新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
2019年02月13日
映画「疑惑の影」- 憧れの叔父さんは殺人魔?
「疑惑の影」(Shadow of a Doubt) 1943年アメリカ
監督アルフレッド・ヒッチコック
脚本ソーントン・ワイルダー
アルマ・レヴィル
サリー・ベンソン
音楽ディミトリ・ティオムキン
撮影ジョセフ・ヴァレンタイン
〈キャスト〉
テレサ・ライト ジョゼフ・コットン
ヘンリー・トラヴァース マクドナルド・ケリー
カリフォルニアの静かな町サンタローザ。
銀行家ジョセフ・ニュートン(ヘンリー・トラヴァース)の長女であるチャーリー・ニュートン(テレサ・ライト)は、何不自由のない生活でありながら、自分の人生に変化を求めて、平凡な生活に嫌気がさしています。
そんなチャーリーのもとへ、かねてからの憧れであった叔父のチャールズ・オークリー(ジョゼフ・コットン)が現れます。
チャーリーと同じ名前を持つ叔父のチャールズ(チャーリー)がやって来たことで彼女は大喜び。
チャールズ・オークリーは成功した実業家であり、名声も高いことからニュートン一家は彼を歓迎。町での講演も依頼されたりします。
そんなチャールズですが、実は彼には連続未亡人殺人の容疑がかかっていて、姪のチャーリーは少しずつチャールズの挙動に不審を覚え、やがて殺人事件の真相を知ることになります。
★★★★★
巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督によるサスペンス・スリラーですが、「疑惑の影」という題名にいささか惑わされてしまいます。
映画半ばで疑惑はほぼ解明され、後半からはスリラーへと変化してゆくからです。
ミステリータッチでありながら、少し肩透かしをくったような展開になりますが、スリラーに突入してからのチャーリーに迫る命の危機や、ラストの列車のシーンなど、正統派スリラーの醍醐味を十分に味あわせてくれます。
チャールズ・オークリーはニュートン家に滞在することになり、家族の集う食事の最中、彼はこんなことを言います。
「暇を持て余した金持ち女は醜いブタだ」
この発言は繰り返され、カメラはチャールズ・オークリーの横顔にズンズンと迫ります。
チャールズ・オークリーという男の内面がカメラの演出で巧みに表現され、ラスコーリニコフ的な歪んだ社会感覚がチャールズの内奥を占めているのだということがあぶり出されていきます。
また、チャーリーの憧れであったカッコイイ叔父さんが実は…。
という設定は、最も近しい人が善人の仮面をかぶった恐ろしい存在だったという、人間不信をおこさせるようなスリラーになるのですが、幼児期のチャールズ・オークリーの様子が姉の口から語られることによって、彼の歪んだ人間性の一旦を垣間見ることになります。
さらに特筆すべきは、可憐なヒロインを演じたテレサ・ライト。
後年のヒッチコック好みのブロンドの美女というより、清楚な雰囲気を漂わせた美人で、退屈な日常を憂(うれ)いていた彼女が、死を目前にする恐怖に追いやられてしまうストーリー展開は「青い鳥」を裏返しにしたような、寓話的な面白さを感じました。
ただ、欠点もいくつか見られて、時間的な制約があったのか、政府の調査員のジャック・グラハム(マクドナルド・ケリー)が刑事だと分かってしまう場面は唐突な感じで、編集でどこかのシーンがカットされたような印象が残りましたし、執拗に繰り返される「メリー・ウィドウ・ワルツ」はチャールズの暗い過去に関連があったように思われるのですが、それもいつの間にか立ち消えになってしまいました。
それでもヒッチコックの演出の冴えは随所に光り、ジョゼフ・コットンの名演技、テレサ・ライトの可憐な魅力、ヘンリー・トラヴァースのおっとりとした人間味とユーモアなど、戦時中の映画とは思えない、ゆったりとした時代性すら感じさせる佳作です。
監督アルフレッド・ヒッチコック
脚本ソーントン・ワイルダー
アルマ・レヴィル
サリー・ベンソン
音楽ディミトリ・ティオムキン
撮影ジョセフ・ヴァレンタイン
〈キャスト〉
テレサ・ライト ジョゼフ・コットン
ヘンリー・トラヴァース マクドナルド・ケリー
カリフォルニアの静かな町サンタローザ。
銀行家ジョセフ・ニュートン(ヘンリー・トラヴァース)の長女であるチャーリー・ニュートン(テレサ・ライト)は、何不自由のない生活でありながら、自分の人生に変化を求めて、平凡な生活に嫌気がさしています。
そんなチャーリーのもとへ、かねてからの憧れであった叔父のチャールズ・オークリー(ジョゼフ・コットン)が現れます。
チャーリーと同じ名前を持つ叔父のチャールズ(チャーリー)がやって来たことで彼女は大喜び。
チャールズ・オークリーは成功した実業家であり、名声も高いことからニュートン一家は彼を歓迎。町での講演も依頼されたりします。
そんなチャールズですが、実は彼には連続未亡人殺人の容疑がかかっていて、姪のチャーリーは少しずつチャールズの挙動に不審を覚え、やがて殺人事件の真相を知ることになります。
★★★★★
巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督によるサスペンス・スリラーですが、「疑惑の影」という題名にいささか惑わされてしまいます。
映画半ばで疑惑はほぼ解明され、後半からはスリラーへと変化してゆくからです。
ミステリータッチでありながら、少し肩透かしをくったような展開になりますが、スリラーに突入してからのチャーリーに迫る命の危機や、ラストの列車のシーンなど、正統派スリラーの醍醐味を十分に味あわせてくれます。
チャールズ・オークリーはニュートン家に滞在することになり、家族の集う食事の最中、彼はこんなことを言います。
「暇を持て余した金持ち女は醜いブタだ」
この発言は繰り返され、カメラはチャールズ・オークリーの横顔にズンズンと迫ります。
チャールズ・オークリーという男の内面がカメラの演出で巧みに表現され、ラスコーリニコフ的な歪んだ社会感覚がチャールズの内奥を占めているのだということがあぶり出されていきます。
また、チャーリーの憧れであったカッコイイ叔父さんが実は…。
という設定は、最も近しい人が善人の仮面をかぶった恐ろしい存在だったという、人間不信をおこさせるようなスリラーになるのですが、幼児期のチャールズ・オークリーの様子が姉の口から語られることによって、彼の歪んだ人間性の一旦を垣間見ることになります。
さらに特筆すべきは、可憐なヒロインを演じたテレサ・ライト。
後年のヒッチコック好みのブロンドの美女というより、清楚な雰囲気を漂わせた美人で、退屈な日常を憂(うれ)いていた彼女が、死を目前にする恐怖に追いやられてしまうストーリー展開は「青い鳥」を裏返しにしたような、寓話的な面白さを感じました。
ただ、欠点もいくつか見られて、時間的な制約があったのか、政府の調査員のジャック・グラハム(マクドナルド・ケリー)が刑事だと分かってしまう場面は唐突な感じで、編集でどこかのシーンがカットされたような印象が残りましたし、執拗に繰り返される「メリー・ウィドウ・ワルツ」はチャールズの暗い過去に関連があったように思われるのですが、それもいつの間にか立ち消えになってしまいました。
それでもヒッチコックの演出の冴えは随所に光り、ジョゼフ・コットンの名演技、テレサ・ライトの可憐な魅力、ヘンリー・トラヴァースのおっとりとした人間味とユーモアなど、戦時中の映画とは思えない、ゆったりとした時代性すら感じさせる佳作です。