2016年05月31日
百五十三話 お題:酒(エチルアルコールを含んだ飲料の総称) 縛り:寸前(ある事の起こるほんの少し前)、主情(理性や意志よりも、感情や情緒などを中心とすること)、塩辛声(かすれた声)
友人の話である。
彼は殺人罪で逮捕され、現在服役中なのだが、私は彼が人を殺したとはどうしても思えなかった。そのため私は刑務所に面会に行き、本当にお前がやったのかと彼に聞いてみた。すると、
「……信じてもらえないだろうが、事件の時、俺は体を乗っ取られてたんだよ」
そう言って彼は詳しい話を始めた。事件の寸前、彼は一人バーで酒を飲んでいたという。元々彼は酒の飲みすぎで声が塩辛声になってしまったほどの酒好きで、また普段は理性的な性格が酒が入るとひどく主情的な性格になり、近くにいる人に絡んでは悩みを聞き出して泣きながら励ましたり叱ったりするという悪癖があった。その時も彼は酔っ払っており、近くの席に座っていた女性に、
「あなたの悩みを聞かせてください! あなたの苦しみを俺とあなたとでわかち合いましょう!」
と大声で話しかけ、近づいていったという。女性は彼の方へ顔を向けると、
「助けていただけますか?」
と彼に言った。彼は、
「俺にできることならなんでも!」
と女性に言った。すると女性は、
「ではあなたの体を貸していただけますか? 殺したい人がいるので」
と彼に言ったそうだ。彼は女性が言ったことをろくに聞きもせず、もちろん喜んで! と返事をしてしまった。殺したい人がいるので、の箇所を聞いたのは返事をした後だったという。
「で、気がついたら俺は全く知らない人を刺し殺してたんだよ」
私は彼に対して何か言おうとしたが、言葉に詰まってしまい、やっと出てきたのが、
「まだ酒は飲みたいか?」
というしょうもない質問だった。彼はその質問に一切躊躇することなく、
「飲みたい」
と答えた。
彼は殺人罪で逮捕され、現在服役中なのだが、私は彼が人を殺したとはどうしても思えなかった。そのため私は刑務所に面会に行き、本当にお前がやったのかと彼に聞いてみた。すると、
「……信じてもらえないだろうが、事件の時、俺は体を乗っ取られてたんだよ」
そう言って彼は詳しい話を始めた。事件の寸前、彼は一人バーで酒を飲んでいたという。元々彼は酒の飲みすぎで声が塩辛声になってしまったほどの酒好きで、また普段は理性的な性格が酒が入るとひどく主情的な性格になり、近くにいる人に絡んでは悩みを聞き出して泣きながら励ましたり叱ったりするという悪癖があった。その時も彼は酔っ払っており、近くの席に座っていた女性に、
「あなたの悩みを聞かせてください! あなたの苦しみを俺とあなたとでわかち合いましょう!」
と大声で話しかけ、近づいていったという。女性は彼の方へ顔を向けると、
「助けていただけますか?」
と彼に言った。彼は、
「俺にできることならなんでも!」
と女性に言った。すると女性は、
「ではあなたの体を貸していただけますか? 殺したい人がいるので」
と彼に言ったそうだ。彼は女性が言ったことをろくに聞きもせず、もちろん喜んで! と返事をしてしまった。殺したい人がいるので、の箇所を聞いたのは返事をした後だったという。
「で、気がついたら俺は全く知らない人を刺し殺してたんだよ」
私は彼に対して何か言おうとしたが、言葉に詰まってしまい、やっと出てきたのが、
「まだ酒は飲みたいか?」
というしょうもない質問だった。彼はその質問に一切躊躇することなく、
「飲みたい」
と答えた。
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