イスラム社会を学ぶ　その2: 素敵な「自転車と家庭水族館」

2018年07月29日

イスラム社会を学ぶ　その2

　

　　6　メッカとの戦い

　メディナに拠点を移したムハンマドは、軍隊を組織し624年クライシュ族を中心とするメッカとパドルの戦いで勝利し、その後630年　メッカを征服します。メッカを征服したムハンマドは、多神教の聖地だったカーバ神殿の偶像を破壊し、イスラム教の神殿にしメッカはイスラム教の聖地に為りました。

　（カーバ神殿）

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　そして632年　ムハンマドはアラビア半島を統一し同年メディナで亡く為りますが、バラバラだったアラブ民族はイスラムの教えの下団結しその後拡大して行きます。

　

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　7　アブー=バクルのカリフ即位と正統カリフ時代の始まり

　632年　ムハンマドが死去すると、ムハンマドの義父アブー=バクル（在位632～634）がカリフと云う地位に着きます。これ以降4代に渉って正統カリフ時代が始まります。カリフと云うのは預言者ムハンマドの後継者で、彼が持って居たウンマ（イスラム共同体）の宗教的権限と政治的権限の内、政治的権限だけを継承した指導者です。632年から661年迄首都はメディナに置かれたままでした。メッカでは無い事に注意しましょう。

　アブー=バクルがカリフに即位すると各地のアラブ民族の中に離反する者が出て来ました。アラブの伝統的な部族は、ムハンマド個人との契約に依って盟約が成立して居たと考えて居たからです。この時以降アブー=バクルは、イスラム教以外の離反者や異教徒を征服するジハード（聖戦）を行う様に為ります。
　ジハード（聖戦）は異教徒に対する戦いで、イスラム世界の防衛と拡大の為に行われました。イスラム教徒に課せられた義務の一つで、戦死者は殉教者として天国に行く事が出来るとされた事から、イスラム戦士の士気は高く周辺諸国と比べてもイスラム軍は圧倒的な強さを誇って居ました。

　　
　8　第2代正統カリフ　ウマル

　634年にアブー=バクルが病死すると、第二代カリフにウマル（在位634～644）が即位します。ウマルは強力なイスラム軍を率いて、642年ニハーヴァンドの戦いでササン朝ペルシアに勝利し、その後651年にササン朝ペルシアは滅亡、同時にビザンツ帝国とも戦いその影響下に在ったシリアやエジプトを征服しました。

　（ウマル時代のイスラム共同体の領域）

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　ウマルは、ニハーヴァンドの戦いで、ササン朝ペルシアを事実上滅ぼしたカリフとして覚えて置きましょう！

　征服した土地ではアラブ人ムスリムが非常に優遇されます。彼等は、アラブ人以外のムスリムやイスラム教徒以外の征服地の住民を支配する為に、ハラージュ（地租）とジズヤ（非改宗者に課せられる税）を徴収する制度を作りました。
　各征服地にはミスルと云う軍営都市が次々に作られ、アーミル（徴税官）と軍事責任者としてアミール（総督）が派遣されます。ミスル（軍営都市）の代表例はイラク南部のバスラやクーファ、エジプトのフスタート、チュニジアのカイラワーン等があります。
　ウマルは各地から規則的な徴税を開始し、集められた税をアター（俸給）としてイスラーム共同体の有力者やイスラム戦士達に支給する中央集権的な国家体制を築きます。この頃のイスラム世界はアラブ人を中心としたものだったのでアラブ帝国と呼ばれました。

　

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　9　第3代正統カリフ　ウスマーン

　広大な征服活動を行ったウマルでしたが、最後は暗殺されてしまいます。その後第3代カリフに即位したのがウスマーン（在位644～656）です。クライシュ族の中でも、ムハンマドの生家ハーシム家と並ぶウマイヤ家出身のカリフです。
　ウスマーンの時代にコーランが編纂される等イスラム教の教義が確立して行きますが、同族を優遇した政治を行った事から反対勢力に暗殺されてしまいます。

　10　第4代正統カリフ　アリー

　ウスマーン暗殺後即位したのが第4代カリフのアリー（在位656～661）です。アリーはムハンマドの従兄弟（いとこ）で、ムハンマドの娘ファーティマと結婚しました。アリーは預言者ムハンマドの血統を受け継ぐ正統な後継者とされて居ましたが、この頃、アラブ帝国の拡大と共にカリフの権力が大きく為るに連れて、イスラム共同体の内部で熾烈な権力争いが起こる様に為って居ました。

　アリーと敵対したのが、征服地シリアの総督だったムアーウィヤでした。ムアーウィアは、クライシュ族ウマイヤ家出身でアリーと戦って居ました。
　第4代正統カリフのアリーは、次第にムアーウィアとの妥協点を見出そうとするんですが、これに不満を持ったハワーリジュ派（離脱者達と云う意味）と云う一派がアリーの妥協的な態度を批判し最終的にアリーを暗殺してしまいます。
　このアリー暗殺の以降、正統な選挙でのカリフ選出が無く為った事から正統カリフ時代が終わります。そして、その後ムアーウィア（在位661～680）はシリアのダマスカスを都にしてウマイヤ朝を開きイスラム世界は新しい展開を見せ始めます。

　

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　11　ウマイヤ朝の成立とイスラム教の分裂

　最後の正統カリフだったアリーが暗殺されると、対立して居たウマイヤ家のシリア総督ムアーウィヤ（在位661～680）がカリフと為り、ウマイヤ朝（661～750）を開きます。ウマイヤ朝の初代カリフとなったムアーウィヤ以降、カリフの地位は選挙では無く世襲と為りました。
　ムアーウィヤの死後、息子のヤズィード1世がカリフに即位するのですが、この時イスラム世界の重大な事件が起こります。

　正統カリフだったアリーの息子フサインがカリフの地位を巡ってヤズィード1世と争ったのです。フサインの父は正統カリフのアリー・母は預言者ムハンマドの娘ファーティマ。詰まり彼はムハンマドの孫としてハーシム家のみならずイスラム世界で尊敬を集めて居た人物でした。
　フサインの存在を好く思って居なかったヤズィード1世は、3000名のウマイヤ軍を送りカルバラーの戦いでフサインを虐殺しその一族も奴隷にします。フサインの殉教によりアリーを支持する人々は怒り、アリーとその子孫のみを正当な後継者とする「シーア派」を作り抵抗する様に為ります。

　一方、大多数のイスラム教徒は、代々のカリフを正当と認めるスンナ派（スンニー派）としてシーア派と対立し、この時以降イスラム教の分裂が始まりました。シーア派は、アリーを支持する「派」と云う意味で、現在イスラム教徒の1割を占めて居ます。
　ウマイヤ朝以降、様々なイスラム王朝が成立しますが、その中でファーティマ朝・ブワイフ朝・サファヴィー朝の3つがシーア派の王朝です。好く聞かれるので覚えて置きましょう！

　

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　12　ウマイヤ朝の発展とジハード

　ウマイヤ朝は、正統カリフ時代に始められたジハードを継続し領土を急速に拡大して行きます。先ず、東のゾグディアナや北西インドを征服し、西方ではベルベル人と戦い北アフリカを獲得します。次に、北アフリカからイベリア半島（現在のスペイン）に侵攻し711年に西ゴート王国を滅ぼしました。

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　718年にはビザンツ帝国のコンスタンティノープルを攻め、732年にはピレネー山脈を超えてフランク王国に侵攻しますが、トゥール=ポワティエ間の戦いで、当時メロヴィング朝の宮宰だったカール=マルテルに敗れヨーロッパを諦めます。
　トゥール=ポワティエは現在のフランスで、ウマイヤ朝は西ヨーロッパの広範囲に渉ってジハードを展開した事が判ります。この戦いの後、カール=マルテルの子ピピンがカロリング朝を創始し、その子カール大帝がゲルマン・ローマ・キリスト教の文化を融合させ西ヨーロッパの基礎が出來ました。

　この様に、ウマイヤ朝は征服戦争の結果広大な領土を獲得し、単独のイスラム王朝として最も広い領土を持つ王朝と為りました。

　（ウマイヤ朝の最大領域）　

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　又、文化の面でも、首都ダマスカスにウマイヤド=モスク、聖地エルサレムに岩のドームを建造し、イスラム建築の傑作を残しました。

　（ウマイヤド=モスク）　　　　

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　（岩のドーム）

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　ウマイヤド=モスクは、キリスト教の洗礼者ヨハネの墓の上に、岩のドームはユダヤ教のエルサレム神殿跡地に建てられました。

　

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　　　13　ウマイヤ朝の滅亡　アラブ帝国からイスラム帝国への転換

　急速に発展したウマイヤ朝ですが、アラブ人の特権が原因で内部から崩壊して行きます。正統カリフ時代からウマイヤ朝に掛けて活躍したのがアラブ人ムスリムでした。その為、アラブ人は支配者層として様々な特権が与えられて居て、この時代をアラブ帝国と言いました。
　特にジズヤと云う人頭税とハラージュと云う地租がアラブ人は免除されて居ました。アラブ人は、生産物の10分の1のザカートと云う救貧税だけ払えば好かったのです。

　ジハードの結果、征服された各地の人々はイスラム教に改宗しマワーリー（アラブ人以外のイスラム教徒）と為りました。又、イスラム教徒に改宗しないユダヤ教徒・キリスト教徒・ゾロアスター教徒・仏教徒等も、啓典の民として税金を納めれば宗教の自由を認められて居ました。この人々をジンミーと言います。
　マワーリーはイスラム教徒に改宗した後もアラブ人で無いと云う理由でジズヤとハラージュを払わ無ければ為ら無かったのです。異教徒は信仰の自由を得る為に納税に応じて居ましたが、マワーリー達の間では、ウマイヤ朝のアラブ人優遇政策がイスラム教が唱える「平等」と云う理念に反すると云う事で不満が高まって行きます。
　この様な状況が長い間続き、750年ウマイヤ朝に対するマワーリーの不満が頂点に達し、シーア派の人々と共に革命が起こります。

　この革命のリーダーだったのがハーシム家出身のアブー=アルアッバースです。彼はウマイヤ朝を滅ぼした後カリフに即位しアッバース朝（750～1258）を開きました。
　アッバース朝の成立と共にアラブ人の優遇策は廃止され、マワーリーのジズヤも無く為りました。イスラム教徒が土地を持って居た場合、平等にハラージュが課せられる様に為ったのです。アッバース朝は、イスラム教徒の平等を達成しイスラム世界はそれ迄のアラブ帝国からイスラム帝国へと変わって行きます。

　

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　14　アッバース朝の盛衰

　750年　アブー=アルアッバースに依ってアッバース朝が建国されると、アラブ人の優遇政策が廃止されアラブ帝国からイスラム帝国への転換が図られました。アッバース朝は多数派のスンニ派に配慮し、建国の際に協力的だったシーア派を弾圧する政策を取ります。
　751年　アッバース朝建国の翌年にタラス河畔の戦いが起こります。唐軍を率いて居た高仙芝を破りアッバース朝が圧勝します。この戦いの結果、唐の捕虜に製紙職人が居りその後サマルカンドに製紙工場が作られ製紙法がイスラム世界に伝わりました。
　
　第二代カリフのマンスール（在位754～775）の治世に為ると、行政機構や駅伝制の整備により中央集権化が進められます。又、766年ティグリス川西岸に在った小さな村バグダートを整備し新しい首都にします。バグダートは3重の城壁に囲まれた広大な都市として発展し、スーク（市場）やモスク等を中心としたイスラム都市文明が盛んに為ります。

　（バグダート）　　　　　　　　　

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　アッバース朝の最盛期は、第5代カリフのハールーン=アッラシード（在位786～809）の時代です。彼はイスラム文化を奨励し「千夜一夜物語」にも登場しています。その後第７代カリフのマアムーン（在位813年～833年）に依ってバグダードにバイト・アル＝ヒクマ（知恵の館）と云う総合研究施設が作られ、イスラム文化は更に発展して行きます。
　しかし、9世紀以降アッバース朝も次第に衰退して行きます。政治的に弱体化する中で、各地で独立する王朝が出て来たのです。

　アッバース朝から最初に独立したのがイラン系のターヒル朝です。又エジプトでも、トルコ系のアミール（総督）が独立してトゥールーン朝が建国されます。こうして各地に様々なイスラム王朝が乱立した結果、アッバース朝の権威は無く為って行き、最終的に1258年イル=ハン国建国者でチンギス=ハンの孫フラグに滅ぼされます。

　つづく

　