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ペン牛といいます。子供の頃から怖い話が好きで、ブログを始めたいけどネタがない、と悩んでいたところ辞書からランダムに選んだ言葉を使って怖い話を書けないかと思いつき、やってみたら案外できることが判明、気がついたらブログを開設していた。こんなですが、どうぞよろしくお願いします。なお当ブログはリンクフリーです。リンクしてもらえるとすごく喜びます。にほんブログ村アクセスランキング、人気ブログランキング、アルファポリスに参加中です。 


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2016年07月09日

百九十二話 お題:家元(技芸の道で、その流派の本家として正統を受け継ぎ、流派を統率する家筋) 縛り:なし

 知人に華道の家元がいるのだが、その人から聞いた話である。

「五年くらい前でしょうかねぇ。家に強盗さんがいらっしゃったんですよ」
 私は思わず大丈夫だったんですか、と聞いてしまったのだが、彼女は当たり前のように、
「えぇ、大丈夫でしたよ」
 と言った。私がどのくらいの被害があったんですか、と聞くと、
「被害……ですか。それがねぇ、その強盗さん、なんにも持っていかないで出ていかれたんですよ。私に包丁を向けて、金を持ってこいっておっしゃるもんですから、これは本当にお金に困って、辛い境遇にある方なんだなと思いまして、大急ぎで家中のお金を集めたんです。それで強盗さんに、たったこれだけのお金で申し訳ないけれども、きっとあなたが困苦から抜け出して、幸せな生活を送れるようにお祈りいたしますからと言ったら、強盗さんがなんだかお化けでも見たような顔になって、何も言わず、お金も持っていかずに出ていかれたんです。それでお恥ずかしい話なんですが、強盗さんが出ていかれてから、あぁ、連絡先を聞いておけばお金とかお食事とか、色んな形でお力になれたかもしれないと気づいたんですよ。本当にいい年をしてなんて気が利かないんだろうと、思い出す度に情けなくなります」
 そう言って彼女は深い溜め息をついた。彼女は話の中で強盗さんがなんだかお化けでも見たような顔になって、と言っていたが、その強盗には彼女がどんなお化けよりも不気味に見えていたに違いない。何せ悪人にとって、本当の善人ほど理解し難いものはないのだから。

posted by ペン牛 at 12:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 怖い話
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