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2021年11月11日

<第1話> 滞納太郎の、その夏・4


公平で客観的な表現をめざすことは、家族を語る場合、冷たいことなのか。あるいは、冷たく伝わってしまうのか。


勤め人の父が亡くなり、のちに就職でわたしが家を出た。以来、専業主婦の母は県外の実家にひとりでいた。

父が遺した実家を、事業に失敗した(させられた)わたしが抵当でとばすまでは。

二十余年の孤独ののち、愚息のせいで家財をうばわれ知人係累一切ない土地への転居。心中察するにあまりある。

だが共に連帯保証人であった以上は果たすべき責任がある。

その夏のさらにもっと以前、それらのために心を病んだわたしは、投薬に加えた治療の一環として、

徹底した部屋の整理整頓を行うことで、症状を飼いならせた。そのことは母にも伝えた。

モノを処分することは記憶の整理、経験の総括。部屋の状態は多くの場合、頭の中の状態と連動する。

内部がゴミ屋敷に近い状態の4LDKのモノの処分。1Kへの引越し作業は、母はいうまでもなく、業者にも頼めず、わたしが行った。苛烈だった。だが、元はといえばわたしなのだ。

六畳間に大人二人。可能なかぎり絞り、残したが、不相応な量のモノ。それを猶予とは受けとめず、母はものをため続ける。変えないとの宣言のもとに。

人はやさしくありたい。はずだ。とくに家族に対しては。

毎晩ドアを開けると見える光景は、確実にわたしの心を蝕み、追いつめていった。



そんな夜、郵便受けに確認したのは、市県民税の督促と差押えの警告だった。



※売出しから数年後にやっと実家は売れた。土地神話の崩壊ひさしく、負債の補填にはとても足りなかった。


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