2019年03月29日
映画「ブリッジ・オブ・スパイ」東西冷戦の捕虜交換劇
「ブリッジ・オブ・スパイ」(Bridge of Spies)
2015年 アメリカ
監督スティーヴン・スピルバーグ
脚本マット・チャーマン
イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
撮影ヤヌス・カミンスキー
〈キャスト〉
トム・ハンクス マーク・ライランス
エイミー・ライアン
第88回アカデミー賞/ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ライランス)
東西両陣営
1945年に第二次世界大戦が終結し、戦勝国の首脳が集まったヤルタ会談から、戦後の世界は分割協定へと動き始めます。
その主要な対立軸となったのが、超大国となったアメリカを代表とする自由主義諸国と、ソビエト連邦を盟主とする社会主義国でした。
アジアでは朝鮮半島。ヨーロッパは主にドイツが対象となって、北と南、あるいは西と東に分断。アメリカ的自由主義とソビエトの社会主義的イデオロギーは全ヨーロッパを巻き込み、政治的・経済的にも異なった価値観を持った東西ヨーロッパへと変容してゆきます。
アメリカとソ連の対立は政治のみならず、軍事的にも激しく対立。
西側の北大西洋条約機構(NATO)に対して東側のワルシャワ条約機構が生まれ、米ソの核ミサイルの開発と配備は一触即発の緊張状態へと突き進んでゆきます。
こうした現状をイギリス人の作家でジャーナリストのジョージ・オーウェルは1947年に、冷たい戦争「冷戦」と呼びました。
ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)は法律事務所で保険裁判などを担当する弁護士。
彼はある日、ソ連の諜報員として逮捕されたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の国選弁護人を依頼されます。
時は1957年、東西冷戦の真っ只中。
ドノヴァンは刑事事件から遠ざかっていることや、敵国人の弁護を引き受けた場合の社会的非難、勝つ見込みのない裁判であることを考えると不安を覚えますが、弁護士としての職務に順じ、引き受けることにします。
拘置所を訪れ、アベルと面会したドノヴァンは、諜報員でありながら芸術家としての顔を持つアベルの落ち着いた物腰や、死を恐れず、国家に忠誠を尽くそうとする態度に友情にも似た感銘を受け、裁判での無罪判決に奔走しますが、陪審員の評決は有罪。
死刑だけは免(まぬが)れさせようとするドノヴァンは判事にかけあい、近い将来、スパイの交換があった場合の人質としてアベルの減刑を要求。
ドノヴァンの粘り強い交渉は功を奏し、アベルの死刑判決は退けられて懲役刑が確定します。
一方、パキスタンのアメリカ軍空軍基地ではU-2偵察機によるソ連への偵察飛行が行われようとしており、基地から飛び立ったパイロットのひとりフランシス・ゲーリー・パワーズ中尉はソ連のS-75地対空ミサイルの攻撃を受けて撃墜され、ソ連の捕虜となってしまいます。
さらに、ベルリンでは東西ドイツを二分する壁の建設が進められ、アメリカ人学生で経済学を専攻するフレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)は、恋人と一緒に東ドイツから西ドイツへ逃れるべく、壁建設の混乱に乗じて脱出を試みますが、ドイツ軍兵士に止められ、捕らわれてしまいます。
ドノヴァンの捕虜交換の予想は期せずして的中した形になり、ソ連側のアベルと、アメリカ側のパワーズとプライヤーの交換交渉をするべくドノヴァンは東ベルリンへ向かいますが、CIAとKGBが入り乱れて暗躍する中で交渉は難航。
CIAの要求はアベル対パワーズの一対一の交換だという主張に対し、ドノヴァンはあくまでパワーズとプライヤーも含めた一対二の交渉を主張。
持ち前の粘り強さでドノヴァンは捕虜交換の交渉を続け、アベル対パワーズ、そしてプライヤーも含めた一対二の交渉が実現します。
交換場所はドイツ・メクレンブルクからブランデンブルク、ベルリンへと流れるハーフェル川に架かるグリーニッケ橋。
東西両陣営が対峙する橋の上で西側からはアベル、東側からパワーズの姿が現れますが、もう一人現れるはずのプライヤーの姿が見えないまま、捕虜交換が進められようとしますが、ソ連側の意図を察したドノヴァンはギリギリまで交渉を制止、交渉は決裂かと思われましたが………。
見応え十分の捕虜交換ドラマ
題名からは、暗躍するスパイアクション映画という印象を受けますが、アメリカとソ連の諜報員の交換が行われた史実をもとに、冷戦という重い空気感の漂う時代の中で、国家やイデオロギーを超えた人間同士の信頼や友情を描いた重厚なヒューマンドラマであるといえます。
特に、アカデミー賞を始めとして数々の賞を総なめにした助演男優賞受賞のマーク・ライランスの演技は素晴らしく、諜報活動をする傍(かたわ)ら、画家としての卓越した才能を持っているルドルフ・アベルを物静かな芸術家として表現。
拘置所の中で、ドノヴァンが差し入れたと思われるラジオから流れるショスタコーヴィチの音楽を、乾いた心の中に染み込んでいくように聴き入る姿、少年時代の体験をドノヴァンの置かれた立場と重ね合わせて語る場面からは、物静かな芸術家であると同時に強い信念の持ち主であり、ドノヴァンに対する信頼が芽生え始める印象的なシーンでした。
冷戦時代は破壊的な戦争が起きることもなく、1991年のソ連崩壊により冷戦は終結しましたが、スパイの交換が行われたグリーニッケ橋が東西冷戦の象徴として観光地化されているように、冷戦時代を懐かしむ声があるのは、失われてしまった、あるいは失われつつある古き時代の家族としての在り方、友情、人間同士のつながりが強く残っていた時代であり、「ブリッジ・オブ・スパイ」はそういったものをも含めて描いた傑作です。
2015年 アメリカ
監督スティーヴン・スピルバーグ
脚本マット・チャーマン
イーサン・コーエン
ジョエル・コーエン
撮影ヤヌス・カミンスキー
〈キャスト〉
トム・ハンクス マーク・ライランス
エイミー・ライアン
第88回アカデミー賞/ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞(マーク・ライランス)
東西両陣営
1945年に第二次世界大戦が終結し、戦勝国の首脳が集まったヤルタ会談から、戦後の世界は分割協定へと動き始めます。
その主要な対立軸となったのが、超大国となったアメリカを代表とする自由主義諸国と、ソビエト連邦を盟主とする社会主義国でした。
アジアでは朝鮮半島。ヨーロッパは主にドイツが対象となって、北と南、あるいは西と東に分断。アメリカ的自由主義とソビエトの社会主義的イデオロギーは全ヨーロッパを巻き込み、政治的・経済的にも異なった価値観を持った東西ヨーロッパへと変容してゆきます。
アメリカとソ連の対立は政治のみならず、軍事的にも激しく対立。
西側の北大西洋条約機構(NATO)に対して東側のワルシャワ条約機構が生まれ、米ソの核ミサイルの開発と配備は一触即発の緊張状態へと突き進んでゆきます。
こうした現状をイギリス人の作家でジャーナリストのジョージ・オーウェルは1947年に、冷たい戦争「冷戦」と呼びました。
ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)は法律事務所で保険裁判などを担当する弁護士。
彼はある日、ソ連の諜報員として逮捕されたルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の国選弁護人を依頼されます。
時は1957年、東西冷戦の真っ只中。
ドノヴァンは刑事事件から遠ざかっていることや、敵国人の弁護を引き受けた場合の社会的非難、勝つ見込みのない裁判であることを考えると不安を覚えますが、弁護士としての職務に順じ、引き受けることにします。
拘置所を訪れ、アベルと面会したドノヴァンは、諜報員でありながら芸術家としての顔を持つアベルの落ち着いた物腰や、死を恐れず、国家に忠誠を尽くそうとする態度に友情にも似た感銘を受け、裁判での無罪判決に奔走しますが、陪審員の評決は有罪。
死刑だけは免(まぬが)れさせようとするドノヴァンは判事にかけあい、近い将来、スパイの交換があった場合の人質としてアベルの減刑を要求。
ドノヴァンの粘り強い交渉は功を奏し、アベルの死刑判決は退けられて懲役刑が確定します。
一方、パキスタンのアメリカ軍空軍基地ではU-2偵察機によるソ連への偵察飛行が行われようとしており、基地から飛び立ったパイロットのひとりフランシス・ゲーリー・パワーズ中尉はソ連のS-75地対空ミサイルの攻撃を受けて撃墜され、ソ連の捕虜となってしまいます。
さらに、ベルリンでは東西ドイツを二分する壁の建設が進められ、アメリカ人学生で経済学を専攻するフレデリック・プライヤー(ウィル・ロジャース)は、恋人と一緒に東ドイツから西ドイツへ逃れるべく、壁建設の混乱に乗じて脱出を試みますが、ドイツ軍兵士に止められ、捕らわれてしまいます。
ドノヴァンの捕虜交換の予想は期せずして的中した形になり、ソ連側のアベルと、アメリカ側のパワーズとプライヤーの交換交渉をするべくドノヴァンは東ベルリンへ向かいますが、CIAとKGBが入り乱れて暗躍する中で交渉は難航。
CIAの要求はアベル対パワーズの一対一の交換だという主張に対し、ドノヴァンはあくまでパワーズとプライヤーも含めた一対二の交渉を主張。
持ち前の粘り強さでドノヴァンは捕虜交換の交渉を続け、アベル対パワーズ、そしてプライヤーも含めた一対二の交渉が実現します。
交換場所はドイツ・メクレンブルクからブランデンブルク、ベルリンへと流れるハーフェル川に架かるグリーニッケ橋。
東西両陣営が対峙する橋の上で西側からはアベル、東側からパワーズの姿が現れますが、もう一人現れるはずのプライヤーの姿が見えないまま、捕虜交換が進められようとしますが、ソ連側の意図を察したドノヴァンはギリギリまで交渉を制止、交渉は決裂かと思われましたが………。
見応え十分の捕虜交換ドラマ
題名からは、暗躍するスパイアクション映画という印象を受けますが、アメリカとソ連の諜報員の交換が行われた史実をもとに、冷戦という重い空気感の漂う時代の中で、国家やイデオロギーを超えた人間同士の信頼や友情を描いた重厚なヒューマンドラマであるといえます。
特に、アカデミー賞を始めとして数々の賞を総なめにした助演男優賞受賞のマーク・ライランスの演技は素晴らしく、諜報活動をする傍(かたわ)ら、画家としての卓越した才能を持っているルドルフ・アベルを物静かな芸術家として表現。
拘置所の中で、ドノヴァンが差し入れたと思われるラジオから流れるショスタコーヴィチの音楽を、乾いた心の中に染み込んでいくように聴き入る姿、少年時代の体験をドノヴァンの置かれた立場と重ね合わせて語る場面からは、物静かな芸術家であると同時に強い信念の持ち主であり、ドノヴァンに対する信頼が芽生え始める印象的なシーンでした。
冷戦時代は破壊的な戦争が起きることもなく、1991年のソ連崩壊により冷戦は終結しましたが、スパイの交換が行われたグリーニッケ橋が東西冷戦の象徴として観光地化されているように、冷戦時代を懐かしむ声があるのは、失われてしまった、あるいは失われつつある古き時代の家族としての在り方、友情、人間同士のつながりが強く残っていた時代であり、「ブリッジ・オブ・スパイ」はそういったものをも含めて描いた傑作です。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/8678449
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック