いつの間にかお亡くなりになっていました。
あの素晴らしい間が好きでした。
「
柳家 紫文(やなぎや しもん) SEX:male
「演芸界の久米 宏」と自称する優男。 柳家 紫文(やなぎや しもん)師匠。本名:田島 悟。1957年12月24日 - 2021年11月19日 没。
群馬県立 高崎高等学校 卒業。落語協会 所属。三味線漫談家、音曲師。
幼少時から病弱でなかなか学校に通えず、また実家が小料理屋だったため、芸事に親しんで育った。出囃子は『釣女』、紋は『備前蝶菱』
火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人のとんがらし屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、とんがらし屋の身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、とんがらし屋さん、怪我はなくて?」「へぇ、お陰さまで、あっしはでぇじょうぶなんすがね、見てのとおり商売もんのとんがらしが、おい、とんがらし、おめーらでぇじょうぶか?」「でぇじょうぶってばでぇじょうぶなんすがね、七味じゃなくなったんすよ」「なに?」「十二味になっちまったんで。七味にごみ(五味)が混ざりやした」
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の飛脚屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、飛脚屋の身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、飛脚屋さん、怪我はなくて?」「へぇ、お陰さまで」「あの、あなた見たところ佐川さんの方じゃないし、クロネコさんとも違うみたいだけど、あなた大手の方じゃないわよね」「おぉう、赤帽(あたぼう)よぅ」
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の葬儀屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、葬儀屋の身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、葬儀屋さん、怪我はなくて?」「へぇ、お陰さまで・・・。おめーは、・・・おつや(お通夜)」
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の隠れキリシタンが足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、隠れキリシタンの身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、隠れキリシタンさん、怪我はなくて?」「へぇ、お陰さまで・・・。おめーは、・・・ふみえ(踏み絵)」
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の葬儀屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、葬儀屋の身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、葬儀屋さん、怪我はなくて?」「一寸考え事をしてたもんですから、友達から大金を貸してくれって頼まれてるんですよ、 貸そう(火葬)かどうしょう(土葬)か」
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の納豆屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、 この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、納豆屋の身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、納豆屋さん、怪我はなくて?」「へぇ、お陰さまで、怪我もなければなんとも(納豆ーも)ない」
その火付け盗賊改めかたの長谷川平蔵が、いつものように両国橋のたもとを歩いておりますと、一日の商いが終わったであろう一人の蕎麦屋が足早に平蔵の脇を通り抜ける。向いから水商売らしき一人の女、この二人が橋の上ですれ違う、というそのとき、蕎麦屋の身体が前のめりに崩れ落ちる。
「もし、蕎麦屋さん、怪我はなくて?」「へぇ、お陰さまで・・・。おめーは、・・・おつゆ(露)」
そのとき長谷川平蔵は、両国橋から相生町、竪川沿いに二つ目橋を渡り、一目散に目指す弥勒寺の山門を駆け抜け奥の厠へと駆け込んだ。
厠でほっとする平蔵であったが、辺りを見回すと紙が、あるにはあるが少ない。恐る恐る手を伸ばして確かめてみると、一枚しかない。
ここは寺ゆえ仏(ホトケ)はあるが、紙(神)はない。(本筋とは関係なく独白めかして、「くだっている時にくだらないことをいっている場合じゃない。」)
誰かおらぬか、紙はないかと叫んでおりますと、そこへ坊主が、何枚(なんまい)だー、何枚(なんまい)だー。
おしまいだー。
」
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