2018年08月09日
一緒に学ぼう世界史のポイント 11 《ギリシア・ヘレニズム文化》
世界史講義録より参照
一緒に学ぼう世界史のポイント 11 《ギリシア・ヘレニズム文化》
ギリシア・ヘレニズム文化
１ 自然哲学
世界で最初に哲学を生み出したのがギリシア人でした。 古代ギリシアの市民は、ヒマです。 畑仕事などの労働は奴隷がするし、夫婦で家事を分担する何て発想は全然無くて家事は基本的に女性が皆やる。だから市民と言えば男ですが、はヒマでヒマで。
ヒマを持て余して昼間からアゴラと呼ばれる広場に集まってブラブラして居るのです。ベチャベチャとお喋りしたり、戦争の為に身体を鍛えたり、そんな事してみてもヤッパリヒマ。人間ヒマだと色々余分な事を考える。で、彼等は考えたのですね。
何で？何で世界は出来てるの？って。これが最初の哲学でした。 最初の哲学は自然哲学と言います。今ならさしずめ科学に当たる事を考えた。世界の成り立ちとかをね。但し、実験道具も何も無いから只管頭の中で論理で考えた。その最初の人がタレース（前580年頃活躍）です。
この人はイオニア地方ミレトスの人です。ギリシア本土では無い。タレース以外にも自然哲学者はイオニア地方やシチリア島の人が目立ちます。ギリシア本土で無い分、伝統に囚われず他民族の刺激等を受けて新しい発想が生まれたとも言われています。
さて、タレースの言葉「万物の根元は水である」確り覚えて置こう。これが最初の哲学の言葉だ。世界は水から出来ている、と云うのは幼稚に思えるかも知れないが矢張り画期的なんですよ。
一つは、世界の成り立ちを追及した点で、そして二つ目に、これは最も重要ですが世界の成り立ちを神様抜きで考えた点です。 彼も神々を信じて居たでしょうが、取り敢えずそれはコッチに置いて置く、この発想が凄い訳です。
このタレースと云う人は只哲学をしただけでは無い。日食を予言したり、川の流水量を調整して軍隊の渡河を可能にしたり色々な技術を持って居ました。
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ヘラクレイトス（前500年頃）は「万物の根元は火である」でもこの人は「万物は流転する」と云う言葉の方が有名ですね。炎がじっとしていない様に、全てのものは一瞬も同じ所に止まら無いと考えたと言われています。
火でも水でも空気でも何でもありで、色々な考えが出て来るんですが、やがて発想は抽象的に為ってきます。その中でもデモクリトス（前460頃〜前370頃）は大事だ。「万物の根元は原子（アトム）である」と云うのが彼の考えです。モノをドンドン細かく分けて行くと最後は小さな原子に為るというんだね。現在の我々の持っている物理学の知識と基本的には同じでしょ。 頭の中で考えるだけでも、ここまで到達出来るんですね。
抽象の極限がピタゴラス（前６世紀）でしょうか。数学の基礎づくりで有名な人ですが彼は「万物の根元は数である」
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２ ソフィスト
さて、やがて関心は自然の成り立ちから人間の生き方へと移って行きます。いかに生きるべきか、真とは、美とは、善とは、こんな事をギリシア人達は考え始めた。こう云う中で活躍したのがソフィストと呼ばれた人達です。ソフィストと云うのは弁論術教師のことです。
何故ソフィスト達が活躍をするように為ったかと云うと、民主政の発展に関係がある。アテネの民会を思い出してください。6000人が集まる会議で自分の意見を人に聞いて貰い、更に人々の支持を得て自分の意見を通そうと思ったら話術が上手くなかったらダメなんですよ。面白く無かったら聞いて貰えない。議論で相手に勝て無かったら意味が無い。
議論や話術が上手くなるには、悪い表現を使えば屁理屈を捏ねる能力が必要です。 理屈が上手いのは、知恵のある人達、詰まり哲学者ですね。そう云う哲学者に政治家志望の若者達が教えを請うた訳だ。
ソフィストと云うのは元々は「知恵のある人」という意味です。要するに哲学者だね。一寸前に「ソフィーの世界」と云う本がありましたね。ソフィーと云うのは女の子の名前ですが「知恵」と云う意味です。日本風に言えば知恵ちゃんです。そのソフィストですが、やがて意味が変わって来て弁論術の教師と為った。
そのソフィストで最も有名なのがプロタゴラス（前490頃〜前420頃）です。物凄い授業料を取って教えたらしい。軍艦一隻の建造費と同じだけの授業料を取ったと言います。１万ドラクメだって言うんですが、今なら幾ら位ですかね、1000万円位でしょうか。
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プロタゴラスの言葉です 「万物の尺度は人間である」エジプト人は人間の身体に鷹や山犬の頭を着けたモノを神と考え、ペルシア人は火を神と崇め、ヘブライ人は神をヤハウェのみとし、我々ギリシア人は又別の神を持つ。
神ですら時と所が違えば変わる。何処に絶対的な真理や善やその他諸々があろうか。君の正義と私の正義は違う。「万物の尺度は人間」と云うのはそう云う事を言っている。 難しい言い方で価値相対主義。
議論で相手を打ち負かすのが目的に為りますから、絶対的真理なんて追い求めていてはダメな訳です。或る時は黒を白と言い包め、又或る時は白を黒と言い包める事が必要に為る。そう考えると「万物の尺度」を「人間」にするのは都合好いです。
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３ ソクラテス
ソフィスト達の言っていることは結構現代人には共感 点が多いと思います。「奴隷制は人間性に反する」と言っていたり、「神は頭の 男が人々を従わせる に発明したものだ」とか、面白い も言っています。しかし、哲学史上は評価が低い。
と云うのは、彼等と対比される大哲学者が登場するのですよ。それが、ソクラテス（前470頃〜前399）です 。当時の記録では彼は非常に見っとも無い男とされています。頭は禿げ上がり目はギョロ目、鼻は獅子鼻で分厚い唇、オマケに小太りでお腹は突き出ている。更に非常に毛深かったそうです。
そして、偉大な人生の先生だった。彼はアテネで生まれアテネで死ぬ生粋のアテネっ子。丁度ペロポネソス戦争末期の時期と彼の人生は重なります。
若い時から哲学の勉強をして居た様です。ソフィスト全盛の時代なのですが、彼はソフィストと決定的に違う点があった。 彼は若い弟子達に哲学を語りますが、決して授業料は取らなかった。金儲けの為の哲学では無かったのです。
そしてより好く生きる事を考えた。普遍の真実や善や美が存在すると信じそれを追及し続けました。そんなソクラテスには、友人や若い弟子達が沢山いた。ソクラテス自身は本を残していませんが、彼の弟子や友人が彼の行動や言葉を記録しています。それで有名なのがこんな話です。
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ソクラテスが40代位の事です。ソクラテスの友人にカイレポンという男がいました。カイレポンはソクラテスの大ファンでもあった。或る時、彼はデルフォイの神殿に行った。前にも言いましたがこの神殿では神様のお告げが貰えるんです。
で、カイレポンは神様に尋ねたのです。「ソクラテスよりも賢い人間がいるか？」と。そしたら巫女さんに神様が乗り移って言うには「ソクラテスより知恵のある者はいない」カイレポン、ヤッパリ！と嬉しくなってアテネに帰ってソクラテスに教えて遣るのですよ 。「デルフォイの神託でお前がこの世で一番知恵のある男と分かったぞ！」ってね。
当のソクラテスはそれを聞いて、マアびっくりした。 私よりも知恵のある人は沢山いる。私が一番知恵者である筈がないとね。しかし、ソクラテスもこの時代の人ですからデルフォイの神託を信じてもいる訳です。神がウソをつく筈もないとも思った。
そこで、彼はどうしたかというと神託の意味を知る為に色々な人を訪ねて廻りました。アテネで人々の尊敬を集めている人、知恵者と呼ばれている人、立派な政治家、才能ある芸術家、そんな人をドンドン訪ねる。そして、質問をぶつけてその人の持つ知恵について確かめるんです。
例えばこんな風です。ソクラテスはある人を訪ねて質問する。 「友人にウソをつくことは正しいか、不正か？」 相手は答える。 「それは不正である」更にソクラテスは質問します。 「では、病気の友人に薬を飲ませる為にウソをつくのは正しいか、不正か？」 相手は答えます。 「それは正しい」
そうすると、ソクラテスはここぞとばかりに突っ込むのです。「貴方は、先程はウソを着くのは不正と言い、今は正しいと言った。 一体、ウソを着くのは正しいのか不正なのか、どちらなのかね？」聞かれた方は困りますよね。「うーん、そう言われると私にはもう分からない」ここで、引き下がれば好いんですがソクラテスは追い打ちを掛けるんだ。 「貴方は、何が正しいことで何が正しく無いかを知ら無いのに、今まで知っていると思っていたんですね」
こんな調子でソクラテスはアテネの有名人を次から次へと質問責めにしたんです。 端から聞いていれば、こんなに面白い会話は無い。 多分アテネの若者達がソクラテスに着いて歩いてこんな会話を聞いて居たんだろうね。 若者達からは人気者に為った。だけど、彼に質問責めにあった有力者達は堪りません。皆の見ている前で恥をかかされるんだから鬱陶しい、困った男と思われても仕方ないですね。 ソクラテス、多くの人と話をして、最高の知恵者と云う神託について結論を出しました。
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・・・自分より多くの知識を持つ者は沢山いる。知恵の量では自分は取るに足ら無い者だ。しかし、自分と他の者には決定的な違いがある。自分より多くを知っている者も全ての事を知って居る訳では無い。なのに彼等は全てを知って居る積りでいる。
私は何も知ら無い、無知である。しかし、自分が無知である事を知っている。もしも、自分が他の者より知恵があるとすれば、それを知っているからだ！
これが、「無知の知」と言われるものです。
ソクラテスは自分なりのやり方で必死になって真実を追究していたのです。しかし、その晩年には有力者に憎まれて、告訴され裁判で死刑判決を受けてしまいました。 罪状は「青年を腐敗させ、国家の認める神々を信じない」というものです。
これは現代から見れば罪とも言え無い様なものですね。マア、兎も角有力者に睨まれてこんな事になってしまう。 裁判ではソクラテスは得意の弁論で自分の無実を主張するのですが結局有罪になる。アテネの裁判は陪審制で票数は281対210だったらしい。
有罪になった跡、どんな罰にするかの裁判が続くのですが、ソクラテスはそこで開き直って言う訳だ。「自分はアテネの為に尽くして来た。悪いことは何一つしていない。そんな私に相応しい罰はアテネの町が私にお金を贈ることしかない」何て言うんです。陪審員を敵にまわすようなもんだ。
彼を訴えた連中は死刑にしようとは思っていなかった様で、悪くて国外追放、ソクラテスがもう議論をしなければそれで好し、と考えていた様ですが結局死刑判決が出されてしまう。
ソクラテスは牢獄に入れられるんですが、牢番は結構好い加減で弟子や友人達が牢獄のソクラテスに会いに来る。で、皆来ては彼に逃亡を勧めるんです。「手筈は整えているから逃げよう」ってね。処がソクラテスは断るんだ。私は逃げないってね。
何故逃げなかったか。ソクラテスは自分の思想を裏切りたく無かったんだと思います。 彼は自分の信じるままに行動して来た、それは真実の為でありより好く生きることでした。その結果が死刑判決ならば、それを受け入れる以外に彼の道は無かったのではないか。だって、逃げたらそんな奴だったんだって思われるでしょ。自分の過去の言動全てが疑われてしまう。
ソクラテスの死刑は自殺のような形式の死刑でした。自分で毒杯を飲むんです。将にソクラテスが毒杯を飲んで死んで行く瞬間にも弟子達が彼の傍に付き添っているのですが、その弟子達が「先生、死なないで」って泣くの。「オオ、足の感覚が無くなって来た、死が近づいて来た」とか言ってるソクラテスが、その泣いてる弟子を慰めたりする。最後まで、自分の哲学を語り続ける。堂々とした立派な死に様だったんです。
こう云うソクラテスの生き方全体が友人や多くの弟子達に深い感銘を与えたのです。より好い生き方を求め、自分の思想を裏切ら無いソクラテスの姿勢は、議論で勝つ為の弁論術の教師とは全然違ったんだね。
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４ プラトンプラトンとアリストテレスアリストテレス
プラトンはソクラテスの弟子でした。ソクラテスの死後にその言動をまとめて沢山の本を書いています。
このプラトンですが、ソクラテスの意志を継いで普遍的な真実を追求しました。そして、彼がたどりついた答えが「イデア論」です。
イデアとは何かというと、例えば「バラの花」があるとしましょう。「美しいバラの花」です。しかし、やがて時が経てばこれは枯れて萎んで美しく無くなりますね。その時に「美しさ」と云うものは消えてしまったのかと云う事なのです。バラの花が枯れても「美しさ」というものは何処かに存在しているのではないか、目の前に見える形で存在していなくても、何処かの世界に実在するもの、これをイデアと言います。
イデアの世界がある、とプラトンは言う。 三角形の例は分かり易いかな。完璧な正三角形を現実に描くことは出来なくても、正三角形と云うものは存在する、ある、でしょ。そんな感じのものがイデアです。英語のidea（アイデア）の元です。
プラトンはこんな例を出している。洞窟がある。そして、我々人間は皆洞窟の中で縛られて固定されていると言う。 手足が縛られていて身動き出来ないのですが、どちら向きに縛られているかと云うと、洞窟の奥の方を向いて縛られているの。
洞窟の入り口には光がある。そして、その光と縛られている我々の背中の間を色々なモノが通る。美しいバラの花が通ったり、正三角形が通ったり、重装歩兵が通ったり、真実が通ったり、正義が通ったりする。すると、洞窟の奥の壁に通過するモノの影が映るね。我々は、壁の奥を向いて生きているので、その影をモノの本当の姿だと思い違いをしていると言う。
背中の後ろを通過しているモノ、それがモノの本体、イデアだ、と言う訳です。そして、手足を縛られている我々ですが、首を動かすことは出来る。 影を見慣れてしまっているが、勇気を以て後ろを振り向けばそこにイデアが見えると言うんだ。この教室も、友達も、窓の外の景色も、黒板も、皆影に過ぎない。プラトンのイデア、何となく分かりました？ 何となく分かれば好いです。
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私の少年時代にはプラトニック・ラブなんて云う表現があって、男女交際ですね、手も握っちゃいけないキッスなんてとんでも無い、そんなこと言われた訳。そう云う清い？肉体抜きの恋愛のことをプラトニック・ラブと言ったのです。女の子を好きに為ってもプラトニック・ラブでいなさい、何てね。イデア論が誤解されて使われている。
身も心も焼き尽くすような恋愛をしていても、それは洞窟の壁に映った影に過ぎないですよ、本当のラブは、ホラ、貴方の後ろにある！と云うのがプラトンのラブだろうね。
目の前に見えているこの世界、これを真実と考えず別の世界に理念的な存在の実在を認める、そこに物事の本質がある、こんな考えを観念論哲学と言うんですが、プラトンのイデア論はその代表です。プラトンは「万物の根源は数」と云うピタゴラスの影響も結構受けているみたいです。
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プラトンは政治の本も書いています。「国家論」と言います。プラトンは民主政治が嫌いです。 彼の敬愛するソクラテス先生は何故死刑に為ったんですか。 陪審員になった市民達によって死刑判決を受けた。 市民たちは何の資格で陪審員となったか。クジで当たったからです。
しかも、陪審員は政府から日当が支払われた。偶々クジで当たって、日当目当てで裁判に参加した市民たちに、ソクラテス先生の思想が理解出来るのか。ソクラテス先生を裁く権利があるのか。これが、プラトンの発想です。だから民主政治は嫌いです。どう云う政治を理想としていたかというと、哲人が王と為る事です。
プラトンはエジプトを旅行して感激している。エジプト人は、王、ファラオを神の化身として崇める伝統がある。それを見て感激するんですよ。素晴らしい、って。アテネの議論ばっかり、文句ばっかりの連中よりヨッポド良い。こういう国民を哲人王が支配すれば、国民は王の言うことを好く聞いて素晴らしい国になるに違いないって考えたようです。
実はソクラテスも民主政治を批判するようなことを言っています。こんな事を言っている。 「あなたが家を建てる時どんな大工に仕事を頼むか？ 大工を集めてくじを引かせて当たった大工に頼むか、それとも最も腕の良い大工に頼むか？」 「腕の良い大工に頼むであろう。為らば何故、我々アテネ人は政治を行う者をクジで選ぶのか」
ナカナカ辛らつな批判ですね。当時のアテネの人々は民主政治に絶大な自信と誇りを持っていましたから、こんな発言はやっぱり許し難いモノだったんではないかな。ソクラテスが死刑に為った原因にはこんな発言があったのかも知れないね。
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アカデメイア、これはプラトンが作った学校です。アメリカの最も権威のある映画の賞、アカデミー賞というのがあるでしょ。あの語源だ。科学アカデミーとかアカデミックな書物だとか、マア、物事を権威で飾りたい時の修飾語になっているね。それ位プラトン先生には権威があって、その学校アカデメイアにも権威があったと云う事だ。
プラトンの弟子がアリストテレス。ギリシアの哲学、科学の集大成を行った哲学史上の巨人です。 現代でも哲学の基礎はアリストテレスだね。 哲学を勉強したかったら大学の文学部哲学科と云う処へ進学するんですが、私は大学時代哲学科では無かったけど文学部だったんです。
興味があったから哲学の講義も取りました。それがアリストテレスのテキストの講読でした。「カテゴリア」と云う本で、勿論ギリシア語なんて読めないから、英訳したモノだったけどね。大学の授業は90分なんですがホンの一寸しか進まなかったですね。今では何が書いてあったかスッカリ忘れてしまったけれど緻密で論理的でそれなりに面白かった記憶はある。
このアリストテレス、先生のプラトンとは考え方が違います。彼はイデアなんてモノは認めません。この目の前にあるモノ以外に本質的な存在があるとは考えなかった。「美しいバラの花」が無くなれば「美しい」も無く為るのです。こう云う考えを実在論哲学と言います。彼はその元祖です。
アリストテレスはアレクサンドロス大王の家庭教師をしたのでも有名。アリストテレスが41歳、アレクサンドロスは12歳。それから３年間位教えた。当時考えられる最高の先生だ。アレクサンドロスの言葉「私は生きることをフィリッポス（父）に、美しく生きることをアリストテレスに学んだ」
哲学だけで無く、論理学、政治学、自然科学あらゆる学問に精通していたアリストテレスです。影響を受けたアレクサンドロス大王は東方遠征に出かける時、学者を沢山連れて行った。東方の自然、文化を研究しようとしたんだ。これを後に真似たのがナポレオン。エジプト遠征の時に学者を連れて行き発見したのがロゼッタ・ストーン、と云う話は以前しましたね。
５ 文芸
ざっと行きましょ。必要最小限だけ。
詩 ホメロス（前８世紀）「イーリアス」「オデュッセイアー」これは、トロヤ文明で話しました。 ヘシオドス（前700年頃）「労働と日々」「神統記」
悲劇 アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス（前５世紀）。
この三人は三大悲劇作家として有名、三人セットで憶えて下さい。ギリシア神話を題材に悲劇を書いた。ギリシアでは演劇が盛んに行われていました。劇のコンクールもあったんです。
喜劇もあります。 喜劇作家では、アリストファネス（前５世紀）。この人はソクラテスと同時代の人で、彼の「雲」という劇にはソクラテスがソフィストとして描かれています。 代表作は「女の平和」
「女の平和」は反戦劇です。処がこの劇はペロポネソス戦争中に書かれているのですよ。それだけでも驚きですね。簡単にストーリーを紹介して置くと、アテネとスパルタの御かみさん達が、戦争に明け暮れる男達に腹を立てて、何とか戦争を辞めさせようとするんです。男が好きなモノは何か。それはセックスだ。だったら彼等が戦争を辞めるまで私達は馬鹿な男共の相手をするのは辞めよう、と云う訳でセックス・ストライキをするんです。
男達、合戦が終わって家に帰って来て、かあちゃん抱かせて呉れって言うと戦争辞めなきゃダメと拒否されちゃう。戦争と女とどちらを取るか、結局戦争を捨てると云う筋書きです。 過激でしょ。
６ ヘレニズム文化
アレクサンドロスの東方遠征からプトレマイオス朝エジプトが滅亡するまでの文化をヘレニズム文化といいます。ヘレニズム文化の特徴はコスモポリタニズムです。世界市民主義と訳している。
ポリスと云う枠の中で活動していたギリシア人ですが、アレクサンドロス以後世界が広がります。自然に彼等の視野も広がった。世界市民としていかに生きるかが課題に為ったと考えて呉れたら好い。
いかに生きるかと云う点では、２つの哲学の流れが生まれます。ストア派とエピクロス派です。ストア派はゼノンと云う哲学者から始まりました。禁欲主義と訳されます。エピクロス派はエピクロスから始まる。快楽主義と訳されていますが、言葉に惑わされ無い様に。
気持ち好い事をしましょというのでは無いのです。心の平安が最高の快楽と考える学派です。ストア派は禁欲主義で快楽主義とは正反対の様に見えますが、禁欲することによって心の平安を目指しているんです。目標はどちらも同じ。
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この時期の哲学者でディオゲネスと云う人が居ます。犬儒学派と言われる人でストア派には分類されないのですが、この時期の哲学者の典型と思うので紹介して置きます。
この人仇名はイヌ。家は壊れた酒樽。心の平安の為には一切の財産、肉親を不必要と考えて、最小限の身の回りの品物だけを袋に詰め込んで路地裏に転がっている酒樽の中で生活していたんだ。全くの乞食と同じです。でも有名な哲学者なの。
突飛な振る舞いが多くてエピソードも沢山ある。或る時、子供が手で水を掬って飲んでいるのを見てディオゲネスは叫んだ。「この単純な生き方において、私はこの子に敗れた！」そして、自分の袋に入っていた水飲みを投げ捨てたと言います。
又、或る時アレクサンドロス大王がギリシア中の哲学者を集めた。哲学好きですからね。処がディオゲネスは呼ばれたけど行かなかった。 逆に興味を駆り立てられたのがアレクサンドロス。ディオゲネスの樽まで自ら出かけました。そうしたら、ディオゲネスは樽の前でゴロリと寝そべって日向ぼっこをしている。
大王は近づいて名乗った「余はアレクサンドロス大王である」ディオゲネスはヒックリ返ったままで名乗る 「余はイヌのディオゲネスである」 普通は立ち上がって挨拶する処ですから、ディオゲネスの態度は滅茶苦茶無礼。いきり立つ側近を押し留めて、大王は質問します。
「そなたは、余が怖くないのか」
ディオゲネス「お前は善い人か？」
大王「余は善い人である。」
ディオゲネス「何故、善い人を怖がる必要があるか」
アレクサンドロスはスッカリディオゲネスが気に入ってしまいます。そして尋ねた。
「そなたが望むものを何でも遣ろう。遠慮なく申せ」
ディオゲネスは何と答えたと思いますか。
「そこをどいて呉れ。お前の所為で影になって寒い」
日向ぼっこの邪魔だからどけ、彼の望みはこれだけ。どんな財産だって手に入ったのに欲しがら無いのです。そう、そんなものは心の平安にとっては意味が無いとディオゲネスは考える人なのです。 禁欲して、心の平安をひたすら求める態度としては確かに徹底した生き方ですね。
只、厳しい見方をするとソクラテスやプラトンの時代に比べたら活力を失っている。もし、プラトンが大王から同じ事を言われたら、理想の国家建設の為に何か政策を進言したのではないかと思います。ディオゲネスは自分の事しか考えていない。飽く迄も自分の心の平安にしか関心が無い。これがコスモポリタニズムの一面でもあります。
ヘレニズム文化で忘れてはなら無いのがエジプトの首都アレクサンドリアに作られた王立研究所「ムセイオン」。ここでは多くの学者が自然科学の研究をした。 幾何学を大成したのがエウクレイデス。 比重・てこの原理で有名なアルキメデス。 地球の自転・公転説をとなえたアリスタルコス。 地球の周囲を測定したエラトステネス。この辺が有名処です。エラトステネスは地球の周囲を３万9700キロメートルと測定しました。 現在の計測では4万70キロ。ほとんど正確だね。
ムセイオンを中心とする科学研究は相当なレベルに到達して居たのです。只、プトレマイオス朝エジプトが滅亡しムセイオンが閉鎖されると、これ等の知識は忘れられてしまいました。
やがて、地球は平らで太陽が地球の周りを回ると信じられて行った。 正しい知識が獲得されても失われる事があるのです。貴重な教訓だと思いませんか。
《ギリシア・ヘレニズム文化》 おわり 次のページ 《ローマの発展》
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