落語の世界

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お前はどういうもので一杯やりたい？

おれは刺身だ

いいなぁ刺身か、お前はなに？

てんぷっらぁ！

唾が跳ね返るね

もっと唾が跳ね返えらないように言えねぇか

てんふら〜

腹が減ってるようじゃないか・・・
まぁなんだね人ってそれぞれ好き嫌いがあるな

いろいろ人は好き嫌いがあるもんだよ
片方では虫が好きで手の上で遊ばしてるけど、片方では顔が青ざめてしまう
それって言うのはな生まれたときに胞衣（えな）ってもんがあるだろ
あいつをチョキンと切って埋めるだろ
埋めた上を初めて横切ったものが嫌いになっちゃうんだ

そういうもんかな

ヘビがスゥーと横切ったらヘビが嫌いになっちゃうんだ
だから好き嫌いがあるんだよ

お前は虫の中でなにが嫌いだ？

おれはヤモリが嫌いだ
お前は？

俺はオケラ

オケラはなんで嫌なの？

あん畜生はねぇ
ゴミダメの中から出てくるんだよ
気持ち悪くってしょうがない
お前はどういうもんが嫌いだ

嫌いどころか怖いね

なに？

ムカデ

ムカデやだな・・・

ムカデは嫌だ
俺がムカデだったらどうしようなんて考える

だってお前がムカデのわけねぇだろ

でもあんなに足があった日は
ももひき買うたって大変だ

この野郎は倹約から怖くなったなぁ
どうだそっちは、辰ちゃんお前は怖いもんねぇか？

怖いもんなんてねぇ

なんかないかい

なんもねぇ

怖いもんなんて決してねぇ

なんかありそうだけどなぁ
みんな怖いもん言ってんだ・・・
お前も怖いもんくらいあるだろ

一昨日かかぁが炊いた飯が強（こわ）い
あれじゃ胃を悪くしちゃう

そういう強いんじゃないんだよ
怖くって動けなくなるような怖いもんはねぇか

先月ねうちのかかぁがふんどし洗いやがったんだ
そいつに糊をうんとくつけちゃった
恐くって歩けねぇんだよ

この野郎、てめぇの言う事はほんと癪だなぁ
みんながあれが怖いこれが怖いって言ってるのに
お前一人が怖くねぇって・・・
ヘビなんかどうだい？

ヘビなんか俺は頭痛の時に鉢巻きにするんだ

ヘビをか
あいつはね
向こうで勝手にキューと締めてくれるからとっても良いんだ

トカゲはどうだい？

トカゲ・ヤモリはね
ああいうもんは三杯酢にして食うんだ
乙だよ

トカゲをか

蟻なんぞ居やがるとね
寄せといて飯の上にごま塩の代わりに

えっ

蟻飯って言うんだよ
ごま塩が動いて食いにくいけどな

女々しい奴だなぁ
てめぇ一人で怖くね怖くねぇって
なんも怖くないのかよ

怖くねぇよ！

怖いもんなんかあるか
人間は万物の霊長なんだぞ

一つぐらいありそうなんだけどなぁ

えぇへへ
実はそれはあるよ
ね、俺だって人間だから怖いもんあるさ

なんだい

いや・・・

それは俺は言えね

どうして

それを言うと人間がだらしなくなっちゃう
体中の総毛が立って・・・震えてくるんだ

へぇなにがこわい

ひとこと言うよ
一遍だけいうからな
・
・
・
俺が怖いのはなぁ
・
・
・
まんじゅう

へ
まんじゅう？

まんじゅうって動物知ってるかい?

やつの怖がってるんだから
まんじゅうて動物はね
インドの奥で虎を追っかけてるんかねぇ

どういう動物なんだ

違うよ
菓子屋にあるまんじゅう

あんなもんがどうして怖いんだよ

どうしてもこうしても怖い・・・

俺は何があっても驚かないんだ
けど、まんじゅうだけは駄目なんだ
菓子屋の手前に来てこのうちまんじゅうがあるなっと思うと
目をつぶって駆け出さないとそこを通れないんだよ

あんなもんをか

恥ずかしいけど
何の因果か子供がまんじゅうを食って
俺の胞衣を埋めた上に落っことしてに違いない
まんじゅだめだ・・・
・
・
・
うううう怖いょ・・・・

顔色悪いな

だからよしてくれって言ったのに
実になさけねぇぇぇ
まんじゅう怖い・・・あぁぁぁ怖いよょー

じゃあそこに寝ねぇな
だれか布団しいてやれよ


どうしてんだろうな

それは怖いんだよあいつ
顔色があんなになっちゃった

ところで俺はいま考えたことがるんだけどな
あの野郎と喧嘩してもとてもかなわないよ
で飲み屋の割りまいをとろうとしても払わない

ずうずうしい野郎だ

なんかひとつひどい目にあわせてやろうと思うんだ
まんじゅうを買ってあいつの枕元に置いておくってどうだい
話をするだけであの怖がりようだ本物みたら驚くよ

俺はまんじゅうを買うよ

じゃ俺も買おうじゃないか

そうか
おうそっちも買うか

みんなから憎まれてるな
・
・
・
買ってきたよ

それでどうする？

買ってきたらね
盆の上にこう山のように積んで枕元にそっと置いておく
それでこっちで天丼でも食おうじゃねぇかって話をしてると
あいつはずうずうしいから起きて一緒に食おうとする
起きると枕元にまんじゅうが・・・
話をしただけで青くなっちゃうんだから
びっくりしてぎゃーっと叫んでひっくり返って延びちゃう

そんなことして俺たちが・・なにか責任になんないのか

責任になんかならないよ〜
まんじゅうであいつが死ぬんだから
あん殺ですよ

じゃ〜〜〜あん殺しちゃおうじゃないか
あの野郎いると邪魔でしょうがないからね


じゃまんじゅうをお盆にのせて
おいそこを開けてやれ
そーと持ってって落っことしたら駄目だよ


あとを閉めこいよ

置いてきたか・・
じゃそろそろ始めるか


お〜い起きねか

うぅ〜〜まんじゅう怖い・・・

だからいいじゃねぇかそんな話をしなければ
みんなで天丼を食おうってんだどうだ？

まんじゅうのことを言われっちゃったんでしょうがねぇ
寒気がしてきてたまらね

大丈夫だよ
こっちにおいでよ

ううぅ〜どういう因果なんだろうな
あぁ〜あ・・・・・・あっ！！
まんじゅうがある！！！！！

どうした

ああああぁ〜〜〜〜怖いよぉ
こんなもん誰が置いたんだ
う゛ぅまんじゅう怖い〜


おうちょいと覗いてみて楽しもう
いいかい一人で見てたらだめだよ

大丈夫だよ

俺がちょいと見たらすぐ代わるから
障子のことろをちょっと・・・

どうだ

青くなってるだろ
もう震えあがってるだろ？

震えあがる？！
よく見ろよ怖い怖いって言って食ってやがる
まんじゅうをか？！

おう！
怖い怖いって言って食ってるやつがいるか！！

うぅ〜怖いよ・・・
　（ムシャムシャ）

てめぇはいったい何が怖いんだ！！

ここいらで渋〜いお茶が一杯怖い

まんじゅうこわい （落語絵本） [ 川端誠 ] 感想(6件)