2017年08月11日
死ぬなら今
落語は一に落ち・二語り・三仕草と言って
落ちが一番大事だそうです
それではみんながみんな落ちがあるのか
って言う方もいらっしゃいますがそうでもないんです
これからお話しする「死ぬなら今」も落ちのない落語です
この題をご面倒でも頭の片隅に入れていただかないと
これからお話しすることが何の事だか分らなくなりますので・・・・
ここにございますは赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべえ)さん
名前の通り随分なケチケチぶりで一財産こしらえたんですが
昔から「お金があっても死に病には勝てない」と言いますが
この吝兵衛さんもある時ふとしたことが元で病に落ち
今日、明日をも知れないというある日の事
せがれのを枕元に呼んで
・
・
・
・
孝太郎・・
はい、お父さん
そこにいてくれたか・・・
いつ目を開けてもお前が傍にいてくれると心丈夫だ
しかしな今度という今度はもう駄目だと思う
そこでお前に頼みがあるんだが聞いてくれるか?
お父さん水くさい
親子の間柄で頼みなんてこと言わないで
「ああしろ」とか「こうやれ」とおっしゃって頂きたい
いやいや
親子でも頼み事というのはそういう訳にはいかない
実はな、頼み事は他ではない
人間死ぬとな死に装束に改める
経帷子(きょうかたびら)を着て頭には三角の頭巾
それから首から頭陀(ずだ)袋をぶら下げる
その頭陀袋の中には一文銭で六枚・・・
いわゆる六文銭を入れるな
・
なんでも聞くことによると三途の川を渡る渡し賃になるそうだが
わしが死んだら六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい
・
これだけでは分かりはしまいが・・・
人間が死ぬと極楽とか地獄とか二道に分かれていると聞いていますが
良い事をすると極楽に行き、悪い事をすると地獄に行く
こうして病んで床に入って振り返ってみると・・・
随分な世渡りをしてきました
人様の足を引っ張るような行いって言うが
わしはそれどころじゃなかった・・・
前に歩いている人様を後ろから突き飛ばして
その上を踏みつけるような世渡りをしてきました
これだけの身代ができたものの我が身のほどが恐ろしい
・
この報いで極楽へは行けない、地獄が相場だろう
けどな昔から「地獄の沙汰も金次第」って言う事もあるので
そこを何とか金の力で極楽への近道をと・・・そう考えるんだが
六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい
これが頼みだ聞いてくれるか・・・
何をおっしゃってます
いやいや願わないことでございますが
もしお父さんにもしものことがありましたら
百両や二百両どうってことありません
喜んで入れて差し上げます
まぁそんなことおっしゃらずに良くなって下さい
いやいや今度ばかりは駄目だ・・・
百両は頼んだぞ
っと言って気が緩んだと見えてそのままあの世に行ってしまいました
せがれのは湯・棺桶を済ましまして
お父さんの遺言だからと頭陀袋に小判で百両を入れようとしたら・・・
あ、おじさん
おじさんではない
その仏の頭陀袋の中に何を入れかけている
これは小判で百両・・・
こっ・・・小判で百両?!!
その頭陀袋の中には六文銭と相場が決まっています
天下のお宝をその中に入れてどうなると思ってる
もったいない天下のお宝を何と思っている罰あたりが
親が親なら子も子だ!
金の価値を知りなさい!!
おじさん・・・そうおっしゃいますが
これはお父さんの遺言で
なにを親父の遺言?
仏が何を言いました?
ふんふん・・・なるほど地獄の沙汰も金次第
金の力で極楽への近道を・・・
なるほどなぁお前の親父が言いそうなことだ
死んだ仏の悪口を言うわけではないが
生きているうちから金々金々って
金の亡者みたいに成り下がって
死んでからもその金を抱いていくつもりか
いけません!そういうことはさせられません!
おじさんはそうおっしゃいますが
私からしてみたらたったひとりのお父さん
まぁなぁ・・・親子の情だ
それは分からない事はないが
みすみすその小判を埋めてしまうっていうのがもったいない
なにかお前は親父の遺言で義理を立てたらいいのか
その中には百両ではなく百両の型を入れたらいいのか
お前の気休めに・・・
・
なるほどだったら話がある
この前、歌舞伎芝居を一緒に連れて行ってもらいましたが
そのとき小判を撒くところがある
いくら芝居だが小判を玩具にして腹が立ちましたなぁ
しかし後で聞くとそれは芝居で使う小道具・偽の小判だそうだ
どっから見ても本物に見える
まぁ死んだ仏目をつぶっていれば本物・偽物も区別がつかないだろう
あれを手に入れて入れてしまえばいいだろう
やっとのことで偽の小判を百両調達してきまして
頭陀袋に入れてそのまま葬ってしまいました
吝兵衛さんはそんなこと知りません
朦朧とした中でうっすら目を開けてみますと
正面には閻魔大王・左右には牛頭・馬頭
地獄中の役人が綺羅星のごとく並んでいます
吝兵衛さん威厳に打たれまして
へへぇ
これ赤螺屋吝兵衛はその方であるか
表を上げい余は閻魔である
その方が参ると言うので罪状を調べていたが随分なことをしておるなぁ
よくもまぁ短い一生でこれだけの悪事が出来たもんじゃなぁ
罪が決めかねるが判決を下したところで
現生で犯した罪が分からないのでは不服であろう
この地獄には現生で犯した罪の数々が映る鏡がある
これ浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)をこれへ!
閻魔様が声をかけると大勢の鬼どもが浄玻璃鏡という立派な鏡を運んできた
不思議なことにこの鏡に吝兵衛さんがやったことが次から次へ映像が映り出ている
閻魔大王がこれを見ながら
うん・・・・これはひどい!
なんと言う事を・・・
これは針の山では手ぬるい、血の池にも放りこもう!
これを聞いた吝兵衛さん
針の山だけでも痛いと思っているのに!
そのうえ血の池って生臭い所に放りこまれたら・・・
この身がどうなる・・・
この身が・・・・
・・・あったんだ!・・百両!!
こんな時のために使おうと孝太郎に頼んでおいたんだ
そうだ!これを使うんだったら今だ
閻魔大王が横を向いている隙にこの小判の百両を袖の下へ
コトン
この重みでの体が傾いって言うんですが
じゃがなぁ〜 けちべぇ〜
まぁまぁ針の山からなぁ
血の池をちょっとぬる湯めにして入ってもらおうかぁ
これを聞いた鬼どもが黙っていない
おい
えっ?
えっじゃない
閻ちゃん見てみろ
何が?
何がじゃないに袖の下に物を放りこまれたら
急に風向きが変わってしまった
これ閻魔大王!贔屓したら
まっまっやかましいぃ静かに
見つかってしまったんならしょうがない
おっお前らにも分けてやる
さすがの閻魔大王も汚職がばれるのは恐ろしいと見えまして
それでも自分の取り分はきっちりとって残りを鬼に分け与えてしまいました
この金が地獄中まわりに回って地獄はひっくり返るような景気になっています。
朝から閻魔の庁に現れる殊勝な鬼は一匹もいません
おい!赤鬼!
こらよく見て物を言えよ
俺は生まれたときから青鬼だ
そんこと言っても・・・
頭の先からつま先まで真っ赤池だ
悪いなぁ昨夜から飲み続けで酔いが醒めん
これからクラブ天野川にパァ〜と散財しようと思って
えらい景気だなぁ〜どうした?
ふんふん閻魔が・・・知らなかった〜
それいつの事だ
えっ俺の休みの時だ
よし俺も行ってこよう
噂がそれからそれへあれからあれへで地獄はひっくり返る好景気
この小判が廻り回ってたった一枚、極楽の警察へこれが行ってしまいました
この見慣れない小判どっから来た?
ふんふん・・地獄からぁ?!
けしからんな、偽の小判・贋金だ
こういう悪事を取り締まるのが地獄の仕事であろう
それに贋金を使うのは罪の中でも重いほうだ
これを目こぼしするとは近頃の地獄もたるんできたな
・
えっ!?これに籠絡をされて地獄は仕事をしていない
まったくもってけしからん!
地獄は粛清しなければいけない!!!
極楽の偉い人が烈火のごとく怒りまして
号令をかけますと武装した極楽の警官が地獄に押し掛けて行き
閻魔大王をはじめとして地獄の役人という役人を全員捕まえて
極楽の牢屋へぶち込んでしまいました。
いま地獄には誰もおりません
死ぬなら・・・
落ちが一番大事だそうです
それではみんながみんな落ちがあるのか
って言う方もいらっしゃいますがそうでもないんです
これからお話しする「死ぬなら今」も落ちのない落語です
この題をご面倒でも頭の片隅に入れていただかないと
これからお話しすることが何の事だか分らなくなりますので・・・・
ここにございますは赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべえ)さん
名前の通り随分なケチケチぶりで一財産こしらえたんですが
昔から「お金があっても死に病には勝てない」と言いますが
この吝兵衛さんもある時ふとしたことが元で病に落ち
今日、明日をも知れないというある日の事
せがれのを枕元に呼んで
・
・
・
・
孝太郎・・
はい、お父さん
そこにいてくれたか・・・
いつ目を開けてもお前が傍にいてくれると心丈夫だ
しかしな今度という今度はもう駄目だと思う
そこでお前に頼みがあるんだが聞いてくれるか?
お父さん水くさい
親子の間柄で頼みなんてこと言わないで
「ああしろ」とか「こうやれ」とおっしゃって頂きたい
いやいや
親子でも頼み事というのはそういう訳にはいかない
実はな、頼み事は他ではない
人間死ぬとな死に装束に改める
経帷子(きょうかたびら)を着て頭には三角の頭巾
それから首から頭陀(ずだ)袋をぶら下げる
その頭陀袋の中には一文銭で六枚・・・
いわゆる六文銭を入れるな
・
なんでも聞くことによると三途の川を渡る渡し賃になるそうだが
わしが死んだら六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい
・
これだけでは分かりはしまいが・・・
人間が死ぬと極楽とか地獄とか二道に分かれていると聞いていますが
良い事をすると極楽に行き、悪い事をすると地獄に行く
こうして病んで床に入って振り返ってみると・・・
随分な世渡りをしてきました
人様の足を引っ張るような行いって言うが
わしはそれどころじゃなかった・・・
前に歩いている人様を後ろから突き飛ばして
その上を踏みつけるような世渡りをしてきました
これだけの身代ができたものの我が身のほどが恐ろしい
・
この報いで極楽へは行けない、地獄が相場だろう
けどな昔から「地獄の沙汰も金次第」って言う事もあるので
そこを何とか金の力で極楽への近道をと・・・そう考えるんだが
六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい
これが頼みだ聞いてくれるか・・・
何をおっしゃってます
いやいや願わないことでございますが
もしお父さんにもしものことがありましたら
百両や二百両どうってことありません
喜んで入れて差し上げます
まぁそんなことおっしゃらずに良くなって下さい
いやいや今度ばかりは駄目だ・・・
百両は頼んだぞ
っと言って気が緩んだと見えてそのままあの世に行ってしまいました
せがれのは湯・棺桶を済ましまして
お父さんの遺言だからと頭陀袋に小判で百両を入れようとしたら・・・
あ、おじさん
おじさんではない
その仏の頭陀袋の中に何を入れかけている
これは小判で百両・・・
こっ・・・小判で百両?!!
その頭陀袋の中には六文銭と相場が決まっています
天下のお宝をその中に入れてどうなると思ってる
もったいない天下のお宝を何と思っている罰あたりが
親が親なら子も子だ!
金の価値を知りなさい!!
おじさん・・・そうおっしゃいますが
これはお父さんの遺言で
なにを親父の遺言?
仏が何を言いました?
ふんふん・・・なるほど地獄の沙汰も金次第
金の力で極楽への近道を・・・
なるほどなぁお前の親父が言いそうなことだ
死んだ仏の悪口を言うわけではないが
生きているうちから金々金々って
金の亡者みたいに成り下がって
死んでからもその金を抱いていくつもりか
いけません!そういうことはさせられません!
おじさんはそうおっしゃいますが
私からしてみたらたったひとりのお父さん
まぁなぁ・・・親子の情だ
それは分からない事はないが
みすみすその小判を埋めてしまうっていうのがもったいない
なにかお前は親父の遺言で義理を立てたらいいのか
その中には百両ではなく百両の型を入れたらいいのか
お前の気休めに・・・
・
なるほどだったら話がある
この前、歌舞伎芝居を一緒に連れて行ってもらいましたが
そのとき小判を撒くところがある
いくら芝居だが小判を玩具にして腹が立ちましたなぁ
しかし後で聞くとそれは芝居で使う小道具・偽の小判だそうだ
どっから見ても本物に見える
まぁ死んだ仏目をつぶっていれば本物・偽物も区別がつかないだろう
あれを手に入れて入れてしまえばいいだろう
やっとのことで偽の小判を百両調達してきまして
頭陀袋に入れてそのまま葬ってしまいました
吝兵衛さんはそんなこと知りません
朦朧とした中でうっすら目を開けてみますと
正面には閻魔大王・左右には牛頭・馬頭
地獄中の役人が綺羅星のごとく並んでいます
吝兵衛さん威厳に打たれまして
へへぇ
これ赤螺屋吝兵衛はその方であるか
表を上げい余は閻魔である
その方が参ると言うので罪状を調べていたが随分なことをしておるなぁ
よくもまぁ短い一生でこれだけの悪事が出来たもんじゃなぁ
罪が決めかねるが判決を下したところで
現生で犯した罪が分からないのでは不服であろう
この地獄には現生で犯した罪の数々が映る鏡がある
これ浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)をこれへ!
閻魔様が声をかけると大勢の鬼どもが浄玻璃鏡という立派な鏡を運んできた
不思議なことにこの鏡に吝兵衛さんがやったことが次から次へ映像が映り出ている
閻魔大王がこれを見ながら
うん・・・・これはひどい!
なんと言う事を・・・
これは針の山では手ぬるい、血の池にも放りこもう!
これを聞いた吝兵衛さん
針の山だけでも痛いと思っているのに!
そのうえ血の池って生臭い所に放りこまれたら・・・
この身がどうなる・・・
この身が・・・・
・・・あったんだ!・・百両!!
こんな時のために使おうと孝太郎に頼んでおいたんだ
そうだ!これを使うんだったら今だ
閻魔大王が横を向いている隙にこの小判の百両を袖の下へ
コトン
この重みでの体が傾いって言うんですが
じゃがなぁ〜 けちべぇ〜
まぁまぁ針の山からなぁ
血の池をちょっとぬる湯めにして入ってもらおうかぁ
これを聞いた鬼どもが黙っていない
おい
えっ?
えっじゃない
閻ちゃん見てみろ
何が?
何がじゃないに袖の下に物を放りこまれたら
急に風向きが変わってしまった
これ閻魔大王!贔屓したら
まっまっやかましいぃ静かに
見つかってしまったんならしょうがない
おっお前らにも分けてやる
さすがの閻魔大王も汚職がばれるのは恐ろしいと見えまして
それでも自分の取り分はきっちりとって残りを鬼に分け与えてしまいました
この金が地獄中まわりに回って地獄はひっくり返るような景気になっています。
朝から閻魔の庁に現れる殊勝な鬼は一匹もいません
おい!赤鬼!
こらよく見て物を言えよ
俺は生まれたときから青鬼だ
そんこと言っても・・・
頭の先からつま先まで真っ赤池だ
悪いなぁ昨夜から飲み続けで酔いが醒めん
これからクラブ天野川にパァ〜と散財しようと思って
えらい景気だなぁ〜どうした?
ふんふん閻魔が・・・知らなかった〜
それいつの事だ
えっ俺の休みの時だ
よし俺も行ってこよう
噂がそれからそれへあれからあれへで地獄はひっくり返る好景気
この小判が廻り回ってたった一枚、極楽の警察へこれが行ってしまいました
この見慣れない小判どっから来た?
ふんふん・・地獄からぁ?!
けしからんな、偽の小判・贋金だ
こういう悪事を取り締まるのが地獄の仕事であろう
それに贋金を使うのは罪の中でも重いほうだ
これを目こぼしするとは近頃の地獄もたるんできたな
・
えっ!?これに籠絡をされて地獄は仕事をしていない
まったくもってけしからん!
地獄は粛清しなければいけない!!!
極楽の偉い人が烈火のごとく怒りまして
号令をかけますと武装した極楽の警官が地獄に押し掛けて行き
閻魔大王をはじめとして地獄の役人という役人を全員捕まえて
極楽の牢屋へぶち込んでしまいました。
いま地獄には誰もおりません
死ぬなら・・・
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