2024年08月14日
令和二年度修了考査 構造設計(記述式)問題1
問題1
図1は、鉄筋コンクリート造の耐力壁とスラブで構成され、スラブの重心位置で水平力2Qを受け、脚部が固定支持されている1層1スパンの架構モデルを表す。耐力壁は厚さ t、スラブは厚さ2tで、いずれも面外変形は拘束され、面内せん断力によるせん断変形のみが生じると仮定する。スラブと耐力壁の接合部は剛結されているものとする。
立面図(寸法単位mm)
側面図及び耐力壁の変形図(寸法単位mm)
平面図及び加力点位置の変形図
図1 架構モデル
スラブ及び耐力壁とも、十分なせん断補強筋が配置されており、面内せん断力によるせん断応力度τとせん断変形角θの関係は図2のようなバイリニア関係に理想化できるものとする。なお、スラブ及び耐力壁のせん断応力度τは、せん断力を断面積で除したものとする。
図2において第1折れ点は、せん断ひび割れが生じて剛性が低下することを示す。この時のせん断応力度τは 0.05Fc(コンクリートの短期許容せん断力相当、Fc はコンクリートの設計基準強度)とし、せん断変形角θは 0.25 × 10-3rad. とする。第2折れ点はせん断破壊が生じ、耐力を消失することを示す。この時のせん断応力度τは 0.20Fcとし、せん断変形角θは 4 × 10-3 rad.とする。
図2 スラブ及び耐力壁のせん断応力度τ-せん断変形角θ関係
この架構に関する以下の設問に解答せよ。
ただし、h = ℓ= 4,000mmとする。
[ No.1 ]
耐力壁がせん断破壊するときの、耐力壁のせん断変形量δw、スラブのせん断応力度τs、スラブのせん断変形量δs、及び架構の加力点位置の水平変位量δf1(= δs + δw )を求めよ。
答え
[ 解答解説 ]
・耐力壁がせん断破壊するときのせん断変形量δwは、そのときのせん断変形角をθwとすると、
δw= θw・h = 4 × 10-3 × 4,000 =16.0mm
・スラブのせん断応力度τsは、耐力壁のせん断応力度をτw(=0.20Fc)とすると、
τw = Q/( Io・t) であることから、
τs = Q/( Io・2t) = Q/( Io・t)/2 =τw/2 = 0.20Fc/2 = 0.10Fc
・スラブのせん断変形量δsについては、
スラブのせん断応力度τs = 0.10 Fcの時のせん断変形角θsは図2より
θs = 0.25 × 10-3 + (4.0 – 0.25) × 10-3 /(0.20 – 0.05) × (0.10 – 0.05) =1.5 × 10-3rad.
従って、δs = θs・ℓ =1.5 × 10-3 × 4,000 = 6.0mm
・架構の加力点位置の水平変位量δf1、
δf1 = δs + δw = 6.0 + 16.0 = 22.0mm
[ No.2 ]
スラブの厚さを2tから半分のtに低減した場合について、耐力壁がせん断破壊するときの架構の加力点位置の水平変位量δf2を求めよ。また、この水平変位量は、設問 [ No.1 ]で求めた水平変位量δf1の何倍になるか、小数点以下2桁で示せ。
答え
[ 解答解説 ]
スラブ厚さが t のときのスラブのせん断応力度τs2は、耐力壁がせん断破壊するときのせん断応力度τwと等しくなり、
τs2 = Q/( Io・t) = τw = 0.20Fc
そのときのスラブのせん断変形角θs2は
θs2 = 4 × 10-3 rad.
従って、δf2 = δs2 + δw
= θs2・ℓ+ δw
= 4 ×10-3 × 4,000 +16.0=32.0mm
δf2/δf1 = 32.0/22.0 ≒ 1.45
[ No.3 ]
耐力壁がせん断破壊するときでも、スラブのせん断変形を弾性範囲内(図2の第1折れ点以前)に収めるためには、スラブの厚さを耐力壁の厚さの何倍以上にすればよいか答えよ。
答え
[ 解答解説 ]
必要なスラブ厚さをn・tとすると、スラブのせん断応力度τsnは、
τsn= Q/(Io・n ・t) = Q/(Io・t)/n = τw/n
ここで、耐力壁がせん断破壊するときの τw = 0.20Fcで、
τsn ≦ 0.05Fc となるためには、
τsn = 0.20Fc/n ≦ 0.05Fc
従って、 n ≧ 0.20Fc/0.05Fc = 4倍
となり、スラブの厚さを耐力壁の厚さの4倍以上にすればよい。
[ No.4 ]
耐力壁を有する一般的な鉄筋コンクリート造建築物の設計を行うに当たり、耐力壁に確実にせん断力を伝達するために、スラブに生じる面内せん断応力度をどの程度に抑えればよいと思うか、その理由も含めて構造設計者としての考えを述べよ。
答え
[ 解答解説 ]
各荷重レベルに応じて、スラブに生じる面内せん断応力度のレベルを以下に記載するように抑えるべきと考える。
1) 土圧などの長期荷重時には、スラブに確実にせん断ひび割れを生じさせないために、コンクリートの長期許容せん断応力度以内とすべきである。
2) 短期荷重時(地震荷重時)、及び極めて稀に発生する風荷重時には、弾性剛性に基づいた応力解析によって層せん断力の配分を行なっていることから、スラブの剛性低下が生じないレベルとしてコンクリートの短期許容せん断応力度以内にすべきと考える。
3) 保有水平耐力時、又は極めて稀に発生する地震時には、スラブにせん断ひび割れが生じても大きな剛性低下が生じず、かつせん断破壊を生じさせないで剛床仮定を成立させなければならない。その為には、スラブのせん断応力度をFc/10程度以内に抑えるべきと考える。
近年では、スラブのせん断応力度を「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型耐震設計指針・同解説」による面内せん断ひび割れ応力度としての 0.33√ (σB)以内とする場合が多い。
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12661053
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。