2016年06月05日
百五十八話 お題:ブランド(商標) 縛り:働く(仕事をする)、子息(男の子)、薄目(瞼を少し開けて見ること)、片鱗(多くの中のほんの少しの部分)、明滅(明かりがついたり消えたりすること)
知人の女性の話である。
彼女はブランド品に目がなく、給料でブランド品を買うために働くのだと公言していた。そんな彼女だが結婚して子息が産まれ、少しはブランド品に対する情熱が薄れるかと思ったのだが全くそんなことはなく、むしろ情熱は増す一方だった。
「私の影響だと思うんだけど、最近息子までブランド好きの片鱗を見せてるのよ。服とか玩具とかもっといいやつが欲しい! もっといいやつが欲しい! ってほんと困っちゃう」
その時は彼女は笑い話のように話していたのだが、ある日笑えないことが起きたという。
「……夜中に急に目が覚めたの。電気が調子悪いみたいでチカチカしてて、そのせいかもしれない。それで、薄目開けて枕元見たら、息子がハサミ握って立っててね」
彼女が息子に何してるの、と聞くと、息子は、
「お母さんが死んじゃえばもっといいお母さんに取り換えられると思ったの」
と答えた。明滅する部屋の電灯に照らされた顔には何の表情も浮かんでいなかった。
「その瞬間にブランド品全部捨てようって決意したの。それでどんなことをしてでも息子を普通の子にしなくちゃいけないと思って」
彼女は会社を辞めて専業主婦になり、息子にできる限りの愛情を注いだ。彼女の息子は今、悪戯好きだが友達の多い明るい子になっているという。
彼女はブランド品に目がなく、給料でブランド品を買うために働くのだと公言していた。そんな彼女だが結婚して子息が産まれ、少しはブランド品に対する情熱が薄れるかと思ったのだが全くそんなことはなく、むしろ情熱は増す一方だった。
「私の影響だと思うんだけど、最近息子までブランド好きの片鱗を見せてるのよ。服とか玩具とかもっといいやつが欲しい! もっといいやつが欲しい! ってほんと困っちゃう」
その時は彼女は笑い話のように話していたのだが、ある日笑えないことが起きたという。
「……夜中に急に目が覚めたの。電気が調子悪いみたいでチカチカしてて、そのせいかもしれない。それで、薄目開けて枕元見たら、息子がハサミ握って立っててね」
彼女が息子に何してるの、と聞くと、息子は、
「お母さんが死んじゃえばもっといいお母さんに取り換えられると思ったの」
と答えた。明滅する部屋の電灯に照らされた顔には何の表情も浮かんでいなかった。
「その瞬間にブランド品全部捨てようって決意したの。それでどんなことをしてでも息子を普通の子にしなくちゃいけないと思って」
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