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2017年08月12日

やかんなめ

これはあるご大家の商家・商人の女将さんですが大変な癪持ちでして
いざ癪となるともうなんだか分からなくなってしまう

この女将さんが向島に梅見に行こうというので女中を二人つれまして
本町のお宅を後にしました。

向島へやってくると春先の原っぱを心良いものでした。
心持が良い者は人間だけでなく蛇も穴から出ましてこの女将さんの前を
スルスルっとよぎった。
これに驚いた女将さんは癪が発作し

うぅぅ・・・・

って言うとその場にうずくまってしまった。

お竹さん!大変だよ!!
女将さんが急な癪だよ、どうしよう!!

どうしようって言ったってお花さん
そんなこと言っても困るじゃないか!
うちの女将さんは他の人と違って癪の合薬がないと治らないですよ
困ったねぇ

あ、あの、やかんかい?

そうだよ
他の方はねマムシ指を押すと治るとか、
男の人のふんどしを巻き付けると治るとかいうけど、
うちの女将さんはやかんをぺろぺろとなめると治まるっというから
困ったねぇ、、こんな草原じゃねぇ・・・家も無いしねぇ・・・
あの、お花さんやかん持って来たんだろ?やかん

やかんなんか持ってきませんよ
梅見に行くって言うから瓢箪(ひょうたん)にお酒を入れて来たんだけど
瓢箪じゃ駄目かしら?

瓢箪じゃ色合いも違うし、大きさも違うし
あぁ女将さん可哀想・・・
苦しがってるよ

女将さん大丈夫ですか?
まぁどうしよう
やかんさえあれば


困っていると向こうからやってきたのは一人のお武家で御座います。
歳頃は四十二、三くらいで共の者を一人連れまして
よほど仲のいい主従と見えまして冗談を言いながら梅見に行ってきた帰りで御座いましょう

ちょ、ちょっとお花さん!
向こうからくるお武家をご覧なさい

なに、お侍様?
あっ!!ちょっとあのお侍様の頭!
よほどのぼせ症と見えて綺麗につるっとうまい具合に禿(ハゲ)ているのは良いけど
どっかで見たようなと思ったらあれはうちに置いてきたやかんにそっくり
色合いといい形と良いなんてよく似ているんでしょう

そうでしょ!!
あれがやかんだったらねぇ
頼んでなめさせてもらえるのに
だけどねぇお侍様だからそういう訳には

そういう訳にはってそういう生易しい者じゃないですよ
無礼物って言われますよ

だってさぁやかんはこの辺りには無いでしょ
あぁ女将さん可哀想、、
それじゃね無理とだと思いますがお花さん
あのお武家様におねがいしてきますから

お願いするってお竹さんの止めなさいって
無礼者っていってスッパっと命が

だってそうかもしれないけど
女将さんを可哀想よ、ほっとけないでしょ
だからね頼むだけ頼んでみるから
お花さんは女将さんの背中を擦って


お願いで御座います!お願いで御座います!!
お武家様ちょっとお待ちくださいまし!
御頼みごとが御座います!

あぁ可内(べくない)、可内
待て待てそう慌てて帰っても何があるわけでないし
ここにいずこかの夫人が参ってな
地べたに手をついてお願い、頼みごとがあるとこう申しておる
わしは夫人にものを頼まれると横を向いておられないたちでな
ちょっと待て

なんだな?

お武家様お願いで御座います。
どうぞ助けてください
お力を貸してください

なにお助け下さい、お力を貸してください?
その方、顔の色が変わっておるな!
読めた!かたき討ちに歩いているのであろう
そこでかたき討ちに出会ってとても敵いそうにないから身どもに助太刀をしてくれと言うのか
よし!分かった!
一刀流免許皆伝、そなたの助太刀をして見事本懐を!!

そうでは御座いません・・・
違うで御座いますかたえき討ちでは御座いません。
実は私は商家の奉公をしております今日は女将さんのお供として向島の原にやってマりました。
足を踏み入れた途端に・・・・

うん!
わしも損事については実に苦々しく思っておったんだ
ちょっと人がいないといけない奴らが表れてお前の主をさらっていったのか!
けしからん奴だなその男は!身どもがひっとらえて八つ裂きにしてくれるぞ!
どこ行ったその男は!

男の話じゃないんです

なに女か?
とんでもない女だな!
どこに行ったその女?

いや男でも女でもないんで御座います

なに?
男でも女でもない?
何者だそいつは???

そういった話ではないんです。
実はうちの女将様は大変な癪もちで御座いまして
目の前に蛇がするすると横切ったとたんに癪にとざされたので御座います。
あちらで苦しんでおります。
その女将さんを何とか助けたいと思ってお力を借りたい、、

おぉ!!そうか!
それは大変だな!
実はうちの妻も大変な癪もちでな
案ずることは無い!ここに印籠が在り癪に効く薬が入っておる
これも何かの縁だ。
癪に効く薬を分け与えてやるからこれで治せ

せっかくで御座いますがその薬では治らないので御座います。

なに?
この薬がいかさまだというのか?!

いえ、そうでは御座いませんが当たり前の薬では治らずに
実はうちの女将さんはやかんをなめるとピタリと治るので御座います。
しかしこの原中では人家も無くやかんが無くって困っておりますと
そこへ、、、旦那様がお通りになりました。

やかんをなめるとピタリと治まる?
おおぉ左様な事があるのかな
そこに身どもが通りかかったとそう申すのか
これ狼狽えるな。
身どもも共もやかんを携えてないぞ

いえ、それは分かっているのですが
実は・・・実は、その、うちに置いて参りましたそのやかんと、、、
お許しください!
ご勘弁ください!!

なんだ、なんだ
どうしたんだってんだ?

実はうちに置いて参りましたやかんと旦那様のおつむりが瓜二つなんで御座います。
お願いで御座います。
助けると思いひとなめ、なめさせて下さい!

・・・・なに!!!
やかんと!!!けしからん!!
そこになおれ!無礼打ちだ!!!
・・おい、可内何をそこでゲラゲラ笑って居る?
笑うのをやめろ、主人の頭がやかんとそっくりと言われ何が面白い?
そこに控えておれ、このたわけ者
無礼打ちだ!そこになおれ

左様で御座いますか
お聞き届けいただくか、あるいはお手打ちになるか二つに一つの覚悟をして参りました。
ひとなめ、なめさせて頂けないのであるならば

なに?それでは何か?
万が一にも手打ちにされることを覚悟できたのか?

可内何が可笑しい?
この者を見ろ、なんだお前は?
武家に奉公する身でありながら主人の頭をやかんに似ていると言われて笑って!
この者は手打ちを覚悟に自分の主人を思わんが為に命をさらけ出して助けようとする。
よし、相分かった。本来ならば何が何でも許せぬところであるがその方の主を思う心をもって少しだけなら・・・


どうぞこちらで御座います。
ちょっと!お花さん無理やりお願いしてね
ほんとの所、手打ちになるはずが、助け頂いた上に少しなめさせて下さると仰って

女将さん!
癪の合薬のやかんがおいでになりましたよ

あぁこれこれ!
なんだやかんがおいでになりましたって
どうすればいいんだ?
こうか?こうすればいいのか?
・・・可内、指をさして笑うな
良くあたりを見張っておけ、だれか来たら教えろよ
さぁさぁ早くせんか、人が来ないうちに


この女将さんもお侍の頭だって分かっていたらなめることは無かったんですが何しろ癪の苦しみからやかんだなってほのかに通じていきなり

ベロベロベロベロ!!!!

うわぁあぁぁあああ
なめるわ、なめるわ
これこれ抱え込んではいけない
動きが取れない、気色が悪い
早く致せ、まだか?まだか?

女将さん!女将さん!
治まりましたか?

はっ!竹と花、、、いたのか?

すみません
急な癪、やかんを持参するのを忘れておりまして相済みません
困り果てておりますとこちらのお武家様を通りまし無理を言っておつむりをなめさせて頂きました。
癪が治まったのでございます。
女将さんからも良くお礼を申し上げてください。

まぁ有難う御座います。
知らぬこととはいえご無礼は十重二十重(とえはたえ)に謝らせて頂きます。

いやいやいや
そのような事は無用だ、心配することは無い
余りにもそばにいるものが関心だったんでな
具合はもういいのか?
。。。。本当に治ったのか?そうか不思議な事もあるんだな
やかんをなめると治まるとは聞いたことが無かったなぁ
でもな、いいかくれぐれも申しておくがなこれから表に出るときは必ずやかんを持参するように。
そうでないと沿道の頭の薄い者は迷惑を致す。
よし、行け

重ねてお願いが御座います。

重ねてお願い?!
ここで頭のなめおきをするなら許さんぞ

いいえ、そうでは御座いません。
お屋敷を教えていただきたく存じます。

何?度々なめに来るつもりか?

いえ改めてお礼に伺いたく

ならん!黙れ!
頭をなめた礼に来られてたまるか!
妻子の者に面目が起たん
良いか?これは他に口外してはいかんぞ
分かったな?
行け、、いや待って待って!
これからどこかでばったりと会ったとしても、その時に礼を言ってはいかんぞ
会釈もいかん。何事もなかったかのように通り過ぎろよ
心して参れ

可内、何が可笑しい?
後に続け
しかし何と言う悪日だ
犬も歩けば棒に当たるとは言ったが侍が面を歩くと頭をなめられるとは

あの旦那様

なんだ

お戻りになりましたらお屋敷の表に看板をお出しくださいませ
「急な癪によく効く合薬のやかん頭あり」

これ!
その方までそのような事を申すな
しかし、、、本当に癪が治まったのか、
けど人を助けるのも悪くはないな
それにしてもあの女め、本当のやかんと思ってベロベロベロベロって
あぁ気色が悪い
なんだ頭がぬるぬるする個所と突っ張る所が・・・
あっおや?!
これは?!!
可内、ちょっと見てくれ
この月代(さかやき)の当たりヒリヒリと痛んでまいったが
何かなってないかよく見てくれ

あっ!!!!
旦那様大変で御座います。
ここに歯形が二枚並んでついております

なに!歯形が二枚!
どうだこの傷の具合は?!

どうぞご案じ召されるな
まだ漏るほどでは御座いません





タグ:やかん
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posted by 落語の世界 at 10:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月11日

死ぬなら今

落語は一に落ち・二語り・三仕草と言って
落ちが一番大事だそうです
それではみんながみんな落ちがあるのか
って言う方もいらっしゃいますがそうでもないんです

これからお話しする「死ぬなら今」も落ちのない落語です

この題をご面倒でも頭の片隅に入れていただかないと
これからお話しすることが何の事だか分らなくなりますので・・・・


ここにございますは赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべえ)さん
名前の通り随分なケチケチぶりで一財産こしらえたんですが
昔から「お金があっても死に病には勝てない」と言いますが
この吝兵衛さんもある時ふとしたことが元で病に落ち
今日、明日をも知れないというある日の事
せがれのを枕元に呼んで





孝太郎・・

はい、お父さん

そこにいてくれたか・・・
いつ目を開けてもお前が傍にいてくれると心丈夫だ
しかしな今度という今度はもう駄目だと思う
そこでお前に頼みがあるんだが聞いてくれるか?

お父さん水くさい
親子の間柄で頼みなんてこと言わないで
「ああしろ」とか「こうやれ」とおっしゃって頂きたい

いやいや
親子でも頼み事というのはそういう訳にはいかない
実はな、頼み事は他ではない
人間死ぬとな死に装束に改める
経帷子(きょうかたびら)を着て頭には三角の頭巾
それから首から頭陀(ずだ)袋をぶら下げる
その頭陀袋の中には一文銭で六枚・・・
いわゆる六文銭を入れるな

なんでも聞くことによると三途の川を渡る渡し賃になるそうだが
わしが死んだら六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい

これだけでは分かりはしまいが・・・
人間が死ぬと極楽とか地獄とか二道に分かれていると聞いていますが
良い事をすると極楽に行き、悪い事をすると地獄に行く
こうして病んで床に入って振り返ってみると・・・
随分な世渡りをしてきました
人様の足を引っ張るような行いって言うが
わしはそれどころじゃなかった・・・
前に歩いている人様を後ろから突き飛ばして
その上を踏みつけるような世渡りをしてきました
これだけの身代ができたものの我が身のほどが恐ろしい

この報いで極楽へは行けない、地獄が相場だろう
けどな昔から「地獄の沙汰も金次第」って言う事もあるので
そこを何とか金の力で極楽への近道をと・・・そう考えるんだが
六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい
これが頼みだ聞いてくれるか・・・

何をおっしゃってます
いやいや願わないことでございますが
もしお父さんにもしものことがありましたら
百両や二百両どうってことありません
喜んで入れて差し上げます
まぁそんなことおっしゃらずに良くなって下さい

いやいや今度ばかりは駄目だ・・・
百両は頼んだぞ


っと言って気が緩んだと見えてそのままあの世に行ってしまいました
せがれのは湯・棺桶を済ましまして
お父さんの遺言だからと頭陀袋に小判で百両を入れようとしたら・・・


あ、おじさん

おじさんではない
その仏の頭陀袋の中に何を入れかけている

これは小判で百両・・・

こっ・・・小判で百両?!!
その頭陀袋の中には六文銭と相場が決まっています
天下のお宝をその中に入れてどうなると思ってる
もったいない天下のお宝を何と思っている罰あたりが
親が親なら子も子だ!
金の価値を知りなさい!!

おじさん・・・そうおっしゃいますが
これはお父さんの遺言で

なにを親父の遺言?
仏が何を言いました?
ふんふん・・・なるほど地獄の沙汰も金次第
金の力で極楽への近道を・・・
なるほどなぁお前の親父が言いそうなことだ
死んだ仏の悪口を言うわけではないが
生きているうちから金々金々って
金の亡者みたいに成り下がって
死んでからもその金を抱いていくつもりか
いけません!そういうことはさせられません!

おじさんはそうおっしゃいますが
私からしてみたらたったひとりのお父さん

まぁなぁ・・・親子の情だ
それは分からない事はないが
みすみすその小判を埋めてしまうっていうのがもったいない
なにかお前は親父の遺言で義理を立てたらいいのか
その中には百両ではなく百両の型を入れたらいいのか
お前の気休めに・・・

なるほどだったら話がある
この前、歌舞伎芝居を一緒に連れて行ってもらいましたが
そのとき小判を撒くところがある
いくら芝居だが小判を玩具にして腹が立ちましたなぁ
しかし後で聞くとそれは芝居で使う小道具・偽の小判だそうだ
どっから見ても本物に見える
まぁ死んだ仏目をつぶっていれば本物・偽物も区別がつかないだろう
あれを手に入れて入れてしまえばいいだろう


やっとのことで偽の小判を百両調達してきまして
頭陀袋に入れてそのまま葬ってしまいました
吝兵衛さんはそんなこと知りません
朦朧とした中でうっすら目を開けてみますと
正面には閻魔大王・左右には牛頭・馬頭
地獄中の役人が綺羅星のごとく並んでいます
吝兵衛さん威厳に打たれまして


へへぇ

これ赤螺屋吝兵衛はその方であるか
表を上げい余は閻魔である
その方が参ると言うので罪状を調べていたが随分なことをしておるなぁ
よくもまぁ短い一生でこれだけの悪事が出来たもんじゃなぁ
罪が決めかねるが判決を下したところで
現生で犯した罪が分からないのでは不服であろう
この地獄には現生で犯した罪の数々が映る鏡がある
これ浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)をこれへ!


閻魔様が声をかけると大勢の鬼どもが浄玻璃鏡という立派な鏡を運んできた
不思議なことにこの鏡に吝兵衛さんがやったことが次から次へ映像が映り出ている
閻魔大王がこれを見ながら


うん・・・・これはひどい!
なんと言う事を・・・
これは針の山では手ぬるい、血の池にも放りこもう!


これを聞いた吝兵衛さん
針の山だけでも痛いと思っているのに!
そのうえ血の池って生臭い所に放りこまれたら・・・
この身がどうなる・・・
この身が・・・・
・・・あったんだ!・・百両!!
こんな時のために使おうと孝太郎に頼んでおいたんだ
そうだ!これを使うんだったら今だ
閻魔大王が横を向いている隙にこの小判の百両を袖の下へ

コトン

この重みでの体が傾いって言うんですが

じゃがなぁ〜 けちべぇ〜
まぁまぁ針の山からなぁ
血の池をちょっとぬる湯めにして入ってもらおうかぁ

これを聞いた鬼どもが黙っていない

おい

えっ?

えっじゃない
閻ちゃん見てみろ

何が?

何がじゃないに袖の下に物を放りこまれたら
急に風向きが変わってしまった
これ閻魔大王!贔屓したら

まっまっやかましいぃ静かに
見つかってしまったんならしょうがない
おっお前らにも分けてやる


さすがの閻魔大王も汚職がばれるのは恐ろしいと見えまして
それでも自分の取り分はきっちりとって残りを鬼に分け与えてしまいました
この金が地獄中まわりに回って地獄はひっくり返るような景気になっています。
朝から閻魔の庁に現れる殊勝な鬼は一匹もいません

おい!赤鬼!

こらよく見て物を言えよ
俺は生まれたときから青鬼だ

そんこと言っても・・・
頭の先からつま先まで真っ赤池だ

悪いなぁ昨夜から飲み続けで酔いが醒めん
これからクラブ天野川にパァ〜と散財しようと思って

えらい景気だなぁ〜どうした? 
ふんふん閻魔が・・・知らなかった〜
それいつの事だ
えっ俺の休みの時だ

よし俺も行ってこよう


噂がそれからそれへあれからあれへで地獄はひっくり返る好景気
この小判が廻り回ってたった一枚、極楽の警察へこれが行ってしまいました


この見慣れない小判どっから来た?
ふんふん・・地獄からぁ?!
けしからんな、偽の小判・贋金だ
こういう悪事を取り締まるのが地獄の仕事であろう
それに贋金を使うのは罪の中でも重いほうだ
これを目こぼしするとは近頃の地獄もたるんできたな

えっ!?これに籠絡をされて地獄は仕事をしていない
まったくもってけしからん!
地獄は粛清しなければいけない!!!


極楽の偉い人が烈火のごとく怒りまして
号令をかけますと武装した極楽の警官が地獄に押し掛けて行き
閻魔大王をはじめとして地獄の役人という役人を全員捕まえて
極楽の牢屋へぶち込んでしまいました。










いま地獄には誰もおりません






死ぬなら・・・




タグ:ケチ 地獄
posted by 落語の世界 at 07:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月09日

親子の不精

たいへん不精な親子がありまして
お父さんと息子が枕をならべて寝ていたのですが・・・

なぁお父さん・・・お父さん・・・

なんや

神棚のお燈明の火を消すの忘れたんや
風も出てきたし・・・消した方が用心にええ事無いかな

用心にええと思ったらお前立って行って消さんかい

わい消すのじゃまくさい

んなわいもじゃまくさい





あぁとうとうお締めの縄に火がうつってもぉた
あれはぁ消した方がええと思うがなぁ・・・

消した方がええと思うならお前が行って消さんかい

わい消すのじゃまくさい

わいもじゃまくさい

ほっとこうか・・・

ほっとけほっとけ





とうとう天井が焦げ出した
これほっといたら火事になる

火事になると思ったらお前行って消さんかい

わい消すのじゃまくさい

わいもじゃまくさい

ほっとこうか・・・

ほっとけほっとけ





あたり一面火の海だ
こりゃ逃げた方がええんとちゃうか・・・

ほんならお前逃げたらどうだ

わい逃げるのじゃまくさい

わいもじゃまくさい

ほっとこうか・・・

ほっとけほっとけ





ぼちぼち足のほうから焦げてきたで!!!
お父さん逃げな死ぬで!

死ぬと思ったらお前逃げんかい!

わい逃げるのじゃまくさい!

わいもじゃまくさい!

ほっとこうか!!

ほっとけほっとけ!







二人とも焼け死んでしまいました
こういう奴は死んでも極楽へは行けません
閻魔さまの前に出てお裁きを受けます

両名の者、面を上げ
これ面を上げんか!!

お父さん閻魔さまが面を上げって言ってる
面を上げたらどうや

んならお前上げんかい

わい上げるのじゃまくさい

わいもじゃまくさい

ほっとこうか

ほっとけほっとけ

何を申しておる
その方どもは己の不精により大火をだし周りの者に迷惑をかけた
その咎(とが)軽からず
来世は人間に生まれ変わらす訳にはいかん畜生道に落としてやる
しかし本日は先代閻魔の命日であるため
格別な憐憫を持って望みの獣に生まれ変わらしてやる
望みの獣を申せ

お父さん閻魔さまが望みの獣を言えって言ってる
言ったらどうや

んならお前言うたらどうや

わい言うのじゃまくさい

わいもじゃまくさい

ほっとこうか

ほっとけほっとけ

なんという不精な奴らだ!
したらこちらから申してやる
馬はどうだ?

お父さん馬はどうやって

馬みたいなもん人間乗せて走ったり車ひいたり
じゃまくさい断れ

お断りを

しからば牛はどうだ?

お父さん牛はどうやって

牛やってそうや車ひいたり百姓仕事を手伝ったり
じゃまくさい断れ

お断りを

よく断るなぁ
しからば犬はどうだ?

お父さん今度は犬はどうやって

犬やってそうや家の番をしたり盗人追いかけたり
じゃまくさい断れ

お断りを

不精な奴だ
猫はどうだ?

お父さん猫はどうや

猫なぁ・・・猫はええかもしれんなぁ
鼠捕まえるのは己の餌やから辛抱するとして
後は日向で寝ていたらええんやから・・・
猫にしてもらおうか

猫でお願いします

毛並みに望みはないか

お父さん毛並みに望みはないかだって

もう目立たんように真黒毛にしてもらえ

真黒毛の奴をお願いします

不精な奴だ
全身真黒毛の烏猫という奴だな

すみません
鼻の頭だけぽちぽちと白してしといてくんなはれ

それはなぜだ

暗闇で寝ていると飯粒と間違えて鼠が近寄ってくるだろう




タグ:不精 親子
posted by 落語の世界 at 07:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺

2017年08月06日

厩火事

どうしたお先さん?

どうもこうもないです兄さん
今日はしみじみ愛想も小曾も尽き果てました
あんな馬鹿みたいな亭主もう嫌だ

また始まったのか?
何かと言っては亭主のことを悪く言うけど
今度の喧嘩の元は何だ?

本当に向かっ腹が立ったって
今日はね仕事を早く行かないといけないって言うのはね。
伊勢谷のお嬢様が明日お芝居見物に行くからお先さん早く来て髪を結って頂戴って言われていたの。
だから早く行かないといけないと思っているときに限って寝過ごしてしまうの。
いけないと思って飛び出そうとするとうちの人が「俺は飯を食いたいご飯ごしらいをしろ」って、
私はご飯の支度している時間がないから、鮭でお茶漬けをかっ込んでくださいって言ったのよ。
そうしたら「俺は鮭は食いたくない、芋が食いたいんだ」って。
兄さんの前ですけどうちの亭主ったら男のくせに芋、芋、芋、芋って!

芋っていうのは皮向いて煮たりして味を付けないといけないから、
そんなことしている間がないからすみませんけど鮭で勘弁してくださいって言ったの。
無理のない話でしょ。そうしたら「俺は鮭は食いたくないだ!芋が喰いたいんだ!お前みたいに鮭、鮭って生臭いものが好きな女はいねぇ!魚河岸海女め!」ってこういう事を言うの!

私だって癪に障ったからお前さんだって芋、芋って大根かし野郎って言ったら
「てめぇみたいに口応えする女は出て行け!」って
うちの人なんかにね出て行けって言われる筋合いはないのよ
私が働いて、うちの人がぶらぶらしているのよ
なのに出て行けって兄さん何さ!

俺に怒ってもしょうがないだろ
それでお前は腹が立ったのか
夫婦喧嘩に口を突っ込むのは嫌だけどな
しかしな、俺は本当のことを言うよ
お前のところの亭主の半公はよくないぞ
良いかい?大体な半公と一緒になりたい兄さん仲人をお願いしますって言ったとき
俺は一緒になれって言ったかい?止せって言ったよな。
あいつは悪いことをしないだけが取り柄だけのぐうたら野郎だ。
女によっかかって、なんとなく世の中を生きようとしている奴だ

そんな奴と夫婦になったらいつかは嫌になるから止めとけって百回も言った
その時お前は何て言った?
お兄さんお願い半さんみたいな日本一良い男と一緒にならなかったら私は隅田川に身を投げて死にますって
人を一人殺しちゃいけないと思ったから、人助けの為に俺は仲人をしたんだよ

してみたものの気に入らないってものじゃない
こないだな、お前は知らないかもしれないが仕事に行っている間にお前に家に通ったんだ
そうすると格子がちょっと開いていたから、不用心だと思って中を見たら
半公の奴が長火鉢を前にあぐらをかいて牛肉を突っつきながら酒を飲んでいる

このありさまを見た時に情けねぇ奴だと思ったよ
世間は稼ぎ男に繰り女、男が稼いで女がやり繰り算段をするのが当たり前
しかしお前の家は、女が稼いでいるのに男がその間に牛肉を食べて酒を食らう
その腐った了見が気に入らない
今のうちだから別れろ

兄さん、牛肉を食べていたって言うけど何も牛一頭食べたわけじゃないでしょ?
酒を飲んでいたって言うけど一斗も飲んでいたわけじゃないでしょ?
第一に私はうちの人がお酒を飲んでいたからって兄さんに一文だって借りたことがありました?
そんな事でぐずぐず言ったらあの人が可哀想じゃない。

な、、なんだよ?!
じゃどうしろって言うんだ?

ですから、私はじれったいのよ!
二言目には私に出て行けっていうから・・・
私の歳が若ければいいのよ
でも私の方が十も上で、女の方が歳を取るのが早いっていうし
私がおばあちゃんになってしまって、
半さんは良い男だから若い女を連れ込んでイチャイチャされたら悔しいでしょ。

だから、どうしろってんだ

ですからこん畜生と思う時もありますし、その逆に世の中にこんないい亭主がいるのかって時もあるの。
それは悪い所だけだったら一緒にいませんよ。優しい時もあるのよ
えっ?どこがって?
そんなこと言えるはずないじゃない
馬鹿な兄さんねぇえ、、人の顔をじっと見て。。。

私の所に何しに来たんだ?
どうしろっていうだよ?

ですから、うちの人が本当に私のことが好きなのか嫌いのか、惚れているのかそうじゃないのか、情があるのか不実なのか、何が何だかさっぱり分からない
私はうちの人の本心を知りたい

分かったよお先さん
誰でもそうなんだよ
本当の心の奥底なんて知れるものじゃない
でもな、人と言うのはちょっとしたことで本心が出るものなんだ
唐土(もろこし)って知っているか?

知っているわよ
モロコシって蒸かして食べるのが大好きなんです

お前ね、トウモロコシの話をしているわけじゃないよ
昔唐土という国が在って、孔子と言う方が居たんだ
この方が大変白馬をかわいがっていた。この白馬は予の命よりも大切なものだ
御家来に言い聞かせてあったある日のこと、孔子様がお出かけしている時に厩から火事があった。
御家来は馬を殺してなるものか、手綱を引っ張ったが火の手が早く、また馬も火を怖がりとうとう焼け死んでしまった。そこに孔子様のお帰りだ。
「留守に火事があったそうだな」
「大事な馬を焼き殺してしまいました・・・」
「お前たちに怪我はなかったか、えっ火傷一つしない。良かったそれは何よりだ!」
これだけだ。お先さん分かるかい
御家来はどう思う?日ごろは馬、馬、馬と言っていながら、いざって時は馬のことなんか心配しないで、自分たちの体だけを心配する。こんないい御主人なら命もいらない。
尽くす気になるだろう

そうですかねぇ
そのあと馬は蹴とばしにして食べたんですか?
あれはさくらって言っておいしいのよね

お前ねぇ、食べることしか考えないのか?
分かってないんだなぁ
じゃ分かりやすく逆の話をしよう
日本の麹町にさる旦那が居てね

猿なのに旦那になったんですか?

猿の話をしてるんじゃない
名前が言えないからさる旦那としたんだ
この方が青磁の皿を大事にしていた
一枚何百両とする大変高価なものだ

あら!兄さんすごい大きいお皿なの?

どうも話が合わないな
焼き芋買うんじゃないんだから大きければ高いわけじゃないんだよ
小さくたって高価な物が在る
これは家宝であるから女中には手に付けることを許さず奥様が管理をしていた
ある時に珍客到来だ

猿が旦那でそこに犬の朕が来たの?

珍しい客だから珍客だ
さぁ自慢のお皿をお客様に見せて奥様がしまおうとして梯子段を降りようとしたら、檜造りで足袋も新しい。つるっと滑った!いけないと思い体をひねったがもう遅い
だだだだだん、ドッシン!と物音が聞こえたら旦那が真っ青になって駆け寄ってきた
「おい!皿を割りはしないか?!皿はどうした?!皿!!!!」
「いいえ差し上げていましたらヒビも入っておりません。」
それを聞くと「そうか気を付けろ」

これだけだ
奥様の姿が見えなくなって、仲人が来てご離縁を願いますと申し出た
旦那はなぜだと聞くと先ほど梯子段から落ちた時に皿のことばかり気にされており奥様の体のことはこれっぱかりも心配されませんでした。してみると御当家では奥様の体より皿の方が大事なんだと思います。そんな家には大事な娘はお嫁にやっておく訳にはいきません。と里方よりお託でございます。
嫌いでもないのに別れることになってしまった。
悪い噂はすぐに広がってあそこの旦那は薄情者だ、不実だ
誰も嫁の世話もせず生涯膝を抱えて暮らしたと言われている

分かるわ、嫌なやつね!
奥様が梯子から落ちたらさ、お皿なんてどんなに高価でもお金を出せば買えるでしょ
奥様の体はお金で買えないのよ!普通は怪我はしないか?大丈夫かって聞くでしょ?
心配するのが当たり前じゃない!それが情じゃない?


兄さんうちの人が麹町のさるに似ているの。
どこがってこの間変な夜店で汚いどんぶりを買ってきたの
これは大切なんだ日本でどこを探しても手に入らない
薄情な人って皿やどんぶりを大切にするのね

ちょうど良いよ
お前はうちに帰って、上げ蓋をずらしておいて足を放り込みながら
その半公が大事にしているどんぶりをあいつの目の前でたたき壊してしまえ

兄さんそんなことしたら本当に離縁されます

だからそれで出て行けって言う亭主だったらお前は別れろ
いいかい?お前な人が思っているほど器量は悪くないよ

思ってないですよ!
嫌なこと言うのね、自分でも思っていないのに・・・。

怒っちゃいけない
俺はつい思っていることを言ってしまうんだ
だけどどんぶりを割って、どんぶりばかり気にしていたら別れろ
けども奴が真っ青になってかけてきて怪我はしないかって一言でも言ったら
男って奴は口でけなして心で褒める
だから怪我はしないかって言ったらお前の亭主は脈はあるぞ
本心はお前が好きなんだ、死に水を取ってくれる男だ
日ごろは出て行けって言っても辛抱しろよ

そうですねぇうちに人がモロコシだったらいいんですね
でも麹町の猿だったら別れるんですね。
兄さんうちの人は変なところがあって、咄嗟の時に調子が狂ってしまって
怪我は?って聞く所をどんぶりは?って言うかもしれない
ですから先に行って半さんにどんぶりを壊すから怪我の心配をしろって伝えてください

それじゃ何にもならないよ
お前は未練があっていけない
男でも女でも生涯に一回は勝負をしてみろ

やってみますよ・・・
有難う御座いました



ただいま

おい、また兄さんの所に行ってきたのか?
ろくなことを言わなかっただろ?
夫婦の話を世間に行って話すんじゃないよ、みっともない
俺が悪かった、生涯俺は芋は食べない
機嫌を直してくれ
お茶漬けを食べよう支度して待ってたんだ

食べずに待っていたの?

お前はすぐに仕事に行ってしまうから一人で食べる味気無さを分からないだ
一緒に食べようよ

嬉しい
やっぱりこの人はモロコシなのね。
でもやることやってしまわないと

おい、やることなんかないよ
何をしているんだ?
おいおいおい!そのどんぶりに手を付けちゃいけない
日本に一つしかない金で買えない品物なんだ!
やめろ!馬鹿!!

だから嫌なんだ
もう麹町の猿になっちゃった
なにさ!こんな汚いもの!

上げ蓋がずれてるんだ
割ったら二度と買えないんだからやめろ!
あぁ!!!


割ってしまった・・・。
何をしてんだ、しょうがないな
おい怪我はしてないか?
指に怪我はしてないか?
大丈夫か?

嬉しい
そんなに私の体が心配なのね

当たり前じゃないか
お前に煩われたら遊んでて酒が飲めねぇ





タグ:夫婦 喧嘩
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2017年08月03日

桃太郎

昔は晩に遅く起きていたら叱られたもので

いつまで起きてる!
子供は早く寝て早く起きるものだ
遅くまで起きていると怖いお化けが出てくるぞ


さぁさぁ寝床に入ったら怖いお化けも出てこない
お父ちゃんが面白い話をして聞かしてやるから
それを聞いて寝んねするんだぞ

昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんが川へ洗濯に
川の上から大きな桃がドンブラコ、ドンブラコっと流れてきた
持って帰ってポンと割ると中から元気な男の子が生まれた
名前を桃太郎をつけた。
その子が鬼が島に鬼退治に行くって言った
おいしい黍団子を持たせてやると、
犬と猿と雉が出てきて一つくださいお供します。

お供を引き連れて鬼が島に攻め込んだ
桃太郎は強いんだぞ
鬼は降参をして山のようなお宝を出して謝った。
車に積んで、えんやらや、えんやらや持って帰っておじいさんとおばあさんに孝行した

面白いだろ、桃太郎さんの話
これ、寝てしまった
子供と言う者は罪がないな


って言っていたことは昔の話です。
昨今の子供はなかなかいう事を聞きません。

早く寝ないか!

えっ?なんで?

なんでって不思議そうな顔をするな
日が暮れたら寝るに決まっている

眠たいことない

お前は晩が遅いから朝起きられないんだぞ
早く寝なさい

眠くない

眠くなくっても寝ろ!

眠くなくっても寝ろって。。。君

君!?
親を友達みたいに思ってるのか?
子供がそんなに遅く起きていたら怖いお化けや幽霊が出てくるぞ

お化けや幽霊って、、、月に行く世の中なのに
お父さんは割りと可愛いこと言うな

早く寝床に入れ

眠くない

寝床に入れお父さんが面白い話をしてやる
それを聞きながら寝なさい

それは無理だ
話を聞くか、寝るかどっちかにしてもらわないと
聞きながら寝るってそんな器用なことが

良くごちゃごちゃ言うな
話を聞いてて眠くなったら寝ればいい

まぁ一遍やってみて

なんで上から目線なんだ
まぁいい良く聞けよ

昔々、、

何年ほど?

何年ほどって、、これはずっと前から昔々って決まってるんだ

昔って言っても年号ぐらいあるでしょ
元禄とか慶応とか明治とか

年号もないくらい昔だ

年号無いの?!
よっぽど昔なんだな

ある所に

どこ?

どこでもいいだろ!
親がある所にって言ったらある所にしとけ

ある所って場所はこの世にない
昔でも国の名前ぐらいはあるでしょ
大和とか河内とか摂津とか

国の名前も無いずっと昔だ

国の名前も無いの?
縄文時代より前・・・

知らん!
ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんの名前は?

いい加減にしろよ
そう次々に質問したら寝る間もないだろ
名前無い!名前も無い昔だ!

へぇ〜人間に名前の無い時代って言ったら相当昔だな

そうだ相当昔の話だ
おじいさんとおばあさんが住んでいたんだ

歳は?

歳は無い!
歳も無い昔だ!

それは無茶だよ
昔でも歳ぐらいはあるよ
一年たったら一つでしょ

始めはあったんだけど火事で焼けてなくなった

歳が火事で焼けてなくなったりしないよ

お前がごちゃごちゃ言うから全然話が進まない
少々わからなくっても「ふーん」って聞いていたら分かってくる

ふぅ〜ん

おじいさんは山へ柴刈りに

ふぅ〜ん

おばあさんは川へ洗濯に行った

ふぅ〜〜ん

川から桃が流れてきた

はぁぅ〜〜ん

馬鹿にしたらいかんぞ!
手が付けられないな
川から大きな桃が流れて来たんだ
それを持って帰って割ると中から男の子が生まれた
桃から生まれたから名前を桃太郎とつけた。
その子が鬼が島に鬼退治に行くって言ったので
おいしい黍団子を持たせてやると、
犬と猿と雉が出てきて一つくださいお供します。

お供を引き連れて鬼が島に攻め込んだ
犬が食いつくやら猿が引っ掻くやら、雉が目を突っつくやら
鬼は降参して山のようなお宝を出して謝った。
車に積んで、えんやらや、えんやらや持って帰っておじいさんとおばあさんに孝行した

なぁ面白いだろ
ほら寝ろ、寝ろって言ってんだろ
大きな目をむいて睨み付けている

あんなにしつこく言われるから寝てやってもいいなと思っていたんだんけど
あんまり阿保な事を言う者だから目が覚めてしまった

なんで?!

なんでってそれ桃太郎って話でしょ?
桃太郎って話は世界的にも名作、どこにでしても恥ずかしくない話だよ
それをあんな言われ方をすると値打ちも何もない
あれでは作者は悲しむ

何を生意気なこといってんだ
お前は何も知らないんだ

お父ちゃんこそ何も知らない
これはな、昔々ある所にって言うのは時代とか場所とはっきりしていない
わざとはっきりさせていないんだよ
子供に難しいこと言っても分からないけど、仮に大阪の話にしたら大阪ではなじみがあって良いかもしれないけど、東京の子供には分からない。東京の話にしたところで田舎に持ってたらなじみの無い話になってしまう。日本国中どこに持ってっても、どこの子供に聞かせてもはまるように「昔々ある所に」としてあるんだ
話がそれだけ大きくなってる

それでおじいさんとおばあさんが出てくるけど、本当はこれは両親だ
ちちとはは、点々をつけてじじとばば
けれど昔は年寄りと子供の方がなじみが深かったからおじいちゃんの話おばあちゃんの話としてある。
海に洗濯に行くことはできないから川へ洗濯としていある。
つまり父の恩は山よりも高く母の恩は海より深いという事を言いたいんだな

ふぅ〜ん!
あぁそうか成程なぁ!!
それからどうした?

川の上から桃が流れてきて割ったら子供ができたって、
そんな事があったら果物屋さんは子供だらけになってしまう。
人間のお腹から生まれた子供が鬼退治したら不自然になるから
神様から授かった子供になってるんだ

それからね、鬼が島ってところはこの世にない。
あれは渡る世間を鬼が島に例えている
人間として生まれたからには世の中の苦労をしないといけない
渡る世間に鬼はないって言うけどな、鬼ばっかりだよ
お父ちゃん、世間って言ったら恐ろしいところだよ、分かってる?
世の荒波に揉まれる、これが鬼が島の鬼退治ってこと。

犬と猿と雉が出てくるでしょ
動物だったらなんでもいいわけではなく
犬は三日飼えば三年恩を忘れぬといって仁義に篤い動物
猿は猿知恵って言って馬鹿にするけど人間をのぞいたら一番賢い
雉は勇気のある動物で、卵を温めている時に蛇が来たら巻すだけま巻かせといてぱっちんと切れ切れにはじいてしまうくらい落ち着いた鳥だ
つまりこの三匹は知仁勇を表しているんだ

これお母さん、寝ていないでこの話を聞きなさい
大人が聞いても為になる
それからどうした?

それからおいしい黍団子って言ったけどいい加減なこと言っちゃ駄目だよ
黍の団子って言うのはおいしい物じゃない
黍は五穀のお米や麦に比べたら粗末なもの、つまり贅沢をしてはいけない教えがこの黍の団子だな
人間として生まれた以上は鬼が島って言う世の中の苦労をしないといけない
その時に贅沢せずに質素を守って、先ほどの知仁勇の徳を身に着けて一生懸命働いて
色んな目に会い、色んな苦労をして鬼を退治する
そして山のようなお宝って言うのは世間に出て身に着ける信用や名誉や財産を持って帰って、世の中の役に立つ一人前に人間になって親に孝行して家の名前を挙げる
これが人間として一番大切な事だという事を昔の人が子供でも分かるように面白い様に作ったんだ

こんなによく出来た話なのにあんな言い方したら名の値打ちも無いよ
お父ちゃん、僕の前だから良いけど他所で言ったらいけない、恥をかくよ
親の恥はこの恥だからね。
僕も言うの辛いんだからねお父ちゃん、、、、、
あぁ寝てしまっている
今どきの親は罪がないなぁ




タグ:子供 親子
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2017年08月02日

後生鰻

信心には色々ありますがお歳を召すと殺生を嫌ってまいります
昔はどこの橋にも放しかめっていうものがございます
大川の手前に亀の子を吊るしてありまして
これを放してやると大変な功徳になるものでございます
倅さんにご家督を譲ってしまった御隠居さんは念仏三昧でありまして
この方は本当に虫も殺さないという方です

毎日のように観音様にお参りに行っておりまして
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・
川ぷちを通っていると向こうが川でこっちがうなぎ屋
うなぎ屋の親方がお客の注文でかば焼きをこしらえようと向こう鉢巻きで
鰻を割き台に乗せて割こうとしている

おい!!

いらっしゃい

「いらっしゃい」じゃねぇ!
何をするんだそれを

いや何もしやしませんが・・・

鰻をどうするんだ

鰻を割いて焼くんですよ

なぜそんな事をする
鰻の命を取ろうって了見だろ

命を取ろうって程のものじゃないですよ
鰻を割いてかば焼きにするんですよお客の注文で

可哀そうなことをしやがる
もしお前がまな板の上に乗っけられて
割かれて、焼かれる身になったらお前はどうする?

私はそんな悪い事はしやしません

お前はしないが、鰻だって何を悪いことをした?
私の眼の黒いうちはその鰻を殺させません!

おい、変な人が来たぜ
お客の注文でかば焼きにするんですよ

かば焼きにしてもいいが殺してはいけません

そんなこと言っても無理ですよ
商売ですからね

商売!?
商売って言われればしょうがない・・・
この鰻を逃がしてやれば、鰻はずいぶん喜ぶのになぁ

そんな事したら私のところが潰れますよ

そう言われればこっちもしょうがない
生き物の命を取られるのを私は見ていられませんよ
さっ、その鰻はいくらだい?

二円です

二円か。そうか二円なら出すから笊(ざる)に入れやがれ
まったく可哀そうになぁ

お前もこんなやつに捕まるからこんな目に会うんだ
いいか俺が助けてやるから嬉しいと思え、嬉しいだろ?
嬉しいのになぜほっぺたを膨らませるんだ?

いいかあんな奴に捕まるんじゃねぇぞ

前の川へ ぼっちゃんと放りこんで
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・
あぁ良い功徳をしたってと言って帰って行った



明くる日、向こうは商売だから鰻を割こうとすると

これ!!

また来たよ
しょうがないなぁ

またお前は鰻を殺すのかい?
情けねぇ野郎だなぁ・・えっ?お客の注文?
いくらだ?

二円です

二円か、昨日より小さいな

今日は少し高いですよ

値段の事なんか言っちゃいられない
さぁさぁさぁほれ出しなさい、それを笊に入れろ

まったくあんな野郎に捕まるんじゃねぇ

前の川へ ぼっちゃんと放りこんで
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・・
あぁ良い功徳をしたって帰った



明くる日通ろうとするとスッポンの首を切って血を取ろうとしている
スッポンが首をこんなに長くして伸ばしている

これ!何をしているんだ!!

スッポンの首を切って血を取ろうと・・

可哀そうになんて事をしやがる!
いくら血があるスッポンだからって、、、てめぇの血でも取れ!
いくらだ!?

これは八円で

八円、値段の事なんか言っちゃいられない
あんな野郎に捕まちゃいけないぞ
長生きをしろよ

前の川へ ぼっちゃん
あぁ良い功徳をした南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・



毎日のように鰻は二円でスッポンは八円で逃がしてやってると
鰻屋の方ではあのご隠居の方で月にいくら儲かるって算盤に入っている

仲間の方では羨ましがって

良い隠居を捕まえやがったな
あの隠居付きでお前にの店を買おうじゃないか

って者が出てくるほど大変なもので・・・
それがぱったりと来なくなっちゃった


どうしたんだろう
あのご隠居さんは見えなくなっちゃったな

見えなくなるよ
馬鹿馬鹿しいから他を歩いてるんだよ
向こうだって助ける気持ちが嫌になっちゃうよ

初めは鰻を二円で売っていたのに、だんだん小さくなって
この間なんか泥鰌を二円で売ったんだから
あの人は嫌になっちゃったんだよ

そうかぁ?
そんな事ねぇだろうがな
歳をとっているから体でも悪くしたんだろう

そうかねぇ

そんなら早く爺さん付きでこの店を売っちゃえば良かったな
何でも生きてさえいれば逃がしてやるんだから

風邪でも引いたかねぇ

来てくれないこと困るんだよ
生きてさえいれば金出して放り込んでくれるのに

・・・あっ来たよ

来たかい?
痩せたね〜風邪なんか引いてもう長いことないね
今のうちに取っちゃった方がいいね
鰻を出せ

鰻なんか無いよ
お前さんは買い出しに行ってないだろ

何でもいいや泥鰌

泥鰌はおつけの実にしちゃったよ

おい来るよ!!間に合わないよ銭儲けが!!
生きているものを置きなよ

生きて動いていればいいんだよ
何でもいいから生きているものはないか

あぁもう間に合わない!!!
赤ん坊出せ!赤ん坊を!

赤ん坊どうするの?

赤ん坊を裸にして出しな出しな!
銭儲けだから我慢しなよ


泣き叫ぶ赤ん坊を割き台の上に乗せていると


おいおいおいおいおいおい!!!!!

いらっしゃい

「いらっしゃい」じゃねぇ!!
何をしやがるんだ!

これを割いてかば焼きに

馬鹿野郎!!
赤ん坊をかば焼きに・・・情けねぇ野郎だ

お客の注文で

お客の注文ってそんなの注文する奴があるか!
それはいくらだ?

これは百円で

百、、百円だと
金の事を言っちゃいられない

ほれ、出せよ赤ん坊を
よしよしよし、、まったくあいつは鬼か蛇だな!
あんな奴に捕まっちゃいけないよ



前の川にぼっちゃん!!


タグ:信心 御隠居
posted by 落語の世界 at 07:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月01日

おならの小遣い

挨拶をするとおならが出てしまう奥様の話
そもそも挨拶する際は、お腹を曲げるので
溜まったガスが出てしまうかもしれません


これからお母さんと一緒にいくでしょ
そうすると、いつものように挨拶のときにおならが出たら困るから、自分がしたように謝ってよ

そんなの嫌だよぉ
なんでお母ちゃんのおならを自分が謝らないといけないの?

もう、お小遣いあげるから


百円くらい子供にやって向こうに行くと
上品な顔をして


奥様、お世話になっております
もっと早く挨拶に伺わなければと思っておりましたが
貧乏暇無しと申しますか、バタバタしてしまいまして
ほんとうにご機嫌様です


ぷぅ〜〜

なんですかこの子は、まったく!
失礼ですよ。
お母さん顔から火が出ましたよ

お母ちゃんごめん

ごめんじゃない
こちらの奥様に謝りなさい
まぁ躾が行き届かないもので、
誠に失礼いたしました。


ぷぅ〜


なんでそんなにオナラをするの?

お母ちゃん二回で百円は安いぞ



タグ:親子 おなら
posted by 落語の世界 at 22:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺

2017年07月29日

持参金

今は十円と言ったら大した金額ではありませんが
昔は十円に価値があった時代の話です。

おはよう

おっどうしましたか?

お前のことだからまだ寝ているだろうと思いながら来たんだけど起きてたな

いつもだったらまだ寝てるんだけど
どいう訳か今日は早く目が覚めてしまった

朝早く起きることはいいことだ
昔の人は良い事を言ったな
早起きは三両、宵寝は五両って言ってな
でも朝早く起きてもお前みたいに床でゴロゴロしていたんではいけないぞ
まぁそんなことはいい
ちょっと頼みが在ってきたんだ

なんですか?

ずっと前にお前に二十円を用立てたことが在ったな

申し訳ございません
ほったらかしにしてしまって

いや、偉そうに催促できないっていうのは
あれを貸した時に昔お前のお父さんに世話してもらった
恩返しとして貸すんだからいつまでに返せと言わない
都合がついたら返してくれたらいいって生意気な事を言ってしまった。
そんなことを言って申し訳ないけど返しくれないか?

そんな言い方されたらこっちが辛い
今度の節季までには、

今度の節季って悠長なことを言ってもらっては困る

お急ぎですね。
まぁ七日待って頂けたら

七日も待てないんだ

四、五日までに

四、五日も待てないんだ

二、三日・・・

二、三日も具合悪いんだ

明日、、、

明日も困るんだ
無理は承知で言っている
今日の晩方までには用意してくれ、手元になったら他所で借りて
借金は借金としてわしが返してもいいから晩方まで必要なんだ
頼むぞ!さようなら

あっ!!ちょっと待って!
行ってしまった
たまに早起きしたらろくなことが無い
借りた金忘れてたんだ
財布を逆さに振っても五十銭もないのに晩方までに二十円なんて
もう一回寝直そうかなぁ


おはようさん
お前のことだからまだ寝ていると思ったんだが、朝早く起きることは良い事だ
早起きは三両、宵寝は五両って言って

それは先ほどやったは
昔の人が言ったことは当てにならん

そんなことないと思うけどな・・・
しかしお前みたいに寝床でゴロゴロしてるのは勿体ない
一遍外を歩いてくるなりしたらどうだ?
中でぐうたらしていたら病気になるぞ
それと言うのもお前がやもめ(独り身)だからだぞ
嫁でも貰ったらどうだ?

一人でも食いかねてるのに、嫁なんか貰えませんよ

昔から・・・

また昔ですか

まぁ黙って聞け
一人口は食えぬが二人口は食えるって言われてるんだ

一人だったら駄目なのに二人だったら食っていけるのか?

独り身ほど金のかかることは無い
おかずを作るのが面倒になってお店で食べてきたりする。
お店で食べるお金で嫁さんがおったら一日三度夫婦のおかず代になる
酒でも外で飲んできたら金がかかるが、酒屋で買った酒で嫁さん相手に飲んだら倍飲める
着るものも、汚れたり破けたりしたら嫁さんが直してくる
朝でもお前が顔を洗っている間に、ちゃんと寝床が片付いて御飯まで出来てる
上と下ではえらい違いだ!嫁を貰え

しかし俺みたいな所に来る奴なんか要るのかな

自分だってあても無く言ってるわけではない
歳は二十二で、すごく美人ってわけではないけど、背がスラッと

高い?

低くって
色がくっきりと黒い

スラッと低くって、くっきりと黒いんですか、、、

まぁ鼻はちょっと遠慮してるほうだな
両方の眉毛の長さが違うところに愛嬌があるな
目は小さいけど、口は大きい
まぁ縫い針とか女一通りさせても半人前だけど飯は五人前食べる
人との応対とか折り目切目の挨拶は上手くやらないが要らないこと良くしゃべる 
仕事は遅いが、つまみ食いは早いぞ
しかしこれ言っておかないといけないのはこの女には一つ傷が在る

一つ!!
まだ何かあるのか?!

お腹に子供がおってもうすぐ産み月なんだ
この女を嫁さんにもらう気はないか?

・・・ちょっと考えさせてもらいます

悪い話じゃないと思うけどな

あまりいい話でもないでしょ

気に入らないならしょうがない
これは縁の問題だからなぁ
こんな女でも金の二十円もつければ誰かしら貰ってくれるだろう
それじゃ、邪魔したな

ちょ、ちょっと待った!
そう気を短くしないでじっくりと

何を言ってるんだ

金が二十円つくのか?

こんな女だからな
持参金というものじゃないけど二十円だけ用意させてある

左様か、貰おう

えっ?
この女を貰うのか?

嫁さん付きで二十円貰いましょう

違うだろ
二十円付きで嫁さんを貰うんだろ

どっちだっていいって

真面目に言ってるのか?
この傷のことも承知だな?

傷って何ですか

お腹の子供のこと

お腹に子供がおったら傷ですか?

これから縁談する相手のお腹に子供がおったら立派な傷だ

そうですか?
私はそうは思わない
男のお腹に子供が在ったら傷ですが、女のお腹に子供が在るのは当たり前だろ

考えて見なさい
長年連れ添った夫婦でも子供いなかったら、赤の他人を養子に迎えて身代を譲る人もおる。
それを考えたら、こちらは片方は本物だ

考えようだな
この話は進めてもいいな

進めていいって悠長なこと言ってないで今晩貰いましょう

猫の子を貰うんじゃないぞ
嫁を貰うんだぞ
誰かに相談するなり、

それが誰もいない
親もいないし、兄弟もいない、親類は付き合っていない
己が得心したらそれでいい

身軽な身体だな
でも今晩って

今晩だから貰うんだ
明日になったらいらん

お前の話どっか間違ってないか?

なんなら、二十円だけ今晩で嫁さんは来年でもいい

そんなこと出来るか
そうと決まったら向こうも事情が事情だから急いでるんだ
本人が得心したなら今晩連れてくることにしよう

よろしくお願いします。
お茶も出さずに

そうと決まったらこの部屋をちょっとは小奇麗にしとけよ
乞食も身祝っていうからイワシでもいいから尾頭付きを用意して
悪い酒の二合でもいいから、あとお前のところに盃はないだろ
大家のところに行って借りて来い
こんな貧乏長屋でも盃の真似事でもしたい
それでは今晩

えぇすみませんな



起きてすぐに忘れていた借金を催促されたかと思うと
今度は同じ額の金を持って嫁さんが来るって
昨夜寝るまで何も考えてなかった



先ほどは、、おい
また寝床でゴロゴロしているんのか?
走って金の工面してくれよ

それが出来たんだ

えっ。金の段取りができたって?
寝床でゴロゴロしてて金の算段が出来たのか?

面白いもんだな
出来ないときは走ってもできないのに、
出来るときは寝てても向こうから転がり込んでくる

ほんどかそれは?当てにしても良いのか?

えぇ暗くなった時分になったら来てください

助かった、すまん
それじゃな


ややこしい一日が終わり、この男は掃除したり、風呂行ったり、盃を借りたり酒を買ったりと用意しているところに、金物屋の佐助さんが花嫁を連れてやってきました。


はい、こんばんは
誠にお日柄も宜しくって

あぁ!二十円!!

まぁまぁ待て!
さぁ上げて貰いなさい
遠慮しないでいい、今日からあなたの家になるんだから
盃の準備は出来てるか?


さて話をしていたのはこの人だ
お前さん同様に身寄り便りの誠に少ない人だ
一つ目をかけてやってくれ
それでなあまり気になることをポンポン言ってやるなよ
お前も困ったことがあったら一人で悩まないでこっちに相談したらいいから

さぁこれをぐっと飲んだら、盃を、

これをこっちに回して納の盃だ
もうわしも何遍も仲人をさせてもらった
わしが仲人した者たちはみんな上手く言っている
ちゃんと収まって幸せになってもらうように
これで盃事も無事に終了した
仲人は宵の口と言うからな
わしはこれでお開きということで

ちょ、ちょっっと、、あれは?!

あれってなんだ?

二十円!!

あぁ二十円・・・。
ちょっと忘れた

忘れたら駄目だろ
嫁さん忘れてもいいけど

ちょっと都合が在って明日の朝ってことになったんだ

だけど今晩って

わしだって金物屋の看板をかけてやってんだ。
二十円やそこいらの額で逃げ隠れしないぞ
明日の朝間違いなく届けてやるから

早くに頼みますよ!



何か騙されたな
二十円明日になって嫁だけおいて行きやがって

なんか照れくさいな
隅の方で小さくなってないでもうちょっとこっちに来なさい
将棋、、は知らないか・・・
もう寝ようか・・・


明くる日の朝


おはよう

あ、どうも

昨日はすまなかった。
田舎の取引先が来て、その人は私が相手しないといけなかった
後の酒の席まで付き合ってしまって遅くなってしまったんだ
二十円出来てるか?

それがうちも今朝ってことになって・・・。

えぇ?大丈夫か?

確かな人が請け負ってくれてますので大丈夫です。
もうそろそろだと思います。

いやぁわしもな番頭だと言っても奉公人だ
そうそう出たり入ったりは出来ないから
ちょっとここで待たしてもらうことは出来るか?

一服してください
もう持ってきてくれると思います。

いやでも今回はお前が胸を叩いてくれて助かった
わしだってこの町内古いんだ
わしが頼めば二十円の金貸してくれる人はいる
でも今度ばかりはちょっと事情が在って人に言いにくいんだ


恥を言わないと分からないが、実は中持の寄り合いが在って
旦那が風邪で代わりに行ったんだ。
酒の席で旦那の名代なら飲まないかんって、うちの旦那酒が好きだから
で八方から酒を飲んで悪酔いしてしまって家に帰って上げたり下げたりして
で、うちにお鍋って女中がいるんだけど知ってるか?
知ってると思うんだけどなぁ
不細工な女子なんだけどそれが顔に似合わず親切な子で
わしが苦しんでいたら水を汲んでくれたり薬持ってきてくれたり介抱してくれた

こっちも気分が落ち着いてくるとうちの二階は誰もいない
若い男と女が二人っきり酒の勢いも手伝ってややこしい事になってしまった
そうなると一人者同士だろちょいちょい通うようになって相手は受け身でお腹が・・・。
別居を前に旦那にこんなことを知られたら大変だ
そこで金物屋佐助さんに相談したら、
金の二十円くらいつけたらどこかの阿保が貰ってくれるだろうって頼んでいたんだ
そうしたら昨日その阿保がおったんだって気の変わらないうちにまとめたいから。
お前ばっかり攻め立てて本当に申し訳ない

ほおぉ・・・実は私昨日嫁を貰いました

えぇ!なんで言ってくれなかったんだ
そんなお取込み中の所に、こんな話持ってこなかったのに
しかし、めでたいな

めでたいような、めでたくないような・・・

何がだ?

金物屋の佐助山から紹介を受けまして嫁さんを貰いました

えっ?
それは別の話では

別じゃない
お腹が身ごもっていて不細工な女子

あのお鍋?!
じゃ貰ってくれるあ、、相手っていうのはお前のことだったのか?

そうらしい

どうしたらいい?

どうしたもこうしたも、昨日杯から何から済ましてしまった
まぁあの人を私が引き受けたら宜しいんでしょ

何もかも承知の上で収まってくれるか?

もう夫婦の盃をしてしまった
私だってお腹の子供の父親が誰か分からないよりは
あんただって分かっていたら何かの時に頼りにするから
気にしなくって大丈夫、あの人を引き受けたらそれで宜しいんでしょ

重ね重ね本当にすまん
あの二十円はどうなる?

もう佐助さんが持ってきてくれるはず

佐助さんはうちでわしが二十円持って帰るのを待っているぞ

えぇ!
じゃいくら待っててもしょうがない理屈になる

そうなるな

まぁこの手ぬぐいを二十円としましょう
あなたに返します
長々と有難う御座いました。

確かに受け取った
これを佐助さんに渡して、そうしたら佐助さんがここに持ってくる

ぐるっとひと回りしますね
本当に金は天下の回り物だな



タグ:夫婦 お金
posted by 落語の世界 at 06:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年07月27日

ちりとてちん

喜さん、気を使わずにやっておくれ、あり合わせの料理が並んでいるだけだから
お酒だけがな、ちょっと上等のを仕入れてあるんだ
京都の知り合いが送ってくれた白菊と言う銘酒らしいが知っているか?

なんでございますか旦様、白菊が手に入った?!
京都の中でも一番の銘酒として有名なお酒で中々手に入らないと言われている
えぇ私も名前だけは知っていますが頂くの初めてでございます
左様でございますか、えぇそれでは頂戴いたします。
.
これはいい香りしておりますな。
どんな味がするんでございましょう

ごくごくごく

あぁ〜〜!
評判通り銘酒間違いございません
昔から良いお酒は呑もうと思わずとも酒のほうから自然に口に入ると言われております。
このお酒はまさしくその通りでございます。

私はどんな味かと口をつけただけなのに
お酒のほうから勝手に口の中に流れ込んできます

ごくごくごく

引っかかりませんな
いえいえ、そんなガブガブ呑んでしまったら
酔っ払って帰れなくなってしまいます
・・何をおっしゃいますか、、ですか、、それでは一杯頂戴いたします

昔から初物頂いたら寿命が七十五日伸びると言われておりますがおかげで長生きさせて頂きます
有難うございます

いやいや、気に入ってもらえたら結構
どんどんやっておくれ
つまんで貰わないといけないけど
あり合わせの物ばかりだからな
口に合うか分からないけど、この鯛の造り
この刺身はどうだ

鯛の刺身!
初めてでございます

鯛の刺身くらい食べたことがあるだろ

いえいえ、鯛の塩焼きぐらいは食べたことがありますが
活造りなんて初めてでございます
これが鯛の造り綺麗でございますな
頂戴いたします。

もぐもぐ

うん!
身がぷりぷりしていて
あぁわさびが効きすぎて・・・
これは呑まないとしょうがない

ごくごく

鯛も初めてでこれでまた寿命が延びます

いちいち大層に言うことない
あのな、うちの家内がこしらえた茶碗蒸しどうだ?

茶碗蒸し?!
初めてでございます

何でも初めてだな・・
茶碗蒸しくらい

いえいえこんな料理があるなんて
蓋してありますな
取らせていただきます

うわぁ湯気が上がっていい香りが
上に柚子の皮が乗せてございますな
手間なことを、まるで料亭なようなことをなさっておりますな
中に具が入ってございます
これは海老ですか贅沢ですな
この黒い食べ物は、、アナゴ?
田んぼに跳んでいる?、、あれはイナゴですか
おっこれは何ですか
・・えっ銀杏??
あらぁ前から銀杏どんなん、こんなんでございますか?

あんた一人でよく遊びなさるな
・・え?鰻が焼けてきた?
丁度良かった。鰻が焼けてきたそうだ
酒の肴にするのも良いけど丁度炊き立てのご飯がある
うな丼にして食べて帰ったらどうだ?
遠慮することない

ご飯??
初めてでございます

アホなことをご飯初めてって
いや、しかしあんたは嬉しい人だな
何を出しても美味しいと喜んでくれる
あんたに比べたら裏に住んでるの竹という男、憎たらしい男だ
何を出しても旨いとか美味しいとか言ったことが一度もない

何時もお昼時に来て、私がご飯食べている時だから「食べていくか?」って言うと「食べたくないけど、食べてあげましょうか?」って
ご飯をよそってあげると「色が悪い」とか「芯が有る」とか
おかず食べて「しょっぱい」だの
これでご飯を五杯食べて行くんだ
これはむかつくだろ?

珍しいもの出しても喜ばないんだ
「前これ食べました。知っています。あんま美味しいことありません」
本当は知らないんだけど知ったかぶりをするんだ
あんたも笑っているところをみると同じめに会ったか?


これこれ!
そっちで何を騒いでいる?
豆腐が腐って面白くなっている?
もったいない何をしているんだ・・・
そうだ話のネタにこっちへ持ってきなさい

うわぁこんな風になるのか?
小さく黄色く縮んで、あっちこっちから赤や緑のカビが生えてる
うわぁ臭い、、えらい酸っぱい臭いが
見てみなさい豆腐の腐ったやつだ

豆腐の腐ったやつなんて初めてでございます

食べる気ですか??
流石にあんたでもこれは食べれないだろ
もったいないなぁ
世間には変わった人がいてこれが洒落ていると言って食べる人もいるけど・・・
・・・わしにちょっと面白いこと思いついたんだけどな

だいたい分かりますよw

分かるかい?
豆腐の腐ったやつをあの知ったかぶりの竹に食べさせるんだ
どこぞの名物名産の珍味だって言って前に出したら知っているって言うに違いない
これを口に入れてもがき苦しむだろう、、、その姿みて楽しもうじゃないか

旦さん、盛り上がってまいりましたなぁ!
是非ともやりましょう

豆腐っていうことが分からないように潰して
醤油を入れて味付け味付け、、、
味見はできないけどもな
毒消しにワサビを入れておこう
これをあいつの前に出して珍味の名前をつけないと
そうだあいつ長崎に行っていたって言うから長崎の名産にしよう

ほう、長崎の名産はどういう名前がよいでしょうな?

そうだな長崎らしい名前が良いな
カステラやチャンポンなんかそういう感じが良いな

長崎の名産・・・カスポンはどうでしょう

それはカステラとチャンポンを合わせただけだろ
なんか無いかな・・・

あら、、奥から三味線の音色が聴こえてきますね
お嬢様が習い事している

ちんとんしゃん ちんとんしゃん♪
     ちりとてちん ちりとてちん♪

旦様、この音色のちりとてちんって言うのはいかがでしょう

そんなの合うか?
長崎名産「ちりとてちん」・・・合うじゃないか!!

これ!これをそっちに持って行ってしっかりした折箱に入れて
蓋をして厚手の半紙で包んでくれ竹に食べさせるんだけど
名前が決まったから「長崎名産ちりとてちん」って書いといてくれ
また理屈つけてくるからな「元祖」って入れといてな
それから竹を呼んできておくれ


竹が来た

旦さん!
呑んでいるんだったら呼んでくださいよ
いや、お酒の相手しますけど口が肥えているから
しょうもないお酒は呑みませんよ
何呑んでいるんですか?
え?白菊・・しょうもないお酒だ
名前ばかり売れて甘くってべたべたで美味しいことない
初めて?情けないな・・
こんなお酒何回も呑んでますよ
いや付き合いだから頂きますけど

ごくごくごく

あっま〜

ごくごくごく

ぷふぁ、なんて言う名前だっけ?
白菊??もう一杯!

文句言うんだったら呑まなきゃいいのに、相変わらずだな
つまんで貰わないといけないのに鯛のお刺身だったり茶碗蒸しだったり・・

旦さん。あのね私をこういう席に呼ぶんだったら
そんなありきたりなものじゃなくって粋なものや洒落たもの
なかなか手に入らない珍味を用意しないと駄目ですよ

・・・お前さん今何言った?珍味が食べたい。
いきなり珍味から食べますか???
いやいや実は珍味を一つ用意してあるんだ、食べるか?

食べますけど何処の珍味ですか?

長崎の名産らしい

長崎行っていました
知っています

これは本当に珍しいから多分おたくさんでも知らないと思うがな

何言ってるんですか
長崎に行っていたから知っています

あのな長崎名産ちりとてちんって言うんだ

長崎名産ちりとてちん?
・・・・知っています

ちりとてちん知っているか?

知っていますよ
あれは朝・昼・晩と三食、食べていましたから

ほう好物みたいだな

もちろん
お酒の肴によしご飯のおかずによし
旦さん、あのね最近は偽物も出回っているんです
本物の「ちりとてちん」じゃないと美味しくない

ほぉお・・・ちりとてちんに偽物がある・・・・
そこまで言うか・・・・
いやいや見てもらおう持ってこさせるから


これ!!こっちに持ってきてくれ
さっき貰って置いといた「ちりとてちん」
竹が大好物だそうだ

長崎名産ちりとてちん「元祖」、本物です!
本物は「元祖」で偽物は「本家」って書くんです。
やっぱりね、元祖のちりとてちんは・・くっさ!!
えらい臭いですね

え?えらい臭いって知っているんじゃないのか?

あっ、懐かしい臭いです
私この臭いだけで涙が止まりません
これは腐っているんじゃなく醗酵しているんです
お宅らは駄目なんですか?
情けない・・こんな洒落たものを食べれないなんて
珍味ですからがばがば食べるもんじゃないんです。
ちょっと、一口、これだけでお酒が進みます
これね、、目がピリピリしています
長崎の人は食べる前に目で味わうんです
ええ、、頂きます、、

もぐ

うぐぅ。。
うんんんあ゛ぁぁ
がぁっ・・・・・・・オイシ

涙が出てるぞ

涙が出るほど美味しいです

そうか、わしは食べたことないけど
ちりとてちんは、どんな味がするんだ?

丁度、豆腐が腐ったような味です



posted by 落語の世界 at 07:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年07月25日

葛根湯医者

お前さんはどこが悪いんだ

先生・・・どうも頭が痛くって

う〜ん頭痛だなぁ
葛根湯(かっこんとう)をやるから飲んでみなよ
次の人は

腹がちくちく痛いんです

腹痛ってんだよ
葛根湯をやるからお飲み
そちらの方は

どうも足が痛くってしょうがないんだよ

足痛って言うんだよ
葛根湯やるから
その後ろの人は

先生・・・私は目が悪くってね

それはいけないな目は眼(まなこ)と言ってな
一番肝心なところだろ葛根湯やるから・・・
その隣りの方は

いや、兄貴が目が悪いから一緒についてきたんだよ

それは御苦労さんだなぁ・・・
どうだい退屈だろう葛根湯あるから飲むかい?



タグ:医者
posted by 落語の世界 at 07:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺
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