2016年03月09日
七十話 お題:悪達者(芸能などで巧みではあるが実質や内容が伴わないこと) 縛り:一発勝負(一回で決着をつけること)、二次会(宴会が終わってから席を替えて開く二度目の宴会)
ピアニストの友人の話である。
彼の技術は素晴らしく、国内のみならず海外でも評価されているほどなのだが、子供の頃から彼をずっと指導し続けてくれた先生からは、
「君はまだまだ自分の技術を見せびらかしているだけで、ピアノで自分の心を表現するということをしていない。それができなければ君は先に行けないだろう」
と言われていた。
「本当にお世話になってる先生だけど、それでも腹は立つよ。心を表現していないとかそんな漠然としたことを言わないで、もっと具体的な改善点を教えてほしいのに」
彼は先生以外に表現力がないと批評されたことはなく、先生の言っていることは間違っているのではないかとすら思ったという。
「とはいえやっぱり何か欠けてるものがあるんじゃないかと思って、あれこれ考えたんだけどわからなくて……でも友達の結婚式に出席したのが突破口になったんだ」
彼は友達から結婚式でピアノを弾いてほしいと頼まれ、一発勝負ながら完璧な演奏をして結婚式場は彼への拍手で包まれた。何気なく彼が式場の入り口の方を見ると、入り口の脇に首が真横に折れた女性が立って拍手をしていた。
「どう見ても死んでる角度で首が折れててこれが幽霊かって思ったんだけど、それより顔がすごくてさ、この程度の演奏? みたいな馬鹿にしきった顔で、それ見て頭に一気に血が上ったんだ」
結婚式が終わり、二次会になっても彼の怒りは収まらなかった。以来彼はピアノの演奏にその時感じた怒りを込めるようになった。その演奏を聴いた先生は、
「初めて君の演奏から君自身のむき出しの心が伝わってきた。よくやったな」
と言ってくれたという。彼はいつか友達の結婚式で見た女性の幽霊を自分の演奏で感動させてやると決意し、日々練習をしているそうだ。
彼の技術は素晴らしく、国内のみならず海外でも評価されているほどなのだが、子供の頃から彼をずっと指導し続けてくれた先生からは、
「君はまだまだ自分の技術を見せびらかしているだけで、ピアノで自分の心を表現するということをしていない。それができなければ君は先に行けないだろう」
と言われていた。
「本当にお世話になってる先生だけど、それでも腹は立つよ。心を表現していないとかそんな漠然としたことを言わないで、もっと具体的な改善点を教えてほしいのに」
彼は先生以外に表現力がないと批評されたことはなく、先生の言っていることは間違っているのではないかとすら思ったという。
「とはいえやっぱり何か欠けてるものがあるんじゃないかと思って、あれこれ考えたんだけどわからなくて……でも友達の結婚式に出席したのが突破口になったんだ」
彼は友達から結婚式でピアノを弾いてほしいと頼まれ、一発勝負ながら完璧な演奏をして結婚式場は彼への拍手で包まれた。何気なく彼が式場の入り口の方を見ると、入り口の脇に首が真横に折れた女性が立って拍手をしていた。
「どう見ても死んでる角度で首が折れててこれが幽霊かって思ったんだけど、それより顔がすごくてさ、この程度の演奏? みたいな馬鹿にしきった顔で、それ見て頭に一気に血が上ったんだ」
結婚式が終わり、二次会になっても彼の怒りは収まらなかった。以来彼はピアノの演奏にその時感じた怒りを込めるようになった。その演奏を聴いた先生は、
「初めて君の演奏から君自身のむき出しの心が伝わってきた。よくやったな」
と言ってくれたという。彼はいつか友達の結婚式で見た女性の幽霊を自分の演奏で感動させてやると決意し、日々練習をしているそうだ。
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