英語教師を破滅に導く妖艶な堕天使を演じたディートリッヒは、その存在自体が妖しい魅力を放っています。
モロッコの劇場での初日は、観客のブーイングをものともせず、冷徹な眼差しで観客を見る姿はカリスマ性を持った大スターの貫禄たっぷりで、中でも、観客の女性の髪飾りから花を受け取り、彼女の唇にキスをするシーンは、アミー(ディートリッヒ)が男装の麗人であるため、ハッとするほどの一瞬のエロティシズムでした。
中年以降は真面目で人間的な厚みを増したゲイリー・クーパーですが、そんなクーパーのイメージからはほど遠い、軽薄な女たらしのトム・ブラウン。そんな男であっても、兵士仲間からは「あいつは女たらしだが、いい奴だ」と言われる、意外な心の広さを持った男。
しかし、アミーをはさんでベシエールとの間に恋のさや当てめいたものがなかったのは、トムの心の広さと同時に、富豪のベシエールに対して、貧しい一兵士でしかない自分をよく知っていたからなのだともいえます。
トムとベシエールとの間で揺れるアミーは、最後にはベシエールの元を去り、トムの後を追いかけてゆきます。
しかし、この映画、けっしてハッピーエンドとはいえません。
「モロッコ」には数多くの無名の女たちが登場します。
その中で、転戦する部隊の後について歩く5、6人の女たちの一団があります。
ボロをまとい、二匹の山羊を連れて陰鬱な表情で歩く彼女たちを見てアミーは言います。
「彼女たちはなに?」
ベシエールは答えます「護衛部隊だ」
「追いつけるの?」
「追いついても、男が死んでいる場合が多い」
護衛部隊が何を指しているのかは分かりませんが、男たちの愛情を求めている女たちであるのは確かなようです。
「モロッコ」には常に死の影が漂っています。
アミーが登場する船上のシーンで、ベシエールは船長にアミーの素性を訪ねます。
船長は答えます。「舞台芸人ですよ」続けて船長はこう言います。「自殺志願者とも呼ばれています」
片道切符しか持たないため、そう呼ばれるのですが、トムと知り合ったアミーはこんなことも言います。「女の外人部隊もあるのよ。傷ついても保障もなく、勲章もないけど」。
「モロッコ」の影の主役は、名もなき女性たちでもあります。
部隊の影に寄り添い、誰に振り向かれることもなく、黙々と歩く女性たち。
ラストは、護衛部隊と呼ばれる女性たちに混じってアミーが素足で部隊を追いかける場面で終わるのですが、そこには砂漠を吹きわたる風の音だけがヒュー、ヒューと聞こえて幕を閉じます。
映画史上、最も有名なラストシーンのひとつに数えられるこの場面。
アミーは元気よく護衛部隊の女性たちと共に歩いていくのですが、砂丘の向こうに兵士と女性たちの姿が消え、風の音だけが聞こえるラストは、部隊の全滅と女性たちの死を予感させ、不吉な余韻すら漂っています。
マレーネ・ディートリッヒとゲイリー・クーパー。
伝説の大スターたちが織りなす不朽の名作です。
監督ジョセフ・フォン・スタンバーグ
原作ベノ・ヴィグニー
脚本ジュールス・ファースマン
撮影リー・ガームス
音楽カール・ハヨス
〈キャスト〉
マレーネ・ディートリッヒ ゲイリー・クーパー
アドルフ・マンジュー
北アフリカの北西部に位置するモロッコは立憲君主制国家ですが、20世紀初頭よりイギリス・フランス・ドイツ・スペインなどのヨーロッパ列強の支配にさらされた歴史を持ちます。
後にその大部分はフランスの保護領になりますから、映画「モロッコ」はフランス外人部隊と反乱軍との戦いが背景にあると思われます。
映画は特に時代背景や政治状況については何らの説明も与えてはいません。それは政治や国際情勢に重きを置いた映画ではなく、ベノ・ヴィグニーの原作が「アミー・ジョリー」であり、映画のヒロイン、アミー・ジョリー(マレーネ・ディートリッヒ)を描いたものであるからでしょう。
モロッコの町へ外人部隊がやって来ます。彼らには短い休暇が与えられ、軍隊としての規律を守ることを要求されながらも、ある程度の自由が許されます。
そんな外人部隊の中でも、ひときわ背の高いトム・ブラウン(ゲイリー・クーパー)は酒と女に目がなく、さっそく町の女たちとの休暇を楽しみ始めます。
一方、町の酒場兼劇場に歌手として海を渡ってきたアミー・ジョリーは、初ステージで観客からブーイングを浴びながらも、冷めた目で観客を見下ろし、その妖艶さがやがて観客を魅了します。
客席にいたトム・ブラウンはそんな彼女に惹きつけられ、トムの目を意識したアミーは部屋のカギをそっとトムの手に握らせます。
トムとアミーは恋に落ちますが、アミーに惹かれたのはトムだけではなく、フランス人の富豪ベシエール(アドルフ・マンジュー)もそのひとりでした。
ベシエールは人間的な懐の深さと財力を併せ持った男で、アミーはベシエールの求婚を受けることを決心します。
失意のトムはアミーに別れを告げ、苛酷な状況の待つ戦場へと出発することになります。
アミーはトムを見捨てることができず、砂漠へと旅立つ部隊の後を追います。
後の第二次世界大戦では連合軍の兵士の間で厭戦気分を高める歌「リリー・マルレーン」が大ヒットし、伝説的な歌手となったマレーネ・ディートリッヒ。
「モロッコ」と同じ時期に、同じスタンバーグ監督による「嘆きの天使」では生真面目な英語教師を破滅に導く妖艶な堕天使を演じたディートリッヒは、その存在自体が妖しい魅力を放っています。
モロッコの劇場での初日は、観客のブーイングをものともせず、冷徹な眼差しで観客を見る姿はカリスマ性を持った大スターの貫禄たっぷりで、中でも、観客の女性の髪飾りから花を受け取り、彼女の唇にキスをするシーンは、アミー(ディートリッヒ)が男装の麗人であるため、ハッとするほどの一瞬のエロティシズムでした。
中年以降は真面目で人間的な厚みを増したゲイリー・クーパーですが、そんなクーパーのイメージからはほど遠い、軽薄な女たらしのトム・ブラウン。そんな男であっても、兵士仲間からは「あいつは女たらしだが、いい奴だ」と言われる、意外な心の広さを持った男。
しかし、アミーをはさんでベシエールとの間に恋のさや当てめいたものがなかったのは、トムの心の広さと同時に、富豪のベシエールに対して、貧しい一兵士でしかない自分をよく知っていたからなのだともいえます。
トムとベシエールとの間で揺れるアミーは、最後にはベシエールの元を去り、トムの後を追いかけてゆきます。
しかし、この映画、けっしてハッピーエンドとはいえません。
「モロッコ」には数多くの無名の女たちが登場します。
その中で、転戦する部隊の後について歩く5、6人の女たちの一団があります。
ボロをまとい、二匹の山羊を連れて陰鬱な表情で歩く彼女たちを見てアミーは言います。
「彼女たちはなに?」
ベシエールは答えます「護衛部隊だ」
「追いつけるの?」
「追いついても、男が死んでいる場合が多い」
護衛部隊が何を指しているのかは分かりませんが、男たちの愛情を求めている女たちであるのは確かなようです。
「モロッコ」には常に死の影が漂っています。
アミーが登場する船上のシーンで、ベシエールは船長にアミーの素性を訪ねます。
船長は答えます。「舞台芸人ですよ」続けて船長はこう言います。「自殺志願者とも呼ばれています」
片道切符しか持たないため、そう呼ばれるのですが、トムと知り合ったアミーはこんなことも言います。「女の外人部隊もあるのよ。傷ついても保障もなく、勲章もないけど」。
「モロッコ」の影の主役は、名もなき女性たちでもあります。
部隊の影に寄り添い、誰に振り向かれることもなく、黙々と歩く女性たち。
ラストは、護衛部隊と呼ばれる女性たちに混じってアミーが素足で部隊を追いかける場面で終わるのですが、そこには砂漠を吹きわたる風の音だけがヒュー、ヒューと聞こえて幕を閉じます。
映画史上、最も有名なラストシーンのひとつに数えられるこの場面。
アミーは元気よく護衛部隊の女性たちと共に歩いていくのですが、砂丘の向こうに兵士と女性たちの姿が消え、風の音だけが聞こえるラストは、部隊の全滅と女性たちの死を予感させ、不吉な余韻すら漂っています。
マレーネ・ディートリッヒとゲイリー・クーパー。
伝説の大スターたちが織りなす不朽の名作です。