2018年09月22日
一緒に学ぼう世界史のポイント 89 《ナポレオン３世のフランス》
世界史講義録より
一緒に学ぼう世界史のポイント 89 《ナポレオン３世のフランス》
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ナポレオン３世のフランス
フランスです。1848年の二月革命で七月王政が倒れて臨時政府が成立した話までしました。1848年の12月の大統領選挙で当選したのがナポレオン１世の甥のルイ＝ナポレオン。これも話した。さて、ルイ＝ナポレオンですがナポレオンの弟の子供です。大統領選挙に出馬するまでは何を遣って居たかと云うと、七月王政時代に陰謀事件を二回企てて共に失敗。その後はイギリスで亡命生活を送っていた。叔父さんの栄光に憧れて政治的に山ッ気の多い人だったようです。二月革命が起きるとフランスに帰って大統領選挙に出た。
皇帝 ナポレオン3世・ルイ＝ナポレオン ルイ＝ナポレオンがどんな政治的な信条を持っているのか?どんな政治家なのか?これは、殆ど知られて居なかった。でも彼が立候補するとその名前だけで当選してしまったんですね。
ナポレオン１世の戦争で多くのフランス人が命を落とした。１世が没落する時は殆どのフランス人がソッポを向いていました。だけれども１世の時代から既に30年以上経っている。戦争で家族を亡くして辛かった思いも薄れているのですね。ナポレオン１世時代にフランスがヨーロッパ全体に号令した栄光の記憶だけが呼び覚まされた。叔父の名声だけがルイ＝ナポレオンが当選した理由です。当選した時40歳です。
さて、ルイ＝ナポレオンは実に呆気なく当選したのですが、政治家としては結構強(したた)か。自分が当選した理由も充分わかっている、人気だけが頼りです。逆に言うと支持基盤がある訳では無いから、柵(しがらみ)無しに色んな政策を実行出来るとも言える。
余り後世の評価は高いとは言えませんが、結局20年以上も権力の座にあった事を思うと、したたかで有能な政治家だったと思います。1852年には、叔父さんと同じように国民投票によって皇帝に即位した。皇帝としての名前がナポレオン３世。２世が居るのかと云う話ですが、少年時代に死んでしまったナポレオン１世と、ハプスブルク家のマリー＝ルイーズとの間に生まれた男の子がナポレオン２世です。
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政策は、国内のあらゆる階層から人気を得る為に八方美人的です
・資本家の為には 国内産業の育成に力を入れる。ルイ＝ナポレオンの時代に、フランスの製鉄、紡績工業は大きく発展しました。又、その成果を世界に誇示するために1855年と1867年の二回、万国博覧会をパリで開催します。
・労働者や農民向けには 公共慈善事業や社会政策を進めた。病院や孤児院を作った。首都パリを大改造したのも有名。現在のパリの街並みはナポレオン３世によって作られたものです。それまでのパリは細い路地が入り組んだ迷路のような町で上下水道も整えられず衛生状態も悪かった。何よりも市民が路地にバリケードを築いて政府軍を寄せつけず革命や反乱を起こし易かったのを何とかしたかったようです。しかし、ナポレオン３世にとって何より肝心なことは、
・フランスの栄光を常に国民に意識させること これが人気の元ですから、万博の開催もその一つですが、一番手っ取り早いのは叔父のナポレオン１世と同様に戦争で勝利することです。但し、ルイ＝ナポレオンは戦争の指揮をする訳では無くそう云う能力は彼にはありません。世界の政治情勢を伺って、チャンスと見れば、詰まり勝てそうな戦争があれば軍隊を送り込む。具体的には・・・
・ロシアと戦った クリミア戦争(1853〜56)や
・中国清朝と戦った アロー戦争(1856〜60) この二つともイギリスと連合軍を作って居ます。
・インドシナ出兵(1858) これはベトナムを侵略した戦争。
・イタリア統一戦争(1859) サルディニア王国を助けた戦争ですね。
・メキシコ侵略戦争(1861〜67) これはメキシコの内政に干渉して自分の傀儡をメキシコ皇帝にしようとして行った戦争ですが、これで失敗してルイ＝ナポレオンの威信が低下する。
・更にプロイセンのビスマルクに挑発されて1870年普仏戦争を行うのですが、この時に戦場に出向いた結果逆に捕虜に生って退位させられた。この話は前回しました。
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ロシアと言い中国と言いベトナムと言い、誰が見てもフランスよりは弱い。しかもイギリスとの共同作戦ならば勝って当たり前。要するに後進国を相手に勝利して点数を稼いで居た訳です。当時イギリスもフランスもアジアに勢力を拡大しようとしている時です。清朝が衰えかけて居る時なので、一寸した外交上の不備を突いて戦争を吹っ掛けて相手に不平等条約を結ばせる。アロー号戦争はそう云う戦争のひとつです。
この時期の日本にも、イギリスとフランス共にやって来ています。黒船による開国、不平等条約の締結、尊皇攘夷運動や討幕運動など騒然としている時期です。英仏とも中国に力を注いでいるので、日本を武力占領するとかそう云う事は考えて居無かった様ですが、日本の混乱を利用して勢力を拡大しようとしている。
幕末の情勢の中で、イギリスは薩摩と長州が将来の日本を担う勢力だと考えて軍艦や銃器を売って行く。これと反対にフランスは徳川幕府との関係を強めて日本に利権を得ようとします。だから、幕府とフランスは仲が好い。ルイ＝ナポレオンは徳川慶喜に贈り物をしていて、慶喜がルイ＝ナポレオンに贈られたフランスの軍服を着ている写真が残っていますね。
徳川慶喜 フランスから贈られた軍服幕府軍の近代化の為にフランスから軍事顧問団を招いてフランス式の軍事教練をしたり、先ほど話した186７年のパリ万博には徳川幕府も茶店のパビリオンを出している。特に世界に誇る工業製品も無いので茶店を建てて着物姿の芸者さんが来館者にお茶を出したそうです。ヨーロッパ人からすると珍無類なエキゾチックさで結構人気があったと云う話。
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戊辰戦争の時勘定奉行だった小栗上野介は、慶喜にフランスから資金、武器、軍隊までも借りれるものはドンドン借りて徹底的に薩長と戦うことを訴えた。慶喜に全然抵抗する気が無かったのでスンナリ幕府は倒れましたが、もしフランスの援助で戦争を続けて居たらどうなったか。
幕府が勝っても、日本はフランスの借金漬けになってフランスの言うことを聞かざるを得ない半植民地に為って居たことはほぼ確実。大体、イギリスやフランスは他国の内乱に突け込んで侵略するパターンが多い。まさに、幕末日本もそう為る瀬戸際だった訳だ。
小栗忠順これは噂ですが小栗上野介は、フランスの援助と引き換えに日本の領土の一部を割譲すると提案していたという話もある。結局、幕府は倒れて薩長主体で明治政府が作られ増したから、フランスは日本に大きな足がかりを作れませんでしたが、ヒョットしたらナポレオン３世によるフランスの栄光の中に日本占領が加えられていたかも知れなかったわけです。ちなみに、ペリーを派遣して日本を開国させたアメリカ合衆国は、南北戦争と云う内乱が起きてしまって、日本に構っている余裕は無くなっていました。
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アドルフ・ティエール フランス臨時政府
話を戻しましょう。ナポレオン３世がセダンの戦いで捕虜に為り退位した後、1870年９月フランス臨時政府が成立します。政府首班はティエール。首班と云うのはリーダーもしくは代表者と考えて下さい。
怒濤の勢いで進撃して来るドイツ＝プロイセン軍に勝てる見込みは無いと判断した臨時政府は翌1871年２月にドイツと仮講和を結んで降伏しました。ドイツ皇帝の戴冠式がヴェルサイユ宮殿で行われたのがこの前月１月でしたね。これで話が終われば簡単なのですが、この直後にヨーロッパ中が注目する大事件が発生した。それがパリ＝コミューンです。
パリの市民達は、臨時政府が降伏したのが気に食わない。ヴェルサイユ宮殿でドイツ皇帝の戴冠式をするような屈辱が我慢出来ない。アルザス・ロレーヌの割譲も50億フランの賠償金も講和の条件の全てが屈辱。俺たちフランスはもっと戦える。そう考えたパリ市民が1871年３月臨時政府に反乱を起こしたのです。
パリ市民はパリに新たに政府を作ったのがパリ＝コミューンです。ティエールを初めとする臨時政府はパリから脱出しヴェルサイユに遷った。だから、これでフランスに二つの政府が出来てしまった、臨時政府とパリ＝コミューン。
パリ＝コミューンは労働者の政府で政策も急進的、選出された議員には社会主義者が多く政府の機構や政策から史上初の社会主義政権と云う評価もある。政府と言っても、パリの町を支配しているだけですが人口160万のフランスの首都です。
挫折したパリ・コミューンドイツは臨時政府に「どないすんねん」と圧力を掛ける「対ドイツ徹底抗戦を叫ぶパリ＝コミューンに対して臨時政府はどう対処するのですか」と云う事です。臨時政府としてはパリ＝コミューンを鎮圧するしか無いが兵力が無い。そこでドイツ軍の捕虜に為って居たフランス兵を返して貰って、13万の兵力でパリを包囲し５月にはパリに突入しパリを守るコミューンの兵士、と云う事は詰まりパリ市民なのですが、との市街戦に為ってしまった。同じフランス人同士の戦いです。
更に、市街戦が行われているパリの周囲にはドイツ軍が陣取り、戦いの成り行きを見ていると云う状況です。結局、装備で勝る臨時政府側がパリ＝コミューンを鎮圧してパリ＝コミューンは崩壊しました。コミューン側の死者３万、何とも後味の悪い結末です。この後、臨時政府はドイツと正式な講和条約を結び、ドイツ軍はフランスから撤兵して行きました。
僅か72日間で潰れてしまったのですが、パリ＝コミューンは当時ヨーロッパで凄く注目を集めた。それは、この政府が労働者によって作られたからです。労働者と反対の立場の人も含めてこの政府がどうなるか固唾をのんで見守っている感じです。崩壊後も、社会主義を実現させたものとして、多くの政治学者の研究対象に為って居ます。以前に紹介したマルクス等はパリ＝コミューンを高く評価して居る事で有名。
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パリ＝コミューンを鎮圧した臨時政府ですが、この後ティエールが大統領と為り政治を運営します。しかし王党派と共和派の対立等が続き、1875年に要約新しい憲法が制定された。これを第三共和国憲法と言います。
ナポレオン３世退位後のフランスの政体は共和政。フランス史上三回目の共和政なので第三共和政。だから憲法も第三共和国憲法。第三共和国発足後のフランス政局は小党分立状態が続き安定しなくクーデタ事件も起きる。しかし、一方では海外に植民地を獲得し資本主義は益々発展して行きました。結局第三共和政は1940年の第二次世界大戦でドイツに敗れるまで続く事に為ります。
参考図書紹介・・・・もう少し詳しく知りたい時は
世界の歴史(22)近代ヨーロッパの情熱と苦悩 谷川稔 他 著 結構広い時代をカバーしていますが、ウィーン体制以後のヨーロッパ全体の流れを掴むには適している。
ナポレオン３世のフランス おわり 次のページへ 《19世紀後半のイギリス》
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