2018年08月09日
一緒に学ぼう世界史のポイント 13 《ローマ内乱の一世紀》
世界史講義録より参照
一緒に学ぼう世界史のポイント 13 《ローマ内乱の一世紀》
ローマ 内乱の一世紀
１ ローマ社会の変質と動揺
「長期化する従軍→農地の荒廃→農民＝重装歩兵の没落」
ローマは地中海世界を取り巻く大領域国家に発展して行くのですが、領土拡大すると云う事は戦争をずっとしている訳です。ポエニ戦争中もマケドニアやギリシア方面で軍事行動を継続しているんだ。「長期化する従軍」とあるのはそう云う事。
重装歩兵として出陣する兵士は、何年も戦争に行ってナカナカ故郷に帰れ無いと云う事も起こって来ます。ローマ市民権を持つ自作農民達が武器自弁で重装歩兵と為って居るのですから、ローマの農民がナカナカ帰って来ないと云う事でもあるのね。だから残されたローマの農家では、父ちゃんいない間に残された母ちゃんや爺ちゃんが農作業をして居る訳です。
しかし、肝心の働き手がいないですから、残された家族に何か病気とか起こればもう真面(まとも)に農業が続けられ無い。もしくは持っている農地全部を耕作出来ないと云う状況が生まれて来ました。
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農業を諦めて離農する者達も出る。彼等は土地を売って生活費を捻出する。戦争が終わり兵士が帰国してみると、もう土地を手放していて農業が出来ないと云う事が起こって来る。これが「農民＝重装歩兵の没落」です。自作農が手放した土地を買ったのは誰か、これが貴族です。
彼等は大土地所有者と為り農場経営をする。この大農場をラティフンディアと言います。ラティフンディアがドンドン拡大し発展するのが前２世紀後半。貴族が経営するラティフンディアで働いたのが奴隷です。
ローマは戦争でドンドン勝っていますから、戦利品として捕虜とか被征服民が奴隷として幾らでも連れて来られたんですよ。幾らでも奴隷は居たし新しく連れて来られた。家畜より安く手に入るんだね。只みたいなものだから奴隷を働かせるのが一番好い。碌(ろく)に食事を与え無くて死んでしまっても気にし無いし幾らでも新しい奴隷は遣って来る。
史料を見ると酷い扱いが分かるでしょ。これは製粉所の奴隷の例です。 背中には鞭打ちの跡が縞模様になっている。 頭の毛は半分が剃り落とされて居ると書いてあるね。逃げた時に半分坊主刈りに為って居るから直ぐに奴隷だとバレてしまう仕組みだ。そして、額には所有者の名が焼きゴテで捺してある。宿舎は家畜小屋の隣、飲み物は海水で薄めた葡萄酒。海水で薄めてあるのは塩分補給の為です。将(まさ)にモノ言う家畜ですね。
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こう云う奴隷を労働力として使ったので、没落した農民が小作農に為ろうと思ってもラティフンディアでは雇って貰え無いのです。だから没落農民達は家族毎都市に流れ込んで来ます。 彼等をルンペン・プロレタリアートと云い遊民と訳している。
遊んでるのでは無いよ。遣る事無くて仕事無くて放浪して居ると云う意味です。今風に言えば失業者・ホームレスと言った感じ。ローマ市に遣って来れば有力貴族がそれ為りに彼等の面倒を見て呉れるんです。彼等ルンペンは有力貴族の庇護民と為り選挙の時などは貴族の為に一肌脱ぐ、そんな関係があるのです。又、ローマの属州から運ばれた税金・食糧・諸々の富で、市民権さえあればそれ為りの生活は政府から保障されました。
只、ローマの中堅市民である農民がドンドン没落すると言うことは、重装歩兵の為り手が減る訳ですね。 簡単に言えばこれはローマ軍の弱体化に繋がる。領土を拡大して来た強いローマ軍が弱く為ってしまう。ローマはこのままで好いのかと心ある政治家達は考えた。
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２ グラックス兄弟の改革
ローマの名門貴族出身の若者でティベリウス・グラックスとガイウス・グラックスと云う兄弟が居ました。彼等は例のスキピオの一族でもある名門中の名門です。このグラックス兄弟がローマ農民の没落を食い止める改革を断行するのです。
最初に改革を試みたのは兄のグラックスです。 彼の政策は非常に筋の通ったモノだったと思います。ルンペンと為って都市に流入している者達に土地を与えて再び自作農民に戻そうと考えた。そしてローマ軍を再建する。
土地は何処から手に入れるか。 貴族のラティフンディアがある。125ヘクタール以上の土地を占有している貴族からそれ以上の土地を国家に返させる、それをルンペン市民に再分配しようと云う訳だ。この政策に平民達は熱狂します。しかし貴族達は面白く無い。農民の没落でローマ軍の弱体化が進むのは心配だけど、自分の土地を取り上げられると為ればヤッパリ嫌なんですな。
こう云うのを総論賛成各論反対なんて言う。グラックスも貴族だけど、自分の利害より国家の利害を優先させて考えたんだね。只、彼の遣り方はかなり強引な処があって、普通の手続きを踏まず元老院との相談も無しに改革を推し勧め様とした。反対派貴族と改革を歓迎する平民の対立でローマは騒然とした雰囲気に為る。
兄グラックスはどんな役職に就いて居たかと云うと護民官です。護民官は身体不可侵で神聖なのです。だから反対派も手が出せ無い筈なんですが、強行な反対派がゴロツキを雇ってグラックスを襲わせたんです。昔も暴力団みたいなのがあったんだね。 兄グラックスはボコボコに殴られて殺されてしまいます。死体は川に投げ込まれてプカプカ浮いて居る処が発見された。この様な非常手段によって改革は潰されました。これが前133年のこと。
弟ガイウス・グラックスは兄の死の10年後同じく護民官に為って兄の政策を実現しようとしました。この時も騒然とした雰囲気と為って暴動が起こり混乱の中で弟グラックスは自殺して、この兄弟の改革は失敗に終わりました。（前123）
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３ マリウスの軍制改革
貴族は大土地所有を守れたから良かったかも知れ無いけれど、ローマ軍の弱体化をどうするかと云う問題は残った。これを一気に解決したのがマリウスの軍制改革（前107）でした。
マリウスと云うのは将軍として頭角を表しコンスルに為った人物です。ローマの軍隊の基本中の基本は、財産を持ったローマ市民が武器自弁で兵士と為って従軍すると云うこの一点です。だから、グラックス兄弟は武器自弁が出来る農民を作り出そうとした。でもマリウスはこの基本をアッサリ捨ててしまう。
「財産無い者が兵士に為ったって好いじゃないの」と彼は言う。しかし、彼等は武器が買え無いじゃないか。「そんな物、俺が買い与えて遣るよ」と彼は言う。
と云う訳でマリウスはルンペン市民を兵士として採用し、武器を与え給料も払って遣るんです。その費用は基本的には彼のポケットマネーから出す。兵士として働ける期間と云うのはそんなに長いモノでは無いです。ある程度年をとったら兵士としては引退です。
こう云う退役兵に対してもマリウスは面倒を見て遣る。或る程度勤めてから辞める兵には土地を分けて遣る。そして、自作農民として生きて行ける様にして遣るの。武器自弁の原則を放棄することで、兵士不足は一気に解決して、マリウスはこの新しい軍隊で勝利を続けました。これがマリウスの軍制改革。
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しかし、この軍制改革でローマ軍の質が大きく変化したんです。武器自弁の農民軍だった時は兵士は、ローマ市民の義務を自覚して従軍して居た。ローマの為に戦った訳ですね。処がマリウスの兵はどうか。彼等の気持ちの中で、ローマの為にローマ市民の義務としてと云う意識は小さく為る。それよりも「自分を雇って呉れているマリウス将軍の為に」と云う気持ちの方が大きく為る。
又、マリウスもそれを意識して兵士を手懐(てなず)けて行きます。こう云う現象を軍隊の「私兵化」と云う。 私兵の軍事力を背景にしてマリウスのローマ政界での発言力は重みを増す。又、選挙の時には彼の兵士達がマリウスに投票して呉れる訳。兵士は皆平民ですから、平民会でマリウスをローマ政府の役職に就ける事が出来るのですよ。
これは、自分の政治勢力を伸ばしたいと云う貴族政治家に取っては上手い遣り方だね。後に多くの野心家達がマリウスの遣り方を真似る事に為ります。そして、私兵を養った将軍同士の内乱が続いてローマは混乱の時代を迎えます。
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グラックス兄弟の改革から100年間を「内乱の一世紀」と呼びます。
前91年から前88年にはイタリアの都市がローマ市民権を求めてローマに反乱を起こします。同盟市戦争と云う。ローマはローマ市民権をイタリア諸都市に与える事でこの戦争を終わらせました。
続いて前88年から前82年まで、マリウスとスラと云う将軍の抗争が起こります。スラは大金持ちの貴族で多くの私兵を養っている。同じローマの将軍同士がローマ兵を率いて戦い合う訳です。スラは軍隊が決して入城する事が許され無かったローマ市内に乱入したりした。
ローマの指導者集団である元老院は何をして居たかと云うと、この二人の将軍の抗争に振り回されるだけでこれを解決出来なかった。元老院の権威が段々低下します。
因みにマリウスは平民派、スラは閥族派と為って居ますね。平民派と云うのは公職に就く時に平民の支持を背景にしていたと云う事。閥族派は貴族勢力を背景に公職を目指して居たものだと理解して置いてください。政治的な考え方に違いがある訳ではありません。
４ スパルタクスの反乱
又この時期に奴隷反乱も起こっています。前139〜前131年と前104〜前99年にシチリア島で奴隷反乱。数万規模の大きな反乱だった様です。前73〜前71年には有名なスパルタクスの乱。
スパルタクスは剣奴でした。 奴隷と言っても色々な奴隷が居たんですね。特別な能力が無ければラティフンディアで農作業。中には賢い奴隷も居る。ギリシアもローマに征服されましたから学者の奴隷なんて云うのも居る訳ですよ。こう云う者は貴族の家で子供の家庭教師等をさせられる。顔の綺麗な少年少女は貴族の家で主人の身の回りの世話を遣らされる訳だ。
特技や能力によって奴隷にも違いがあった。それで、その中でも変わって居るのが剣奴です。戦争捕虜などで肉体的能力が抜群の者が剣奴にさせられる。
剣奴は真剣勝負の殺し合いをさせられる者達です。今で言えば、ボクシングやプロレスみたいなものでローマ市民達がその決闘を見て熱狂する。強くて人気のある剣奴はスター扱いですが、負ければ死んでしまうかも知れないんですからね。現在の感覚からすれば凄く残酷なものです。
ローマの都市では競技場があって剣奴の試合が頻繁に行われていた。剣奴の試合を開催するには大層お金が掛かる。数日掛けて何十番もの取り組みをしたりするんです。この金を出すのが町の有力者や貴族達。試合を楽しみに見に来るのが一般市民、詰まり平民だね。有力者は何故こんなことをするかと云うと、人気取りなんです。平民にサービスをする見返りに、選挙で投票して貰って公職に就こうと云う訳。
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剣奴は興業があるとアチコチ連れて行かれて試合をさせられました。序に、試合のことを話して置きます。
試合では必ずどちらかが死ぬまで戦う訳では無い。怪我をするとか剣を取り落としてしまうとか、戦闘不能に為って勝負が着く場合がある。
止めを刺すのかどうか、勝った剣奴は主催者を見るのです。主催者は競技場に詰め掛けた観客を見渡す。この時に観衆が親指を立てて拳を突き出せば「そいつは負けたけど、立派に戦った。命は許してやれ」と云う合図。主催者も親指を立てて勝者は止めを刺さ無い。敗者は怪我の手当などを受けて助けられる。
逆に観衆が親指を下に向けたら「そいつは助けるに値しない。殺せ」と云う意味。主催者も同じ合図を送る。勝者は敗者に止めを刺して殺してしまうの。残虐さと云う事についてはローマ人は結構麻痺しているね。
後、猛獣と剣奴の戦いとかも行われました。
当然のことですが、試合はワザの優れたもの同士の戦いの方が面白いよね。そこで、剣奴達は訓練を受けていたのですね。試合の無い時は腕を磨いている。又、負ける事は死を意味しますから訓練も必死だ。
ローマの南方のカプアと云う町に剣奴の訓練所がありました。 前73年、ここから78人の剣奴が脱走した。このリーダーだったのがスパルタクスです。彼等はベスビオ山に逃げ込んだ。そこにローマの討伐隊が来るんですが、スパルタクス達は殺しのプロだ。それに失うモノは何もありませんからね、滅茶苦茶強くてローマ軍に勝ってしまう。
脱走した剣奴がローマ軍に勝ったと云う噂は瞬く間に広まって周辺のラティフンディアから農業奴隷達がドンドン逃げて彼等の元に集まって来る。スパルタクスの勢力は７万人にまで為ったと言われています。スパルタクスは戦争の指揮も上手かった様で、この後もローマ軍との戦いに勝ち続けるんだ。万単位の人々を束ねているだけでも凄い政治的な手腕と云うか人望があったんだろうね。
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で、大勢力になったスパルタクス達の奴隷反乱軍はやがてイタリア半島を北上します。 食糧はどうやって確保したかと云うと略奪です。途中の都市を攻略し金持ち、貴族の財産や食糧を略奪しながら移動した。
スパルタクスの目的は何かというと、故郷へ還ることです。スパルタクス自身は今のブルガリア辺りの出身だったらしい。故郷には女房や子供が居たのかも知れないね。他の奴隷達もローマ領の北方から来た者が多かった様です。だから北へ行ってローマ領を脱出しようとしたんでしょう。
処が彼等はアルプスの麓まで行ってそこでＵターンしてしまう。何故アルプス越えをしなかったのか、謎です。アルプスを越えればもうローマ領から出られたんですから不思議な行動です。
学者は色々な説を唱えていますがね。只、現実問題として７万もの仲間を引き連れて実際にアルプスを越えられるとスパルタクスが判断したかどうかですね。スパルタクスや他の剣奴達だけなら肉体頑強だから越えられたかも知れないけれど、彼等を頼って逃げて来た奴隷達に取ってはどうだったか。老人や、病人、女子供も居たでしょうからね。
そう云う者達はかなりの確率で落伍して死んで行くだろう。リーダーの判断としてはアルプスを目の前にして引き返さざるを得なかったのかなと思います。今度は又略奪をしながらイタリア半島を南下するんですが、彼等はイタリア脱出を諦めた訳では無かった。
当時イタリア半島周辺の海域では海賊が結構出没していたんですが、スパルタクスはその海賊と連絡を取り合う。イタリア半島南端に海賊船が迎えに来て彼等をシチリア島に運ぶ段取りに為って居た様です。スパルタクスは略奪した財宝を沢山持っていますからね、船賃はちゃんと払える訳。
処がスパルタクス一行がイタリア半島の先っぽまで来てみると海賊船は来ない。手違いがあったのか、裏切られたのか分かりませんが。変わりにローマの大軍が遣って来て遂にスパルタクス軍はここで負けてしまったのです。
スパルタクス自身も乱戦の中で戦死したらしい。生き残って捕えられた奴隷達は磔（はりつけ）にされた。ローマ市から南方に続くアッピア街道と云う軍道があるんですが、この道の両側に十字架が何キロも並べられ奴隷達の呻き声が何日も聞こえたそうです。他の奴隷達に対する見せしめだね。
話がスパルタクスで長くなってしまいましたが、要するにこの時期のローマは、将軍同士の内乱・同盟市の反乱・奴隷反乱・元老院の指導力の低下など混乱が続いたと云う事です。ローマがその現状に合った政治制度を見つけるまでもう暫く混乱は続きます。
５ カエサル
前60年、有力将軍三人による談合が成立し、彼等がローマの政権を握る事になりました。これが第一回三頭政治と言われるものです。
三人はカエサル・ポンペイウス・クラッススです。クラッススはローマ一の大富豪。ポンペイウスはローマ一の将軍。カエサルは、これはローマ一の人気者。この三人が力を合わせれば怖いもの無し。元老院も上手く操ります。
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三人で一番重要なのがカエサルです。英語ではシーザーと読む。シェイクスピアの劇でも有名だね。アレクサンドロス大王、ハンニバルに続く古代世界の英雄でしょうか。この人、兎に角魅力があった様です。
カエサルに会う人は皆彼のことが好きに為る。カエサルは俺の友人だぜ、と皆が言いたく為る。皆の友達カエサルです。仇名が「ハゲのスケベ親父」だって。こんな風に呼ばれてカエサルはガハハと嬉しそうに笑う人なんだね。
もう一つの仇名が「借金王」兎に角カエサルは借金が多かった。ローマ中の金持ち富豪から借金しまくり。
この金を何に使うかと云うと平民達に振舞うんですよ。 例の、剣奴の試合をドンドン開催して平民達を招待する、食糧を買い込んで皆に振舞う、それも皆の度肝を抜く様な規模でやるんだ。だから、益々平民達のカエサル人気は高く為る。
又、平民達も知っている訳。カエサルさんは俺達に振舞う為に借金で困ってるよ、今度の選挙ではカエサルさんを公職に就けて儲けさせて遣らないといかんなとか言って投票して呉れる訳ですね。
さて、そのカエサルですが前58年からガリア遠征に出ました。この遠征は前51年まで続くのですが、この期間にカエサルは人気に見合うだけの実力を着けたんです。ガリアと云うのは現在のフランスを考えて呉れたら好いです。ガリア人と云う人々が住んでいた。部族集団で生活していて未だローマの領土にはなっていない。このガリア人と戦って、勝ち続けます。
カエサルの勝利が次々にローマ市に伝えられる。その度毎に又彼の人気は上がる、将軍としての実力も付いて来る。彼の兵士は当然の如く彼の私兵です。この兵士達との人間的な繋がりも強く為るんですね。親分子分関係が出来上がる。何よりも勝利によって、カエサルは負けたガリア人から財産を搾り取りますからね、借金王から大富豪に変身するのです。
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カエサルの将軍としての実力が着いて来ると、内心面白く無いのがポンペイウスです。それでもクラッススが生きている内は三人で何とかバランスが保たれていたんですが、前53年にクラッススが死ぬとカエサル、ポンペイウスの対立がハッキリして来ました。二人は政略結婚で姻戚関係を結んで居たんですが、そんなのも吹っ飛ぶ位です。
又元老院は元老院で、ポンペイウスを利用してカエサルを潰そうとします。こう云う状況の中で、カエサルは「賽（さい）は投げられた」と言ってガリアから軍隊率いてローマに進軍しました。ポンペイウスと決戦だ。結局ポンペイウスは敗れてエジプトに逃げる。しかし、此処でエジプト人に殺されてお仕舞。カエサルの勝利です。
この時カエサルはポンペイウスを追ってエジプトに遣って来るのですが、ここで出会ったのがあの有名なクレオパトラです。クレオパトラはエジプトの女王として有名ですね。
この時の状況を少し話して置きます。
ローマは既に地中海を取り巻く世界を全て領土に加えていました。しかし、エジプトだけは辛うじて独立していた。だから、ポンペイウスは逃げて来た訳ですよ。しかし、ローマの強さは圧倒的ですからエジプトは何時ローマの属州にされても可笑しくない状態ではあります。
だから、ローマの事実上の第一人者であるカエサルが遣って来るとエジプト政府は彼を歓待する訳です。機嫌を損ねちゃいけないからね。で、問題のクレオパトラですが、王は王なんですがもう一人エジプト王がいたんですよ。これがプトレマイオス13世と云う。共同統治と言って、この地域では結構あるパターンです。
プトレマイオス13世はクレオパトラの弟なの。だから姉弟で王様遣って居る。これだけなら好いんですが、更にややこしいのは二人は夫婦でもあるのです。近親結婚だね。イクナートンみたいに自分の娘と結婚する王もいた位だからエジプトでは不思議では無い。クレオパトラ達プトレマイオス朝の王家はギリシア人だけど長くエジプトで生活する内にエジプトの風俗に染まったんだろうかね。
更にややこしいのが何かと云うと、この姉弟は仲が悪い。権力闘争があって、弟王とその一派が実権を握って居て、クレオパトラは干（ほ）されて居たんです。でも彼女も権力が欲しい。
そんな時にエジプトに遣って来たのがカエサルですね。 彼女は考えた。カエサルに会って自分の後ろ盾することが出来たら、弟を追い落としてエジプトの真の女王に為れる。処が、彼女には弟王の監視がついていてナカナカカエサルには近づけ無い。そこで考えたのが絨毯作戦。
彼女は自分を絨毯でグルグル巻きにさせる。そして、エジプトの富豪からの贈り物だと言って、その絨毯をカエサルの宿舎に届けさせたんです。カエサル「立派な絨毯だ」とか言いながら広げると、中からポンとクレオパトラが飛び出て来る。ビックリ箱ならぬビックリ絨毯だ。恋愛と云うのは出会いの瞬間が大事。こんな劇的な出会いは無い。カエサルはこの一撃でもうメロメロに為ったと云う。
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この話、一寸信じ難いけどね、広く知られた話です。資料集にも丁寧にこのシーンの絵がのっているでしょ（ジェローム画）。因みにクレオパトラは21歳。カエサルはと云うと52歳。ウーンと云う処だね。
クレオパトラは伝説の様な絶世の美女では無かった様ですが、教養溢れる知的な女性だった。特に声が魅力的だったんだって。どんなんだったんだろう。 何よりも、こう云う大胆な行動力は魅力的だと私は思いますが。兎も角、クレオパトラはカエサルに会う事が出来て、計画通りに彼を自分の魅力の虜にしました。
カエサルは遂にはエジプトの宮廷闘争に介入してクレオパトラを名実共にエジプト女王にし、更にエジプトの独立を保証したのです。
ローマに還ったカエサルはポンペイウスの残存勢力を遣っ付けて前46年には終身独裁官に為った。事実上の独裁者と言って好い。あらゆる栄誉と権限を一身に集めたのです。実力者だから誰も文句を言え無いのですが、カエサルの振る舞いを見ていてかなりの人達が疑いを持ち始めたんです。
「カエサルは王に為ろうとしているのではないか」とね。独裁者なら未だ前例はあった。スラとかね。だから未だ我慢出来る。しかし、王は別です。ローマ人には共和政に対する誇りがある、王政に対しては物凄いアレルギーがあった。元老院主導の貴族政治が否定される事ですからね。貴族達はカエサルに警戒心以上の敵意を持ち始める。ブルートゥスをリーダーとする共和主義貴族のグループが最も急進的でした。
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彼等によってカエサルは暗殺されてしまうのです。 前44年3月15日、カエサルが元老院の議場に遣って来ると、待ち構えて居たブルートゥス達がカエサルに襲い掛かり短剣で彼を刺す。カエサルは必死に抵抗するのですが自分を襲う貴族の中にブルートゥスの姿を見つけ「ブルートゥスお前もか！」と叫んだと云うのは有名なお話。
ブルートゥスは名門貴族出身なんですが、結構カエサルに可愛がられていて彼の保護の元に重要な役職に就いていたりする。そのブルートゥス迄もが俺を殺すのか！と云う意味ですね。
これは裏話があって、ブルートゥスはカエサルよりも25歳年下です。で、カエサルは若い頃にブルートゥスの母ちゃんと付き合って居たの。カエサルはモテますからね、若い頃から女性関係は激しい。その後二人は別れて彼女はブルートゥスの親父と結婚する訳ですが、ブルートゥスの誕生日を聞いてカエサルはヒョッとしたらって思っていたらしい。俺の子かもと思っているから引き立てて遣ったんじゃないかとも言われて居ます。
ブルートゥスからすれば、例えそうであっても共和制を守る為には殺さなければ為らないと考えたんですね。王政に対する反発の強さが分かるね。最もこの話は何処まで信頼出来るか分かりませんが。
さあ、カエサルは暗殺されました。この後は又次回。
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クレオパトラですが、カエサルの子供を産んでいるのです。男の子でカエサリオンと云う。母子は暗殺の日、カエサルに招かれてローマに来ているんです。カエサルの死を知ってクレオパトラはカエサリオンを引き連れ急いでアレクサンドリアに帰って行きました。カエサリオンは独立王国エジプトの王子であり未だ子供です。カエサルの遺産相続人には為りませんでした。
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