騎士きどり　knight kidori

父からのメールが止まらない。

寒くてエアコンを２５度に設定しているんだよとか
初詣に行ってお守りを買ってきたら、遊びに来てねとか
実家のおばあちゃんの家に電話をしたら、もうすっかりボケが進んでいたんだよとか。


淋しいのだろう。
電話を切るのが忍びなかった。１３分ほど喋って切った。



母は朝から、同居の祖母を怒り飛ばしている。
実の母親だから、よけいいらつくのだろう。容赦ない。


今日は母と祖母でカニしゃぶを食べた。

いつも、音をたてて食事をする祖母を、みんな注意するのだが、
母は毎回その注意の仕方が「ヒス」なので
今回もカニを盛大にすすりまくる祖母に

「音をたてないで！　ああああもう！　こうやって身をとるんよ！」

と悲鳴のような声を出していた。



今日、初めてその声に


「あああああ」

と私も悲鳴をあげた。そうしたら母が察したのか黙った。

「とってあげるよ」
私がもくもくとカニをほぐし始めると母も
「そこまでしてやらんといけんのかね」
と言いつつカニをほぐし始めた。



妹夫婦が同居していたとき、
祖母のことは、妹にも私にも、邪魔な存在でしかなかった。
毎日食事のたびに汚い音をたてて、
口や手をびちゃびちゃにして部屋に戻ろうとするのでそれを全員で大声で止める。

耳が遠いので、注意も絶叫だ。
「ばあちゃん！　手洗って！」


私はずっと、
家庭崩壊の原因は祖母だと思っていた。
だけど今日自分が悲鳴を上げて分かった。


祖母に大声で注意をする、母がいやだったのだ。
あのヒスを聴くたびに、ぞっとする。
きっと妹も姪っこも、いやだっただろう。


私はずっと、夜家にいられない仕事をしていたから、
夕飯のときは妹たちのフォローはできなかった。
妹や姪の前で母は、どれだけヒスを出していたのだろう。


そのヒスだって、きっと
「妹夫婦に嫌な思いをさせてはいけない！ばあちゃんをなんとかせねば！」
という一心から出ているのだ。

母も、愚かな人だ。



誰がいけなかったのかと考えたら
どうしても自分を責めることになる。
だって、私がいれば、
ヒーローの私がいれば、
母を的確に導いてあげられたのに。



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