星とたんぽぽ＆生活スタイル

寒くはない。

かと言って暖かくもない。

空は青く澄み渡っている。

正面に雪化粧の富士が優しくそびえている。



ハンドルを左に切って進むと富士は右手の窓越しにについてくる。

最近ほころび始めた蕾がモクレンの大木を白一色に染めている。

早咲きの桜の淡いピンク、梅の白が時折視界に入って後方へ消えていく。



ラジオのスイッチを入れる。

ラジオは東北関東大震災を報じている。

「宮城県の不明者・・・」

「福島原発の状況・・・・」

慌ただしく、話しの内容は多方面にわたる。



テレビで何度もくり返し放送していた大津波と被災地の映像が、頭に押し寄せる。

赤ちゃんを抱いた若いお母さんの姿。

生きているだけでいいと泣いていたおばさん。

高台から変わり果てた市街地を眺めて、父が見あたらないと立ちつくす男性。

頭から離れない映像がちらつく。




春本番はそこまで来ている。

何日もすると日本中に桜が咲き始める。




「福島原発で爆発・・・・」

ラジオは被害状況を刻々と報じている。




「海上のヘリが津波を確認・・・・」

「すぐに高いところへ避難して下さい・・・」




ハンドルを握った手と、

それをコントロールする頭部が別々の生き物のように行動する。

頭は三陸に、手は東海にある。

時折目の前が三陸と東海を行き来する。




何ができるか。

どうしたらいいか。


遠く離れたこの地で。

うららかに晴れ渡ったこの地で。



裸足で、震えながら、赤ちゃんを抱いて救助された若いお母さん。

その姿が目の前から消えない。



空は青く澄み切っている。

正面に雪化粧の富士が優しくそびえている。