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2017年08月28日

焼き塩

昔の農村の女性は、学問は要らないと言われて字は教えて貰えなかったそうです。
今の歳で十二歳くらいになると奉公に出されてしまいます。
字を知らなくっても奉公先で手習いをさせてくるところもありますが
大概はそんなもの知らなくてもよいとされてしまいます。

所が田舎から手紙が参ります。
これはやっぱり読まないとしょうがない
誰かに読んで貰いますが、やっぱり家の恥を知られてしまいますので
内緒ごとや縁談なんか誰にでも読んで貰う訳にはいかない
その為、女子さんは読んで貰う人を決めていて
その人には家の事情もきちんと話してあるそうです。

しかしその人がいないときに届いた手紙は困ります。
心配な事があるというのは、先だって村の人にばったり会って母が病気寝込んでいると聞いていたからです。
心配でしょうがないのですが誰にでも読んで貰う訳にはいかない

ふと面を見ると若い侍、身なりからすると浪人者だろうけれども
この人に読んで貰おうと、、、普段なら侍に声もかけないのですが母親のことが気になってしょうがない。


ちょっとお願いが御座います。

なんじゃ?

実は田舎の方から手紙が参りました。
心配事があり一刻も早く知りたいのですが、
いつも読んでいただく方があいにく留守でこれを読んでいただけないでしょうか


若い女子が手紙を出されまして往来の真ん中でそれは開く
二、三度目を走らせていたかと思うとぽろっと涙を流した


母が病気と聞いておりましたがそのことが書かれているのでしょうか?

・・・残念な事だがもう間に合わない

あぁああやっぱり悪い知らせで御座いましたか


うわぁって泣き出してしまう


おい、あそこで侍と女子が泣いているんだ

けったいな取り合わせだな
あれはあそこの女子さんだ
あの侍と泣いているのはどういう訳だ?


近所の者が不思議そうな顔をしてみていると

焼き塩〜
  焼き塩〜

塩売りの親父が通りかかった

なんじゃあれは?
侍と女子が泣いている
あぁ身分違いの恋だな。浪人者みたいだけど、
こんな女子風情との縁談を認めるわけにはいかない
国元からの手紙が来たんだ
男の方も泣いている、、、本物の恋なんだな
ひょっとしたらあの女のお腹には子供がいるかもしれない
心中かな・・・わしは身分や家柄なんて、、、認めてやればいいのに可哀想に

うわぁっともらい泣き


おい、また一人増えたぞ

なんや?

あそこの塩屋の親父が泣いている
どう考えてもおかしい

ちょっと行って聞いてみようか?


ちょっと女子さん

これはご近所のおじさん

なんで泣いてるの?

うちの村の治郎兵衛さんに会って私の母が病気で寝込んでいるって聞いて
そこに手紙が届いて、読めないのでこのお侍さんに読んで貰いました
手紙を見るなりぽろっと涙を流して残念な事だがもう間に合わないと!!
私は間に合わなかったと思い泣いております

それはお前が泣くのはもっともだ
お侍様、やっぱりそう書いてありましたか?

いやいや、そうではない
実は親の代からの浪人者で何とか武芸をもって世に出んと思い
幼少の頃より剣一筋、一生懸命一刀流に励んでおりました。
亡き父は文武両道と申すこともある読み書きも習わなければいけないと言うて下さったが
この歳で今更、宮使いも城勤めもあるまいと思い読み書きを一向に身を入れなかった
しかしこの女中が文を読んでくれと言われた
若い女子の文だったら仮名の拾い読みもできると思って広げてみたが
見慣れない四角文字が並んでおる
父上のいう事を聞かなったために往来の真ん中で恥をかいた
しかし残念な事だがもう間に合わない

あぁなるほどな
あんたが仰ることももっともでございます。
文をお貸しください。
えぇ、全文御免下され候、、ふんふん
女子さん心配しなくってもいい、
治郎兵衛さんに会ってお前さんが案じているのではないかと思って手紙を書くとある。
えぇっと間もなく床離れも近く相なるべく・・どうぞご放念くだされたく
もう大丈夫だから安心しなされ

そうでございましたか!
ありがとうございます。

・・・分からんのはこの塩屋の親父さんだ
この二人が泣くのは分かるぞ
なんでお前がないてんだ?

いや!私は・・・
商売が泣き症(焼き塩)〜


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posted by 落語の世界 at 07:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月27日

しゅっちょう

いいかい坊
今日お金を取りに来るおじさんが来るから
来たらお父さんは?って聞いてくる
そうしたらお父さんは出張だって言うんだぞ
一回言ってみ

おとうちゃんはしゅっちょうや

そうだ
それじゃ二階で寝てるからな



ごめんください

はーい

おや坊か
今日はお父さんに用があるだけど
お父さんはどこかな?

おとうちゃんはしゅっちょうや

そうなのか?!
そうすると坊一人で留守番か、偉いなぁ
ところで出張ってなんだか分かるか?

二階で寝ること

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posted by 落語の世界 at 15:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺

出来心

まったくなぁ
お前はしょうがないな
仲間は見込みがないって言ってるんだよ
足を洗って堅気にした方が良いってよ
どうする?堅気に戻るか?

もう少し置いて下さいよ
親分子分の杯を頂戴したんですから、
これからですね心を入れ替えて悪事に励みます

お前もな、心を入れ替えて泥棒に励むなら置いてやないことは無いけど
少しは褒められる仕事でもして来いよ
庭でもあるような大きな家に行って

あっ!こないだですね大きな庭のある家に入りましたよ

そうか!

柵を飛び越えましてですね
花壇が在ったり、鶴の噴水があったりと

それはどこのお屋敷だ?

よくよく見たらですね
親分大笑い

なんだ?

よくよく見ましたら日比谷公園でした

そんな所に入ったってしょうがねぇだろ
そんな仕事ばっかりしてるから見込みねぇって言われるんだ
今日はな、空き巣を教えてやるから

空き巣って何ですか?

留守の家を探すんだよ

あぁ空き家をね

そこに住むわけじゃないんだから空き家じゃねぇよ
人が住んでいて留守の家を探すんだよ
亭主は稼ぎに出ていて、かみさんは買い物に行っている
すぐに帰るからと思い締りをしないで出かける
そこを忍び込むんだよ
でも始めからそこの家が留守かどうかは分からない
だからちょっと当りを付けろ

提灯を持って行ってね

明かりじゃない、当りだ
言葉をかけて見ろ「御免下さい」っと言って返事が無ければ留守だ
中に入って仕事をしてしまえ
ただな、返事がないからってぬぅっと入るなよ
憚り(はばかり)に入っていないとも限らない
確かにいないって確信が持てたら入れよ

慌てるなよって言ってものんびりもしていられない
まずは逃げ道から調べておけよ
表から帰ってきたら裏から出ようとか裏から来たら表から出ようって考えておけ
お前みたいなやつは捕まらないとも限らない

そういう時は逃げ口上も用意してある
「泥棒!!」って言われても急いで表に出るなよ
盗んだものをそこに放り出して
「どうも申し訳ございません。長い事失業しております。八つを頭に四人の子供がございます。
七十になる老婆が永の患いで薬一つ飲ませることが出来ません。貧の末の出来事で御座います。」
と涙ながらに哀れっぽく持ち掛けて見ろ。
出来心じゃしょうがないっと勘弁してくれる。
上手くいけば小銭を持たせて逃がしくれるよ

あぁなるほど
表から言葉をかければいいんですね
返事が無ければいないんですからね
返事があったら「どうもすみません、貧の末の出来心」

馬鹿野郎
そこで謝ってどうするよ?
そういう時は別にあるんだよ
何丁目何番地の何屋何兵衛さんは近所におりませんか?
知っていても知らなくっても別にいいんだよ
教えて貰ったら有難う御座いますと言ってその場から離れればいいんだ

そうですね
有難うございます
それでは風呂敷の大きいのありませんか?

どうするんだ?

盗んだものを包むんです。

良いよ別に
入った家のを使えよ

いや、返しに行くのが面倒なので

馬鹿野郎
わざわざ返しに行く必要はねぇよ
しっかりしろよ

それでは空き巣狙いに行ってきます!

大きな声を出すよな



ごめん下さい!

おい、隣の家でやるな!
町内からを離れろよ



ごめん下さい

そこは空き棚だよ

あぁほんとだ
貸家って看板が立っていた

あのね表の伊勢谷が大家さんなんだよ

いえいえ宜しいんです

なんで空き家を探してるんだろ?

いえ留守の家を探しているんです。

へ?何ですかあなたは?

あっごめんなさい
さようなら



ここら辺で良いかな?
ごめん下さい

はい!待ってろ

居るんだねぇ・・・
留守の家ってそうそうあるもんじゃないな

なんだい?

少々伺いたいのですが、この近所に何屋何兵衛さんをご存じありませんか?

なに?

何丁目何番地といいますとねぇ、あの辺はあの・・

あ゛ぁ!?
なに言ってやがんだ?
ぐずぐず言ってるとはったり倒すぞ

いやいやいやそうじゃない
ここの近所にさいご兵衛さんてご存じないかなって

そんな奴知らねぇよ!

そうですか
さようなら!!



いやいや驚いたね
はったり倒すって、でもさいご兵衛は良かったな
あんな変な名前なんていないもんな

あれ、このうちは少し開いてるな
ごめん下さい、ごめん下さい
どなたもいらっしゃいませんか?
ここに泥棒が入りかかってますよ・・・

箪笥や鉄瓶もいいね
煙草入れもあるからちょっと一服するか
親分も慌てちゃいけねぇって言ってたもんな

ふぅぷはぁあ

落ち着いて来たな
菓子盆があるな
羊羹(ようかん)が入ってるな、また薄く切ったね

もぐもぐ

なかなか美味しいね

おい!誰か来ているのか?

うぐ!

何をしているんだ?

すみません喉に詰まっちゃって
背中叩いて!!

二階に上がっていたんですか?

おう、片付けするためにな
ところで誰だいお前は?

少々ものを伺います

よせよ
なんで尋ねる人が座敷に上がって羊羹食ってんだよ

この近所にございますまいな

なにが?

この近所にさいご兵衛さんはいらっしゃいますかね

・・・なんだよ驚かすなよ
さいご兵衛はおれだ

えぇ!
貴方ではないさいご兵衛さんですよ
ずっと男前の

なんだと?!

宜しく言っていました

だれが?!

私が、、、

何だこの野郎!

さようなら!!!



逃げろ!逃げろ!!
あぁ驚いたね
間抜けな名前もいたもんだな

まぁいいや羊羹食べてたばこ飲んでこっちの儲けだ


下駄を忘れてきた





タグ:泥棒
posted by 落語の世界 at 10:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月21日

二階の釣り

二階の窓から釣りの真似をしている人がいます
そこの下を通っている人は
目の前に針が来ているのでびっくり


おい見てみ
釣りのやりすぎや、おかしくなってる
いっぺんなぶったろ

もし大将!どうです
かかりますか?

あんたで四人目です



タグ:釣り
posted by 落語の世界 at 07:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺

くせもの

浅草の観音様に泥棒がはいったお話で
あそこは参詣人も多いので一日のお賽銭も多いだろう

夜になったら忍びこんで賽銭箱を叩き殺して
風呂敷を広げてどっこしょっと

裏から逃げれば何事もなかったのですが
仲見世の通りをトコトコと歩いていたら
仁王様が門番ですからこんな奴を通す訳わない

とんでもねぇ野郎だ!!
俺がいるのを知らねぇのか!
見てやがれ!

泥棒の襟首をぐっと捕まえて目より高く持ち上げ
パッと手を放した

泥棒が四つん這いになった所を仁王様の足で背中をぐっと踏みつけた
堪える拍子に下っ腹に力が入った

大きいやつをブ〜っやってしまった

くせぇもの!!

へへへ
におうか?




タグ:泥棒 おなら
posted by 落語の世界 at 07:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺

2017年08月19日

お見立て

喜瀬川花魁、
喜瀬川花魁どちらでらっしゃいますか?

はいはい
なんだい喜助?入っておいで

花魁良い方がお見えになっておりますよ

えっ?良い人誰だい?
徳さんかい?

徳さんでは御座いません。

良い人って言ったらあの人じゃないですか

竹さんかい?

竹さんじゃ御座いません
ってあなた良い人っていっぱいいますね
違いますよ千葉の杢兵衛(もくべえ)大臣がお見えになっております。

なに杢さん、、、
なんだよあんなのはちっともいい人じゃないよ

ひどいこと言いますね
着物をこしらえてもらったり、帯を買ってもらったりしたじゃないですか
そんな事を聞いたら卒倒しますよ
もう来ちゃってますからね
私はそんなこと知りませんから花魁気に入ってると思ってしまったから
花魁はお待ちかねでございますよって言って二階に上がって頂いているんです
すみませんが顔を出していただきたいんです

いやだ、いやだよ
なんでお前の尻拭いをしないといけないんだよ
一度聞いてくれればいいじゃないか
こういう人が来てるんですがどうしましょうかってなんで聞けないんだい?
いやだよ、しつこい男で田舎者なんだから
出ないよ

出ないよって、それじゃ困るんでございます
二階に上がって頂いてるんですから
それではこうして下さいよ
花魁が顔をちょっと出していただいて他のお客さんがついているの
今日はごめんなさい、また来てくださいねっと言われたら
あぁまた来るってそういう事になるじゃないですか
花魁が自分で言ってくださいよ

いやだ、いやだ、いやだ
顔を見るだけで蕁麻疹が出るんだから
出ないよ

出ないと私が困ります

お前が困ったって別にいいじゃないか
もう面倒くさいからこうしよう
えぇこの頃寒い日が続いたり、暑い日があったりと天候不順で御座いましたら
花魁は体調を崩しており病の床に就いております。
ですからこちらに参ることは出来ません。
誠に申し訳ございませんって謝って来てくれよ

ひどい方ですねぇ
千葉からわざわざ花魁一本やりで通っていただいてるんですよ
ちょっと顔を出せば済むんじゃないですか
良いんですか?
その嘘が気が付かれちゃったらもう二度と来てくれませんよ
それじゃ行ってきます。


えぇお大臣、お大臣
失礼いたします。

あぁ喜助か
喜瀬川はまだ来ねぇでねぇか
随分と待たせるでねぇか
そこでは話が出来ねぇからこっけこ
だからこけっこたら、こけっこ

いつもありがとうございます。

ありがとおぉございますってお前の面を見に来たわけではねぇ
あぁどおした喜瀬川は?
まだ来ねえだかかぁ?

実はあのお大臣が嬉しそうに入って頂いており
私はついつい言いそびれてしまいまして

あんだ?なぬを言いそびれただ?

えぇ・・・実は
この頃寒い日が続いていたり、暑い日があったりと天候が不順でございました。
実は花魁風邪をこじらしてしまいまして、いま病の床に臥せっております。
ですのでこちらには出ることができないのでございます。
ついつい私がこのような嘘をついてしまいまして誠に申し訳ございませんでした。

あんだ?喜瀬川が患ってるだぁ?風邪をこじらせて。
あぁそりゃそうだこの頃寒い日が続いたり暑い日があったりと
これは仕方ねぇこっちゃな
風邪をこじらせているなか、無理して出てこぉなんて言うほどおらは野暮な男でねぇ

そうなんです
もっと早く言えば良かったんですが
お大臣のあまりにも嬉しそうな顔を見てしまいましたら
ついつい嘘をついてしまいました。

そりゃ仕方がなねぇ
病の床に臥せってんだったらなぁ見舞ってやっぺ
部屋だどこだ?

へぇ、、はぁ、、あのお見舞いして頂だけでけるんですね
えぇっと、あの
あっお大臣昔から吉原には法が、花魁が患っている時は
どんなに仲のいいお客様でもお見舞いは出来ないと決まっております。
吉原の法、決まりごとになっておりますのでお見舞いは出来ないのでございます。

あんだぁ?吉原の決まりかぁ
そうか決まりなら仕方ないなぁ
それを破ってまで花魁に会わせろっと言うほど野暮な男ではねぇからなぁ
そうか喜助、客は見舞いがぶてねぇか
喜助あまり大きな声で話せねぇからな耳をこっちへ貸せ

何でございますか?

実はなおらと喜瀬川はただの間柄ではねぇだよ

えぇ喜瀬川花魁は一番大好きだと言っておりますよ

あぁそうだろうな
あまり大きな声では言えねぇが・・・
おらと喜瀬川は末にはひいふ(夫婦)なる約束ぶっただ!!

はぁ?

おら、夫婦(めおと)になるだ!

夫婦になるだ?!
えっ?と言いますとご結婚なさる?

あぁそうだおら約束ぶっただ
喜瀬川の亭主となる
ただの客じゃねぇ亭主が見舞いをぶつならできるべぇ

成程、えぇええっとそういう話は今まで聞いたことが御座いませんので
私一人ではどうも判断が、、ご内所に伺ってまいりますのでしばらくお待ちくださいまし。



花魁行ってまいりました。

どうだい?帰ったかい?

それがですね途中まで上手く言ったんですよ
花魁が病の床に臥せっておりますって言ったら、だったら見舞をぶつって

そういう人なんだよ。気味が悪いねぇ
すぐに帰ればいいじゃないか
嫌だよお見舞いなんかされた日にはしつこい男だからさ
いくら目をつぶっていても鼻息がかかるくらい顔を近づけて
「大丈夫かぁ?大丈夫かぁ?おらの面を見たら元気になる」って
顔を見たら余計具合が悪くなっちゃんだから

いえ、そこはね私も長年勤めておりますので機転が利きました
実は吉原には法が御座いまして花魁が患っている時は
どんなに仲の良いお客様でもお見舞いは出来ないのでございますと言ったんです
これで帰ると思ったんです。
そしたら驚きました・・・
「喜助近くにこ、あまり大きな声では言えねぇが」って言って私の耳元で大きな声で
おらと喜瀬川はただの間柄じゃねぇ。末にはひいふの約束ぶったらしいですねぇ!

なに?!そんなこと覚えていたの
嫌な男だね、気持ちが悪い
そんなの酒の上のことじゃないか
こんな世界に居るんだからお客を喜ばせる嘘なんて幾つもつくよ
それを未だに覚えていて本気にしているんだから、野暮な男だねぇ

ですから亭主になるんだから見舞はぶてるだろって
ご内所に伺ってきますと言って戻ってきました。
如何なさいますか?

如何なさいますかじゃないだろ
嫌だよお見舞いなんかされちゃ嫌だからさ
もう面倒くさい。お前が上げなければこんなことにならなかったのに
面倒くさいからさ、死んだことにしよう

あなた自分で言ってること分かりますか?
最初に来たときは花魁お待ちかねですと言って二階に上がって頂いたんですよ
さっき行って実は病の床に臥せっております。
今度行ったら花魁死でしまいましたって・・・こんな嘘誰が信じるんです?

信じるように持っていくんじゃないか
何のためにお頭(おつむ)があるんだい?
その中に味噌が入ってるんだろ?
あたしが死んだことにしてあいつを喜ばすんだよ

あのね花魁、あなた一辺倒で通っているんですよ
死んでなんで喜ぶんですか?

喜ぶように持っていくんじゃないか
このところあいつ来なかっただろ?

そう言えば二ケ月以上になりますね

そうだよ、狙い目は
最後に来て次の日から花魁は大変で、いつになったら杢さんは来てくれるのかしら
明日になったら来てくれるのかしら?杢さんは?杢さんは?大変な騒ぎでした
恋煩いというやつで、これが進みますとひと月なりますとおまんまが喉に通らなくなる
御白湯が通らなくなる、やせ細っていくばかり

そんなある日、私を枕元に呼びまして、いいかい?私ってお前のことだかね。
私を枕元に呼んで消え入る声で、うつろな目で私をじっと見ながら
「杢さんは何で来てくれないのだろうかね。ことによったらわきに若い女が出来たんじゃないだろうか?私は悲しいわ・・・」

これが花魁の元気な声を聞いた最後で御座いました。
二月(ふたつき)近くになりますとおまんまが喉に通らない、おかゆが通らない、御白湯が通らない、何にも通らなくなりがりがりにやせ細ってしまって帰らぬ人となってしまいました。
あなたに恋い焦がれて死んだのでございます。
もっと早く来ていれば花魁は死なずに済んだのに
あなたが殺したんです!
あなたが憎い!
あなたが・・・・・って言ってさぁ嘘の一つもついて涙の一つでも流すんだよ

またあなたは次から次へと嘘が出てきますね
あなたそんなに出来るんだったら自分でやったらどうです?
間に入って私が台詞を覚えてみんなやらなきゃならないんですよ?
それもいいんですけど、なんて言いました花魁?
最後の言葉が聞き捨てならなかったですよ
嘘の一つもついて涙の一つでも流してって、冗談を言っちゃいけない
嘘は付けますけど涙なんか洒落や冗談で出るものじゃ御座いませんよ!

そりゃそうだよ
何のためにお頭がついてるんだいって言ってるんだよ
こういう時に頭を使うんだよ
まだお茶を持ってってないんだろ?
向こうにお茶を持っていくんだ。自分の所にもお茶を置いておいてここだなって思ったら自分のお茶に指を突っ込んで頬の辺を湿らしておくんだよ
ねぇ信じるからさぁ、やってきておくれよ
ただじゃ頼まないから、羽織と十円でね

ひどい方ですね・・・
いやね私はあなたの為にやったら男として恥ずかしいです
もう自分の為にやらせて頂きます
自分にどのくらい演技力があるのかを試させて頂きます。



お大臣。

えぇから入ってこ
ご内所は何って言ってた?

お茶をお出しするのが遅れまして大変失礼いたしました。

あぁどうだ?
亭主ってことなら見舞がぶてるって言っていたか?

そのようにお話いたしましたところ
亭主となるのであればお見舞いは出来ると申しておりました。

そうだったら案内をぶて

案内はぶてるのでございますが、
今お見舞いをする相手がいないのでございます。

なんだ?病院にでも出かけているのかぁ?

病院で御座いませんで、
実はお大臣がうちに入ってくるときにあまりにも嬉しそうな顔をしているので
ついつい嘘を言ってしまいまして。

それはもう聞いた
病の床に臥せってるんだなぁ

そうではございませんで、先ほども正直に申し上げようと思っておりましたのですが、お大臣の顔を見てしまいましたら、このような事を言って急に卒倒してしまうのではないかと思いまして・・・。またまた嘘を重ねてしまいました。

なんだぁ?

実は喜瀬川花魁は死んでしまいました。

あんだ?
喜助!馬鹿野郎!!
人の生き死にを洒落や冗談で言うもんでねぇ!
こっちへ面を貸せぶってやる!

何で殴られるんですか?!
あなたが殺したんですよ!

馬鹿野郎!客に向かって指をさす奴がどこにいる!

あなたが殺したんでございますよ!
あなたが!

どうしておらが大好きな喜瀬川を殺さねばならねぇ

最後にお帰りになってどのくらい経つと思いますか?

そう言われるとちょっと困るけれども、、、もう二月以上になるかな
そりゃ村に帰ったらやらなければならない事が沢山あってなぁ

何を言っているのですか?
あなたはそれでいいですけど、待つ身の辛さを知っていますか?
花魁はあなたに恋煩いでございますよ

おらに恋煩い?

そうですよ
なんでそんなことも分からないのですか?
あなたがお帰りになった次の日からもう花魁は大変でした。
いつになったら杢さんは来てくれるのかしら?明日になったら来てくれるのかしら?杢さんは?杢さんは?杢さんは?誰の顔を見ても杢さん杢さん、、、、
我々働いている者は、あれを一目散(杢さん)と言うんだって言っていました。

恋煩いもひと月も立ちますとおまんまが喉に通らなくなる
御白湯が通らなくなる、重湯が通らない、どんどんやせ細っていくばかり
そんなある日、私を枕元に呼びまして、いいかい?私ってお前のことだよ。
・・・。私のことは私のことでございます。
私を枕元に呼んで消え入る声で、うつろな目で私をじっと見ながら
「杢さんは何で来てくれないのだろうかね。ことによったらわきに若い女が出来たんじゃないだろうか?私は悲しいわ・・・」

これが花魁の元気な声を聞いた最後で御座いました。
二月(ふたつき)近くになりますとおまんまが喉に通らない、おかゆが通らない、御白湯が通らない、電車が通らない、バスが通らない、、何にも通らなくなり
あなたに恋い焦がれて死んだのでございます。
もっと早く来ていれば花魁は死なずに済んだのに・・
あなたが、、あなたが殺したんです!
あなたが憎い!

喜助!涙を流しているのか?

泣いております。

涙なんざ洒落や冗談で出るものでねぇ
そうかぁ喜助、喜瀬川の為に涙を流し・・・喜助、目尻に茶殻が付いてるぞ

あぁあぁああ私あまりにも悲しいと茶殻が出るでございます。

そうかぁ喜瀬川はおっちんだかぁ
喜瀬川わぁあおらに恋い焦がれて死んだかぁ

そうなんです
お帰りになりますか?

当りめぇだ
喜瀬川のいない吉原にいつまでいてもしょうがね

帰りましょう

いつおっちんだ?

・・・・・・・・・はぁ???

いつだ?

そんな事を聞かれるとは思ってもみませんでした。
・・・あれは忘れはしません。

あぁいつだ?

・・・・・忘れてしましましたあぁ

先月の二十五日じゃなかったか?

そうです先月の二十五日です。

やっぱりそうか
その日も村の寄り合いが在ってなかなか帰って来れなくってなぁ
村の若い衆としこたま酒を飲んでうちに帰って庵端に横になっていると
気が付くと喜瀬川が綺麗な着物を着ておらの枕元に座っているだ
女子の足でもってこうだら遠くへ歩いてくることは出来ねぇ
さては狐か狸が化かしに来ていると思って「なにそっだらとこで悪さしてるだ!!」って
大きな声を出した途端に喜瀬川の姿も無くなった
あの時おらに別れを言いに来てくれたんだな

帰りましょう・・・

おめえに言われなくても帰る
帰る前に墓参りをぶつべ

な、な、なにを仰いました?!!
墓参り?墓参りは想定の排外で御座いましたぁ。。。

墓はどこだ?

墓は寺でございます

当たり前だ
場所はどこだ?山谷か?

山谷でございます

だったら近いから案内ぶて

・・・畏まりました。
案内をしたいのですが私もこういう所に勤めておりますので、体が開いているかをご内所に伺ってまいります。
暫くお待ちいただけますでしょうか



花魁戻りました。

どうした?上手く行ったかい?
帰ったかい?

それが途中まで上手く行っていたのですか
そこで帰ると思ったのに、、しつこい男だ、帰ればいいのに!
墓参りするそうです

墓参り?
しつこい男だねぇ
どうしたの?

墓参り、墓はどこだって言われたら頭が真っ白になって
向こうで山谷かって言ったから助け船だと思ってそうですって言ったら
近いから案内をぶてって
どうしましょう?

どうしてそういうことを言うんだよ
何のためにお頭がついてるんだって言ってるだろ?
墓はどこだって言ったら択捉って言っとけばいいんだよ
行けそうで行けないだろ
もう山谷って言ったんなら墓参りしておいで

花魁・・・自分で何言ってるか分かりますか?
あなたは死んでいないんですよ
あなたは生きてるんですよ?お墓は無いんですよ?

無いんですって言ってもお寺に行ったらお墓なんていっぱいあるだろ?
新しそうなものを見繕って適当に墓参りを済ましておいで

ぇえ分かりました分かりました、なんだかもうどうでも良くなってきました。



お大臣

おぉ喜助墓参りは案内をぶってくれるか?

ご内所にお話を致しましたら是非案内をしてくるようにと申しておりました。

すまねぇな
喜助、喜瀬川のいない吉原は二度と来ることはねぇ
少ないけどこれはとっておけ
喜瀬川はお花が好きだったから墓に行ったらお花を手向けてくれ

それではご案内をさせていただきます

あとひと月早く来ていれば死なずに済んだかもしれねぇな

そうでしょうか・・・
ひと月早く来ていたとしてもその時にお亡くなりになっていたかもしれません。



山谷に着いた
どこだ寺は?

どの様なお寺をお望みで?

馬鹿野郎、墓を選びに来たわけでねぇ

こちらでございました。
本堂のわきにお花とお線香を買ってまいります。

婆さん、お花とお線香をあるだけ頂戴
あと桶を貸してください。帰る時に返しますので
御足はおいておくので、お釣り入りませんよ


どうもお待たせいたしました。

すまねぇな

いえ、お安い御用でございます。
本堂の、、、ええっと、ございました
ございましたが花魁は素顔をお大臣の前で見せたことがございません
お化粧を致しますので、それからお呼び致します。


どこのどなたのお墓かは知りませんが、突然知らない人間が来まして涙を流しますが一つよろしくお願いいたします。お花とお線香はこのまま置いて行きますので。



お大臣、お待たせいたしました。

これか、これが喜瀬川の墓かぁ
喜瀬川ぁあ、こうだら冷たい石っころになってしまって・・・喜瀬川ぁああ
村に帰ったらやなねぇと行けねぇ事がいっぱいあってなぁ
おらに恋い焦がれて、、ごほぉごほぉ、喜助!
こんだら線香を松明みたいにつけて
花だってあげれば良いってもんじゃない
折角話をしているのに戒名も何も見えねぇだろ
「故・養空食傷信士(ようくうしょくしょうしんじ)」
信士って男の墓でねぇか!

あっ!!間違いました!
お隣で御座います、こちらでございます。

馬鹿野郎!
よりによって墓間違えるやつがいるか!
しかも大きい墓とこんだら小さい墓を間違いやがって!
喜瀬川、喜助が間抜けのせいで隣の墓で泣いてしまったぁ
ごほ、ごほぉ、さっきも言っただろ
松明じゃなねぇんだからこんなにつけてどうする?
線香の煙で戒名も何も見えねぇ
「天垂童子、享年三歳」
三歳って子供の墓でねぇか!!

間違いました!間違いました!
こちらでございます。

馬鹿野郎
今度は涙を流す前に戒名を確認する
「故 陸軍歩兵上等兵」
喜助!喜瀬川の墓はいったいどこだ?!

ずらりと並んでおります
宜しいのをお見立て願います。




タグ:花魁 廓話
posted by 落語の世界 at 10:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月18日

無筆の手紙

おい

え?

そこで何してるんだよ

何してるって久しぶりに兄に手紙を書いてるんだ

手紙を書いてるってお前は字が書けないだろ

いいんだよ
どうせ兄も読めないんだから


タグ:無筆
posted by 落語の世界 at 07:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小噺

酒の粕

おい赤い顔してどうした?

赤い顔してますか?

どうした

酒の粕を食ったんだ
あれも美味しいもんだな
二枚焼いて食べたんだ
黒砂糖を包んであぶって、焦げた所なんか旨いんだよ

情けないなぁ二十四、五にもなって
そんなんだから阿保って言われるんだ
酒の粕を食べたんじゃなく酒を飲んだって言え

酒飲んだ?

そうだ
その方が景気が良い

そうか、酒の粕より酒飲んだっていた方が男らしいか

男らしいって言うのも変だけど
威勢がいいだろ
酒を飲んだって言え

なるほどなぁ




よっさん

お、どうした

顔赤いだろ
酒飲んだんだ

そりゃそうだろうな
もうそんな歳になったんだな
今まで飲めないと思って誘わなかったんだけど
これから誘うからな
どれくらい飲んだんだ?

これくらいの大きさ二枚だ

酒の粕食ったな

分かるか?

分からいでか
二枚って、、、それを言うなら武蔵野で二杯飲んだって言え

武蔵野ってなんだ?

大杯、大盃のことだ
江戸時代武蔵野は広い広い野原だったんだ
野が見つくせない、飲みつくせないって意味だ

あぁなるほど大盃のことを武蔵野って言うんだ

そうだ
それで二杯やったとこう言ってみろ
二枚はだめだぞ
肴はなにでやったんだ?

黒砂糖

だめだ、だめだ、黒砂糖じゃ飲めないぞ
タコのぶつ切りにきゅうりのザクザクにちょっと酢を利かしたって言ってみろ
酒のみなら喉を鳴らしよるぞ

あぁなるほどな




たっちゃん

なんだ?

自分顔の色赤いだろ

まぁそうだな、走ってきたのか?

走ったりしない
酒を飲んできたんだ

えぇ!お前飲めるようになったん?
知らなかったな
どのくらい飲んだんだ?

これくらい大きな武蔵野で二杯

おいおいあまり無茶するなよ
肴はなにでやった?

肴は黒砂糖では飲めないぞ

当たりまだろ

あのな、きゅうりのぶつ切りにタコのサクサクや

タコを刻んでどうするよ
え、それに酢を利かして
ほぉ生意気を言うようになったな
けど冷酒は毒だぞ
ちゃんと燗して飲んだんか?

あぁちゃんと焼いて飲んだ


タグ:
posted by 落語の世界 at 07:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月12日

やかんなめ

これはあるご大家の商家・商人の女将さんですが大変な癪持ちでして
いざ癪となるともうなんだか分からなくなってしまう

この女将さんが向島に梅見に行こうというので女中を二人つれまして
本町のお宅を後にしました。

向島へやってくると春先の原っぱを心良いものでした。
心持が良い者は人間だけでなく蛇も穴から出ましてこの女将さんの前を
スルスルっとよぎった。
これに驚いた女将さんは癪が発作し

うぅぅ・・・・

って言うとその場にうずくまってしまった。

お竹さん!大変だよ!!
女将さんが急な癪だよ、どうしよう!!

どうしようって言ったってお花さん
そんなこと言っても困るじゃないか!
うちの女将さんは他の人と違って癪の合薬がないと治らないですよ
困ったねぇ

あ、あの、やかんかい?

そうだよ
他の方はねマムシ指を押すと治るとか、
男の人のふんどしを巻き付けると治るとかいうけど、
うちの女将さんはやかんをぺろぺろとなめると治まるっというから
困ったねぇ、、こんな草原じゃねぇ・・・家も無いしねぇ・・・
あの、お花さんやかん持って来たんだろ?やかん

やかんなんか持ってきませんよ
梅見に行くって言うから瓢箪(ひょうたん)にお酒を入れて来たんだけど
瓢箪じゃ駄目かしら?

瓢箪じゃ色合いも違うし、大きさも違うし
あぁ女将さん可哀想・・・
苦しがってるよ

女将さん大丈夫ですか?
まぁどうしよう
やかんさえあれば


困っていると向こうからやってきたのは一人のお武家で御座います。
歳頃は四十二、三くらいで共の者を一人連れまして
よほど仲のいい主従と見えまして冗談を言いながら梅見に行ってきた帰りで御座いましょう

ちょ、ちょっとお花さん!
向こうからくるお武家をご覧なさい

なに、お侍様?
あっ!!ちょっとあのお侍様の頭!
よほどのぼせ症と見えて綺麗につるっとうまい具合に禿(ハゲ)ているのは良いけど
どっかで見たようなと思ったらあれはうちに置いてきたやかんにそっくり
色合いといい形と良いなんてよく似ているんでしょう

そうでしょ!!
あれがやかんだったらねぇ
頼んでなめさせてもらえるのに
だけどねぇお侍様だからそういう訳には

そういう訳にはってそういう生易しい者じゃないですよ
無礼物って言われますよ

だってさぁやかんはこの辺りには無いでしょ
あぁ女将さん可哀想、、
それじゃね無理とだと思いますがお花さん
あのお武家様におねがいしてきますから

お願いするってお竹さんの止めなさいって
無礼者っていってスッパっと命が

だってそうかもしれないけど
女将さんを可哀想よ、ほっとけないでしょ
だからね頼むだけ頼んでみるから
お花さんは女将さんの背中を擦って


お願いで御座います!お願いで御座います!!
お武家様ちょっとお待ちくださいまし!
御頼みごとが御座います!

あぁ可内(べくない)、可内
待て待てそう慌てて帰っても何があるわけでないし
ここにいずこかの夫人が参ってな
地べたに手をついてお願い、頼みごとがあるとこう申しておる
わしは夫人にものを頼まれると横を向いておられないたちでな
ちょっと待て

なんだな?

お武家様お願いで御座います。
どうぞ助けてください
お力を貸してください

なにお助け下さい、お力を貸してください?
その方、顔の色が変わっておるな!
読めた!かたき討ちに歩いているのであろう
そこでかたき討ちに出会ってとても敵いそうにないから身どもに助太刀をしてくれと言うのか
よし!分かった!
一刀流免許皆伝、そなたの助太刀をして見事本懐を!!

そうでは御座いません・・・
違うで御座いますかたえき討ちでは御座いません。
実は私は商家の奉公をしております今日は女将さんのお供として向島の原にやってマりました。
足を踏み入れた途端に・・・・

うん!
わしも損事については実に苦々しく思っておったんだ
ちょっと人がいないといけない奴らが表れてお前の主をさらっていったのか!
けしからん奴だなその男は!身どもがひっとらえて八つ裂きにしてくれるぞ!
どこ行ったその男は!

男の話じゃないんです

なに女か?
とんでもない女だな!
どこに行ったその女?

いや男でも女でもないんで御座います

なに?
男でも女でもない?
何者だそいつは???

そういった話ではないんです。
実はうちの女将様は大変な癪もちで御座いまして
目の前に蛇がするすると横切ったとたんに癪にとざされたので御座います。
あちらで苦しんでおります。
その女将さんを何とか助けたいと思ってお力を借りたい、、

おぉ!!そうか!
それは大変だな!
実はうちの妻も大変な癪もちでな
案ずることは無い!ここに印籠が在り癪に効く薬が入っておる
これも何かの縁だ。
癪に効く薬を分け与えてやるからこれで治せ

せっかくで御座いますがその薬では治らないので御座います。

なに?
この薬がいかさまだというのか?!

いえ、そうでは御座いませんが当たり前の薬では治らずに
実はうちの女将さんはやかんをなめるとピタリと治るので御座います。
しかしこの原中では人家も無くやかんが無くって困っておりますと
そこへ、、、旦那様がお通りになりました。

やかんをなめるとピタリと治まる?
おおぉ左様な事があるのかな
そこに身どもが通りかかったとそう申すのか
これ狼狽えるな。
身どもも共もやかんを携えてないぞ

いえ、それは分かっているのですが
実は・・・実は、その、うちに置いて参りましたそのやかんと、、、
お許しください!
ご勘弁ください!!

なんだ、なんだ
どうしたんだってんだ?

実はうちに置いて参りましたやかんと旦那様のおつむりが瓜二つなんで御座います。
お願いで御座います。
助けると思いひとなめ、なめさせて下さい!

・・・・なに!!!
やかんと!!!けしからん!!
そこになおれ!無礼打ちだ!!!
・・おい、可内何をそこでゲラゲラ笑って居る?
笑うのをやめろ、主人の頭がやかんとそっくりと言われ何が面白い?
そこに控えておれ、このたわけ者
無礼打ちだ!そこになおれ

左様で御座いますか
お聞き届けいただくか、あるいはお手打ちになるか二つに一つの覚悟をして参りました。
ひとなめ、なめさせて頂けないのであるならば

なに?それでは何か?
万が一にも手打ちにされることを覚悟できたのか?

可内何が可笑しい?
この者を見ろ、なんだお前は?
武家に奉公する身でありながら主人の頭をやかんに似ていると言われて笑って!
この者は手打ちを覚悟に自分の主人を思わんが為に命をさらけ出して助けようとする。
よし、相分かった。本来ならば何が何でも許せぬところであるがその方の主を思う心をもって少しだけなら・・・


どうぞこちらで御座います。
ちょっと!お花さん無理やりお願いしてね
ほんとの所、手打ちになるはずが、助け頂いた上に少しなめさせて下さると仰って

女将さん!
癪の合薬のやかんがおいでになりましたよ

あぁこれこれ!
なんだやかんがおいでになりましたって
どうすればいいんだ?
こうか?こうすればいいのか?
・・・可内、指をさして笑うな
良くあたりを見張っておけ、だれか来たら教えろよ
さぁさぁ早くせんか、人が来ないうちに


この女将さんもお侍の頭だって分かっていたらなめることは無かったんですが何しろ癪の苦しみからやかんだなってほのかに通じていきなり

ベロベロベロベロ!!!!

うわぁあぁぁあああ
なめるわ、なめるわ
これこれ抱え込んではいけない
動きが取れない、気色が悪い
早く致せ、まだか?まだか?

女将さん!女将さん!
治まりましたか?

はっ!竹と花、、、いたのか?

すみません
急な癪、やかんを持参するのを忘れておりまして相済みません
困り果てておりますとこちらのお武家様を通りまし無理を言っておつむりをなめさせて頂きました。
癪が治まったのでございます。
女将さんからも良くお礼を申し上げてください。

まぁ有難う御座います。
知らぬこととはいえご無礼は十重二十重(とえはたえ)に謝らせて頂きます。

いやいやいや
そのような事は無用だ、心配することは無い
余りにもそばにいるものが関心だったんでな
具合はもういいのか?
。。。。本当に治ったのか?そうか不思議な事もあるんだな
やかんをなめると治まるとは聞いたことが無かったなぁ
でもな、いいかくれぐれも申しておくがなこれから表に出るときは必ずやかんを持参するように。
そうでないと沿道の頭の薄い者は迷惑を致す。
よし、行け

重ねてお願いが御座います。

重ねてお願い?!
ここで頭のなめおきをするなら許さんぞ

いいえ、そうでは御座いません。
お屋敷を教えていただきたく存じます。

何?度々なめに来るつもりか?

いえ改めてお礼に伺いたく

ならん!黙れ!
頭をなめた礼に来られてたまるか!
妻子の者に面目が起たん
良いか?これは他に口外してはいかんぞ
分かったな?
行け、、いや待って待って!
これからどこかでばったりと会ったとしても、その時に礼を言ってはいかんぞ
会釈もいかん。何事もなかったかのように通り過ぎろよ
心して参れ

可内、何が可笑しい?
後に続け
しかし何と言う悪日だ
犬も歩けば棒に当たるとは言ったが侍が面を歩くと頭をなめられるとは

あの旦那様

なんだ

お戻りになりましたらお屋敷の表に看板をお出しくださいませ
「急な癪によく効く合薬のやかん頭あり」

これ!
その方までそのような事を申すな
しかし、、、本当に癪が治まったのか、
けど人を助けるのも悪くはないな
それにしてもあの女め、本当のやかんと思ってベロベロベロベロって
あぁ気色が悪い
なんだ頭がぬるぬるする個所と突っ張る所が・・・
あっおや?!
これは?!!
可内、ちょっと見てくれ
この月代(さかやき)の当たりヒリヒリと痛んでまいったが
何かなってないかよく見てくれ

あっ!!!!
旦那様大変で御座います。
ここに歯形が二枚並んでついております

なに!歯形が二枚!
どうだこの傷の具合は?!

どうぞご案じ召されるな
まだ漏るほどでは御座いません





タグ:やかん
posted by 落語の世界 at 10:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語

2017年08月11日

死ぬなら今

落語は一に落ち・二語り・三仕草と言って
落ちが一番大事だそうです
それではみんながみんな落ちがあるのか
って言う方もいらっしゃいますがそうでもないんです

これからお話しする「死ぬなら今」も落ちのない落語です

この題をご面倒でも頭の片隅に入れていただかないと
これからお話しすることが何の事だか分らなくなりますので・・・・


ここにございますは赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべえ)さん
名前の通り随分なケチケチぶりで一財産こしらえたんですが
昔から「お金があっても死に病には勝てない」と言いますが
この吝兵衛さんもある時ふとしたことが元で病に落ち
今日、明日をも知れないというある日の事
せがれのを枕元に呼んで





孝太郎・・

はい、お父さん

そこにいてくれたか・・・
いつ目を開けてもお前が傍にいてくれると心丈夫だ
しかしな今度という今度はもう駄目だと思う
そこでお前に頼みがあるんだが聞いてくれるか?

お父さん水くさい
親子の間柄で頼みなんてこと言わないで
「ああしろ」とか「こうやれ」とおっしゃって頂きたい

いやいや
親子でも頼み事というのはそういう訳にはいかない
実はな、頼み事は他ではない
人間死ぬとな死に装束に改める
経帷子(きょうかたびら)を着て頭には三角の頭巾
それから首から頭陀(ずだ)袋をぶら下げる
その頭陀袋の中には一文銭で六枚・・・
いわゆる六文銭を入れるな

なんでも聞くことによると三途の川を渡る渡し賃になるそうだが
わしが死んだら六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい

これだけでは分かりはしまいが・・・
人間が死ぬと極楽とか地獄とか二道に分かれていると聞いていますが
良い事をすると極楽に行き、悪い事をすると地獄に行く
こうして病んで床に入って振り返ってみると・・・
随分な世渡りをしてきました
人様の足を引っ張るような行いって言うが
わしはそれどころじゃなかった・・・
前に歩いている人様を後ろから突き飛ばして
その上を踏みつけるような世渡りをしてきました
これだけの身代ができたものの我が身のほどが恐ろしい

この報いで極楽へは行けない、地獄が相場だろう
けどな昔から「地獄の沙汰も金次第」って言う事もあるので
そこを何とか金の力で極楽への近道をと・・・そう考えるんだが
六文銭の代わりに小判で百両入れてもらいたい
これが頼みだ聞いてくれるか・・・

何をおっしゃってます
いやいや願わないことでございますが
もしお父さんにもしものことがありましたら
百両や二百両どうってことありません
喜んで入れて差し上げます
まぁそんなことおっしゃらずに良くなって下さい

いやいや今度ばかりは駄目だ・・・
百両は頼んだぞ


っと言って気が緩んだと見えてそのままあの世に行ってしまいました
せがれのは湯・棺桶を済ましまして
お父さんの遺言だからと頭陀袋に小判で百両を入れようとしたら・・・


あ、おじさん

おじさんではない
その仏の頭陀袋の中に何を入れかけている

これは小判で百両・・・

こっ・・・小判で百両?!!
その頭陀袋の中には六文銭と相場が決まっています
天下のお宝をその中に入れてどうなると思ってる
もったいない天下のお宝を何と思っている罰あたりが
親が親なら子も子だ!
金の価値を知りなさい!!

おじさん・・・そうおっしゃいますが
これはお父さんの遺言で

なにを親父の遺言?
仏が何を言いました?
ふんふん・・・なるほど地獄の沙汰も金次第
金の力で極楽への近道を・・・
なるほどなぁお前の親父が言いそうなことだ
死んだ仏の悪口を言うわけではないが
生きているうちから金々金々って
金の亡者みたいに成り下がって
死んでからもその金を抱いていくつもりか
いけません!そういうことはさせられません!

おじさんはそうおっしゃいますが
私からしてみたらたったひとりのお父さん

まぁなぁ・・・親子の情だ
それは分からない事はないが
みすみすその小判を埋めてしまうっていうのがもったいない
なにかお前は親父の遺言で義理を立てたらいいのか
その中には百両ではなく百両の型を入れたらいいのか
お前の気休めに・・・

なるほどだったら話がある
この前、歌舞伎芝居を一緒に連れて行ってもらいましたが
そのとき小判を撒くところがある
いくら芝居だが小判を玩具にして腹が立ちましたなぁ
しかし後で聞くとそれは芝居で使う小道具・偽の小判だそうだ
どっから見ても本物に見える
まぁ死んだ仏目をつぶっていれば本物・偽物も区別がつかないだろう
あれを手に入れて入れてしまえばいいだろう


やっとのことで偽の小判を百両調達してきまして
頭陀袋に入れてそのまま葬ってしまいました
吝兵衛さんはそんなこと知りません
朦朧とした中でうっすら目を開けてみますと
正面には閻魔大王・左右には牛頭・馬頭
地獄中の役人が綺羅星のごとく並んでいます
吝兵衛さん威厳に打たれまして


へへぇ

これ赤螺屋吝兵衛はその方であるか
表を上げい余は閻魔である
その方が参ると言うので罪状を調べていたが随分なことをしておるなぁ
よくもまぁ短い一生でこれだけの悪事が出来たもんじゃなぁ
罪が決めかねるが判決を下したところで
現生で犯した罪が分からないのでは不服であろう
この地獄には現生で犯した罪の数々が映る鏡がある
これ浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)をこれへ!


閻魔様が声をかけると大勢の鬼どもが浄玻璃鏡という立派な鏡を運んできた
不思議なことにこの鏡に吝兵衛さんがやったことが次から次へ映像が映り出ている
閻魔大王がこれを見ながら


うん・・・・これはひどい!
なんと言う事を・・・
これは針の山では手ぬるい、血の池にも放りこもう!


これを聞いた吝兵衛さん
針の山だけでも痛いと思っているのに!
そのうえ血の池って生臭い所に放りこまれたら・・・
この身がどうなる・・・
この身が・・・・
・・・あったんだ!・・百両!!
こんな時のために使おうと孝太郎に頼んでおいたんだ
そうだ!これを使うんだったら今だ
閻魔大王が横を向いている隙にこの小判の百両を袖の下へ

コトン

この重みでの体が傾いって言うんですが

じゃがなぁ〜 けちべぇ〜
まぁまぁ針の山からなぁ
血の池をちょっとぬる湯めにして入ってもらおうかぁ

これを聞いた鬼どもが黙っていない

おい

えっ?

えっじゃない
閻ちゃん見てみろ

何が?

何がじゃないに袖の下に物を放りこまれたら
急に風向きが変わってしまった
これ閻魔大王!贔屓したら

まっまっやかましいぃ静かに
見つかってしまったんならしょうがない
おっお前らにも分けてやる


さすがの閻魔大王も汚職がばれるのは恐ろしいと見えまして
それでも自分の取り分はきっちりとって残りを鬼に分け与えてしまいました
この金が地獄中まわりに回って地獄はひっくり返るような景気になっています。
朝から閻魔の庁に現れる殊勝な鬼は一匹もいません

おい!赤鬼!

こらよく見て物を言えよ
俺は生まれたときから青鬼だ

そんこと言っても・・・
頭の先からつま先まで真っ赤池だ

悪いなぁ昨夜から飲み続けで酔いが醒めん
これからクラブ天野川にパァ〜と散財しようと思って

えらい景気だなぁ〜どうした? 
ふんふん閻魔が・・・知らなかった〜
それいつの事だ
えっ俺の休みの時だ

よし俺も行ってこよう


噂がそれからそれへあれからあれへで地獄はひっくり返る好景気
この小判が廻り回ってたった一枚、極楽の警察へこれが行ってしまいました


この見慣れない小判どっから来た?
ふんふん・・地獄からぁ?!
けしからんな、偽の小判・贋金だ
こういう悪事を取り締まるのが地獄の仕事であろう
それに贋金を使うのは罪の中でも重いほうだ
これを目こぼしするとは近頃の地獄もたるんできたな

えっ!?これに籠絡をされて地獄は仕事をしていない
まったくもってけしからん!
地獄は粛清しなければいけない!!!


極楽の偉い人が烈火のごとく怒りまして
号令をかけますと武装した極楽の警官が地獄に押し掛けて行き
閻魔大王をはじめとして地獄の役人という役人を全員捕まえて
極楽の牢屋へぶち込んでしまいました。










いま地獄には誰もおりません






死ぬなら・・・




タグ:ケチ 地獄
posted by 落語の世界 at 07:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語
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