2016年08月05日
二百十九話 お題:司式(儀式の司会・進行を担当すること) 縛り:専一(他を顧みないで、ある物事だけに力を注ぐこと)、吹き溜まり(行き場のない人たちが、自然と寄り集まる所)、便(大便と小便)、市町村(市と町と村)、九分九厘(そうなることがほぼ確実であるさま)
知人の男性の話である。
彼はとある町の出身なのだが、そこは全国の市町村の中でも一、二を争うほど治安が悪いことで有名なのだという。
「言っちゃ悪いがクズ共の吹き溜まりそのものの町だったよ」
その町では暴行や窃盗は日常茶飯事で、しかも町中が血や吐瀉物や便で汚れ、言いようもない悪臭に満ちていたという。
「自分でもよく生き延びられたもんだと思うよ。でもそんなところにも、いや、そんなところだからか、ある時神父さんがやってきたんだよ」
その神父は物腰が穏やかで身なりもきちんとしており、いかにも専一に信仰に励んできたという印象だったそうだ。
「俺、初めてその神父さんに会った時、なんでこんなところにわざわざ来たんだって聞いたんだよ。そしたら神父さんが、この町に神の救済が与えられるように儀式を執り行うんだって言ってさ」
このような町であれば九分九厘救済は与えられるでしょう、と言って神父は立ち去ったという。
「まぁ町で神父さんと話したのはそれが最初で最後だったよ。しばらくして俺は町を出て別の土地で生活を始めたんだが、中々上手くいかなくてさ。食うものにも困ってある教会の炊き出しに行ったら、そこに町で会った神父さんがいたんだ」
神父は彼のことをちゃんと覚えており、彼に食事を手渡すと、食べるものに困った時はいつでも私とこの教会を頼りなさい、と激励してくれたという。
「久しぶりに優しくしてもらったせいか、俺泣いちまってさ。神父さんは黙ってずっと側にいてくれたよ。それで俺、思わず神父さんに聞いたんだ。神父さんみたいな立派な人がわざわざ来て儀式までやってくれたのに、俺の町は噂だとますます治安が悪くなってる、やっぱり俺の町の人間は神様ですら救いようがないのか、って」
神父はそれを聞くと、彼を落ち着けるように微笑み、
「いいえ。神は決してあなたの故郷の町の人々をお見捨てにはなりません。これからあなたの町はますます悪が栄え、退廃に満ちたものになるでしょう。その果てに必ず神はあなたの町を滅ぼされ、悪を清められます。私が行った儀式はそのためのものなのですよ」
慈愛に満ちた声でそう言ったという。
「……わかってたんだよ。俺の町がどうしようもないことなんて。わかってたつもりだったけど、それでも、こんな俺に手を差し伸べてくれた人からああまで言われたら、やっぱ、なぁ」
話し終えた彼は全てを諦めたような、虚ろな目をしていた。
彼はとある町の出身なのだが、そこは全国の市町村の中でも一、二を争うほど治安が悪いことで有名なのだという。
「言っちゃ悪いがクズ共の吹き溜まりそのものの町だったよ」
その町では暴行や窃盗は日常茶飯事で、しかも町中が血や吐瀉物や便で汚れ、言いようもない悪臭に満ちていたという。
「自分でもよく生き延びられたもんだと思うよ。でもそんなところにも、いや、そんなところだからか、ある時神父さんがやってきたんだよ」
その神父は物腰が穏やかで身なりもきちんとしており、いかにも専一に信仰に励んできたという印象だったそうだ。
「俺、初めてその神父さんに会った時、なんでこんなところにわざわざ来たんだって聞いたんだよ。そしたら神父さんが、この町に神の救済が与えられるように儀式を執り行うんだって言ってさ」
このような町であれば九分九厘救済は与えられるでしょう、と言って神父は立ち去ったという。
「まぁ町で神父さんと話したのはそれが最初で最後だったよ。しばらくして俺は町を出て別の土地で生活を始めたんだが、中々上手くいかなくてさ。食うものにも困ってある教会の炊き出しに行ったら、そこに町で会った神父さんがいたんだ」
神父は彼のことをちゃんと覚えており、彼に食事を手渡すと、食べるものに困った時はいつでも私とこの教会を頼りなさい、と激励してくれたという。
「久しぶりに優しくしてもらったせいか、俺泣いちまってさ。神父さんは黙ってずっと側にいてくれたよ。それで俺、思わず神父さんに聞いたんだ。神父さんみたいな立派な人がわざわざ来て儀式までやってくれたのに、俺の町は噂だとますます治安が悪くなってる、やっぱり俺の町の人間は神様ですら救いようがないのか、って」
神父はそれを聞くと、彼を落ち着けるように微笑み、
「いいえ。神は決してあなたの故郷の町の人々をお見捨てにはなりません。これからあなたの町はますます悪が栄え、退廃に満ちたものになるでしょう。その果てに必ず神はあなたの町を滅ぼされ、悪を清められます。私が行った儀式はそのためのものなのですよ」
慈愛に満ちた声でそう言ったという。
「……わかってたんだよ。俺の町がどうしようもないことなんて。わかってたつもりだったけど、それでも、こんな俺に手を差し伸べてくれた人からああまで言われたら、やっぱ、なぁ」
話し終えた彼は全てを諦めたような、虚ろな目をしていた。
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